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浅暮三文「タイム・サービス」

あらすじ…柳包丁で刺されて死んだ加藤静夫は、スーパーのタイム・サービスを思い出して立ち上がり、スーパーマーケットへ行く。

 本作の主人公・加藤静夫は「喇叭」の主人公と同姓同名ですが、キャラクターが異なることから別人だと思われます。
 ついでに言えば、こいつはゾンビですな、多分。

【参考文献】
浅暮三文『実検小説 ぬ』光文社

浅暮三文「喇叭」

あらすじ…定年退職して一人暮らしを送る加藤静夫のもとに、謎の紙片が次々に届く。

 彼にはこれといった趣味がなかったようですから、丁度いい暇潰しになったんじゃないでしょうか。
 ちなみにクイズの答えですが、私にはわかりません。まあ、わからなくてもスフィンクス(※)に食われるわけでもないので、別にわからなくてもいい。

※ギリシア神話では、怪物スフィンクスはテーバイに出現し、通りかかる旅人に謎掛けをする。そして正解を答えられなかった者を食べてしまったという。

【参考文献】
浅暮三文『実検小説 ぬ』光文社

浅暮三文「帽子の男」

あらすじ…「僕」は交通標識に登場する帽子の男を見て、想像を膨らませる。

 一片の絵画を見て、そこからストーリーを想像してみる、ということがあります。この作品ではそういう作業を複数の交通標識を並べることでやってのけています。なるほど、こんなところに想像をたくましくする余地があったのか。
 ちなみにP14右上に表示されている、帽子の男が小さな女の子を連れて歩いている標識ですが、アレは実は誘拐犯と誘拐された少女で…なんていう都市伝説があったりします。

【参考文献】
浅暮三文『実検小説 ぬ』光文社

井伏鱒二「河童騒動」

あらすじ…明和6年、彗星が現われる。それに呼応するかのように河童たちが暴れ出し、備後の福山藩でも対応に追われる。

 少しばかり調べてみましたが、明和6年(西暦1769年)の彗星とは、どうやらメシエ彗星(C/1769 P1)のことらしいです。あいにく私は天文学に疎いので詳しいことは書けませんが…。

【参考文献】
『井伏鱒二全集4 歴史に遊ぶ』筑摩書房

井伏鱒二「無人島長平」

あらすじ…天明5年、土佐の船頭・野村長平は航海中に嵐に遭遇、絶海の孤島に漂着する。

 作品自体はわずか10ページと短く、しかも脱出用の船を造ったところで「そこにはまだ多くの話が残っている」(P103)と述べて話を終わらせています。
 どうやら、作者は途中で力尽きて尻切れトンボになってしまったようです。

【参考文献】
『井伏鱒二全集4 歴史に遊ぶ』筑摩書房

ジョン・ディクスン・カー『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』嶋中書店

あらすじ…向かいの家を眺めたイヴは、その一室で婚約者の父ローズ卿が殺されたことに気付く。犯人の茶色の手袋。こなごなに砕けた嗅ぎ煙草入れ……。(裏表紙の紹介文より引用)

 推理小説の古典的作品。江戸川乱歩が度々言及していたな…と思い出して本書を手に取ってみました。
 さて、本作は「心理的トリック」が特徴なのですが、具体的内容を言ってしまうと誰が犯人かわかってしまうので、うまく述べることができません。ただ、一つだけ言わせてもらえば、心理的トリックは後世の推理小説でも使われているので、そういう諸作品を読んでいる現代の読者諸氏には目新しいものとは映らないでしょう。

 最後に、警察署長ゴロン氏が漏らした「打ちあげ花火」(P356)という言葉について。この言葉は、「ゴロン氏が目撃した二人の人物とは誰か?」のヒントとなって読者に提示されているようです。
 そこで本作の中で他に「打ちあげ花火」の語が使われている箇所を探してみると…ありました。

「ねえ、博士、わたしは探偵じゃない。もってのほかだ。しかし、打ちあげ花火となれば、話は別だよ。花火なら、三キロの距離からでも、まっくらな闇のなかでもわかるよ」(P171-172)

