池内紀=編訳『象は世界最大の昆虫である ガレッティ先生失言録』白水社
ドイツのヨーハン・G・A・ガレッティ教授が授業中に言った失言の数々を収録したもの。ただし、「あとがき」によると「あきらかに後世の創作がまじっている」(P211)とのこと。とはいえ、専門の研究者ならともかく、一般の読者はどれが本人の言でどれが別人の作かどうかまでは考える必要はなく、ただ「失言」を楽しめればいいと思います。
74 ローマの兵力は平時には三百の兵団を数えた。戦時には一挙に五百にへらされた。(P27)
259 ナポレオンが王座についたのが一八八八年であり、王座を追われたのが一八一四年だ。(P75)
このくらいなら、歴史の知識がなくてもツッコミを入れることができます。ところが、次の「失言」となるとどうでしょう。
130 「父なる酒神バッカス」などと軽々にいうが、とんでもないまちがいだ。第一にバッカスが結婚した形跡はないし、第二に子供はいないし、第三に、やつはまだほんの子供である。(P41)
バッカスはギリシアではデイオニュソスといいますが、ディオニュソスはアリアドネを妻としており(「アリアドネの婚礼」は絵画のモチーフになっている)、アポロドーロスによると子供までもうけたとか。又、バッカスの絵をインターネットで画像検索して調べてみればわかることですが、殆どの場合バッカスは若者として描かれており、「ほんの子供」ではないのです。
とまあこのように、これにツッコミを入れるには神話の知識・素養が必要になってきます。他にも読み手の知的レベルが試されるものが散見され、これらを読んでいるとさながらガレッティ先生と知の競走をしているような感覚にとらわれてしまいます。
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