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池波正太郎「獅子の眠り」

あらすじ…老中・酒井忠清は信州松代藩の跡目相続に介入しようとするものの、隠居していた真田信之に密書を奪われ、介入に失敗。忠清は密書を奪い返そうと焦る。一方、死を間近に控えた信之のもとには凶報が入る。近習の伊木彦六が藩の横目付の守屋甚太夫を殺したというのだ。

 作品の冒頭で語られる跡目相続の補助資料として、真田家の家系図をとりあえず掲載しておきます。尚、真田信之は信幸とも表記しますが、この作品の中では信之と表記してあるのでこれに従いました。

真田家の家系図

 さて、タイトルの「獅子の眠り」の獅子とは本作の主人公・信之のことで、この時93歳。長生きしてるなあ。「冬のライオン」より老いています。
 それにしても、93歳の老人を騒動に巻き込むとは、作者(池波正太郎)もなかなか酷なことをしますな。いや、あるいは、信之ほどの「人気者」ともなれば93歳になっても放ってはおかれない、と見るべきか。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

池波正太郎「槍の大蔵」

あらすじ…臆病者であった雨宮大蔵は遊女に舌を噛みちぎられて唖となってしまう。そこで彼は発憤して密かに鍛錬を積み、関ヶ原の戦いで大活躍。槍の大蔵と呼ばれるようになる。

 関ヶ原の戦いまででとどめておけば、劣等感をバネにした若者の成功譚として終わっていたかもしれません。しかし、作者(池波正太郎)は後半に大坂の役を持ってくることで、この一人の英雄に悲劇的な味わいを与えています。無常無常。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

池波正太郎「黒幕」

あらすじ…徳川家康のめぐらす謀りごとを実現すべく働き抜いた山口新五郎は、江戸開府後、六十歳を過ぎて初めて女体に接した。そして二度も十代の嫁を娶ることになる(裏表紙の紹介文より引用)

 中高年の童貞が活躍する(?)という珍しい作品。しかも主人公は病弱という属性を生まれ持っています。それでいて…おっと、これ以上はネタバレになるので伏せておかねば。
 ともかくも童貞をこじらせていないのは立派です。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

池波正太郎「紅炎」

あらすじ…毛利勝永は関ヶ原の戦いで西軍に与し、父の吉成と共に土佐へ配流される。そして勝永はそこで結婚して子供をもうける。やがて大坂の情勢が緊迫し、勝永は大坂方へ着く。

「紅炎」人物関係図

 大坂の役の敗軍の将の中では、真田幸村や後藤又兵衛に較べればいささか知名度が劣る、というのが私の毛利勝永に対する印象です。子供がいたのは知らなかったな。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

池波正太郎「霧の女」

あらすじ…恐妻家・福島正則は、ひょんなことから助けた女(小たま)と肉体関係を持ってしまう。

 私は早々にピンと来ました。その女、ハニートラップですって。
 福島正則が単独行動している時に女の拉致現場に遭遇するのは偶然にしては出来すぎています。とはいえ、これは物語にありがちな御都合主義だと強弁できなくもない。
 しかし、拉致実行犯二人がいともあっさりと逃げおおせているのはクサい。クサすぎる。
 それから、タイトル「霧の女」というのも、いかにも「その筋」の女の存在を示唆しているようです。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

池波正太郎「勘兵衛奉公記」

あらすじ…戦国武将・渡辺勘兵衛了は「わたり奉公人」として各地の戦国大名の下で戦い続ける。

 渡辺勘兵衛が渡り歩くさまはまさに戦争のプロフェッショナル。

 それはさておき、この作品の中で増田盛次がちょっとだけ登場しました。一回目は郡山城留守居の時、二回目は大坂の役です。
 私は以前、『大坂物語』という古典作品のレビューを書いた際に増田盛次を取り上げたことがある、ということを思い出した次第。

 この戦闘に、皮肉にも渡辺勘兵衛は増田盛次の部隊と遭遇したものである。
 そして、盛次は戦死をとげた。
(P129)

 あらら、あっさりとした記述だこと。まあ、彼は物語的にはこの程度の重要度だったのでしょう。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

池波正太郎「猛婦」

あらすじ…お津那は夫を殺した谷七九郎を討とうとするが、七九郎は従容として自分の左腕を切り落とさせる。

「猛婦」人物関係図

 この後、二人がどうなったのかというと…ネタバレ防止のために伏せますが、これは武家の義理を考えるととんでもないことになったぞと思わざるをえない。
 とはいえ、猛婦・お津那にとってはそれくらいやってのけてしまう強さがあったのでしょう。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

池波正太郎「雲州英雄記」

あらすじ…山中鹿之介は奮闘するものの主家(尼子家)を毛利に滅ぼされてしまう。鹿之介は何とかして主家を再興しようとする。

 小さいことですが、史実と異なる点を指摘しておきます。

 吉川元春は、本家毛利家の後つぎとなっている兄の輝元と共に一万三千の大軍をひきいて出雲に向かった。(P35)

