エマニュエル・トッド 佐藤優『トランプは世界をどう変えるか? 「デモクラシー」の逆襲』朝日新聞出版社
トランプ大統領爆誕を受けて緊急出版された本。エマニュエル・トッドと佐藤優の共著となっていますが、両者が共同執筆や対談をしたというものではなく、トッド氏へのインタビューと佐藤氏の文章を一冊の本にまとめたものとなっています。又、資料として「トランプ氏 共和党候補指名受諾演説」(P37-61)を掲載。
というわけで、今回のレビュー記事は、
(1)エマニュエル・トッド
(2)佐藤優
(3)トランプ演説
の三つを軽く取り上げたいと思います。
【エマニュエル・トッド】
こんなことを述べています。
まず頭に入れておくべきは、米国の大統領は王様ではない、ということ。スターリンでもない。米国は「チェック・アンド・バランス」に基づく諸制度を備えています。権力があれば、それに対抗する権力もある。米国大統領は完全にその枠の中に収められています。(P36)
そういえばトランプはイスラム圏の国々からの入国を禁止する大統領令を出したものの、裁判所がそれを停止させたんでしたっけ。それに、チェック機関ならば他にも議会だってあります。
それから、もしもアメリカ大統領が何でもできるのだったら、オバマ政権の8年間で銃規制が進んだだろうし、オバマケアだってもっとすんなり実現したことでしょう。
【佐藤優】
神学者ラインホールド・ニーバーの『光の子と闇の子』を引用してアメリカ外交を論じています。詳細は本書に譲りますが、神学者の著書を持ち出してくるあたりに、佐藤氏の神学の素養がうかがえないこともない。
【トランプ演説】
色々とツッコミを入れたくなるところがありますが、とりあえず一つだけ、引っかかったところを引用します。
私は毎朝、全国各地に存在する人々――ないがしろにされ、無視され、見捨てられた人々のために変化をもたらそうと決意を新たにします。
私は、解雇された工場労働者や、我が国の最悪かつ不公平な貿易協定に破壊された地域社会を訪問してきました。彼らは、我が国で存在を忘れられた男性や女性たちです。しかし、このままずっと忘れられたままにしてはおきません。懸命に働くも、もはや声を持たざる人々よ。(P45)
ここでトランプが言及した人たちの票を掘り起こしたのは彼の功績と言っていい。存在を忘れられていようとも、一人一票という民主主義の原則は不変ですからね。
もしもトランプ旋風の如きものを日本でも巻き起こしたいと思っている政治家がいるとしたら、過激な言動という上っ面だけ真似するんじゃなくて、このような票の掘り起こし作業を忘れちゃいけませんよ、と言いたい。
【参考文献】
エマニュエル・トッド 佐藤優『トランプは世界をどう変えるか? 「デモクラシー」の逆襲』朝日新聞出版社
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