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太宰治「東京八景」

あらすじ…貧乏作家の自分が伊豆の山村に籠って自伝小説を書く。

 太宰治の自伝小説。これは『人間失格』のプロトタイプとして読めるんじゃないでしょうか。
 自分がどんどん落ちぶれて行って、ドン底を這いずり回り、そこから這い上がった後の高揚感。う~ん、凄いな。こんな人生を送るのも、それを小説として書き上げてしまうのも。

【参考文献】
太宰治『太宰治全集4』筑摩書房

太宰治「きりぎりす」

 妻が家出をする際に、画家の夫に宛てた置き手紙を書いた、という形式の作品。
 こちらの文庫本(ちくま文庫)では18ページと、小説としては短い部類なのですが、一通の置き手紙としては長すぎる。とはいえ、夫婦間でなら説明を省略しても通じる諸事情であっても、赤の他人の第三者(即ち読者)には一応わかる程度には説明せねばならないので、書くことが実際の置き手紙よりも増えてしまうのはやむをえない。
 とはいえ、それを差し引いても長すぎるのだけれども、書きたいことがいっぱいあったんでしょうね。
 それから、本作は改行がやけに少ない。そこは改行しておけよ、と思うところでも改行していません。おかげで読みにくいったらありゃしない。
 もちろんこれは作者(太宰治)がわざとやったことで、語り手(妻)は適切な改行ができないレベルの文章力の持ち主だということを示しているようです。
 尚、夫と妻、どちらが正しくてどちらが間違っているかの判断をここではしないことにします。それには夫の言い分も聞いておく必要があると思ったからです。

【参考文献】
太宰治『太宰治全集4』筑摩書房

イエーツ「鷹の井戸」

あらすじ…岩山の涸れた井戸。そのそばに井戸の守りが立ち、老人が井戸の水がわき出るのを待っている。その井戸の水を飲めば不死になれるからだ。とそこへ、一人の青年がやってくる。青年はクーフリンと名乗る。彼もまた不死の水を求めていた。

 クーフリンはアイルランドの神話的英雄。
 私はこの作品を読んで、『ギルガメシュ叙事詩』を想起しました。神話的英雄が不死を求めて旅をするものの、結局は得られないという共通点があるからです。
 ただ、クーフリンの最後に取った行動を見ると、ギルガメシュほどには不死に拘泥していないようです。寧ろギルガメシュと同等かそれ以上に不死を希求しているのが老人で、50年も待ち続けるという年季の入りようです。
 50年。ここまでして求める不死とは一体何なのでしょうか?

【参考文献】
イエーツ『鷹の井戸』角川書店

イエーツ「心のゆくところ」

あらすじ…ブルイン夫妻は神父ハートを家に招いて相談をする。曰く、息子の嫁メリーが仕事をさぼって本ばかり読んでいるというのだ。とそこへ、妖精の子供がやってくる。

心のゆくところ

 メリーは一体どんな本を読んでいるのでしょうか? メリーが語ったところによると、アイルランドの王女イデーンが歌声に誘われて妖精の国へ行ってしまったという物語です(P29)。ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、この後の展開と非常に重なると言ってよい。
 ともあれ、メリーの「心のゆくところ」はどうやら妖精の国であるようです。

【参考文献】
イエーツ『鷹の井戸』角川書店

イエーツ「カスリイン・ニ・フウリハン」

あらすじ…1798年、ギレイン家は長男マイケルの婚礼を目前に控えて幸せに包まれていた。とそこへ、貧しい身なりの老女がやってくる。

カスリイン・ニ・フウリハン

 まずは歴史的事実について少々。
 この物語の舞台となった1798年当時のアイルランドは、イングランドの支配下にありました。そしてその1798年にアイルランド蜂起が勃発、イングランドの仇敵であるフランスがこれを支援しました(作品の最後の方でパトリックがフランス人云々と言っているのはこのことを指す)。
 ただし、これも歴史的事実なので付け加えておくと、この蜂起は失敗に終わりました。

 さて、それでは作品についても述べたいと思います。
 ここに登場する老女の正体はカスリイン・ニ・フウリハン(キャスリーン・二・フーリハン)。アイルランドの擬人化で、彼女が年老いた貧しい身なりをしているのはこの時のアイルランドが落魄していたことを表わしています。そう考えて彼女のセリフを考えてみると…。ここでは書き切れませんが、色々と深いものを感じます。

 そういえば私が子供の頃、アイルランドではIRA(アイルランド共和軍)がテロをやっていましたっけ。この時もキャスリーン・二・フーリハンが暗躍していたんじゃないかと想像を巡らせてしまいます。

【参考文献】
イエーツ『鷹の井戸』角川書店

池井戸潤「ローンカウンター」

あらすじ…連続婦女暴行殺人事件が起き、山北史朗刑事は捜査するが犯人の手掛かりは掴めなかった。そんな中、山北は銀行へローンを借りに行くことに。

 巻末の解説(P313-321)によると、ここで山北が出会う銀行員・伊木遥は長編作品『果つる底なき』の主人公とのこと。私は『果つる底なき』は未読ですが、「ローンカウンター」は一つの独立した作品なので、一読者として楽しむ分には未読でも問題あるまい。
 寧ろ、ここで伊木遥という銀行員の素人探偵に興味がわいたら、『果つる底なき』をどうぞ、といったところでしょうか。

