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桜田門外ノ変(2010年、日本)

監督:佐藤純彌
出演:大沢たかお、長谷川京子、伊武雅刀、北大路欣也
原作:吉村昭『桜田門外ノ変』
備考:時代劇

 幕末の井伊直弼暗殺事件(桜田門外の変)を、暗殺の現場を指揮した関鉄之介を軸に描いたもの。

 この映画の構成は、大まかに3つに分けることができます。
(1)井伊直弼暗殺
(2)井伊直弼暗殺に至るまでの経緯(黒船来航から安政の大獄まで)
(3)事件後の顛末

 殺陣の一番の見せ場である(1)を最初に持ってきています。
 ちなみに(3)では各地に逃亡・潜伏した水戸浪士たちが捕えられたり自害したりと、彼らには悲惨な末路が待ち受けています。そうなった理由としては、
・幕府の執拗な取り締まり(大老を殺されたのだから当然)
・同調者(薩摩藩・鳥取藩)の離反(幕府からの圧力もあったことだろう)
・過激な思想に多くの人がついていけない(支持が広がらない)
・暗殺後の計画に問題あり(薩摩藩の兵力だけでは…)
 などが考えられます。まあ、暗殺が思ったよりも早く済んでしまったので、逃亡・潜伏シーンをダラダラ見ながらついついそんなことを思ってしまった次第です。

桜田門外ノ変

インモータルズ -神々の戦い-(2011年、アメリカ)

監督:ターセム・シン
出演:ヘンリー・カヴィル、ミッキー・ローク、フリーダ・ピントー
原題:Immortals
備考:R-15、アクション

あらすじ…人間の王ハイペリオンはエピロスの弓を手に入れてタルタロスの奥深くに封印されたティタン族を解放しようとする。神々の恩寵を受けたテセウスがそれを阻止せんと立ち上がる!

 人間同士の戦いと神々の戦い(オリュンポス神族VSティタン神族)の両方が描かれるのですが、両者のアクションのレベルが違いすぎます。そのため、戦神アレスがハイペリオンの一隊に襲いかかるくだりでは、戦闘というよりも一方的な虐殺といってよいものになってます。
 ちなみに、封印が破られた時に登場する5名のオリュンポスの神々ですが、ゼウス、ポセイドン、アテナはわかるとして、あとの2名は誰だろうか…と思って調べてみたら、アポロンとヘラクレスでした。アポロンは弓の名手、ヘラクレスは怪力のはずなのですが、ここではモブキャラ化しているようです。

インモータルズ -神々の戦い-

エマニエル夫人 無修正版(1974年、フランス)

監督:ジュスト・ジャカン
出演:シルヴィア・クリステル、アラン・キュニー、ダニエル・サーキー、クリスティーヌ・ボワッソン、マリカ・グリーン
原作:エマニュエル・アルサン『エマニュエル夫人』
原題:Emmanuelle
備考:エロい。

あらすじ…フランス外交官の妻・エマニエルは、夫の赴任先であるタイのバンコクへ移り住む。そしてその地で…。

 冒頭の、パリの自宅のシーンでエマニエル夫人のヘアがチラリと見えた時、「あ、これはヤバイな」と感じました。別にそのシーンでそんなものを見せる必要は全くないのに、自然な感じでチラリと映している…初っぱなからこれでは先が思いやられて仕方がない。
 ちなみにその「ヤバイ感じ」は、ストーリーが進むにつれてどんどん増幅されていきました。例えばエマニエル夫人が全裸でプールを泳ぐシーンでは、水中で夫人の下半身からのアングルで撮られているのにビックリ。それから、エマニエル夫人が「パリでは夫を裏切っていない」と言っておいて実は飛行機の中で…というのには爆笑しました(たしかにパリでは夫を裏切っていない! パリでは!)。
 他にも言及したいエロエロなエピソードが色々とあるのですが、やめておきます。これ以上知りたい方はご自分の目でお確かめください。ただし、視聴する際には家族と一緒に観ない方がいいでしょう…って、それはわかりきったことか。

エマニエル夫人 無修正版

トロール・ハンター(2010年、ノルウェー)

監督:アンドレ・ウーヴレダル
出演:オットー・イェスパーセン、グレン・エルランド・トスタード、ヨハンナ・モールク、トーマス・アルフ・ラーセン
原題:Trolljegeren
英題:The Troll Hunter
備考:モキュメンタリー

あらすじ…ドキュメンタリーを製作する3人の大学生が熊の密猟者を追って、密猟者と噂されるハンスを尾行する。ところが、深夜の森の中で何者かに襲われ、ハンスに助けられる。ハンスによると襲ったのはトロールであり、自分はトロール・ハンターだという。

