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殉難船員之碑(總持寺)

 神奈川県横浜市鶴見の總持寺の境内にある、殉難船員之碑を解読してみました。
 漢文です。しかも長い。そのせいかあらぬか現代語訳の作業は難渋し、正直言って正確に訳せていない部分が幾つかあります。私の漢文読解力もまだまだといったところか。

殉難船員之碑(總持寺)

【碑文】
殉難船員之碑
    元勲海軍大将従二位大勲位功一級伯爵東郷平八郎題額
大正三年八月独国宣戦于露仏也英国助援露仏欧洲全土化為戦乱
之区我国亦拠日英同盟之誼伐独人于青島而攘之於是独国頻発艦
艇犯公法撃沈列国商船従地中海亙印度洋大西洋尤極跳梁暴虐焉
吾社船罹其毒手者五艘大正四年十二月二十一日八阪丸被撃沈於
地中海六年五月三十一日宮崎丸被撃沈於英国海峡其年九月二十
六日常陸丸為敵艦拿捕於印度洋十一月七日遂被撃沈越七年八月
二日徳山丸於紐育海其年十月四日平野丸於愛蘭海皆被撃沈而八
阪徳山二船不損人命宮崎常陸平野三船別船客及船員中死傷甚多
洵為極悲酸之事其船員皆為国家及與国冒危険執其職終殉之其忠
勇宣伝不朽茲建石録其姓名于碑陰以記後世永表英烈云爾
   大正八年十月
     日本郵船株式会社社長従四位勲二等男爵近藤廉平撰
     内大臣秘書官正五位勲三等      日高秩父書

【読み下し文】
殉難船員の碑
    元勲海軍大将従二位大勲位功一級伯爵東郷平八郎題額
大正三年八月、独国露仏に宣戦するなり。英国露仏に助援して欧洲全土戦乱の区となる。我が国もまた日英同盟の誼(よしみ)によりて独人を青島に伐ち、これを攘う。ここにおいて独国艦艇を頻りに発し、公法を犯して列国の商船を地中海より印度洋、大西洋にわたり撃沈す。もっとも極めて跳梁し暴虐なり。吾が社の船その毒手に罹りたるは五艘。大正四年十二月二十一日、八阪丸地中海において撃沈さる。六年五月三十一日、宮崎丸英国海峡において撃沈さる。その年九月二十六日、常陸丸印度洋において敵艦の拿捕するところとなり、十一月七日遂に撃沈さる。越七年八月二日、徳山丸紐育海において、その年十月四日、平野丸愛蘭海において皆撃沈さる。しかるに八阪徳山二船は人命を損ぜず、宮崎常陸平野三船は別に船客及び船員中死傷者甚だ多し。まことに極く悲酸(※1)の事たり。その船員皆国家及び国の為に危険を冒し、その職を執り、ついにこれに殉ずる。その忠勇の宣伝不朽、ここに石を建ててその姓名を碑陰に録す。もって記し後世に永く英烈(※2)を表しここに云う。
   大正八年十月
     日本郵船株式会社社長従四位勲二等男爵近藤廉平撰
     内大臣秘書官正五位勲三等      日高秩父書

※1.悲しくいたましい。
※2.すぐれた事業。

【拙訳】
殉難船員の碑
    元勲海軍大将従二位大勲位功一級伯爵東郷平八郎、扁額を記す。
 大正3年8月、ドイツがロシアとフランスに宣戦布告した。イギリスはロシアとフランスに援助して欧州全土が戦乱の区域となった。我が国もまた、日英同盟の友好によってドイツ人を青島(チンタオ)で攻撃し、これを追い払った。
 ここでドイツは軍艦を頻繁に出撃させ、国際法を破って各国の商船を地中海からインド洋、大西洋にわたって撃沈した。まったくもって暴虐の極みである。我が社(日本郵船)の船で、その毒牙にかかったのは5艘である。
 大正4年12月21日、八阪丸が地中海で撃沈された。(大正)6年5月31日、宮崎丸がイギリス海峡で撃沈された。その年の9月26日、常陸丸がインド洋で敵艦に拿捕され、11月7日、ついに撃沈された。翌7年8月2日、徳山丸がニューヨーク海で、その年の10月4日、平野丸がアイルランド海で全て撃沈された。
 そして八阪丸・徳山丸の二船は人命が失われなかったが、宮崎丸・常陸丸・平野丸の三船は(先述の二船と)違って船客と船員の死傷者がとても多かった。本当にとても悲しくいたましいことである。
 その船員は皆、国家と国の為に危険を冒し、その職を全うし、最後は殉職したのである。その忠義と勇敢さを宣伝し、これを不朽のものとするため、ここに石碑を建ててその名前を石碑の裏に記録する。こうして記し、後世に永く、すぐれた事業を表彰して、ここに言う。
    大正8年10月
       日本郵船株式会社社長従四位勲二等男爵近藤廉平作る。
       内大臣秘書官正五位勲三等      日高秩父書く。

 第一次世界大戦に巻き込まれて死んだ、日本郵船の船員を悼み、彼らを顕彰する石碑です。石碑の裏面には人命を書き連ね、「大正八年十月 日本郵船株式会社建之」とあります。
 それにしても、こんなところで東郷平八郎の名前に出会うとは思いませんでしたわ。東郷平八郎は日露戦争で活躍した人というイメージが強いからです。

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