カミュ「ヨナ」
あらすじ…画家のジルベール・ヨナは若くして成功を収めるが、それが彼を苦しめる。
ヨナといえば『旧約聖書』に登場する預言者ヨナが有名ですが、この短篇作品の冒頭に「ヨナ書」の引用があります。
われを取りて海に投げ入れよ……そはこの大いなる颶風の汝らにのぞめるはわがゆえなるを知ればなり。 ヨナ書第一章第十二節(P266)
この部分を手許の聖書(新旧共同訳)から引用してみます。
ヨナは彼らに言った。
「わたしの手足を捕らえて海にほうり込むがよい。そうすれば、海は穏やかになる。わたしのせいで、この大嵐があなたたちを見舞ったことは、わたしが知っている。」(「ヨナ書」第一章第十二節)
どういう状況でこうなったのか簡単に説明すると、ある時、神がヨナに「ニネベへ行って彼らを悔い改めさせよ」と命じるが、ヨナはいやがって逃げ出す。ヨナは逃亡中に船に乗り込むが、その船が嵐に見舞われてしまう。船に乗っている者たちが「誰のせいでこうなったんだ?」ということでくじ引きをしてみたらヨナが当たってしまう。こういった次第です。
で、海に放り投げられたヨナはその後も様々な苦難を味わうのですが、それらの詳細については「ヨナ書」およびその注釈書等をお読み下さい。
ともあれ、預言者ヨナは逃れられぬ運命に翻弄されるのですが、ジルベール・ヨナもある意味で運命に翻弄されているようです。ただしこちらは神の命令ではなく「自分の星」(P266)に導かれてですが。
【参考文献】
カミュ『転落・追放と王国』新潮社
« カミュ「客」 | トップページ | カミュ「生い出ずる石」 »
「書評(小説)」カテゴリの記事
- 福田恒存訳『リチャード三世』新潮社(6)ボズワースの戦い(2024.06.06)
- 福田恒存訳『リチャード三世』新潮社(5)第二の求婚(2024.06.05)
- 福田恒存訳『リチャード三世』新潮社(4)処刑と暗殺(2024.06.04)
- 福田恒存訳『リチャード三世』新潮社(3)アン・ネヴィルへの求婚(2024.06.03)
- 福田恒存訳『リチャード三世』新潮社(2)クラレンス公ジョージ(2024.06.02)
コメント