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小松左京「大坂夢の陣」

あらすじ…タイムトラベルで未来からやってきたテレビ局の取材チームが大坂冬の陣を撮ろうとする。

 現地の取材チームは大規模なもので、最終的には「何千人じゃねえ、もう万人でさあ……」(P452)と言われるくらい多くなるとのこと。詳細は本書の描写に譲りますが、現代のテレビ特番とはケタがいくつか違うようです。
 そんなに来ちゃったら現地人にバレそうなものだし、歴史の因果律も大いに狂いそうなものだが…と思ったら、最後にとんでもないオチを用意していました。ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、SFならではの決着と言えます。

【参考文献】
司馬遼太郎 松本清張ほか『決戦! 大坂の陣』実業之日本社

松本清張「秀頼走路」

あらすじ…大坂落城時に落ちのびた浪人の山上順助は、ひょんなことから桐の紋のある小袖と短刀を手に入れる。

 この後、山上順助は入手した(正確に言えば強奪した)アイテムを使って豊臣秀頼を騙ってゆくのですが、そもそもこの人物はどうしようもないダメ人間として描かれています。酒好き女好きだけならまだしも、戦意はなくて「彼は最後まで持ち場からの脱走を考えていた」(P411)という有様。又、ここには一々書きませんが、逃走時にも色々と悪行を働きます。
 もちろん本作は豊臣秀頼薩摩逃亡説を材に採ったフィクションですが、大坂城内にはこういった輩も来ていたことは想像に難くない。真田幸村や後藤又兵衛などのような「英雄」だけが来ていたわけではない、ということですな。

【参考文献】
司馬遼太郎 松本清張ほか『決戦! 大坂の陣』実業之日本社

安部龍太郎「大坂落城」

あらすじ…徳川方の砲撃が大坂城の天守を直撃し、淀殿はパニックに陥って和議を訴える。息子の豊臣秀頼はたしなめるが、母に押し切られてしまう。

秀頼はどうしようもない無力感にとらわれ、気力が萎えていくのを感じた。(P351)

 私も本作を読んでいて、そんな感じに襲われました。とはいえ、そもそも秀頼はお坊ちゃん育ちで、「英雄」でも「勇将」でもない。彼にその種の期待をするのは…いや、まあ、大坂方の武将たちは期待してたんでしょうけどねえ。

【参考文献】
司馬遼太郎 松本清張ほか『決戦! 大坂の陣』実業之日本社

滝口康彦「旗は六連銭」

あらすじ…大坂へ馳せ参じた真田幸村は度々献策するが、容れられない。

 幸村の家臣として穴山小助が登場。彼についての説明は本作ではちょっと見当たりませんが、おそらく真田ファンには説明するまでもないのでしょう。尚、他の十勇士は登場しない模様。

 それはさておき、幸村の献策が容れられない、というのは、大坂方における彼の存在感がそこまで大きくなかったということの表われなのでしょう。
 と同時に、大組織の中で自分の計画を実行させるだけの政治力を幸村が持ち合わせていなかったと言えなくもない。真田幸村が大坂場内で根回しに奔走するという姿はイメージしにくいですな。

【参考文献】
司馬遼太郎 松本清張ほか『決戦! 大坂の陣』実業之日本社

火坂雅志「老将」

あらすじ…尾羽打ち枯らした老将・和久宗是(わくそうぜ)が奥州の伊達政宗のもとへ身を寄せる。政宗は宗是を二千石の高禄で召し抱え、小姓の桑折(さおり)小十郎に彼の世話を命じる。小十郎は不満だったが…。

 小十郎は宗是のことを全く知らなかったのですが、実は凄い人物だということが途中で明らかにされます。小十郎は物語開始時点では元服前の少年であり、和久宗是というマイナー武将を知らなくてもやむをえまい。
 いや、寧ろこれだけ若い(したがってそれだけ無知な)人物の視点から描くことで、宗是の凄さを浮かび上がらせる効果があるのかもしれません。

【参考文献】
司馬遼太郎 松本清張ほか『決戦! 大坂の陣』実業之日本社

司馬遼太郎「若江堤の霧」

あらすじ…徳川方との対決が迫る中、薬師寺閑斎は木村重成の後見をすることになる。

 薬師寺閑斎という老人の視点から、木村重成という若武者を描いています。ただ、閑斎は夏の陣で重成が出撃する姿を見送るのを最後に、物語の舞台から姿を消します。重成の最期の華々しさとは対照的な扱いと言えるかもしれません。

【参考文献】
司馬遼太郎 松本清張ほか『決戦! 大坂の陣』実業之日本社

山田風太郎「幻妖桐の葉おとし」

あらすじ…高台院湖月尼は豊臣恩顧の将7人を招集する。そして秀吉が臨終の際に述べた言葉と大坂城の絵図を示し、秀吉の謎の言葉に大坂城の抜け穴の手がかりがあるらしいからそれを突き止めてくれと頼む。浅野長政らは解明に乗り出すが…。

「幻妖桐の葉おとし」人物関係図

 大坂城の抜け穴を突き止めるという謎解きが提示されるのみならず、解明に乗り出した者たちが次々に殺されることで「犯人は誰か?」というミステリー要素が追加されます。
 それらの謎の答えについてはネタバレ防止のために伏せておきますが、そもそもの疑問を一つ。高台院湖月尼は豊臣秀吉の正室で、北政所(きたのまんどころ)と呼ばれた人物です。その彼女なら大坂城の抜け穴くらい、とっくに知っていてもおかしくないんですがね。

