エラリイ・クイーン『Zの悲劇』早川書房
あらすじ…悪名高い上院議員が、選挙をひかえ、自宅で刺殺されていた。出てきた手紙から、いかがわしい婦人との交際が明らかになるが、事件の様相を一変させたのは、脅迫状だった。それはある囚人からきたもので、復讐をにおわせていた。しかもこの男は最近出所したばかりだったのだ……(裏表紙の紹介文より引用)
上記に引用したあらすじだけではちょっとわかりにくいので、少々説明を付け加えさせていただきます。
警察を引退し探偵事務所を開いていたサム元警視のところに、大理石採掘会社のエリヒュー・クレー社長が相談にやって来る。曰く、共同経営者のアイラ・フォーセットがビジネスのおいしい話を持ってくるのだが、どうも怪しい、と。そこでサムは娘のペイシェンスを連れて調査に乗り出すことに。そして調査中にアイラの弟で上院議員のジョエル・フォーセットが殺されたという次第。
というわけで、「悪名高い上院議員」とはジョエル・フォーセットのことで、「いかがわしい婦人」とはファニー・カイザー、そして「ある囚人」とはアーロン・ドウのことです。
さて、本作はペイシェンス・サムの視点で物語が展開されるのですが、ドルリイ・レーンに初対面で会った時に推理をかましてくれています。序盤の出来事なので言ってもネタバレにならないと思いますが、レーン氏の爪がひび割れていることから彼がタイプライターをやり出したことを言い当てています。
タイプライターで爪がひび割れるとは恐ろしい気がしますが、ともかくも若いペイシェンスは老探偵のレーン氏に対抗心を燃やして推理を開陳したのかもしれません。
それではこの調子で彼女が活躍し続けるのかというと、どうもそううまくは行かないようです。ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、なすすべがなくてジリジリ待つくだりが何度か出てきます。そして最後は…おっと、そこから先は読んでみてのお楽しみとさせていただきましょうかね。
ちなみに、巻末の解説「Aの次にZ」(文・新保博久)によると、ペイシェンス・サム登場作品はこの『Zの悲劇』と『ドルリイ・レーン最後の事件』の二作品のみ(P409)。一発屋で消えてしまう探偵よりはマシですが、やはりこれは寂しい。
【参考文献】
エラリイ・クイーン『Zの悲劇』早川書房
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