 3人の学生がドキュメンタリーを製作していると怪異に遭遇する…というモチーフは、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」と共通します。ただ、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は恐怖が静かに進行するのに対し、「トロール・ハンター」は怪物がダイナミックに暴れ回ります。
 又、ハリウッドの大作映画に較べれば低予算でしょうが(トロールとの対決シーンでは遠近法を使ったと思われる箇所があるなど、少ない予算でやりくりした形跡がうかがえる)、それでもやはり複数のトロールを登場させて頑張っています。
 ちなみに、wikiの情報によると本作はハリウッドリメイクが決まっている(2014年公開予定)そうですが、そうなるとハンスがかつてトロールの群れを虐殺したという話を回想シーンとして作るんでしょうなあ。潤沢な予算にモノを言わせた、ゴージャスなCGを使って。

トロール・ハンター

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー(2011年、アメリカ)

監督:ジョー・ジョンストン
出演:クリス・エヴァンス、ペギー・カーター、ヒューゴ・ウィーヴィング
原題:Captain America: The First Avenger
備考:アクション

あらすじ…第二次世界大戦中のアメリカ。強い愛国心を持つ青年スティーヴ・ロジャースは虚弱な体のために何度も徴兵検査をハネられていた。しかしそんな彼を見たアースキン博士は彼を科学の実験で超人「キャプテン・アメリカ」に変身させる。

 あのド派手な衣装でナチス・ドイツと戦うのかよ…と思っていたら、地味なデザインに落ち着いていました。とはいえ、それでも目立つことは目立つので、敵の拠点に潜入するシーンでは「よくそんな格好でバレなかったものだな」と感心(?)してしまいました。
 ちなみに、少々ネタバレになりますが、最後はニック・フューリーが登場して「アベンジャーズ」へ続くという作りになっています。「アベンジャーズ」のレンタルビデオが旧作になったら、そちらも観ておこうと思います。

【関連記事】
アベンジャーズ
キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー
アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

『是楽物語(ぜらくものがたり)』

あらすじ…京の商人・山本友名は、夢に出てきた若い女性に惚れ、恋の病を患う。友名の友人で遊民(今で言うところのニート)の是楽は温泉療法をすすめ、二人は有馬温泉へ行く。その帰途、友名は夢の女性と瓜二つの女・きさを発見し、彼女を妾にする。だが…。

 是楽はかつて若衆(男色を売る青少年)だったとのこと。本文にはっきりと書いていないのですが、ひょっとしたら友名と是楽は男色関係にあったんじゃないか…と思っていたら、最後の挿絵でこんなものがありました。
P269, 手前が是楽で奥が友名
 場所はおそらく友名の家だと思われます。庶民の狭い家ならば、男色関係にない友人を横に寝かせても、「そこしか寝るところがなかったんだから」と言い訳ができます。でも、友名は裕福な商人なので家はそれなりに広い。ですので、是楽を他の部屋に泊めることだってできたはずです。それをわざわざ添い寝とは…ウホッ。

 又、その他にも本作ではゆすり・たかり、呪詛・生霊、嫉妬、自殺などなど、ドロドロしたものが見られます。頽廃的ですなあ。

【参考文献】
渡辺守邦・渡辺憲司校注『仮名草子集 新日本古典文学大系74』岩波書店

『大坂物語(おざかものがたり)』

 上巻は大坂冬の陣、下巻は夏の陣を描いた軍記物語。尚、脚注によると上巻は「慶長二十年一月刊行」(P29)とあるから、同時代も同時代、戦火がいまだくすぶっている頃に出ていたことになります。
 尚、上巻の最後では、豊臣方と徳川方の和議の成立を描写した後、このように締めくくっています。

 かゝりしかば、騒がしかりし年も暮れ、慶長廿年にぞなりにける。新たまの年立ちかへれば、名におふ難波の梅も、今を盛りと花咲きて、匂ひは四面にあまねく、君が世のために植へし住吉の松も、今年よりなを万歳と呼ばふ声、いよいよ天下太平、国土安穏、めでたきことにぞなりにける。(P29)

 この後すぐに夏の陣が勃発することになろうとは、著者は予想していなかったのでしょうか。あるいは権力者が(欺瞞であるにせよ)和睦した手前、勘付いていても知らぬ振りをしていたのかもしれません。

 さて、本書には徳川家康や豊臣秀頼が登場するのはもとより、徳川方では佐竹義宣、藤堂高虎、伊達政宗など、豊臣方では真田幸村、木村重成、後藤基次などの活躍が描かれます。
 しかしこれら有名どころの武功はある程度知れ渡っているので、今回はマイナーな武将のエピソードを紹介します。その武将の名は、増田盛次。

 増田兵太夫と申は、増田右衛門尉長盛の子也。関ヶ原の一乱以後、関東に居住したりけるが、此度大樹の御供して上りけれども、故太閤相国の御時、父右衛門尉奉行にてありけることを思ひ、今かく成はてぬる身上を、口惜しくや思ひけん、「万一、大坂の御利運にならば、大和国にて知行四十万石下さるべし」と秀頼公の御朱印を頂戴して、六日に平野口へ向ひけるが、朝の間の合戦には分捕りあまたしたりけるが、二度の懸けに打死す。(下巻、P38)

