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岡野逢原『逢原記聞』

 冒頭の解説文によると、「本書は水戸藩士岡野逢原による、開幕以来の高士逸客に関する逸話著聞集である」(P148)とのこと。高士は徳の高い人、逸客は優れた遊説者という意味で、熊沢蕃山や伊藤仁斎、山鹿素行、池大雅らのエピソードが収録されています。
 本書の中で私の目を引いたのは、由井正雪(由比正雪)のエピソードが掲載されていたことです。正雪は天下の謀反人(慶安の変の首謀者)ですので、当然のことながら高士として描かれるわけもなく、悪し様に描かれています。例として1エピソードを拙訳にて紹介します。

 正雪は、ある日、浅草あたりの提灯(ちょうちん)屋へ行き、熊本藩の細川屋敷から来たと言って、細川家の家紋付きの手提灯1000張を何月何日までに間違いなく作るよう申し付けて、
「期日にこちらから人を遣わして引き取りに来る」
 と言って立ち去った。
 提灯屋は提灯の製作に取りかかったが、とても間に合わない。そこで納期を先延ばしにしてくれと細川屋敷へ頼み込んだのだが、細川家の者は、
「当家はそんな発注はしていない。おかしなことだ」
 と言って、期日に細川屋敷から人を提灯屋に遣わして待ち伏せることにした。はたして提灯を引き取りにやってきた人がいたのでこれを捕えて取り調べてみると、その人物は正雪から頼まれたといった趣旨の自白をしたという。
 それから段々と、正雪の悪事の兆候が露見してきたという。

 この話はどうにも信じがたい、というのが正直な感想です。というのは、正雪にとってはこれといったメリットはないのに逮捕されるリスクがあるからです。又、大事(謀反)の前にそんなことをして何の意味があるんだろうかと思った次第です。
 まあ、想像力を駆使して考えるならば、1000張の手提灯は偽の大名行列を拵えるための小道具で、その偽の大名行列を使って反乱軍の兵員を密かに移送するつもりだったのかもしれませんな。(追記:史実は、密告者が出たことによって謀反が露見した。)

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

【関連記事】
尾崎秀樹『にっぽん裏返史』文藝春秋(2)慶安事件の四日間

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