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ディクスン・カー『テニスコートの謎』東京創元社

あらすじ…雨あがりのテニスコートの中央に倒れていた死体。しかしコートには被害者の足跡しか印されていなかった。それ以外の人間がコートに出入りした形跡は皆無。屋外の密室ともいうべき第一の殺人につづいて、ふたたび第二の殺人が発生する。(P1)

Photo_4

 あらすじの段では第二の殺人事件が発生したことまで書いてありますが、その第二の殺人事件は終盤が近付いてきたなと思うところで起きるので、上掲の人物関係図では第一の殺人(フランク・ドランス殺害)までとし、第二の殺人は省きました。
 それから、本作の原題は"THE PROBLEM OF WIRE CAGE"なのですが、"WIRE CAGE"とは第一の殺人事件の死体発見現場であるテニスコートを囲っている金網のことです。この金網をわざわざタイトルに付けるということは、犯行のトリックと何らかの関係があるのだろうか? もちろん私は読み終えているのでその答えを知っているのですが、未読の方のために伏せておきます。

 閑話休題。
 物語の序盤、CID(犯罪捜査部)の警視(ハドリーのこと)がヤング博士に面会に来ていることを知ったキティ・バンクロフトはこんな感想を述べています。

「ほんとうなの、ブレンダ? すごいじゃない! するとスコットランド・ヤードから来たのね? ねえ、スコットランド・ヤードなんて本の中にでてくるだけで、実在するものだなんて考えたこともなかったわ! 本物の捜査官が同じ屋根の下にいるなんて! まるでサンタ・クロースかヒトラーがお客さんに来たみたい。あなた、間違いないの?」(P32-33)

 サンタとヒトラーを同列に並べるとは! とはいえ、本作の舞台は第二次世界大戦勃発前だと思われる(『テニスコートの謎』は1939年の作品であり、第二次世界大戦の開始は同年の9月)ので、この時のヒトラーは悪役というより「外国のすごい人」といった程度の位置付けがキティの中でなされていたんじゃないでしょうか。
 もちろん、ユダヤ人などにとっては上記のセリフは噴飯ものであろう、ということは付け加えておきます。

【参考文献】
ディクスン・カー『テニスコートの謎』東京創元社

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