 これは、ゴロン氏がダーモット・キンロス博士に言ったセリフです。そして、前後の会話から誰について語っているのかを考えると…おっと、その先は本作をお読み下さい。

【参考文献】
ジョン・ディクスン・カー『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』嶋中書店

ピーター・トレメイン「メビウスの館」

あらすじ…アメリカの鉱山会社から鉱脈調査に派遣されてきたカート・ウォルフが、アイルランドの廃坑を調べようとするが、坑道で転落し、意識を失ってしまう。そして目が覚めるとそこはどこかの屋敷で、傍には医師オブライエンがいた。

 この後、オブライエンが、自分の身に起こった不思議な出来事をウォルフに語るという話中話が展開され、それが終わると…おっと、これ以上はネタバレ防止のために伏せておかなければ。ともあれ、この作品はメビウスの環のような構造――裏側を巡ってまた元の地点に戻る――になっており、邦題のメビウスはここから来ているんじゃないかと思います。
 ちなみに原題は"Tavesher"で、タヴィシャとはオブライエン曰く「幽霊のことです」(P212)とのこと。実際、オブライエンの話の中でタヴィシャは重要な役割を果たします。詳細はこれまたネタバレ防止のために伏せておきますが、映画「シックス・センス」に似ているところがあります。

【参考文献】
ピーター・トレメイン『アイルランド幻想』光文社

ピーター・トレメイン「幻の島ハイ・ブラシル」

あらすじ…アメリカの若者が父祖の地アラン諸島へやって来る。そしてそこで嵐に遭い、ハイ・ブラシルという島に辿り着く。

 7年に1度浮かび上がるという幻の島ハイ・ブラシルを題材にした作品。
 原題は"My Lady of Hy-Brasil"であり、Ladyとは島の女主人アディーンを指します。又、The LadyではなくMy Ladyとなっているのは主人公がアディーンに愛を捧げたからでしょうなあ。
 こんなことを書くとロマンチックだと思う人がいるかもしれませんが、実際にロマンチックなのはアディーンが彼に飽きるまでじゃないかと思います。

【参考文献】
ピーター・トレメイン『アイルランド幻想』光文社

ピーター・トレメイン「悪戯妖精プーカ」

あらすじ…広告代理店に勤務する男が、アイルランド出身のジェーンと結婚し、アイルランド西南部へハネムーンに出かける。そしてそこでプーカというお守りを手に入れるのだが…。

 悪戯ってレベルじゃないです。死人まで出ていますからね。
 でも、主人公の軽薄さを見ていると、ひどい仕打ちを受けていてもあまり同情する気になれない。寧ろかわいそうなのは、巻き込まれてしまった猫のタビー君ですな。

 ちなみに、日本の諺に「同じ呪わば穴二つ」というものがありますが、穴とは墓穴のことで、これは呪いをかけられた者も死ぬけど呪いをかけた方も死ぬという意味です。それだけ呪殺の代償は大きいということなのですが、その考えからするとジェーンの未来もロクなもんじゃないだろうと推察致します。

【参考文献】
ピーター・トレメイン『アイルランド幻想』光文社

久生十蘭「カイゼルの白書」

あらすじ…1939年9月、ウィルヘルム二世はアドルフ・ヒトラーに白書という名の独白を送り付ける。

 自分がエビになった夢を見たという話に始まって、リューマチで脚が痛むとか、霖雨(ミストレジェン)がどうだとか、(他人にとっては)どうでもいい話が延々と続きます。
 又、昔の恋人ミンゲッティ伯爵夫人と会った後、こんなことを述べています。

 余は、ふと、アンリ・ド・レニエの詩の一句を思い出した。
   蝋燭の焔は消えし青きりぼんぞ立ちのぼる……
 余には、今日のこの日のためにレニエがこの詩を作っておいてくれたように思えてならなかった。余も仲々詩人だね。
(P226)

 余も仲々詩人だねって、お前が作った詩じゃないだろ!と、思わず突っ込んでしまいました。
 このように、ウィルヘルム二世はとにかくウザい人物として描写されています。ここまでウザいと、もはやギャグの領域です。

【補足】
 ドイツ皇帝ウィルヘルム二世は第一次世界大戦の敗北により退位し、オランダへ亡命。1941年死去。
 尚、1939年9月1日にドイツ軍がポーランドに侵攻し、これが第二次世界大戦の始まりとされています。
 つまり、この作品は、第二次世界大戦の初期に、亡命生活を送る晩年のウィルヘルム2世がドイツの最高権力者に送った親書ということになります。それにしては内容がひどいですが…。

【参考文献】
久生十蘭『十蘭ラスト傑作選』河出書房新社

久生十蘭「フランス伯N・B」

あらすじ…セント・ヘレナ島に流されていたナポレオン・ボナパルトは、実は密かに島を脱出し、カナダに辿り着いていた!

