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マーク・トウェイン「名探偵誕生」

あらすじ…夫に虐待されて捨てられた女が男の子(アーチー・スティルマン)を生んで育て、息子に自分を捨てた夫(ジェーコブ・フラー)への復讐を果たさせようとする。アーチ―には、猟犬のように優れた嗅覚があった。

 原題は"A Double-Barrelled Detective Story"(P289)で、直訳すると「二連式の探偵物語」。これはどういうことかというと、物語の後半で突如としてシャーロック・ホームズが登場し、アーチ―・スティルマンと「二連式」で推理を展開するからです。それにしても二連式という銃の用語をタイトルに持ってくるあたりは、銃社会アメリカならではでしょうか(念の為に言っておくと、作者のマーク・トウェインはアメリカの作家で、作品の舞台もアメリカ)。
 一方、邦題の「名探偵誕生」ですが、このタイトルが指す名探偵とは誰のことでしょうか? シャーロック・ホームズは名探偵として名高いけれども、登場の時点で既に高名な存在です。例えばホームズが宿帳に自分の名前を記すと、こんな反応が。

 このニュースはたちまち小屋から小屋へ、採鉱場から採鉱場へと広まり、仕事道具を放り出し、部落じゅうの人びとが<興味の中心>めがけて集まってきた。(P247)

 すごい人気だこと。ともあれ、シャーロック・ホームズは本作で「誕生」した「名探偵」ではありません。だとすると、タイトルが指す名探偵とはやはり、「二連式」のもう一人の探偵、アーチー・スティルマンになります。
 それでは、アーチ―の名探偵ぶりは、どんなものでしょうか? ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、彼は優れた嗅覚を駆使しています。論理的思考のできる猟犬といったところでしょうかね。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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W・ハイデンフェルト「<引立て役倶楽部>の不快な事件」

あらすじ…名探偵たちがインドで開催される「第一回世界名探偵会議」に出席するべく旅だった。一方、イギリス南部にある<引立て役倶楽部>の敷地内で他殺死体が発見される。しかも発見場所は、密室だった。

 死体の第一発見者は、<引立て役倶楽部>の運営委員会のメンバーの一人、ジョン・H・ワトスン。シャーロック・ホームズの相棒で、推理ではミスリードを見せることがあります。こう書けば、倶楽部のメンバーがどんな人たちが、およそ察しが着くんじゃないでしょうか。即ち、名探偵の「引立て役」というわけです。
 ちなみに俱楽部の会長は“偉大なるデュパンの友人”(P182)で、名前がありません。デュパンはエドガー・アラン・ポーの小説に登場する名探偵ですが、そういえば原作小説では相棒の名前は出てこないんだった!
 尚、映画版「モルグ街の殺人」では、デュパンの友人にポールという名前が付いていることを申し添えておきます。
 さて、捜査開始後は、倶楽部のメンバーたちが密室のトリックを解明しようと頭を悩ませています。いやいや、密室のトリックも大事ですけど、被害者の身元特定とか周辺の聞き込みとか、他にもやることが山ほどあるはずですぞ。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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アンソニイ・バウチャー「テルト最大の偉人」

あらすじ…宇宙人の学者が、地球人(テルト人)のシェルク・オムスについての考察を述べる。

 この宇宙人によると、シェルク・オムス(シャーロック・ホームズ)とシェルク・スペル(シェイクスピア)は同一人物だという。

要するにシェルク・オムス(二つの名前のうち、より普及したかたちを用いるとすれば)は、作家であると同時に行動の人であったのであり、そのときの興味の対象によって名前を使い分けようとしたのである。(P171)

 両者の活躍時期は300年くらい違うぞ。
 でもまあ、源義経=ジンギスカン説や、明智光秀=南光坊天海説を提唱する人が地球にいるくらいだから、広い宇宙には地球人に関する断片的な情報を基にシャーロック・ホームズ=ウィリアム・シェイクスピア説を唱える者がいてもおかしくはないのかもしれません。
 ちなみに、そもそもなぜこの宇宙人がホームズとシェイクスピアを同一人物であると信じるに至ったのか、その論考は本作内で一応は述べられています。ただ、正直言って私には理解の及ばないところがあるので、これを引用して自分なりに長々と反論してみようという気にはなれませんでした。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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オーガスト・ダーレス「怯える准男爵」

