太宰治「道化の華」
あらすじ…大庭葉蔵は江の島の海岸で女性と一緒に入水自殺をしようとするが、女性は死んで自分は生き残ってしまう。そして彼は近くの結核の療養院に収容される。そこへ、友人の飛騨と小菅が駆けつける。
主人公が入水自殺に失敗して生還し、一緒に死のうとした女性は死んでしまう…という、いつかどこかで見た光景です。ええ、わかっていますとも、大庭葉蔵なんて変名を用いていても、その実は作者(太宰治)が自分語りをしています。
そういったところを見ると、この作品は『人間失格』のプロトタイプの一つだと思えてきます。そういえば、「僕はひとでなしでなかろうか。ほんとうの人間らしい生活が、僕にできるかしら。」(P142)というくだりなんかは人間失格の萌芽とも取れます。
ところで、タイトルにある道化とは、葉蔵と飛騨、小菅の3人のことです。
小菅は口を大きくあけて、葉蔵へ目くばせした。三人は、思いきり声をたてて笑い崩れた。彼等は、しばしばこのような道化を演ずる。(P166-167)
とあるように、この物語の舞台である病室でも馬鹿話などをして大笑いするくだりが幾度か出てきます。ただし、本当に愉快な三人組などではなく、「けれども悲しいことには、彼等は腹の底から笑えない。」(P136)とあります。
そんな道化たちが咲かせた華が、御覧の有様ですよ。
【参考文献】
太宰治『太宰治全集1』筑摩書房
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