 信じるか信じないかは、あなた次第。
 まあね、我が国でも源義経や西郷隆盛が実は生きていた、なんていう話が囁かれていました(※)からね。英雄はそう簡単には死なせてくれないようです。

※源義経は大陸に逃れてジンギスカンになったという、義経=ジンギスカン説がある。又、西郷隆盛は西南戦争に敗れた後、ロシアに逃れたという伝説があった。

【参考文献】
久生十蘭『十蘭ラスト傑作選』河出書房新社

久生十蘭「雪原敗走記」

あらすじ…ナポレオンがモスクワ遠征に失敗してロシアの雪原を敗走する。

 フランス軍が「戦争もせずに滅亡してしまった」(P107)原因として、
(1)各国からの寄せ集めの兵士たちが多く、彼らの士気は低かった。
(2)兵站(軍隊の給養)がなっちゃいなかった。
 といった趣旨のことを述べています。
 そういえばナポレオンはヨーロッパ諸国を征服していたから、それらの国々から兵を動員して大軍を編成することができたわけですな。ただし、フランスの支配をこころよく思っていない兵士たちの士気が低いのは当然ですが。
 尚、兵站については古今東西様々な事例があり、色々と言われているので省略。

【参考文献】
久生十蘭『十蘭ラスト傑作選』河出書房新社

戦闘機対戦車(1973年、アメリカ)

監督:デヴィッド・ローウェル・リッチ
出演:ロイド・ブリッジス、ロイ・シネス、エリック・ブレーデン、ダグ・マクルーア
原題:Death Race
備考:戦争アクション

あらすじ…アメリカ軍の戦闘機とドイツ軍の戦車が戦う!

 「戦闘機VS戦車」という一発ネタをそのまま映画にしたような作品。
 女性は一人も登場せず、砂漠のド真ん中で男だらけ。非常にムサ苦しいですな。

戦闘機対戦車

泡坂妻夫「五ん兵衛船」

あらすじ…船遊びをしていた呉服屋の上総屋茂兵衛が川に転落してそのまま沈んでしまうという事件が発生。宝引の辰が推理する。

 「宝引の辰 捕物帳」の一編。
 船に同乗していた連中が、どいつもこいつも被害者を殺す動機を持っています。まるでアガサ・クリスティーの世界みたいですな。

【参考文献】
日本文藝家協会編『平成二十一年(55) 代表作時代小説 男と女、秘めた想いを』光文社

津原泰水「カルキノス」

あらすじ…猿渡&伯爵は、ひょんなことから紅蟹漁で財を成した南郷英雄の邸宅に泊まることに。しかしその夜、南郷が何者かに惨殺される。

 カルキノス(Karkinos)とは蟹座のカニのこと。

 この作品は猿渡と伯爵が推理を語り合うなど、途中まではミステリー小説っぽい展開となっています。しかし最後の方ではそんな推理をブチ壊してしまうようなオチを披露してくれています。やっぱりこれは怪奇小説です。

紅蟹怪人カルキノス

【参考文献】
津原泰水『蘆屋家の崩壊』集英社

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津原泰水(目次)

津原泰水「水牛群」

あらすじ…精神を病んで心身ボロボロになった猿渡が、伯爵に連れられて、とあるホテルに泊まる。

 夢と現実の境界が崩れているようです。病んだ主人公の認識がそうなっているだけではなく、怪奇小説らしく客観状況もそうなっています。

 ところで、作品中にこんな一文がありました。

 伯爵はこっちに顔を向けた。「猿渡さん、この世ならぬものをいといろと呼び寄せますから。いつだってそうだ」(P247)

