小泉八雲「人形の墓」
あらすじ…とある一家の父親と母親が続けざまに亡くなった。同じ年に一家の二人が死ぬと、必ずもう一人死ぬと信じられていたので、それを防ぐために人形の墓を建てなければならなかったが、人形の墓は作られなかった。
この物語の語り手は11歳の少女「いね」で、彼女を連れてきた万右衛門が補足するという形で話が進みます。さすがに11歳の女の子では民間習俗の説明などは困難であるから、適当な解説役が必要になったのだと思われます。
さて、同じ年に一家の二人が死ぬと必ずもう一人死ぬ、というのは俗信には相違ないと合理的に考えられますが、それで話をおしまいにしたら民俗学は始まらない。なぜそうなると信ぜられるようになったのか?
愚考するに、家族を一人失えば悲歎は大きい。そして不幸にして短期間の内に更にもう一人失えばその悲歎は更に大きくなる。精神的負担たるや相当のもので、又、貧乏な家ならば働き手の喪失による経済的困窮も甚しく、これらにより身を損ない寿命を縮めてしまって三人目に連なる者も出たのではないかと想像します。
それから、人形の墓を作るということは、当面の間はこれ以上は一家の誰も死なないと思わせる心理的効果が期待でき、それが心の「張り」ともなったことでしょう。
【参考文献】
上田和夫訳『小泉八雲集』新潮社(目次)
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