【拙訳】
 増田兵部大輔盛次は、増田長盛の子である。関ヶ原の戦いの後、(徳川義直に仕官して)関東に住んでいて、今回徳川秀忠に付き従って大坂へ来たのだが、
「豊臣秀吉の時代に俺の親父は五奉行の一人だったんだよなあ…」
 と思い、今はこんなみじめな境遇(増田長盛は関ヶ原の戦いで敗れたので、彼は敗軍の将の息子)になっていることが悔しくなったのだろう。(豊臣方に寝返って、)「万一、大坂方(豊臣)が勝ったら、大和の国で40万石を与える」という秀頼の御朱印状を貰い、六日に平野口へ向かい、朝の戦闘では多くの首級を上げたが、退却を後悔して行う決死の攻撃で戦死した。

 もしも増田盛次が徳川方に留まっていたとしたら、四十万石なんて夢のまた夢。言うなれば彼はハイリスク・ハイリターンの賭けに出て、負けたわけですな。しかも、真田幸村や後藤基次ほどの活躍はできずに。

【参考文献】
渡辺守邦・渡辺憲司校注『仮名草子集 新日本古典文学大系74』岩波書店

【関連記事】
池波正太郎「勘兵衛奉公記」

松尾貴史・著、しりあがり寿・画『なぜ宇宙人は地球に来ない? 笑う超常現象入門』PHP

 宇宙人や超能力、心霊、UMAなど様々な超常現象に潜むインチキを論破しています。
 例えば「政府は既に宇宙人と接触しているけれども隠している」という陰謀論に対して、

 ましてや、自分達の天下り先と保身と責任回避ばかりを優先して考えている高級官僚達にしてみれば、宇宙人に関する情報を、秘密にしておく必要などまるでない。宇宙人だぞ!?(P32)

 と述べています。なるほど、言われてみればそうですな。いや、むしろ彼らならば、宇宙人に関する情報を小出しにして(※)国民の危機感を煽り、それでもって宇宙人対策費を予算に計上させたり、宇宙人に関する外郭団体を各方面に作って天下りポストを増やすくらいのことはやってのけるでしょう。例えば宇宙人との円滑なコミュニケーションをはかるための啓発事業に何百億円、といった具合に。
 官僚のみなさ~ん、宇宙人がコンタクトを取ってきたら利権を拡大する絶好のチャンスですよ~!

※情報を小出しにすることで情報のコントロールをはかり、それによって自らの影響力を確保することができる。もちろん小出しにすると言っても、いい加減な情報ばかりでは誰も信じてくれないから、多くの納税者を納得させるだけの確度の高い情報を流すに違いない。

【参考文献】
松尾貴史・著、しりあがり寿・画『なぜ宇宙人は地球に来ない? 笑う超常現象入門』PHP

池内紀=編訳『象は世界最大の昆虫である ガレッティ先生失言録』白水社

 ドイツのヨーハン・G・A・ガレッティ教授が授業中に言った失言の数々を収録したもの。ただし、「あとがき」によると「あきらかに後世の創作がまじっている」(P211)とのこと。とはいえ、専門の研究者ならともかく、一般の読者はどれが本人の言でどれが別人の作かどうかまでは考える必要はなく、ただ「失言」を楽しめればいいと思います。

74 ローマの兵力は平時には三百の兵団を数えた。戦時には一挙に五百にへらされた。(P27)

259 ナポレオンが王座についたのが一八八八年であり、王座を追われたのが一八一四年だ。(P75)

 このくらいなら、歴史の知識がなくてもツッコミを入れることができます。ところが、次の「失言」となるとどうでしょう。

130 「父なる酒神バッカス」などと軽々にいうが、とんでもないまちがいだ。第一にバッカスが結婚した形跡はないし、第二に子供はいないし、第三に、やつはまだほんの子供である。(P41)

 バッカスはギリシアではデイオニュソスといいますが、ディオニュソスはアリアドネを妻としており(「アリアドネの婚礼」は絵画のモチーフになっている)、アポロドーロスによると子供までもうけたとか。又、バッカスの絵をインターネットで画像検索して調べてみればわかることですが、殆どの場合バッカスは若者として描かれており、「ほんの子供」ではないのです。
 とまあこのように、これにツッコミを入れるには神話の知識・素養が必要になってきます。他にも読み手の知的レベルが試されるものが散見され、これらを読んでいるとさながらガレッティ先生と知の競走をしているような感覚にとらわれてしまいます。

【参考文献】
池内紀=編訳『象は世界最大の昆虫である ガレッティ先生失言録』白水社

朋誠堂喜三二『太平記万八講釈』

あらすじ…隠岐に流された後醍醐天皇は白狐(白式部)とセックスして放蕩宮無理押し親王をもうける。無理押し親王は成長すると吉原通いを始め、親王の地位を嵩に着てわがままに振る舞う。

P232, 右上が放蕩宮無理押し親王
(親王)「俺は天子のすねかぢりだから、吉原の掟などというわがまゝはいわせぬ。金を出して買うから、俺が了見次第だ」(P232)

