樋口一葉「うつせみ」
あらすじ…小石川の植物園の近くの貸家に、とある一家が引っ越してくる。その一家には、精神病を患う娘・雪子がいた。
タイトルの「うつせみ」とはセミの脱け殻のことで、空蝉と書きます。それから、短歌・俳句では夏の季語。
空蝉の語は、最後の最後で登場します。
いつぞは正気に復りて夢のさめたる如く、父様母様という折の有りもやすると覚束なくも一日二日と待たれぬ、空蝉はからを見つゝもなぐさめつ、あはれ門なる柳に秋風のおと聞こえずもがな。(P88)
上記の引用文の主語は、引用文中には書いていませんが、本作をここまで読んできた者ならばそれは雪子だとわかります。
それから、脱け殻ということで思い当たりましたが、こんな文章もありました。
雪子が繰かへす言の葉は昨日も今日も一昨日も、三月の以前も、其前も更に異なる事をば言はざりき、(中略)身は此所に心はもぬけの殻に成りたれば、人の言へるは聞分るよしも無く、(中略)胸を抱きて苦悶するは遣るかた無かりし当時のさまの再び現にあらはるゝなるべし。(P85)
もぬけの殻! これは空蝉じゃないか。とすると、タイトルの「うつせみ」は雪子を指しているのだと解釈できます。
【参考文献】
樋口一葉作『大つごもり・十三夜 他五篇』岩波書店(目次)
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