あらすじ…帰還軍人のためのモデル・ハウス展がいま、アトラクション劇の幕を賑やかに開けた。居並ぶ華やかな馬上の騎士に拍手がわく。期待と興奮のうちに見守る観客の中には気づかわしげなコックリル警部の顔も見えた。公演を前にした三人の出演者に不気味な死の予告状が届いていたのだ。単なる嫌がらせであってくれればいいが……やがてライトを浴びた塔のバルコニーに、出演者の一人、悪評高いジェゼベルが進み出た。そしてその体が前にのめり、落下した……!(裏表紙の紹介文より引用)
まずはあらすじの段について。
引用した裏表紙の紹介文によると、死の予告状が届いたのは「三人の出演者」となっていますが、正確には三人の内パーペチュア・カークだけは出演せずに裏方の雑用を務めています。
次に、公演のページェント(パジェント)について。
ページェントとは歴史的・伝統的・宗教的な場面を舞台で見せる野外劇、もしくは華麗な衣装を着けた行列のことで、この作品では騎士の衣装を着けた男たちが騎乗して行進します。
尚、今回のページェントの元ネタは不明。
それから、ジェゼベルという名前について。
本書P108, P109で言及されていますが、この名前の元ネタは旧約聖書の登場人物です。元ネタの人物の死にざまは『列王記 下』第9章第30節―第37節に書かれています。長くなるので引用は控えますが、イゼベル・ドルー殺しのネタ元はこの部分です。
時代背景についても少々述べておくことにします。
この作品の舞台となるのは第二次世界大戦終了後のロンドンです。一応、イギリスは戦勝国なのですが、エドガー・ポートやスーザン・ベッチレイなどは日本軍に追っ払われてイギリス本国に戻っているという設定です。
勝ったからといって、昔日の栄光(大英帝国の支配)を取り戻せるわけではないということを示しているようです。
さて、事件のトリックについても言及しておかねばなりますまい。
ページェントでは鎧兜(もちろん舞台用の衣装)に身を固めた騎士たちが馬に乗って行進し、イゼベル・ドルー殺しでは彼らに殺人の嫌疑がかけられます。
ここで注目すべきなのは、鎧と兜ですっぽり身を覆ってしまうと、個人の識別をするのはマントの色くらいのものだということです。そこで私はピンと来ましたよ、すりかえのトリックが使われたんじゃないかと。即ち、騎士Aが舞台に登場するが中身はAではなくBだった、というものです。
尚、この直感が当たったか否かについてはネタバレ防止のために伏せておきます。
最後に、どんでん返しの連続について。
ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、真犯人でない者が犯行を自白したり、チャールズワース警部が誤った推理を開陳するなど、終盤は目まぐるしいほどのどんでん返しが続きます。
さすがにここまで来ると、やりすぎだろうと思わざるをえない。
【参考文献】
クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』早川書房
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