 などと言って、他の客の相手をしていた遊女を無理矢理横取りしています。吉原を知らない私でも、さすがにこれはまずいことくらいわかります。背後からよく刺されなかったものだ。まあ、これでも彼はセレブ(笑)ですから、ボディーガードくらいは付いていたんでしょう。
 又、その他にも彼はこんなことをしています。

・無駄の会なるものを作って狂歌を詠む。
・茶会を開いて色々とこじつける。
・医者を薬草採りの名目で集めて女郎遊び。
・医者を死体解剖の名目で集めて女郎遊び。
・物産会を開いて色々とこじつける。
・坊主をボコボコにする。
・バクチ打ちにボコボコにされる。

 最後以外、よくもまあこれだけ好き勝手にできたものだと呆れてしまいます。これらは半端ではないほどの財力と権力とヒマがあるからできることで、その上、無理押し親王は頭がいいから余計にタチが悪い。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

四方山人(大田南畝)『此奴和日本(こいつはにっぽん)』

 日本かぶれの中国人・塩秀才の物語。
 ハテ、塩とは珍しい姓だなと思っていたら、父親がお金持ちの塩商人で、名を塩商(えんじょう)という。実に安直なネーミングですな。日本に喩えるなら、日本人の塩商人の名前が塩売商人(しおうりあきひと)というようなものです。
 まあ、別にそんなところでリアリティを求めても詮ないので、このくらいにしておきます。

 さて、主人公の塩秀才ですが、平仮名を習ったり和歌を詠んだり長唄を聞いたりと、(親のスネを齧りながら)なかなかの日本趣味を発揮しています。で、色々あって親から勘当されると筏に乗って日本へ渡り、住吉大明神と会っています(P223)。
P223, 住吉大明神が塩秀才に説教する図

 ちなみに住吉大明神から塩秀才に「御異見あり」(P224)とありますが、その内容については書かれていません。まあ、勘当息子に対して爺が言うことといえばおおよそ見当がつく(例:遊蕩するな、素行を改めろ、働け等)から省略したのかもしれません。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

芝全交『大違宝舟(おおちがいたからぶね)』

あらすじ…長唄芸者の藤原不比等、ジゴロな俵藤太、茶屋の主人・浦島太郎、八百屋お七、女衒の山椒大夫、手白の猿、不比等の情婦の比丘尼が、それぞれの思惑あって竜宮へ行く。

 なぜ彼らが竜宮へ行くことになったのかを一々書いていられないのでここでは省略します。
 それにしても草双紙のキャラクターをここまで集めた上、クライマックスの竜宮城でのドタバタ劇は、ゴッタ煮の凄まじさを感じさせます。これで(無理矢理ながらも)ハッピーエンドになるという「荒技」が展開されるんだから面白い。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

恋川春町『其返報怪談(そのへんぽうばけものばなし)』

あらすじ…田舎の画工・春町斎恋川は浮世絵の名人・数川春章に弟子入りしようと思い立ち、旅に出る。その道中、妖怪の会議に出くわす。狐に仕返しをするのだという。

P164, 右から火車婆、一つ目、産女、見越入道、油嘗め禿、白うるり、狸

 その妖怪会議には一つ目、白うるり、産女(うぶめ)、狸などが出席しているのですが、その中で見越入道(みこしにゅうどう)が「化物の頭」(P164)として登場しています。当時(解説文によると本書は安永5年(1776)刊行)は見越入道の地位がそれだけ高かったことがうかがえます。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

『狸の土産(いえづと)』

あらすじ…坂田金時の夢の中に黄石公(張良に兵法書を授けた仙人)が現われ、笠森の松の大木の下に名鉄があって、その鉄で剣を作れば天下無双の一振りになると告げる。金時が人夫を集めて言われた場所を掘らせてみると、茶釜が出てきた。しかもその茶釜に翼が生えて空を飛んだ。

 この後、坂田金時は茶釜を追いかけて穴の中の異世界へ行き、そこで一つ目小僧や猫また、化け狸などの妖怪と格闘します。さすがに頼光四天王の一人だけあって、このテの化け物との戦いには手馴れているのでしょう。
P153, 妖怪と戦う坂田金時



 で、最後は妖怪たちを降参させて、茶釜とお宝(嘘の玉、狸の腹鼓、金の干皮)を貰い、更には狐のお千を嫁に貰って(妖姦? 獣姦?)、元の世界に凱旋します。

 ちなみに、金時は茶釜で剣を作ることはしていません。まあ、彼は幼少時には足柄山で熊と相撲を取るほどの怪力の持ち主だから、名剣は必要ないのかもしれません。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

『楠末葉軍談(くすのきばつようぐんだん)』

あらすじ…室町幕府八代将軍・足利義政の時代。染物屋の駿河屋正介の夢枕に楠正成が現われ、自分が実は楠正成の子孫であると知る。そして正介は自分探しの旅に出る。

 慶安の変(由井正雪の乱)を題材にした作品で、この後正介は正雪と同様の軍学者となります。
 しかし楠正成の子孫だからといって、今の今まで染物業者として生きてきた正介がいきなり軍学者になれるわけはありません。正介は吉岡憲法が持っていた「孔明八陣の秘書」(P110)を入手して軍学者になっています。あ、ちなみに吉岡憲法は実在の人物ですが、時代がちょっと違います。でもその辺はあまり気にしないように。
 それはさておき、正介がこの兵法書(秘書)を入手した経緯が結構ひどい。簡単に説明すると、

