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柳田国男『日本の伝説』角川書店

 北海道と沖縄を除く日本各地の伝説を、児童向けにわかりやすく書いたもの。尚、児童向けといっても小学生には難しいかもしれません。中学生・高校生向けという感触を得ました。
 それから、本書執筆からかなりの年月が経っているため、本書に記されている住所表記は現在のものと異なっています。例えば、「片目の魚」(P51)にて取り上げられている医王寺の所在地は、「東京府豊多摩郡高井戸村上高井戸」(P51)とありますが、これが現在では「東京都杉並区上高井戸」となっています。ご注意を。

 さて、今回私は、本書に記された「伝説の地」に実際に行ってみることにしました。今回取り上げる伝説はこちら。

 鼻取り地蔵というのもまた農民の同情者で、東日本では多くの村にまつっております。私の今いる家からいちばん近いのは、上作延の延命寺の鼻取り地蔵、荒れ馬をおとなしくさせるのがご誓願で、北は奥州南部のへんまでも、音にきこえた地蔵でありました。むかしこの村の田植えの日に、名主の家の馬が荒れてこまっていると、見なれぬ小僧さんがただひとり来て、その口を取ってくれたらすぐにしずかになった。つぎの日、寺の和尚がお経を読もうとして行ってみると、御像の足に泥がついている。それできのうの小僧が地蔵さまであったことが知れて、大評判になったということです。(新編武蔵風土記稿。神奈川県橘樹郡向丘村上作延)(P138-139)

 こちらの住所表記も現在では変わっていて、今は「神奈川県川崎市高津区上作延」となっています。
 それでは実際に探訪した時のことを述べることにします。

 溝の口駅からバスで数分のところに延命寺があり(頑張ればバスを使わずに歩いて行ける距離でしたが、当日の天候や自身の体調などを考慮してバスを利用)、その境内に鼻取り地蔵がありました。

鼻取り地蔵

 地蔵が服やら何やらでガチガチに固められているのが見て取れます。これでは農作業の手伝いには不向きかと思われますが、そもそも現在、この周辺は住宅地に変貌しているので、鼻取り地蔵が農作業に出る必要は少なくともここではなくなっているのかもしれません。それから、馬が農業に使われなくなって久しいことも付け加えておきます。
 そう考えると今はこの伝説の伝承には不利な環境にあると言えます。地元の子供たちに、馬を使っての農作業をリアリティを持ってイメージさせるのは困難だからです。子供のみならず、大人でも難しいかもしれません。
 そもそも「鼻取り」とは何でしょうか? 実は著者の柳田国男でさえ、その説明をする必要を感じていたらしく、

鼻取りというのは、六尺ばかりの棒であります。牛馬をつかって田をうなう時に、この棒を口のところにゆわえて引きまわるのです。(P139)

 と述べています。そういえば、鼻取り地蔵はやけに長い棒を持っていましたが、あれは鼻取りだったか。
 それにしても今、「鼻取りとは何か?」と訊かれて答えられる大人がどれだけいることやら…。

【参考文献】
柳田国男『日本の伝説』角川書店

【柳田国男関連記事】
短編映画【遠野浪漫談】
『柳田國男全集13』筑摩書房(目次)

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