内藤正典『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』集英社
著者は本書の中でこんなことを書いています。
日本国憲法第九条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」こそ、現代のイスラム世界で起きているカオスのような戦乱を平和に導く唯一の精神であり、実効性の高い規範でもあるのです。(P222-223)
これを以てネトウヨなどは彼を九条教信者と断じて本書を読むのをやめるかもしれません。まあ、レポートや卒論などで読まなければならない場合を除いて、読む読まないは個人の自由ですけど、敢えて言おう、「だがちょっと待って欲しい」と。
著者はイスラム地域の専門家であり、その方面の情報を得る上では有用です。
たとえば、イスラム国の次のような主張があります。(オスマン帝国の)カリフが消滅した後、ムスリムの信仰は弱くなり、(西欧の枠組みを受け入れた)不信仰者たちがムスリムを弱体化させたと指摘します。そしてムスリムの眼を惑わし欺くようなスローガンをちりばめたと批判するのです。(P83-84)
ダーイシュ(イスラム国)の主張・イデオロギーはなかなか日本に伝わってこないから、こうやってわかりやすく紹介してくれるのはありがたい。又、これ以外にもイスラム社会の一般的な価値観についても説明しているので、イスラムに詳しくない人にとってはこちらも有用です。
最後に、日本国憲法第九条云々の引用部分に対しても私の見解を少々述べさせていただきます。
私は九条教信者ではないし、九条の活用法も知らないので単純に賛成は致しかねますが、武力を使わない者には使わないなりの戦術・戦略がある、ということは指摘しておきます。例えば、本書第四章に出てくるアフガニスタン政府とタリバンの和平会議もそういった戦略の一環だと思われます。
【参考文献】
内藤正典『イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北』集英社
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