池波正太郎「雲州英雄記」
あらすじ…山中鹿之介は奮闘するものの主家(尼子家)を毛利に滅ぼされてしまう。鹿之介は何とかして主家を再興しようとする。
小さいことですが、史実と異なる点を指摘しておきます。
吉川元春は、本家毛利家の後つぎとなっている兄の輝元と共に一万三千の大軍をひきいて出雲に向かった。(P35)
毛利輝元は吉川元春の兄じゃなくて甥だったはず。この作品ではどうやら毛利隆元の存在が抹消されていて、その地位に息子の輝元が繰り上がってしまっているようです。
ところで、この作品の織田信長と羽柴秀吉の会話の中で、信長は鹿之介をこう評しています。
「ふむ。鹿之介は、ただひたすらにおのれを捨て、主家のためにつくそうという心、それのみじゃと申すのか。あまりにも美しい忠義の志の底には、本人がそれと気づかぬ虚栄の心が間々ひそんでおるものじゃ。筑前にわからぬ筈はないがの」(P44)
なるほど、言われてみれば思い当たる節がある。月に向かって我に七難八苦を与え給えと祈る姿は、ただマゾヒスティックというだけではなく、悲壮な決意を抱く己に酔っている風すらあるように感じられます。
ともあれ、上記の引用文にあるように鹿之介に虚栄の心がひそんでいるとしたら、「雲州英雄記」の英雄として自分が描かれていることに満更でもあるまい。
【参考文献】
池波正太郎『黒幕』新潮社
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