エラリー・クイーン『Yの悲劇』東京創元社
あらすじ…行方不明をつたえられた富豪ヨーク・ハッターの死体がニューヨークの湾口に揚がった。死因は溺死ではなく毒物死だった。発端の事件につづいて、そろいもそろって常軌を逸した病毒遺伝の一族のあいだに、目をおおうような惨劇がくり返される。(P1の紹介文より引用)
上掲の人物関係図には書きませんでしたが、ちょっと気になる情報があります。エミリー・ハッターの先夫の「キャンピオンには先妻との間にできた男の子があって」(P33)、しかもその「むすこはゆくえ不明だった」(P34)とあることです。
注意深く読むと彼の名前は伏せられているのに気付きました。これはひょっとすると後で出てくるんじゃ…。
とまあ、私の予想が当たったか否かはネタバレ防止のために伏せておきますが、ともかくも一般的にこのテの小説では重要な手がかりがどこかしらに埋もれていたりするのでご注意を。
次に、第二幕第六場(メリアム博士の事務室)にて、ドルリー・レーンがハッター家の人たちのカルテを閲覧するくだりがあるのですが、そのカルテの記述の中に「ワッセルマン反応」なるものがありました。気になって調べてみたところ、これは梅毒検査に用いられるものらしい。
だとすると、ハッター家の病毒遺伝とは梅毒のことなのかなあ。
それから、第三幕第一場(警察本部)にて、ドルリー・レーンがハムレットに言及していたのが気にかかりました。当該部分を引用します。
ハムレットを覚えておられますか? 優柔不断で気の変りやすい人間ですが、計画的な頭はもっていました。ハムレットは、暴力と陰謀の荒れ狂うさなかで、自分を責めさいなみながら迷いつづけました。しかし、注目すべきことは、優柔不断ではあったが、ひとたび行動を開始したら、彼はしゃにむに暴れまわり、それが終わるとたちまち自殺してしまったということです(P322)
なるほど、これがドルリイ・レーンが抱くハムレット像ですか。ちなみに最後の自殺云々は正確には間違いで、毒を塗った剣で斬りつけられたのが彼の直接の死因であり、つまりは毒物による他殺です。とはいえ、父の仇を討つ絶好の機会をわざわざ逃したために謀殺されてしまったのだということならば、自殺と解釈できないことも…う~ん、ちょっと無理があるか。
最後に、作品全体について。『Xの悲劇』と『レーン最後の事件』は未読なのでそれらとの比較はできませんが、少なくとも『Zの悲劇』よりは面白かったです。特に最後の決着の仕方は凄く、アガサ・クリスティーの『カーテン』に通じるものがあります。
又、個人的にはシェイクスピア作品への言及があったのも興味深い。
【参考文献】
エラリー・クイーン『Yの悲劇』東京創元社
« 私と怪物(2016年、イギリス) | トップページ | 白い蝶(2015年、イギリス) »
「書評(小説)」カテゴリの記事
- 樋口一葉「この子」(2023.05.16)
- 樋口一葉「わかれ道」(2023.05.15)
- 樋口一葉「うつせみ」(2023.05.14)
- 樋口一葉「ゆく雲」(2023.05.13)
- 樋口一葉「大つごもり」(2023.05.12)
コメント