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司馬遼太郎「最後の攘夷志士」

あらすじ…陸援隊の隊長代理となった田中顕助は、公卿の鷲尾隆聚を奉じて、紀州高野山で挙兵する。田中顕助は軍略家を欲し、国学者で天誅組の生き残りの三枝蓊(しげる)を迎え入れる。

 『幕末』において田中顕助は厚遇されているらしく、「花屋町の襲撃」、「土佐の夜雨」、「浪華城焼打」、そしてこの「最後の攘夷志士」に登場します。ちなみに時系列は以下の通り。

(1)土佐の夜雨
(2)浪華城焼打
(3)花屋町の襲撃
(4)最後の攘夷志士

 尚、タイトルは「最後の攘夷志士」ですが、田中顕助を指しているわけではありません。「最後の攘夷志士」とは即ち、イギリス公使パークスを暗殺しようとした三枝蓊であり、彼と行動を共にした朱雀操です。あるいは、後詰めの3人もそれに加えてもいいかもしれません。
 それにしても、たった二人で武装した一団の行列を襲うとは無謀すぎる。得意の軍略はどこ行った。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

司馬遼太郎「浪華城焼打」

あらすじ…大坂に土佐浪人が集まっていた。実は彼らは、大坂城を焼き打ちしようとしていたのだった。そしてそのメンバーの中に、田中顕助がいた。

 浪華城? そんな城あったかなと思ったら、大坂城のことでした。大坂は浪華(なにわ)とも言ったから、大坂城の別称として浪華城があったということですか。
 それにしても、大坂城を焼き打ちするには人数も装備も心許ない有り様です。田中顕助の師・高杉晋作ならば、イギリス公使館を焼き打ちしたようにやってのけてしまったかもしれませんが…。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

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司馬老太郎「彰義隊胸算用」

あらすじ…江戸に官軍が迫る中、江戸では彰義隊が結成されることになる。寺沢新太郎は彰義隊の会頭に天野八郎を推すが、会頭に決まったのは渋沢成一郎だった。

 渋沢成一郎は渋沢栄一の従兄。
 ちなみにこの渋沢成一郎が彰義隊の会頭に決まった直後、寺沢新太郎はこんなセリフを吐いています。

「まあ諸君、せっかく決まった会頭だ。しかしろくでもねえ野郎だとわかったら、さっさと斬ってしまえばいい」(P369)

 一般的に軍隊の世界では上官殺しは重罪なのですが、どうも彰義隊くらいになるとその辺の常識が吹っ飛んでしまっているようです。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

司馬遼太郎「死んでも死なぬ」

あらすじ…伊藤俊輔(後の伊藤博文)は、井上聞多(後の井上馨)と共に、高杉晋作の下でイギリス公使館を焼き打ちしたり、吉田松陰を改葬したり、宇野東桜を暗殺したりする。

 伊藤俊輔の視点から井上聞多を描いています。しかもこの聞多、冒頭の初登場時にウ〇コをしています。おまけにその後のイギリス公使館焼き打ちでも、逃走時にウ〇コしたと書いてあります。
 そもそも誰だってウ〇コはするものですが、だからといって普通はそんなことを書きません。これは作者(司馬遼太郎)がわざと書いているのであって、こいつはそんなところでウ〇コするような奴なんだぞ、ということを示しています。
 ちなみにタイトルの「死んでも死なぬ」とは井上聞多のことで、本作でこんな文章があります。

(たいしたものだ)
 と、それにも、俊輔は感服しきっている。もっとも、聞多の糞や色気に感心しているのではなく、そのなまなましい生命力を学びたい。とかげの生まれかわりのような、叩いても踏んでも死にそうにないいのちを、聞多はもっている。そのかわり、つらは下卑ている。(P325)

 さすがに生命力は学べないでしょうな。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

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司馬遼太郎「逃げの小五郎」

あらすじ…但馬出石藩の昌念寺に、正体不明の人物が匿われていた。槍術師範役・堀田半左衛門は昌念寺でその男を見かけ、興味を持つ。

 タイトルでネタバレしているから言っても差し支えないと思いますが、その人物とは逃げの小五郎こと桂小五郎(後の木戸孝允)です。
 さて、この作品は堀田半左衛門の視点で物語が進むのですが、途中で「筆者が代わらねばなるまい」(P294)と言って、筆者こと司馬遼太郎がいわば「神の視点」で蛤御門の変以降の桂小五郎の足取りを述べています。逃亡の詳細は本作の記述に譲りますが、これは田舎の槍術師範役には知りようがありません。
 それから、こんなことが書いてありました。

 出来れば逃げよ、というのが、殺人否定に徹底した斎藤弥九郎の教えであった。自然、斎藤の愛弟子だった桂は、剣で習得したすべてを逃げることに集中した。(P302)

 はぐれメタル(※)かよ。いや、はぐれメタルは一定の確率で攻撃してきますが、頭のいい桂小五郎はそれが命取りになりかねないとわかっているのか、とにかく逃げています。しかも、用心深く。桂を討つのは、はぐれメタルを倒すより難しいと言えます。