あらすじ…夜、ソーラー・ポンスのもとに、アレグザンダー卿(准男爵)から切迫した依頼が持ち込まれる。自分はシヴァの像を見たのだが、周囲の人間は誰も見ていない、これは『シヴァの眼』の呪いなのではないか、というのだ。

 短篇作品にしては登場人物が多いと思ったので、一覧を作っておきました。尚、各人物の情報は必要最小限にとどめておいたので、読者諸氏は本作を読み進めながら追加情報を書き足していただけると幸いです。

ソーラー・ポンス――――――探偵。
パーカー――――――――――ポンスの相棒。
アレグザンダー卿――――――准男爵。依頼人。
ケナリー――――――――――アレグザンダー卿の従卒。
ランサム・ロウアン―――――アレグザンダー卿の弟。
メガン・ロウアン――――――アレグザンダー卿の妹。
ウィニフリッド・ロウアン――アレグザンダー卿の娘。
フィリップ・ロウアン――――アレグザンダー卿の息子。
ジェフリー・サリング――――ウィニフリッド婚約者。

 ところで、そもそもなぜ本作が『ホームズ贋作展覧会』に収録されているのかというと。シャーロック・ホームズのパロディになっているからです。ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、例えばクライマックスでポンスとパーカーが犯人を待ち受けるくだりは、明らかに「まだらの紐」が元ネタです。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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アガサ・クリスティー「消えた貴婦人」

あらすじ…トミー&タペンスのところへ、探検家のゲイブリエル・スタヴァンソンがやってくる。婚約者のリー・ゴードン夫人(ハーマイオニ)が消息不明になったというのだ。

 アガサ・クリスティーの作品はそれなりに読んできましたが、トミー&タペンスはこれが初めて。トミー&タペンスはシリーズの途中で結婚するのですが、

「でかしたぞ、タペンス」彼女の夫は賞賛した。(P123)

 とあるので、この作品は結婚後ということになります。
 それはさておき、そもそもなぜ本作が『ホームズ贋作展覧会』に収録されているのかというと、トミーがバイオリンを演奏してみせるなど、シャーロック・ホームズを意識した作りとなっているからです。詳細は本書の記述に譲りますが、読者はどこがホームズのパロディになっているかを探しながら読み進めてみるといいかもしれません。もちろん、事件の真相を推理しつつ。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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クリストファー・モーリー「コデイン(七パーセント溶液)」

あらすじ…「私」の友人で今は海軍情報部にいるダヴ・ダルセットが、驚くべき話をする。シャーロック・ホームズの姪ヴァイオレット・ハーグリーヴが自分の助手として活動し、機密情報を暗号文にして手紙で送ったというのだ。

 タイトルを最初に見た時、「コデイン? コカ〇ンじゃなくて?」と思いました。コカ〇ンはシャーロック・ホームズの有名な悪癖で、『四つの署名』の冒頭でホームズはコカ〇ンを注射していたりします。
 それではなぜコデインなのか? ダヴ・ダルセットの話によると、ヴァイオレットはスペルミスをしたところに秘密の意味を込めることで機密情報を送っていたのだという。だとすれば、このタイトルにも秘密の意味が込められていることになります。
 しかし、だ。そもそもダヴの話はどこまで本当だろうか? 問題の女性ヴァイオレットはダヴの話に出てくるだけで、「私」の前に登場するわけではありません。又、「証拠」として提示されるのはスペルミスのある手紙だけで、それが本当に暗号文なら、部外者である「私」には本来見せてはいけないもののはずです。他にも色々と疑問点が浮かびますが、とりあえずこれくらいにしておきます。ともかくも最後までお読みあれ。
 最後に一つだけ注意点を尾辺手置くと、この短篇小説にシャーロック・ホームズは登場しません。おそらくこの時点では既に死んでいるものと思われます。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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スチュアート・パーマー「狙われた男」

あらすじ…コーンウォールの漁村に住むアラン・ペンダーヴィスがホームズのところへやってくる。何者かから脅迫を受け、銃撃されたというのだ。話を聞いたホームズは、グレグスン警部に連絡してアランの弟ジューナル・ペンダーヴィスを逮捕させるが…。

