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江上波夫著『騎馬民族国家 日本古代史へのアプローチ』中央公論社

 騎馬民族征服説の本。騎馬民族征服説とは、古代、天皇氏を中心とする遊牧騎馬民族が大陸からやって来て日本を征服し、それが大和朝廷になった、というものです。
 現在、この学説は一般には支持されておらず、かく言う私も信じてはいません。その根拠については一々挙げませんが、一例を挙げると、記紀神話を読むと騎馬民族征服説とはどうにも合致しないところがあります。
 ここで一つ、『日本書紀』から引用してみます。素戔嗚尊が高天原で乱暴狼藉を働くくだりです。

 是の後に、素戔嗚尊の為行(しわざ)、甚だ無状(あづきな)し。何(いかに)とならば、天照大神、天狭田・長田を以て御田としたまふ。時に素戔嗚尊、春は重播種子(しきまき)し、且(また)畔毀(あはなち)す。秋は天斑駒を放ちて、田の中に伏す。(『日本書紀』巻第一第七段 P74)

 田や畔、重播種子の語を見れば察しが付くと思いますが、高天原では農耕をやっています。遊牧じゃない。馬(天斑駒)が出てくるじゃないかと思う人がいるかもしれませんが、農耕にだって馬は使われることをお忘れなく。
 長くなるので私の反論はこれくらいにとどめておくことにします。騎馬民族征服説に対する反論は他にもあるし、本書でも「もちろんこのような解釈には、反対論もすくなくはない」(P170)云々と書いてあるくらいです。
 とはいえ、私のような否定派であっても、本書を読んで得るところがありました。本書の前半では騎馬民族のスキタイ、匈奴、突厥、鮮卑、烏桓をざっくりと解説しており、この方面の知識があまりない者としてはこれらを知るいい機会になりました。
 ただ、本書執筆以後に発掘や研究の進展があったはずだから、ここに書いてある解説が現在どれくらい通用する事やら…。
 ともあれ、本書を読むと、昔はこんな学説があったんだなと知ることができます。

【参考文献】
江上波夫著『騎馬民族国家 日本古代史へのアプローチ』中央公論社
『日本書紀(一)』岩波書店

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