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福田恒存訳『リチャード三世』新潮社(1)やっと忍苦の冬も去り

あらすじ…せむしでびっこの野心家グロスター公リチャードは、兄のエドワード四世王が病に倒れると、王権を狙い、その明晰な知能と冷徹な論理で次つぎに、残忍な陰謀をくわだて、ついに王位につく――。(裏表紙の紹介文より引用)

 冒頭、グロスター公リチャードの独白があります。

グロスター やっと忍苦の冬も去り、このとおり天日もヨークの身方、あたり一面、夏の気に溢れている、一族のうえに低く垂れこめていた暗雲も、今は海の底ふかく追いやられてしまった。(P11, 第一幕第一場)

 これについてちょっと解説しておくと、イギリスは百年戦争でフランスに敗北した後、今度は国内で内戦を開始します。それが薔薇戦争というもので、ヨーク派とランカスター派に分かれて戦いました(リチャードはヨーク派に属する)。そしてこの物語の直前にヨーク派は決定的な勝利を収め、ランカスター派の残党は大陸に逃れました(※ただし薔薇戦争はまだ終わっていない)。
 ざっくりと述べましたが、もっと詳しく知りたいなら『ヘンリー六世』でその辺りのくだりが描かれているので、そちらをどうぞ。又、この劇のセリフでも過去の経緯に言及するところがあるので、その点に留意して聴いてみるのもいいでしょう。
 さて、話を戻すと、周囲が勝利に浮かれて「楽しい宴」や「軽やかな踊り」(いずれもP11)を満喫している中、リチャード一人は、「今さら色男めかして楽しむことも出来はせぬ」(P12)と言って、よからぬ陰謀を企みます。即ち、実兄であるクラレンス公ジョージの「排除」です。
 おいおい、いきなり飛ばしすぎだろ…と思いましたが、観客に「こいつはこういう奴なんだぞ」というのをガツンと示してくれる効果はあります。

 長くなってきたので次回に続く。

【参考文献】
福田恒存訳『リチャード三世』新潮社(目次)

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