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清水浜臣『泊●筆話(ささなみひつわ)』

 『泊●筆話(ささなみひつわ、●は三ずいに百)』は、荷田春満、賀茂真淵、村田春海ら国学者たちのエピソード集です。著者(清水浜臣)の性格によるものなのか、それともこの学派の傾向が為せるわざなのか知りませんが、いわゆるオカルト的な怪談めいたものは掲載されていません。
 唯一の例外と言ってよいものは、橘枝直(橘千蔭の父)が狐憑きに遭った話(P292-294)です。少々長いので、拙訳で紹介します。

(24)橘枝直(最初は為直といったが、後に枝直と改名)は男の中の男という性格で、少しも女々しいところがなかった。
 彼は若い頃、大岡越前配下の組与力に召し抱えられ、与力の組屋敷(いわゆる役宅)を賜った。その屋敷を見て回ると、敷地の東南に稲荷の祠があった。
(祠がこんなところにあっては、改築する時に邪魔だな。どこかへ移転できないものかな)
 と枝直は思ったが、祠は昔からそこにあったというのでそのままにしておいた。
 そうして月日が経ったが、飼っていた小鳥がいなくなることが何度もあった。不審に思っていると、ある朝またもや小鳥がいなくなっていた。小鳥を入れておいた籠も砕かれていた。
 枝直はいよいよ不審に思い、庭のそこかしこを探索してみると、稲荷の祠のあたりに小鳥の尾羽があった。
 枝直は怒って、長年召し使ってきた老僕を呼んで、一緒に祠を取りのけてみると、狐の住処らしく穴があった。穴の中に親狐はいなかったが、生後2~3日の子狐3~4匹がいた。枝直は、
「憎たらしい奴だ。小鳥がいなくなったのはこいつらの親狐のしわざだったのだ。この子狐どもを捨ててこい」
 と言って、老僕に子狐を近所の川へ捨てさせ、自分は穴を埋めて祠を叩き壊し、戻ってきた老僕に祠の残骸を焼き捨てさせた。
 するとその夜から老僕が身体発熱して苦しみ、精神に異常を来してあらぬことを口走るようになり、
「憎い憎いクソジジイ! 私のかわいい子供を川に流して殺し、私の住処を潰してしまった。どうしてくれよう。今夜中に殺してやる」
 と大声で叫んだ。枝直がそれを聞きつけて、ますます怒ってその老僕に向かって言った。
「狐よ、お前こそ理不尽だ。そもそもここは公儀より私に下賜されたものだ。従って枝直はここの主人である。だから祠を置くも置かないも枝直の心次第だ。その主人の飼っている小鳥を奪って食べるのは盗人である。ほれ、お前こそ道理にかなわぬ狐ではないか。
 又、狐を流し捨て、祠を破壊させたのは、枝直がさせたことだ。老僕が心から進んでやったことではない。恨めしいと思うのなら、枝直に向かって訴えよ。老僕を恨んでどうするのだ。
 早く老僕から去れ、離れよ。さもなくばもっとひどい目にあわせるぞ」
 と責めさいなむと、狐は道理だと思ったのか、やがて老僕から離れていったという。枝直の雄々しい本性は、このエピソードで知ることができる。

 喧嘩稲荷に犬の糞、というように江戸の町には稲荷の祠がたくさんあったとか。
 それはさておき、この話は怪談には違いないけれども、ハイライトは枝直が狐憑きを恐れずに理を以て論破するところです。怪力乱神を語らずというより、怪力乱神を語り倒すといったところでしょうか。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

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