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馬場文耕『当代江戸百化物(とうだいえどひゃくばけもの)』

 冒頭の解説文によると本書は、

 宝暦当時江戸市中の噂に上った、今風に言えば「御騒がせ」人物を、士庶とりまぜて二十七名、二十三章に記述するものである。(P2)

 とのこと。化物といっても妖怪や幽霊の類ではないし、百と銘打っていてもその半数にも満たない。
 さて、それではどんな人物が取り上げられているかリストアップしてみます。

・尼ヶ崎一候の女房…品川宿の女郎のところへ入り浸っている夫を、機略を用いて連れ戻した。
・溝口直温(梅郊)…新発田藩第七代藩主。歌舞伎役者の瀬川菊次郎と男色関係にあったが、菊次郎が病死すると、菊次郎の妻だった「おりう」と愛人関係になる。
・土屋越前守正方(?)…名奉行・大岡越前を真似しようとしていた。
・上総屋三右衛門…貸し舟業。偽の花火大会の噂を流して、見物客に舟を貸して大儲け。
・寺町三智百庵…幕府の御坊主衆。引越し魔。
・偽の仇討ち…スリが偽の仇討ち話で高田馬場に人を集めておいて荒稼ぎ。
・鳴神比丘尼…夫が死んで剃髪したので世間からは貞女を言われたが、実は…。
・山田由林(弌棒庵)…俳諧の宗匠。女郎たちから衣服を借りて勝手に売り払った。
・林信充…儒者のくせにいつも数珠を持っていて、読経をすることもある。
・青山三右衛門…旗本。女遊びがひどくて自分の裃を質に入れ、登城時には退出する同僚から無理矢理借りたという。でも後に大出世。
・高橋玄秀…せむし医者。
・吉田おさよ…新吉原の女郎。
・おろく…深川の芸者。32歳という年齢なのに若々しい。
・中村七三郎…歌舞伎役者。いつも白粉を顔に塗っており、病気をした時に医者が来ても「スッピンを見せたくない」と言って会わなかった。
・中村喜代三郎の妻おいわ…夫の美貌を引き立てるために、わざと自分の姿を不器量に見せた。
・鵜野長斎…小鼓の名手。
・小野ろう&瀬川亀…三味線の名手・中村八右衛門を打ち負かした物真似の名手。
・松平宗衍…松江藩主。狂言を自らプロデュースする。
・小栗信顕…旗本。楊弓場の女房おしゆんに入れ込む。
・中村吉兵衛…元歌舞伎役者で80歳近くにもなるのに現役のたいこ持ちをしている。
・英一蜂…英一蝶の弟子。ある時、饅頭を食べながら障壁画を描いたのだが、その時食べた饅頭はなんと81個!
・勝間竜水…書家。
・山本宮内…天狗のグッズを販売。
・深井志道軒…浅草の講釈師。
・木村瀬平…元力士。盲目で14~5人の家族がいて扶持米もなかったのにどうしたわけか生活していた。
・紙屋五郎兵衛…紙の品質は悪いのに繁盛していた。
・豊島屋十左衛門…居酒屋で成功。
・丹波屋五郎兵衛…日雇いから精を出して働き、後に大金持ちになる。
・村田五兵衛…岡場所の親方に短期の高利貸をして成功。

 あれ? 27人を超えてるぞ。多分、カウントのやり方が異なるのでしょう。尚、ここに書き漏らしたエピソードは数多く存在しますが、リストという性格上、それらを省略・割愛した次第です。詳しく知りたい方は本書をお読みください。
 それにしても、今だったらオセロ中島に寄生していた自称占い師や、お笑い芸人から政治家に転身したそのまんま東、読売新聞のナベツネなどが入ってくるんじゃないかと思います。もちろん、人によっては「○○は外せない」「××を入れてもいい」などと考えるでしょうし、それはそれで空想するのは大いに結構です。
 尤も、「化物」にされてしまった人たちは(特に一般庶民にとっては)たまったものじゃないかもしれません。まあ、本物の「化物」ならば、化物認定されたとしても屁とも思いますまい。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

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