二条良基『小島のくちずさみ』
南北朝時代の、それも北朝側の貴族が書いた紀行文。内容を簡単にまとめると以下の通り。
楠木正儀が攻めてきたぞー!
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足利義詮「やべぇ、天皇連れて美濃の小島(おじま)に逃げるわ」
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二条良基「やべぇ、俺病気だから遅れるわ」
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二条良基「病気であんまり名所とか見て回れないけど、せっかくの旅だから歌でも詠むか」
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二条良基、何とか小島に到着。
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足利尊氏が軍勢を引き連れて鎌倉から駆けつける。
二条良基「ヒュー、かっこいい」
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足利軍が都を奪回したので天皇と一緒に都へ帰還。
作者の二条良基(当時、関白)は、病気を押して旅をしている間にも和歌を詠んでいます。このあたりはさすが貴族といったところでしょうか。
ただ、貴族であるがゆえに軍事に疎いという欠点もうかがえます。そもそもどういう経緯で天皇が小島へ逃れることになったのか述べられていないし、その上、最後の方ではいつの間にか都を奪い返したことになっています。つまり、『小島のくちずさみ』を読んでいるだけでは、戦況はサッパリわからないのです。
彼とて戦況には関心はあったはず。というのは、北朝側が勝たなければ自分たちは都に帰れないからです。
まあ、あえて作者を弁護するならば、彼が後世に書き残したかったのは戦争ではなくて別のこと(もののあはれ、有職故事など)だったのでしょう。
【参考文献】
福田秀一・岩佐美代子・川添昭二・大曾根章介・久保田淳・鶴崎裕雄校注『中世日記紀行集 新日本古典文学大系51』岩波書店
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