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木下杢太郎「天草四郎」

あらすじ…森宗意軒と千束善右衛門は、天草甚兵衛の息子・天草四郎をキリシタンの救世主に担ぎ上げて反乱を起こそうと考え、四郎の教育係として山田右衛門作を付けることにする。

 キリシタン用語が頻出するのでご注意を。例として、一つ引用してみます。尚、太字がキリシタン用語です。

右衛門作「誠に信じ奉る。万事に叶ひ、天地を造り給ふでうす・ぱあでれを。また其の御独子、我等が御主ぜずす・きりしとを。是れ即ちすぴりつ・さんとの御奇特を以て宿され給ひて、ぴるぜん・まりやより生れ給ふ。ぽんしよ・ぴらとが下に於て呵責を受けこらへ、くるすに懸けられ、死し給ひて、御棺に納められ給ふ。大地の底へ下り給ひ、三日目に蘇り給ふ天に上り給ひ、万事に叶ひ給ふでうす・ぱあでれの御右に備り給ふ。それより生死の人をお糾し給はむ為めに天上り(原文のママ)給ふべし。すぴりつ・さんちかとうりかにておはしますさんた・えくれじやを誠に信じ奉る。さんとす皆通用したまふ事を、科の御赦を、肉体よみがへるべきことを、終なき命を誠に信じ奉る。あめん。」(P100-101)

 おわかりいただけたでしょうか?
 島原の乱の際、反乱軍がたてこもる島原城に潜入した忍者が、島原方言とキリシタン言葉とで彼らが何を言っているのかサッパリわからなかったという話が残っていますが、この作品では島原方言こそないもののキリシタン言葉は多いので、そういう雰囲気の半ばは味わえるかもしれません。

 最後に、ここで使われたキリシタン用語の意味を簡単に記しておきます。

でうす・ぱあでれ…父なる神。
ぜずす・きりしと…イエス・キリスト。
すぴりつ・さんと(さんち)…聖霊。
ぴるぜん・まりや…処女マリア。
ぽんしよ・ぴらと…ポンテオ・ピラト。ユダヤの総督で、イエスを処刑した。
くるす…十字架。
かとうりか…カトリック。
さんた・えくれじや…聖キリスト教会。
さんとす…聖人たち。
あめん…アーメン。

【参考文献】
木下杢太郎『南蛮寺門前・和泉屋染物店 他三篇』岩波書店

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