青木富太郎訳『マルコ・ポーロ 東方見聞録』社会思想社
東方見聞録における日本(本書では「チバング」と表記)に関する記述(P166-169)には今日の日本人から見れば明らかに誤った情報があり、それはそれで突っ込みどころがあります。例えば、無人島に取り残された遠征軍がチパングの首都を一時的に制圧したとか、チバングでは人肉食があるとか…。
さて、今回ここで紹介するのは、チパングの宗教について。少々長くなりますが、引用します。
チパング島の住民はマンジやカタイの住民と同じ偶像崇拝教の信徒である。崇拝している偶像も同じだが、これら偶像のうちのあるものは、牛の頭をしているものもあるし、豚、犬、羊などの頭をしたものもある。頭は四つ、またはそれ以上あるものもあり、それが肩の上にのっかっているものもある。手も四本のものとか、十本のものとか、千本のものさえある。千本の手をもっている方が、よけいに信仰されている。キリスト教徒が、偶像はどうしてこんなにいろいろの姿をしているのかと尋ねると、「私たちより前の人々がこのように伝えてきたので、そのままで後代に伝えるのです」と答える。こうして永久に伝えてゆくつもりなのだ。偶像の前で行なわれる儀式たるや、実に悪魔的で、とても紹介することはできない。(P169)
マンジは南宋、カタイは元のことで、キリスト教徒とは当時中国にいた景教徒(ネストリウス派キリスト教徒)のことと思われます。
又、東方見聞録では仏教・道教・儒教・ヒンドゥー教などの多神教を「偶像崇拝教」で一くくりにしています。マルコ・ポーロに区別が着かなかったのか、マルコ・ポーロにはわかっていても当時のヨーロッパ人には区別が着かないから一緒くたに話してしまったのか、その辺はわかりません。
ところで、引用文中の「牛の頭をしている」偶像というと、牛頭天王ですかね。それから、「千本の手をもっている」のは千手観音のことでしょう。他はちょっと思い当たりませんが、チパングについては伝聞による誤った情報が混入しまくっているので、そこはあまり厳密に検証してもしょうがないんじゃないかと思います。
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