(1)正介、吉岡憲法の家来になる。
(2)憲法の門弟・名和無理右衛門が憲法を殺して兵法書を奪い、逃走。
(3)正介が無理右衛門を追いかけて討ち取り、兵法書を奪い返す。
(4)憲法の一人娘が正介にプロポーズするも、正介は「妻がいるから」と拒否。
(5)娘はショックのあまり自殺。
(6)こうして正介は兵法書を合法的(?)に入手しましたとさ。めでたしめでたし。

 一体何なんだ、この展開は…。どう評していいものやらわかりません。
 ところで、この後正介は五井の正察と改名し、懸橋忠和(丸橋忠弥をもじったもの)や山名半兵衛(金井半兵衛をもじったもの)などが「同志」に加わりますが、そこから先は密告者が出て破滅への道を辿るのは慶安の変と同様です(尚、毒水の仕掛けなど、創作の形跡はある)。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

『漢楊宮』

あらすじ…燕の太子丹は秦の始皇帝を暗殺すべく荊軻と秦舞陽を送る。

 いわゆる「咸陽宮」もの。
 まずはこちらのイラストをご覧いただきたい。

Kanyo01(P76)

 樊於期が自ら首を切って荊軻と秦舞陽に差し出しています。切り口から血がドバドバ出ているのに自分の首を持っちゃっている…。
 パリの初代司教・聖ドニ(St.Denis)は首を切られると自分の生首を持って歩き、その首を井戸で洗ったという伝説があります。ここに描かれている樊於期もそれに通じる凄まじさがあります。

 続いてはこちら。

Kanyo02(P79左)

 中央の人物が何と趙高。おかしいな…たしか趙高は宦官だからヒゲは生えていないはずなんだが…。しかも、鎧を着て剣を持っている姿は宦官というより武将です(ちなみにセリフも「さあこれから趙高が一番荒事だ」(P79)等、こちらも武将らしくなっています)。まあ、日本では宦官の制度がなかったから、宦官についての正確な知識がなかったのでしょう。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

TBSラジオ 954kHz 2012.12→2013.1

 地下鉄の駅構内で入手しました。
 表紙を飾るのはラジオ番組「シュガーズの週末は甘えナイト!」のシュガーズ( http://sugar-s.jp/ )の面々。森三中の大島・黒沢・村上、ハリセンボンの近藤・箕輪、南海キャンディーズのしずちゃん、アジアンの馬場園・隅田、友近、まちゃまちゃ、椿鬼奴。
 …何と言うべきか、こうして表紙を見るとゲテモノ臭が半端なく感じられます。とまあ、そんなことを書くと、表紙の中の麗しの姫君たち(!)から「なんでやねん」と一斉にツッコミを入れられそうな気が、しないでもない。

TBSラジオ 954kHz 2012.12→2013.1

Smapho magazine 2013.01 Vol.4

 スマホのフリーマガジン。秋葉原で入手しました。
 特集記事は「年末年始に使える! アプリ大特集」(P14-17)で、年賀状ソフトや書初めソフトなどを紹介しています。
 その中に「i神社」(iPhoneのみ)というソフトがあり、これはスマホで高千穂・高天原神社へ初詣ができてしまうというものです。ちなみにソフトの料金は85円。
 こんなのでご利益があるのかよ…と思う方もいることでしょう。されど鰯の頭も信心から。こんなので「お参り」してもご利益があるんだぞと、その人が信じているなら、それはそれで結構。
 尚、私の場合、こんなソフトで横着したりせずに、クソ寒い中を初詣に行ってきましたよ。あのお正月の空気感を味わうだけでも外出する価値はありますぜ。

Smapho magazine 2013.01 Vol.4

『子子子子子子』

 『子子子子子子(ねこのこのこねこ)』は雪舟の幼少期から唐への留学を経て天皇に拝謁するところまでを描いたもの。ただし、脚注で指摘されていますが、山賊に自慢のあごひげを奪われそうになるエピソードは宗祇から、そしてタイトル『子子子子子子』にまつわるエピソードは小野篁から借用しています。
 雪舟のエピソードが少なくて他から借用しなければならなかったのか、あるいはエピソードはあるにはあったけれども草双紙の類に掲載するようなものではなかったと作者・版元が判断したのか(※)…。

※例えば、某学者と交流して○○について議論した、などという話は本書の読者層には難しすぎるかもしれません。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

『名人ぞろへ』

 芸能の名人や陶工の名人、建築の名人などが紹介されているのかと思ったら、どうも違う。内容は大体以下の通り。

(1)タタールの北の国では日本人、特に源義経を恐れる(理由は記述されず)。
(2)海獣「うにかうる」(イッカク)の捕獲。
(3)ガンジス河で伽羅を作る。
(4)竜頭国。
(5)中~南部インドでのミイラ獲り。