【参考文献】
司馬遼太郎 松本清張ほか『決戦! 大坂の陣』実業之日本社

松岡和子訳『アテネのタイモン シェイクスピア全集29』筑摩書房

あらすじ…なみはずれて気前のいい貴族タイモンは、莫大な財産を人々のために惜しみなく使う。華やかな宴、高価な贈り物。しかし、その裏で財政は破綻していた。急転直下の状況で、掌を返す取り巻きたちに対してタイモンが取った極端な行動は……。(裏表紙の紹介文より引用)

 第四幕第三場でタイモンが土中から埋蔵金を掘り当てたくだり(P122)を読むに至って、芥川龍之介の短編小説「杜子春」を想起しました。
 どちらも主人公の男は大金持ちだったのが、浪費の果てに素寒貧になると取り巻き連中は手のひらを返して離れてゆくが、主人公は埋蔵金を掘り当てる、といったところが共通しています。ただし、共通しているのはそこまでで、その後の金の使い道や物語の結末は全く異なります。そもそもこの時点でタイモンは正気を失っていたし、古代ギリシアに仙人は登場しませんからね。

【参考文献】
松岡和子訳『アテネのタイモン シェイクスピア全集29』筑摩書房

【関連記事】
シェイクスピア(目次)

クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』早川書房

あらすじ…帰還軍人のためのモデル・ハウス展がいま、アトラクション劇の幕を賑やかに開けた。居並ぶ華やかな馬上の騎士に拍手がわく。期待と興奮のうちに見守る観客の中には気づかわしげなコックリル警部の顔も見えた。公演を前にした三人の出演者に不気味な死の予告状が届いていたのだ。単なる嫌がらせであってくれればいいが……やがてライトを浴びた塔のバルコニーに、出演者の一人、悪評高いジェゼベルが進み出た。そしてその体が前にのめり、落下した……!(裏表紙の紹介文より引用)

『ジェゼベルの死』人物関係図

 まずはあらすじの段について。
 引用した裏表紙の紹介文によると、死の予告状が届いたのは「三人の出演者」となっていますが、正確には三人の内パーペチュア・カークだけは出演せずに裏方の雑用を務めています。

 次に、公演のページェント(パジェント)について。
 ページェントとは歴史的・伝統的・宗教的な場面を舞台で見せる野外劇、もしくは華麗な衣装を着けた行列のことで、この作品では騎士の衣装を着けた男たちが騎乗して行進します。
 尚、今回のページェントの元ネタは不明。

 それから、ジェゼベルという名前について。
 本書P108, P109で言及されていますが、この名前の元ネタは旧約聖書の登場人物です。元ネタの人物の死にざまは『列王記 下』第9章第30節―第37節に書かれています。長くなるので引用は控えますが、イゼベル・ドルー殺しのネタ元はこの部分です。

 時代背景についても少々述べておくことにします。
 この作品の舞台となるのは第二次世界大戦終了後のロンドンです。一応、イギリスは戦勝国なのですが、エドガー・ポートやスーザン・ベッチレイなどは日本軍に追っ払われてイギリス本国に戻っているという設定です。
 勝ったからといって、昔日の栄光(大英帝国の支配)を取り戻せるわけではないということを示しているようです。

 さて、事件のトリックについても言及しておかねばなりますまい。
 ページェントでは鎧兜(もちろん舞台用の衣装)に身を固めた騎士たちが馬に乗って行進し、イゼベル・ドルー殺しでは彼らに殺人の嫌疑がかけられます。
 ここで注目すべきなのは、鎧と兜ですっぽり身を覆ってしまうと、個人の識別をするのはマントの色くらいのものだということです。そこで私はピンと来ましたよ、すりかえのトリックが使われたんじゃないかと。即ち、騎士Aが舞台に登場するが中身はAではなくBだった、というものです。
 尚、この直感が当たったか否かについてはネタバレ防止のために伏せておきます。

 最後に、どんでん返しの連続について。
 ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、真犯人でない者が犯行を自白したり、チャールズワース警部が誤った推理を開陳するなど、終盤は目まぐるしいほどのどんでん返しが続きます。
 さすがにここまで来ると、やりすぎだろうと思わざるをえない。

【参考文献】
クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』早川書房

松岡和子訳『尺には尺を シェイクスピア全集 28』筑摩書房

あらすじ…公爵の代理に任命された貴族アンジェロは、世の風紀を正すべく法を厳格に適用し、結婚前に恋人を妊娠させた若者に淫行の罪で死刑を宣告する。しかし兄の助命嘆願に修道院から駆けつけた貞淑なイザベラに心奪われると……。(裏表紙の紹介文より引用)

 あらすじの段を読むだけではわからないと思いますが、この話の主役は公爵(ヴィンセンショー)で、彼は修道士に変装して問題の解決に東奔西走します。それにしても、公爵の変装を誰も見破れないというのは、よっぽどうまく化けたんでしょうな。
 一方、ヒロインはというと、メインはイザベラといったところか。

 さて、ここから先は結末部分をちょっとネタバレ。
 最後の方でヴィンセンショーはイザベラにプロポーズします。しかも、イザベラは返事をする間もなく終幕。
 ハッピーエンドといえばハッピーエンドなんでしょうけど、ドタバタしてるなあ。

【参考文献】
松岡和子訳『尺には尺を シェイクスピア全集 28』筑摩書房

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シェイクスピア(目次)

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