 毛利輝元は吉川元春の兄じゃなくて甥だったはず。この作品ではどうやら毛利隆元の存在が抹消されていて、その地位に息子の輝元が繰り上がってしまっているようです。

 ところで、この作品の織田信長と羽柴秀吉の会話の中で、信長は鹿之介をこう評しています。

 「ふむ。鹿之介は、ただひたすらにおのれを捨て、主家のためにつくそうという心、それのみじゃと申すのか。あまりにも美しい忠義の志の底には、本人がそれと気づかぬ虚栄の心が間々ひそんでおるものじゃ。筑前にわからぬ筈はないがの」(P44)

 なるほど、言われてみれば思い当たる節がある。月に向かって我に七難八苦を与え給えと祈る姿は、ただマゾヒスティックというだけではなく、悲壮な決意を抱く己に酔っている風すらあるように感じられます。
 ともあれ、上記の引用文にあるように鹿之介に虚栄の心がひそんでいるとしたら、「雲州英雄記」の英雄として自分が描かれていることに満更でもあるまい。

【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社

アガサ・クリスティ『ゴルフ場の殺人』創元社

あらすじ…「頼む、来てください!」と必死に助けを乞うポワロ宛ての一通の手紙――ただならぬ胸騒ぎをおぼえたポワロはすぐさま差出人である富豪のヴィラへと急いだ。ところが一足遅く、すでに富豪はペイパー・ナイフで刺し殺された後だった。(P1)

『ゴルフ場の殺人』人物関係図

 上掲の人物関係図は事件発生直後の事情聴取及び捜査に基いて作成。この後の捜査の展開で実は…というのが幾つも出てきますので、読み進めながら適宜加筆修正するといいでしょう。
 例えば左下の端に「シンデレラ」とありますが、これは明らかに偽名です。彼女の正体は後に明らかにされるので、気になる人は推理してみるといい。

 それから、物語の中盤で提示される「ベロルディ事件」について。これがポール・ルノー殺害事件を解く鍵の一つとなっています。
 尚、鍵の一つと言うからには他にも必要な鍵は存在するわけで、それはベロルディ事件の記述の後もページ数が多いことからも明らかです。つまりは名探偵ポワロが活躍すべき謎解きが出てくるぞ(あるいは残っているぞ)ということです。
 そうそう、念のためにベロルディ事件の人物関係図も作っておきました。参考までにどうぞ。

「ベロルディ事件」人物関係図

【参考文献】
アガサ・クリスティ『ゴルフ場の殺人』創元社

エラリー・クイーン『Yの悲劇』東京創元社

あらすじ…行方不明をつたえられた富豪ヨーク・ハッターの死体がニューヨークの湾口に揚がった。死因は溺死ではなく毒物死だった。発端の事件につづいて、そろいもそろって常軌を逸した病毒遺伝の一族のあいだに、目をおおうような惨劇がくり返される。(P1の紹介文より引用)

『Yの悲劇』人物関係図

 上掲の人物関係図には書きませんでしたが、ちょっと気になる情報があります。エミリー・ハッターの先夫の「キャンピオンには先妻との間にできた男の子があって」(P33)、しかもその「むすこはゆくえ不明だった」(P34)とあることです。
 注意深く読むと彼の名前は伏せられているのに気付きました。これはひょっとすると後で出てくるんじゃ…。
 とまあ、私の予想が当たったか否かはネタバレ防止のために伏せておきますが、ともかくも一般的にこのテの小説では重要な手がかりがどこかしらに埋もれていたりするのでご注意を。

 次に、第二幕第六場(メリアム博士の事務室)にて、ドルリー・レーンがハッター家の人たちのカルテを閲覧するくだりがあるのですが、そのカルテの記述の中に「ワッセルマン反応」なるものがありました。気になって調べてみたところ、これは梅毒検査に用いられるものらしい。
 だとすると、ハッター家の病毒遺伝とは梅毒のことなのかなあ。

 それから、第三幕第一場(警察本部)にて、ドルリー・レーンがハムレットに言及していたのが気にかかりました。当該部分を引用します。

ハムレットを覚えておられますか? 優柔不断で気の変りやすい人間ですが、計画的な頭はもっていました。ハムレットは、暴力と陰謀の荒れ狂うさなかで、自分を責めさいなみながら迷いつづけました。しかし、注目すべきことは、優柔不断ではあったが、ひとたび行動を開始したら、彼はしゃにむに暴れまわり、それが終わるとたちまち自殺してしまったということです(P322)

 なるほど、これがドルリイ・レーンが抱くハムレット像ですか。ちなみに最後の自殺云々は正確には間違いで、毒を塗った剣で斬りつけられたのが彼の直接の死因であり、つまりは毒物による他殺です。とはいえ、父の仇を討つ絶好の機会をわざわざ逃したために謀殺されてしまったのだということならば、自殺と解釈できないことも…う~ん、ちょっと無理があるか。

 最後に、作品全体について。『Xの悲劇』と『レーン最後の事件』は未読なのでそれらとの比較はできませんが、少なくとも『Zの悲劇』よりは面白かったです。特に最後の決着の仕方は凄く、アガサ・クリスティーの『カーテン』に通じるものがあります。
 又、個人的にはシェイクスピア作品への言及があったのも興味深い。

【参考文献】
エラリー・クイーン『Yの悲劇』東京創元社

【関連記事】
エラリー・クイーン『Zの悲劇』早川書房
アガサ・クリスティー『カーテン』早川書房
シェイクスピア(目次)

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