 なるほど、怪奇小説の主人公にはそういう特性があるのか。これが推理小説の主人公だったら、「この世ならぬもの」の代わりに「殺人事件」を呼び寄せるんでしょうな。

【参考文献】
津原泰水『蘆屋家の崩壊』集英社

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津原泰水(目次)

津原泰水「猫背の女」

 猿渡が妖怪みたいな存在の「猫背の女」につきまとわれる話。「妖怪みたいな存在」という表現は適当ではないかもしれませんが、それ以外に思い付かなかったのでこれで間に合わせます。
 尚、猫背の女は猿渡の部屋に忍び込んでいたことから、隙間女に似ているような気がします。

【参考文献】
津原泰水『蘆屋家の崩壊』集英社

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津原泰水(目次)

トマス・H・クック「彼女がくれたもの」

あらすじ…作家がバーで飲んでいると、全身黒ずくめの女が誘いをかけてきた。

 ヴェロニカと名乗るその女性が誘った内容を簡単に言い表わすと、
「やらないか」
 ということです。そしてその夜の内に女のアパートでベッドイン。早いよ。
 ただ、その後の展開(ネタバレ防止のために物語の結末は伏せます)を考えると、ヴェロニカの黒ずくめの服は喪服を表わしていたようだし、何より彼女はまともな精神状態じゃなかったものと思われます。

【参考文献】
早川書房編集部編『ミステリアス・ショーケース』早川書房

スティーヴ・ハミルトン「四人目の空席」

あらすじ…ゴルフ場で老プロゴルファーが殺された。被害者が死ぬ直前に一緒にいた3人のところへアシスタントプロの男がやってきて…。

 ゴルフの知識があまりなくても話がわかる作りになっていますが、ゴルフクラブの種類が話題になることなどから、やはりゴルフの知識はあった方がいいようです。
 ただし、いかにゴルフの知識があろうとも、それだけで犯人に辿り着くのは無理でしょう。

【参考文献】
早川書房編集部編『ミステリアス・ショーケース』早川書房

ニック・ピゾラット「この場所と黄海のあいだ」

あらすじ…田舎町の下水処理会社で働く青年は車を西へと走らせる、セクシー映画女優になった高校の同級生を連れもどすために!(裏表紙の紹介文より引用)

 あらすじの段では書いてありませんが、主人公の青年は一人で連れ戻そうとしているのではなく、同級生(セクシー映画女優)の父親(ラグビー部の元監督)と一緒です。紹介文では同行者である彼の存在が省かれているとは、ちょっとかわいそうですな。

【参考文献】
早川書房編集部編『ミステリアス・ショーケース』早川書房

青木富太郎訳『マルコ・ポーロ 東方見聞録』社会思想社

 東方見聞録における日本(本書では「チバング」と表記)に関する記述(P166-169)には今日の日本人から見れば明らかに誤った情報があり、それはそれで突っ込みどころがあります。例えば、無人島に取り残された遠征軍がチパングの首都を一時的に制圧したとか、チバングでは人肉食があるとか…。

 さて、今回ここで紹介するのは、チパングの宗教について。少々長くなりますが、引用します。

 チパング島の住民はマンジやカタイの住民と同じ偶像崇拝教の信徒である。崇拝している偶像も同じだが、これら偶像のうちのあるものは、牛の頭をしているものもあるし、豚、犬、羊などの頭をしたものもある。頭は四つ、またはそれ以上あるものもあり、それが肩の上にのっかっているものもある。手も四本のものとか、十本のものとか、千本のものさえある。千本の手をもっている方が、よけいに信仰されている。キリスト教徒が、偶像はどうしてこんなにいろいろの姿をしているのかと尋ねると、「私たちより前の人々がこのように伝えてきたので、そのままで後代に伝えるのです」と答える。こうして永久に伝えてゆくつもりなのだ。偶像の前で行なわれる儀式たるや、実に悪魔的で、とても紹介することはできない。(P169)

