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『楠末葉軍談(くすのきばつようぐんだん)』

あらすじ…室町幕府八代将軍・足利義政の時代。染物屋の駿河屋正介の夢枕に楠正成が現われ、自分が実は楠正成の子孫であると知る。そして正介は自分探しの旅に出る。

 慶安の変(由井正雪の乱)を題材にした作品で、この後正介は正雪と同様の軍学者となります。
 しかし楠正成の子孫だからといって、今の今まで染物業者として生きてきた正介がいきなり軍学者になれるわけはありません。正介は吉岡憲法が持っていた「孔明八陣の秘書」(P110)を入手して軍学者になっています。あ、ちなみに吉岡憲法は実在の人物ですが、時代がちょっと違います。でもその辺はあまり気にしないように。
 それはさておき、正介がこの兵法書(秘書)を入手した経緯が結構ひどい。簡単に説明すると、

(1)正介、吉岡憲法の家来になる。
(2)憲法の門弟・名和無理右衛門が憲法を殺して兵法書を奪い、逃走。
(3)正介が無理右衛門を追いかけて討ち取り、兵法書を奪い返す。
(4)憲法の一人娘が正介にプロポーズするも、正介は「妻がいるから」と拒否。
(5)娘はショックのあまり自殺。
(6)こうして正介は兵法書を合法的(?)に入手しましたとさ。めでたしめでたし。

 一体何なんだ、この展開は…。どう評していいものやらわかりません。
 ところで、この後正介は五井の正察と改名し、懸橋忠和(丸橋忠弥をもじったもの)や山名半兵衛(金井半兵衛をもじったもの)などが「同志」に加わりますが、そこから先は密告者が出て破滅への道を辿るのは慶安の変と同様です(尚、毒水の仕掛けなど、創作の形跡はある)。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

【関連記事】
尾崎秀樹『にっぽん裏返史』文藝春秋(2)慶安事件の四日間

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