 まあ、海獣猟の名人や伽羅作りの名人、ミイラ獲りの名人がいてもおかしくはないのですが、(1)と(4)は名人とは関係がありそうにない。尚、タイトルと本文との齟齬については冒頭の解説文でも取り上げられています。
 ちなみに(1)の部分の脚注には義経=ジンギスカン説への言及があって、どうやら彼らは義経をジンギスカンだと信じているから義経を恐れている(ということを言いたい)らしいです。

【参考文献】
木村八重子・宇田敏彦・小池正胤校注『草双紙集 新日本古典文学大系83』岩波書店

大田南畝『仮名世説』

 逸人(優れた人)・高士(徳の高い人)のエピソード集。ただし脚注をチェックしてみると、「この条は○○の『××』より引く」等の記述があり、他の文献から色々と寄せ集めて作ったものであることがわかります。
 その中で本書オリジナル(と思われるもの)はないかと探してみたら、ありました。相撲取りの谷風梶之助のエピソードです。拙訳にて紹介します。

 関取の谷風梶之助が、後輩の力士を供に連れて日本橋船町を通った時、魚屋から鰹を買おうとしたのだが、鰹の価格がとても高かったので、交渉役の後輩に「まけてもらえ」と言い付けて立ち去ろうとするのを、魚屋の店員が谷風を呼び止めて、
「関取がまけると言うのは(負けるに通じるので)忌むべきことです」
 と言うと、谷風は戻ってきて、後輩に「(その値段で)買え買え」と言って買わせたのはおかしな話である。
 これは谷風がまけるのではない。魚を売る方をまけさせることなので、さほど忌むべきことではないのだが、そこで谷風が「買え買え」と言ったのは少々早とちりしたようだ。
 この話は私が若い頃、まのあたりに見たことである。
(P359)

 最後の一文でオリジナルと判断しました。
 ところで、勝負の世界に生きる者が験を担ぐのはよくある話で、現代でもプロスポーツの選手などが験を担ぐ話があったりします。ちなみにこの話に出てきた鰹も縁起物で、本書収録の北条氏綱のエピソード「江戸にて初鰹をめづる事」(P356-357)には、鰹は「勝負にかつを」に通じるとあります。
 谷風にしてみれば、鰹を求めて「勝負にかつを」求めたら、かえって縁起が悪くなりそうだったので(※)無理して買う羽目になった、ということなのでしょう。ひょっとしたら魚屋は、谷風の足元を見てボッタクリ価格を提示したのかもしれません。

※この時買わないという選択肢もあったが、そうすると「かつを(勝つを)逃す」に通じるのでこれまた縁起が悪い。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

【関連記事】
日本裏歴史研究会『人に話したくなる裏日本史』竹書房(5)初鰹

岡野逢原『逢原記聞』

 冒頭の解説文によると、「本書は水戸藩士岡野逢原による、開幕以来の高士逸客に関する逸話著聞集である」(P148)とのこと。高士は徳の高い人、逸客は優れた遊説者という意味で、熊沢蕃山や伊藤仁斎、山鹿素行、池大雅らのエピソードが収録されています。
 本書の中で私の目を引いたのは、由井正雪(由比正雪)のエピソードが掲載されていたことです。正雪は天下の謀反人(慶安の変の首謀者)ですので、当然のことながら高士として描かれるわけもなく、悪し様に描かれています。例として1エピソードを拙訳にて紹介します。

 正雪は、ある日、浅草あたりの提灯(ちょうちん)屋へ行き、熊本藩の細川屋敷から来たと言って、細川家の家紋付きの手提灯1000張を何月何日までに間違いなく作るよう申し付けて、
「期日にこちらから人を遣わして引き取りに来る」
 と言って立ち去った。
 提灯屋は提灯の製作に取りかかったが、とても間に合わない。そこで納期を先延ばしにしてくれと細川屋敷へ頼み込んだのだが、細川家の者は、
「当家はそんな発注はしていない。おかしなことだ」
 と言って、期日に細川屋敷から人を提灯屋に遣わして待ち伏せることにした。はたして提灯を引き取りにやってきた人がいたのでこれを捕えて取り調べてみると、その人物は正雪から頼まれたといった趣旨の自白をしたという。
 それから段々と、正雪の悪事の兆候が露見してきたという。

 この話はどうにも信じがたい、というのが正直な感想です。というのは、正雪にとってはこれといったメリットはないのに逮捕されるリスクがあるからです。又、大事(謀反)の前にそんなことをして何の意味があるんだろうかと思った次第です。
 まあ、想像力を駆使して考えるならば、1000張の手提灯は偽の大名行列を拵えるための小道具で、その偽の大名行列を使って反乱軍の兵員を密かに移送するつもりだったのかもしれませんな。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