 登場人物は以下の通り。

シャーロック・ホームズ――――探偵。
ジョン・ワトスン―――――――ホームズの相棒
アラン・ペンダーヴィス――――依頼人。
ジューナル・ペンダーヴィス――アランの弟。
グレグスン――――――――――スコットランドヤードの警部。
オーウェンズ―――――――――警部補。
トレニデス――――――――――巡査。

 さて、今回の依頼人であるアラン・ペンダーヴィスは、「伯母がわずかばかりの年金を遺してくれたので、鳥の写真を撮る道楽に時間を費している」(P77)という人物で、いわば世捨て人みたいなものでしょう。
 こんな世捨て人を狙うというのは奇妙に思えるかもしれませんが、それでも狙われる理由はいくつか考えられます。例えば、その人物が過去に何かやらかして恨みを買っていたとか、犯人が別の人物と取り違えて狙っている、などです。これ以上書くとネタバレになるかもしれないのでこれくらいにしておきますが、ともかくも動機の線から考えてみるのもいい。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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ヴィンセント・スターリット「珍本『ハムレット』事件」

あらすじ…ある朝、シェイクスピア本のコレクターであるハリントン・エドワーズがホームズのところへ駆け込んでくる。友人のバナーマン卿から貴重な『ハムレット』本を借りたのだが、強奪されてしまった、しかもあろうことか、バナーマン卿が護衛にと付けてくれた従者が強奪したというのだ。

 『ハムレット』本なら私も持っていますよ。岩波文庫版ですけど。まあ、私のは二束三文といったところでしょうか。ああ、もちろん売るつもりはありませんよ。『ハムレット』の映像作品をレビューする時などには参考文献として利用しますから。
 さて、本作の事件ですが、登場人物が少なすぎる。そのためか、真犯人が何となくわかっちゃいました。ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、そのそもその珍本の価値がわかる人間なんて、そうはいませんよ。

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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アーサー・コナン・ドイル(アーサー・ホイティカー)「指名手配の男」

あらすじ…ワトスンが休暇を取ってシャーロック・ホームズを旅行に誘おうとする。だが、ホームズは偽造小切手事件捜査の依頼を受けて、シェフィールドへむかうところだった。ワトスンはホームズと共にシェフィールドへ行く。

 まず最初に、作者名について。巻末の解説(文=各務三郎)によると、「収録作品は、発表時こそ真作とされたが、今日ではアーサー・ホイティカー贋作説がとられている」(P291)とのこと。なるほど、それならば『ホームズ贋作展覧会』の収録作品としてふさわしいと言えます。

 さて、それでは本作を読んでみることに。冒頭、ワトスンの妻(『四つの署名』のメアリ・モースタン)が体調を壊したので、ワトスンは彼女をスイスへ送り出しました。これは転地療養と言われるもので、当時は一般に行われていました。ホームズも過労でダウンした時はこれをやっています(「ライゲートの大地主」など)。
 ワトスンも休暇を取ってスイスへ行くことにし、ホームズも誘おうとしたのですが、事件の依頼が舞い込んでいると知るや、あっさりホームズについて行くことに。おいおい、病気の奥さん放ったらかして何やってんだ?

 次に、事件について。今回の事件は銀行員のジェイベズ・ブースが偽造小切手を使って銀行から大金を引き出した後、姿をくらましたというもので、本作ではブースの行方を探ることに。ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、ブースが使ったトリックは国境を超えた大掛かりなものとなっています。これはパスポートの偽造もやったのかな?

【参考文献】
各務三郎編『ホームズ贋作展覧会』河出書房新社(目次)

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樋口一葉「この子」

あらすじ…裁判官の夫との仲が悪くなった女性が独白する。

 女性の独白という形式の作品。
 女性の独白といえば太宰治が得意とする分野ですが、太宰治の「きりぎりす」などと較べると「この子」はどうしても見劣りがしてしまいます。例えばネタバレ防止のために詳細は伏せますが、あの結末は作者(樋口一葉)が平凡な終わらせ方をしたなという印象を受けます。

【参考文献】
樋口一葉作『大つごもり・十三夜 他五篇』岩波書店(目次)

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