ジョゼフ・E・スティグリッツ、リンダ・ビルムズ『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』徳間書店
イラク戦争のコストを計算してみたら3兆ドルになったとのこと。しかもこれは「控えめ」な数値であり、計量化できないコストなどは含まれていません。又、3兆ドルのコストはアメリカに限ったものであり、イラクやイギリス、日本などが払ったコストは別にあります。
尚、巻末の「訳者あとがき」(楡井浩一)によると、本書は論文を加筆修正したものであるとのこと。そのため、一般的には少々とっつきにくいところがなきにしもあらず、というのが私の感触です。論文を読みこなす力が必要かもしれません。
ところで、この3兆ドルのコストの中には財政的コスト、社会的コスト、経済的コストというのがあって、コストを支払うのは政府だけでなく、兵士たちとその家族、一般市民、企業にも負担が及んでいることが本書の中でも述べられています。
負担の詳細は本書に譲りますが、これほどまでの「惨状」ではブッシュ大統領(当時)が無能呼ばわりされたのもうなずけるし、オバマ政権がイラクへの地上軍の投入をためらうのも理解できます。
それから、経済の悪影響についても少々触れておきます。本書のタイトルに「経済」の語が入っていますからね。
今日では、不真面目な例外を除くと、“戦争は経済を上向かせる”などと信じるエコノミストはひとりもいない。(中略)軍備に金を費やすことは、どぶを金に捨てることと同じ。兵器ではなく投資――工場投資、設備投資、インフラ投資、研究投資、健康投資、教育投資――に金を回しておけば、将来的に経済の生産性が向上し、より大きな成果を獲得できるかもしれないのだ。(P148-149)
つまり、「戦争したら景気がよくなる」なんて言ってる人がいたとしたらそいつは「不真面目な例外」ってことですか。あるいは、その人は経済がわかっていないだけなのかもしれません。
ちなみに日本は朝鮮戦争による特需(朝鮮特需)があったじゃないかと言われるかもしれませんが、あれは例外中の例外。だってそもそも、日本は朝鮮戦争に参戦していないんですからね(せいぜい機雷の掃海をこっそりやったくらい)。それに、当時の日本は敗戦でボロボロであり、今みたいにPKO部隊や莫大な復興資金を出すことなんか不可能でしたぜ。
【参考文献】
ジョゼフ・E・スティグリッツ、リンダ・ビルムズ『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』徳間書店
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