『落栗物語』

 『落栗物語(おちぐりものがたり)』というタイトルだけを見ると、『落窪物語』のパロディ作品かなと思ったのですが、さにあらず。冒頭の解説文によると「本書は豊臣秀吉の時代から寛政頃までの見聞・逸話集で、八十一条から成る」(P70)とのこと。全然違いますな。
 さて、本書の中身ですが、正親町公通(P74)や九条尚実(P76)、三条西実隆(P109)など「公家に関する話題が多い」(P70)のですが、今回取り上げるのは公家ではなく知名度の高い戦国武将・加藤清正の1エピソード。原文と拙訳を両方載せておきます。

[三六]主計頭藤原清正朝臣は、隠れなき武勇の人也。肥後国を攻取て領せられしが、或時河のほとりに出て、従者共に魚を取らせて興ぜられしに、其中に清げなる童のありしを、海より怪き者出て引入んとす。清正きつと見て、「やをれ曲者よ。我前にて何とてかゝる事はする」と怒られければ、彼者大に驚きたるさまにて、童を打捨て、清正に向ひぬかづき拝みて遁去りぬ。(P107-108)

【拙訳】
(36)加藤清正は世に隠れもない武勇の人である。清正は戦功により肥後国を領有していたが、ある時、河のほとりに出て、従者たちと一緒に魚を獲って楽しんでいた。その中に美少年がいたのだが、海から怪しいモノが出てきて少年を水の中に引き入れようとした。清正はにらみつけて、
「やいバケモノ! 俺の目の前で何しやがる!」
 と怒鳴りつけると、そいつはビックリしたようで、少年を放り出し、清正に向かって土下座して逃げ去った。

 この怪物(妖怪)が河の中から出てきたのなら河童じゃないのかと言えるのですが、文中では海から来たとあります。ただ、清正たちがいたのは海辺ではなく河のほとりであるので、文中の海の語は河の誤りであると見ることができるかもしれません。あるいは、海の方、すなわち下流から出現したのかもしれません。もしそうならば河童の可能性も復活してきます。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

【関連記事】
日本裏歴史研究会『人に話したくなる裏日本史』竹書房(3)河童と清正

清水浜臣『泊●筆話(ささなみひつわ)』

 『泊●筆話(ささなみひつわ、●は三ずいに百)』は、荷田春満、賀茂真淵、村田春海ら国学者たちのエピソード集です。著者(清水浜臣)の性格によるものなのか、それともこの学派の傾向が為せるわざなのか知りませんが、いわゆるオカルト的な怪談めいたものは掲載されていません。
 唯一の例外と言ってよいものは、橘枝直(橘千蔭の父)が狐憑きに遭った話(P292-294)です。少々長いので、拙訳で紹介します。

(24)橘枝直(最初は為直といったが、後に枝直と改名)は男の中の男という性格で、少しも女々しいところがなかった。
 彼は若い頃、大岡越前配下の組与力に召し抱えられ、与力の組屋敷(いわゆる役宅)を賜った。その屋敷を見て回ると、敷地の東南に稲荷の祠があった。
(祠がこんなところにあっては、改築する時に邪魔だな。どこかへ移転できないものかな)
 と枝直は思ったが、祠は昔からそこにあったというのでそのままにしておいた。
 そうして月日が経ったが、飼っていた小鳥がいなくなることが何度もあった。不審に思っていると、ある朝またもや小鳥がいなくなっていた。小鳥を入れておいた籠も砕かれていた。
 枝直はいよいよ不審に思い、庭のそこかしこを探索してみると、稲荷の祠のあたりに小鳥の尾羽があった。
 枝直は怒って、長年召し使ってきた老僕を呼んで、一緒に祠を取りのけてみると、狐の住処らしく穴があった。穴の中に親狐はいなかったが、生後2~3日の子狐3~4匹がいた。枝直は、
「憎たらしい奴だ。小鳥がいなくなったのはこいつらの親狐のしわざだったのだ。この子狐どもを捨ててこい」
 と言って、老僕に子狐を近所の川へ捨てさせ、自分は穴を埋めて祠を叩き壊し、戻ってきた老僕に祠の残骸を焼き捨てさせた。
 するとその夜から老僕が身体発熱して苦しみ、精神に異常を来してあらぬことを口走るようになり、
「憎い憎いクソジジイ! 私のかわいい子供を川に流して殺し、私の住処を潰してしまった。どうしてくれよう。今夜中に殺してやる」
 と大声で叫んだ。枝直がそれを聞きつけて、ますます怒ってその老僕に向かって言った。
「狐よ、お前こそ理不尽だ。そもそもここは公儀より私に下賜されたものだ。従って枝直はここの主人である。だから祠を置くも置かないも枝直の心次第だ。その主人の飼っている小鳥を奪って食べるのは盗人である。ほれ、お前こそ道理にかなわぬ狐ではないか。
 又、狐を流し捨て、祠を破壊させたのは、枝直がさせたことだ。老僕が心から進んでやったことではない。恨めしいと思うのなら、枝直に向かって訴えよ。老僕を恨んでどうするのだ。
 早く老僕から去れ、離れよ。さもなくばもっとひどい目にあわせるぞ」
 と責めさいなむと、狐は道理だと思ったのか、やがて老僕から離れていったという。枝直の雄々しい本性は、このエピソードで知ることができる。