 マンジは南宋、カタイは元のことで、キリスト教徒とは当時中国にいた景教徒(ネストリウス派キリスト教徒)のことと思われます。
 又、東方見聞録では仏教・道教・儒教・ヒンドゥー教などの多神教を「偶像崇拝教」で一くくりにしています。マルコ・ポーロに区別が着かなかったのか、マルコ・ポーロにはわかっていても当時のヨーロッパ人には区別が着かないから一緒くたに話してしまったのか、その辺はわかりません。
 ところで、引用文中の「牛の頭をしている」偶像というと、牛頭天王ですかね。それから、「千本の手をもっている」のは千手観音のことでしょう。他はちょっと思い当たりませんが、チパングについては伝聞による誤った情報が混入しまくっているので、そこはあまり厳密に検証してもしょうがないんじゃないかと思います。

【参考文献】
青木富太郎訳『マルコ・ポーロ 東方見聞録』社会思想社

デイヴィッド・ゴードン「ぼくがしようとしてきたこと」

あらすじ…まだ一篇の小説も世に出していない作家に取材の依頼が届く。それはアルゼンチンの美しい女子大生からだった(裏表紙の紹介文より引用)

 「まだ一篇の小説も世に出していない」とありますが、実は主人公は昔、エロ短篇小説を書いて小銭を稼いでいたことが明らかになります(本人はすっかり忘れていた)。
 ああ、そういえば私も10代の頃にしょうもないエロ小説を書いていたことがありましたっけ(私もすっかり忘れていました)。ただしこちらは世間に発表していないし、原稿自体が残っているかも不明だし、もし発見されたとしても誰にも見せません。黒歴史ですからね。

【参考文献】
早川書房編集部編『ミステリアス・ショーケース』早川書房

トム・フランクリン&ベス・アン・フェンリイ「彼の両手がずっと待っていたもの」

あらすじ…1927年、ミシシッピ大洪水が起こる。二人の男(インガソルとハム)が、被災地嵐の盗賊を片付けた家の中で赤ん坊を発見する。

 この荒れ果てた感じは西部劇の荒野を連想させます(こちらは終始湿っていますが)。本当にここは20世紀のアメリカなのかというくらいすさんでいますな。

【参考文献】
早川書房編集部編『ミステリアス・ショーケース』早川書房

津原泰水「蘆屋家の崩壊」

あらすじ…猿渡&伯爵が旅行中に、猿渡の旧友・秦遊離子の家へ立ち寄ることに。しかしそこは…。

 「蘆屋家の崩壊」というタイトルを見た瞬間、エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」を想起しました。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、どちらも大層な旧家が舞台で、しかも最後は家が物理的に崩壊するなどの共通点があります。
 とはいえ、蘆屋道満や八百比丘尼など、「アッシャー家の崩壊」にはない要素がふんだんに盛り込まれているので、単純なパロディではなく別物と見なしていいかもしれません。

【参考文献】
津原泰水『蘆屋家の崩壊』集英社

【関連記事】
津原泰水(目次)

津原泰水「反曲隧道(かえりみすいどう)」

あらすじ…猿渡&伯爵のコンビが、ひょんなことから心霊スポットのトンネルを車で通ることになる。

 猿渡と伯爵が出会った経緯が書かれており、一連のシリーズものの序章といった趣があります。しかしながら、後半はトンネルでの怪異が描写されていて、これはこれで短いながらも一つの話として完結していると見ることもできます。
 ちなみに後半の怪異譚ですが、「トンネルの怪談」(※1)と「バカ安の車」(※2)という2種類の話が組み合わされているようです。

※1.トンネルはこちらの世界とあちらの世界をつなぐもの。そこから、あの世へ通じるものと考えられ、異界の住人と接触しやすい場所、ということになっているんでしょうなあ。
※2.バカみたいに安い中古車があったので買ってみたら、実はその車には忌まわしい因縁があって…というもの。猿渡のシトロエンはまさにそれ。

【参考文献】
津原泰水『蘆屋家の崩壊』集英社

【関連記事】
津原泰水(目次)

Vジャンプ編集部編『遊★戯★王ゼアル 公式カードカタログ ザ・ヴァリュアブル・ブック15』集英社

 近所のブックオフにて入手。私は遊戯王はもとより、このテのカードゲームはやらないのですが、掲載されているカードの数々を眺めているだけでも面白いし、105円だったからまあいいかなどと考えて気軽に購入しました。
 ちなみに105円だけあって、巻末にあったはずの「封入カード」は無かったです。