【参考文献】
池井戸潤『銀行狐』講談社

池井戸潤「銀行狐」

あらすじ…狐と署名された脅迫状が、帝都銀行頭取宛に届けられた。「あほどもへ てんちゅー くだす」。具体的な要求はないが、顧客情報漏洩、系列生保社員の襲撃と犯行はエスカレートする。狐の真意と正体は?(裏表紙の紹介文より引用)

【主要登場人物一覧】
指宿修平―――帝都銀行特命担当。本作の主人公。
鏑木和馬―――指宿の補佐。
戸崎宣之―――総務部長。
門倉澄男―――警視庁の刑事。
斎藤一志―――副頭取。リスク管理委員会委員長。
神谷喬一―――新橋支店長。
高村佳子―――総務部の女子行員。
柚木圭一―――神谷の元部下。
宮前毅――――本部審査部。
小池敬二―――債権回収担当。
加瀬直紀―――元行員。
時田紀一郎――時田硝子の元社長。
時田恒夫―――時田紀一郎の息子。時田硝子の元専務。
久遠―――――時田硝子の元顧問弁護士。
川内好蔵―――時田硝子の元経理。

 犯人は「狐」を名乗っていました。なぜでしょうか?
 ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、物語の終盤近くに稲荷神社の話が出てきて、犯人はそこから狐を名乗ることになったのだろう、ということが述べられています。
 稲荷神社といえば狐です。ただし、稲荷神が狐なのではなく、稲荷神の使いが狐なのです。
 それを踏まえて宗教的に解釈するならば、信心の篤い氏子の破滅に怒った稲荷神が、「狐」を使役して報復しようとしているのだ、と見ることもできます。もちろんこんな見方は迷信だとしりぞけることもできるでしょうが、人智を超えた存在に思いを馳せてみるのもいい。

【参考文献】
池井戸潤『銀行狐』講談社

池井戸潤「口座相違」

あらすじ…東都銀行渋谷支店で、誤った口座に振り込んでしまうという「口座相違」が起こる。銀行員の萬田は誤って振り込んでしまった橋本商会に詫びを入れようとするが、連絡が取れず、所在地にもそんな会社はなかった。

【主要登場人物一覧】
萬田武彦―――課長。
山崎紗絵―――行員。
田島利加―――行員。
梨田滋――――副支店長。
笹本―――――係長。
高橋―――――支店長。
柳井―――――融資担当。
橋本浩二―――橋本商会社長。
横川―――――横川プラスチック社長。
斎藤宏――――関西南銀行の行員。

 口座相違は話の発端に過ぎず、ここから更に色々と発展して行きます。ただ、ネタバレ防止の点から考えて、どこまで言っていいのか、ちょっとわかりません。

 それにしても、所在不明の口座ですか。今だったら振り込め詐欺なんかに悪用されそうですな。

【参考文献】
池井戸潤『銀行狐』講談社

池井戸潤「現金その場かぎり」

あらすじ…銀行の窓口で数百万円の金が消える事件が連続して起こる。灰原係長が調査する。

【主要登場人物一覧】
灰原係長―――本作の主人公。
吉川恭子―――テラー。
枡野理江―――テラー。
新田秋穂―――テラー。
本村渚――――テラー。
神田隆――――営業課長。
木山彰一―――行員。
伊沢良子―――お局様。
馬場浩一―――ブティック馬場の社長。

 タイトルの「現金その場かぎり」とは、金が盗まれた現場を押さえないとダメだということです。これはなかなか難しい。

 それはさておき、灰原係長は内部の人間による犯行を疑っています。銀行のセキュリティの厳しさとシステムの複雑さを考えれば、そういった事情に通じている内部の人間を疑うのは当然でしょうな。
 そういえば、上記の主要登場人物一覧をチェックすると、銀行外部の人間は最後の馬場浩一だけということに気付きます。とすると…おっと、ここから先はネタバレ防止のために伏せておきましょうかね。

【参考文献】
池井戸潤『銀行狐』講談社

池井戸潤「金庫室の死体」

あらすじ…破綻した城南相和銀行の支店の金庫室で、老婆のバラバラ死体が発見される。小松刑事は相棒の花山と共に捜査に乗り出す。

【主要登場人物一覧】
小松与一―――刑事。
花山寛――――刑事。
安永登志子――殺害された老婆。
加木屋誠吾――城南相和銀行の残務処理担当。
高橋義男―――城南相和銀行長原支店の元支店長。
竹村肇――――城南相和銀行の元行員。安永を担当。
竹村克江―――竹村肇の母。
近藤一樹―――城南相和銀行の元融資課長。
井口充――――城南相和銀行の元行員。
相羽昭三―――倒産した会社の元社長。

 本書巻末の「初出誌」(P321)によると、「金庫室の死体」の初出は「小説現代」一九九九年十月号。だとすると、この物語はバブル崩壊後に金融機関の破綻が相次いだ世相が背景にあるということですか。そういえば長銀とか住専とかありましたっけ。
 尚、事件の舞台となった城南相和銀行は架空の存在ですが、名前の元ネタと思しき金融機関は実在します。即ち城南信用金庫と東京相和銀行で、城南信用金庫は現在も存続し、東京相和銀行は破綻してなくなっていることを付け加えておきます。
 ところで、事件現場は「大田区上池台一丁目」(P9)とありました。そこで手許の地図で調べてみると、バッチリ実在することが判明。洗足池から数百メートル東に行ったところにありました。最寄駅は東急池上線の長原駅です。

【参考文献】
池井戸潤『銀行狐』講談社

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