※『ドラゴンクエスト』シリーズのモンスター。防御力と素早さが高く、すぐに逃げるのでこれを倒すのは困難。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

司馬遼太郎「土佐の夜雨」

あらすじ…土佐高知の城下町に怪人物・長襦袢の大坊主が現われる。土佐藩の仕置家老・吉田東洋はその人物に興味を持ち、下横目の岩崎弥太郎に調べさせる。

 長襦袢の大坊主は、この後、郷士・那須家に養子に入り、那須信吾と名乗ります。その前は「浜田宅左衛門の三男某」(P256)ですか。養子に入る前の名前がわからないようです。
 それから下横目ですが、これは「徒士、郷士の非違を探索する卑役」(P250)とのこと。その下横目の役に就いている岩崎弥太郎は、後に財界の大物となるほどの人物だから有能といえば有能なのですが、坊主を取り違えたり、武市半平太の塾の監視に失敗したりと、ヘマをやらかしています。岩崎弥太郎は、下横目では十分に能力を発揮できなかったのかもしれません。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

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司馬遼太郎「祇園囃子」

あらすじ…十津川郷士・浦啓輔は京で新選組と数度にわたって戦っていたが、ある夜、新選組に襲われて負傷し、土佐藩邸に駆け込む。そして土佐藩士・山本旗郎の手引きで十津川に逃れ、そこで傷養生をする。暫くすると、山本旗郎から手紙が来て、啓輔は再び京へ上る。

 タイトルは「祇園囃子」なのですが、なかなか祇園囃子が出てこない。と思ったら、クライマックスの暗殺の少し前になって、ようやく登場しました。

 鉾、山車が各町で組みたてられ、あちこちの辻から、祇園囃子がきこえていた。行きかう人の顔が、夕焼けをあびてほのあかい。(P237)

 鉾や山車は祇園会(祇園祭)で使われるものです。なるほど、町は祝祭的雰囲気に包まれつつあるというわけですな。
 もっとも、この時の浦啓輔はそれどころでなかったことは言うまでもありません。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

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京都祇園祭 祇園囃子

司馬遼太郎「冷泉斬り」

あらすじ…長州浪士の間崎馬之助は、攘夷志士仲間から絵師・冷泉為恭の暗殺(志士たちの言葉を借りれば「天誅」)に誘われる。だが、馬之助は乗り気でなかった。

 なぜ一介の絵師が狙われるのかというと、冷泉為恭は三条実美の屋敷に出入りしており、そこで得た機密情報を京都所司代に漏らしているのだという。なるほど、スパイなら狙われるのも理解できます。
 しかしこの冷泉為恭はスパイとしては小物の部類で、小遣い稼ぎの情報提供者といった程度。しかも浪士のところまで噂が流れてくるということはスパイだと完全にバレているわけで、もうスパイとしては使い物になりません。
 ちなみに物語の途中で突然、坂本竜馬が登場します。そして、「天誅さわぎなどは、愚劣すぎる」(P189)などと言ってこれまた急に去って行きます。これは作者(司馬遼太郎)が読者へのサービスとして人気者の坂本龍馬を出演させて、彼に自分の言いたいことを代弁させているような気がしました。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

司馬遼太郎「猿ヶ辻の血闘」

あらすじ…会津藩の密偵・大庭恭平は、一色鮎蔵と名を変えて浪士のふりをして、薩摩藩の田中新兵衛と親交を結ぶ。そんなある時、大庭は長州藩が操っている姉小路公知を暗殺することにし…。

 『幕末』収録作品の中で密偵(スパイ)が主人公として登場するのは、この「猿ヶ辻の血闘」くらいのものです。あとはせいぜい、「土佐の夜雨」で岩崎弥太郎が下横目として密偵行為を働いているくらいです。
 まあ、『幕末』は時代小説であってスパイ小説じゃないってことですかね。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

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猿ヶ辻の変の現場-姉小路公知襲撃地

司馬遼太郎「花屋町の襲撃」

あらすじ…坂本竜馬と中岡慎太郎が暗殺され、海援隊・陸援隊は復讐せんものといきり立っていた。海援隊の陸奥陽之助(後の陸奥宗光)は犯人探しをさせる一方で、腕の立つ者を求めていた。

 坂本竜馬暗殺を描いたものではなく、その後日譚を描いた作品。
 尚、本作の主人公は3人いるように感じました。一人は陸奥陽之助、もう一人は彼が求めた腕の立つ者・後家鞘の彦六(後の土居通夫)、そして陸奥が彦六を探すよう頼んだお桂です。短篇で主人公3人は多い。
 ところで、坂本竜馬暗殺は、京都見廻組の今井信郎が数十年後になって自分がやったと言っています。坂本龍馬暗殺犯は諸説あるのですが、仮に今井信郎が犯人だとして、なぜ今井は数十年間も沈黙していたのでしょうか? 本作で陸奥陽之助らが報復の挙に出るさまを読んでみると、その理由がわかったような気がしました。

【参考文献】
司馬遼太郎『幕末』文藝春秋(目次)

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