 さて、ここで掲載カードを一枚取り上げてみます。
メタル化寄生生物――ソルタイト(P12)
 元ネタはアノマロカリスですね。遥か昔に絶滅した古代生物の中にはデザイン的に面白いものがありますから、その辺からネタを拾ってくるのも悪くない。
 他にも「先史遺産ゴールデン・シャトル」(P22)や「ネクロの魔導書」(P30)など、元ネタが思い当たるものがあり、そういうのを探してみるのも面白いかもしれません。

【参考文献】
Vジャンプ編集部編『遊★戯★王ゼアル 公式カードカタログ ザ・ヴァリュアブル・ブック15』集英社

『世田谷散歩』枻出版社

 東京の世田谷区の散歩ガイドマップ。
 本書に掲載されている名所を一つ紹介しますと、代田にある「羽根木公園」(P161)。あそこは梅の名所なのですが、ハテ、梅の写真はどこかな。P161左下の小さな写真は梅ではなくて「見事に咲き誇る桜」(P161)とのこと。
 なんだ、梅の写真がないのか。それじゃあしょうがない。以前私が羽根木公園で撮影したものをこのブログ記事に掲載しておきます。

羽根木公園の梅

【参考文献】
『世田谷散歩』枻出版社

『日本仏教宗派のすべて』大法輪閣

 近所の図書館のリサイクルブックコーナーにて入手しました。推測するに、大学生が大学の講義の際の教材に使っていたのを、講義が終わるなどして不要になったので持ってきたんじゃないかと思います。

 さて、本書は日本仏教13宗(法相宗、華厳宗、律宗、天台宗、真言宗、浄土宗、浄土真宗、融通念仏宗、時宗、臨済宗、曹洞宗、黄檗宗、日蓮宗)について述べたもの。
 それぞれの宗派の歴史や教義、名僧・名刹などが簡潔に書かれていますが、特に教義については仏教の知識が不充分な身上ではなかなか読むのが大変でした。例えば法相宗の唯識について述べたくだりを引用してみます。

 唯識(ヴィジュニャプティーマートラター)とは、ただ識ばかりという意味である。一切万法が私の心から生まれ出たものであり、私の心を離れては一切の存在はなく、一切万有が私の心そのものとみるのである。すなわち認識を通して存在を決定していくのであって、存在が認識を決定していく思想とは異なるのである。(P14)

 なるほど、わからん。これでもわかりやすくしているとは思いますが…。まあ、一朝一夕でわかるような底の浅いものではないということですな。

【参考文献】
『日本仏教宗派のすべて』大法輪閣

ヤバい経済学(2010年、アメリカ)

監督:アレックス・ギブニー、モーガン・スパーロック、レイチェル・グレイディ、ハイディ・ユーイング、セス・ゴードン
原題:Freakonomics
原作:スティーヴン・D・レヴィット&スティーヴン・J・ダブナー『ヤバい経済学』
備考:ドキュメンタリー

あらすじ…「子供の人生は名前で決まる?」「大相撲に八百長はあるのか?(※)」「犯罪が減少したのはなぜ?」などを統計のデータを分析することで探り出す。

 原作の幾つかのエピソードをドキュメンタリー形式にしたもの。
 原作のボリュームを知っている者にとってはちょっと物足りなかったという感じがしないでもない。でも、だからといって充分な量を詰め込むとなると映画1本じゃ収まらないこと必定です。
 まあ、この映画は「ヤバい経済学」の入門教材くらいに考えておいて、更に知りたい方は本をどうぞご覧下さい、というスタンスでいいのかもしれません。

※大相撲の八百長について、映画では「ある」としています。又、この映画が製作された翌年の2011年には大相撲八百長問題により春場所開催が中止になりました。やはりあった、というわけですな。

ヤバい経済学

マンク ~破戒僧~(2011年、仏西)

監督:ドミニク・モル
出演:ヴァンサン・カッセル、デボラ・フランソワ、ジョセフィーヌ・ジャピ、カトリーヌ・ムシェ
原題:Le Moine
原作:マシュー・グレゴリー・ルイス『マンク』
備考:ゴシックホラー

あらすじ…スペインの修道僧アンブロシオは、雄弁な説教で人気を博していた。そんなある日、仮面で顔を隠したバレリオがやってきて、見習い修道僧となる。バレリオはアンブロシオの頭痛を治すが、実は…。

 ちょっとネタバレしますが、主人公のアンブロシオが破戒僧となります。そして映画の最後の方ではある人物が彼に「魂の契約」を持ちかけます。魂の契約…ということは、あの人物は悪魔ですな。そう考えて映画の冒頭のシーンを思い返してみると…いや、これ以上のネタバレは控えておきましょうか。
 ともあれ、厳格な修道士が悪魔の巧妙な罠に絡め取られ、破戒(脱童貞!)・堕落してゆくさまは、見ていてあまり気持ちのいいものではありません。しかしそればかりではなく、悪の面白さ・魅力も感じられなくもない。

 最後に一つだけ注意点を。この映画ではバレリオちゃんのアンダーヘアがチラリと映るなどエロシーンがあるので、子供は観ないように。

マンク ~破戒僧~

黒いオルフェ(1956年、仏伯伊)

監督:マルセル・カミュ
出演:ブレノ・メロ、マルペッサ・ドーン、アデマール・ダ・シルヴァ
原題:Orfeu Negro
備考:カンヌ国際映画祭グランプリ、アカデミー外国語映画賞

あらすじ…カーニバルを控えて浮かれるリオデジャネイロに、ユリディスが従姉を頼ってやってくる。ユリディスは死の仮面を着けた謎の男につきまとわれていたのだ。とそこへ町の人気者オルフェが現われ、オルフェは婚約者がいるにもかかわらず二人は恋に落ちる。しかし死の仮面の男は着実に忍び寄っていた…。

 前半はサンバのリズムが延々と続くので注意。ブラジル人ならばこの程度の長さは平気なのかもしれませんが、慣れていない私には精神的疲労が大きかったです。
 しかしそれを乗り切ると、神話と呪術の世界が展開されます。
 例えばエレベーターがある建物でわざわざ階段を使って下りて行くのは冥界下りを象徴しているし、あの犬(セルベル)は冥界の番犬ケルベロス(※1)、最後の怒り狂うミラはマイナデス(※2)だったり…。
 ここではオルフェウス神話を詳述しませんが、知っていれば特に後半はより一層楽しめることでしょう。

 ちなみにこの映画にはフランス語版とポルトガル語版がありますが、私が観たのはポルトガル語版でした。なぜポルトガル語版かというと、レンタルビデオでそれしかなかったから。まあいいんですよ、ブラジルが舞台なんだからポルトガル語で。

※1.ケルベロスは死者は冥界へ通すが生者は通さない。オルフェが通ることができたのは案内者がいたからで、セルベルはあの子供を通していない。
※2.オルフェウスはマイナデス(狂乱せる女たち)に殺された。そういえばミラの周りにいる女友達もマイナデスに見える。

黒いオルフェ

アパルーサの決闘(2008年、アメリカ)

監督:エド・ハリス
出演:エド・ハリス、ヴィゴ・モーテンセン、レネー・ゼルヴィガー、ジェレミー・アイアンズ
原題:Appaloosa
原作:ロバート・B・パーカー『アパルーサの決闘』
備考:西部劇

あらすじ…無法の町アパルーサに、ガンマンのヴァージル・コールが相棒のエヴァレット・ヒッチを連れてやってきて、保安官になる。コールたちがブラッグ一味と対立を深める中、未亡人アリソン・フレンチが町にやってくる。

 出演している俳優たちはそれなりにキャリアがあるのですが、それほどの華々しさがあるわけではないし、ド派手で痛快なアクション活劇が展開されるわけでもありません(銃撃シーンもあるが、どれも短時間でカタが着く)。それから、こんなことを言っては失礼ですけど、ヒロインがそんなに美人じゃないんですよねえ。
 簡単に言うと「地味」なんですが、私は別に嫌いじゃありません。というのは、この地味さによって一般大衆受けしないかもしれない代わりに、ある種の「渋み」が出てくるからです。派手で娯楽性の強い西部劇もいいけど、こういう泥臭い西部劇があってもいい。

【関連記事】
アパルーサの決闘(小説)

アパルーサの決闘

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