 喧嘩稲荷に犬の糞、というように江戸の町には稲荷の祠がたくさんあったとか。
 それはさておき、この話は怪談には違いないけれども、ハイライトは枝直が狐憑きを恐れずに理を以て論破するところです。怪力乱神を語らずというより、怪力乱神を語り倒すといったところでしょうか。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

堀田六林『蓬左狂者伝(ほうさきょうしゃでん)』

 解説文によると、「本書は尾張藩士堀田六林が記した、名古屋城下における奇人・狂人の行状記」(P44)とのこと。
 奇人ならば世間の耳目を集めてそれが書き遺されることもあるかもしれませんが、狂人となると…精神科医・心理学者の出番ですかね。

 さて、本書で取り上げられている狂者を見ると、下層民が多いという印象を受けました。
 阿小三や久米は零落した無職であり、おどり婆ゝと与次郎は門付け、街頭卜者と琵琶橋盲人は零細の占い師、作之右衛門は河原の石売り、自覚と惣助は物乞い。他にもまだまだいますが、省略。
 ちなみに下層民に分類されないであろう人物もいて、商家の居候の「石廻り」や、富豪の家の出身で物乞いの真似事をする呉藍坊などがこれに該当します。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

馬場文耕『当代江戸百化物(とうだいえどひゃくばけもの)』

 冒頭の解説文によると本書は、

 宝暦当時江戸市中の噂に上った、今風に言えば「御騒がせ」人物を、士庶とりまぜて二十七名、二十三章に記述するものである。(P2)

 とのこと。化物といっても妖怪や幽霊の類ではないし、百と銘打っていてもその半数にも満たない。
 さて、それではどんな人物が取り上げられているかリストアップしてみます。

・尼ヶ崎一候の女房…品川宿の女郎のところへ入り浸っている夫を、機略を用いて連れ戻した。
・溝口直温(梅郊)…新発田藩第七代藩主。歌舞伎役者の瀬川菊次郎と男色関係にあったが、菊次郎が病死すると、菊次郎の妻だった「おりう」と愛人関係になる。
・土屋越前守正方(?)…名奉行・大岡越前を真似しようとしていた。
・上総屋三右衛門…貸し舟業。偽の花火大会の噂を流して、見物客に舟を貸して大儲け。
・寺町三智百庵…幕府の御坊主衆。引越し魔。
・偽の仇討ち…スリが偽の仇討ち話で高田馬場に人を集めておいて荒稼ぎ。
・鳴神比丘尼…夫が死んで剃髪したので世間からは貞女を言われたが、実は…。
・山田由林(弌棒庵)…俳諧の宗匠。女郎たちから衣服を借りて勝手に売り払った。
・林信充…儒者のくせにいつも数珠を持っていて、読経をすることもある。
・青山三右衛門…旗本。女遊びがひどくて自分の裃を質に入れ、登城時には退出する同僚から無理矢理借りたという。でも後に大出世。
・高橋玄秀…せむし医者。
・吉田おさよ…新吉原の女郎。
・おろく…深川の芸者。32歳という年齢なのに若々しい。
・中村七三郎…歌舞伎役者。いつも白粉を顔に塗っており、病気をした時に医者が来ても「スッピンを見せたくない」と言って会わなかった。
・中村喜代三郎の妻おいわ…夫の美貌を引き立てるために、わざと自分の姿を不器量に見せた。
・鵜野長斎…小鼓の名手。
・小野ろう&瀬川亀…三味線の名手・中村八右衛門を打ち負かした物真似の名手。
・松平宗衍…松江藩主。狂言を自らプロデュースする。
・小栗信顕…旗本。楊弓場の女房おしゆんに入れ込む。
・中村吉兵衛…元歌舞伎役者で80歳近くにもなるのに現役のたいこ持ちをしている。
・英一蜂…英一蝶の弟子。ある時、饅頭を食べながら障壁画を描いたのだが、その時食べた饅頭はなんと81個!
・勝間竜水…書家。
・山本宮内…天狗のグッズを販売。
・深井志道軒…浅草の講釈師。
・木村瀬平…元力士。盲目で14~5人の家族がいて扶持米もなかったのにどうしたわけか生活していた。
・紙屋五郎兵衛…紙の品質は悪いのに繁盛していた。
・豊島屋十左衛門…居酒屋で成功。
・丹波屋五郎兵衛…日雇いから精を出して働き、後に大金持ちになる。
・村田五兵衛…岡場所の親方に短期の高利貸をして成功。

 あれ? 27人を超えてるぞ。多分、カウントのやり方が異なるのでしょう。尚、ここに書き漏らしたエピソードは数多く存在しますが、リストという性格上、それらを省略・割愛した次第です。詳しく知りたい方は本書をお読みください。
 それにしても、今だったらオセロ中島に寄生していた自称占い師や、お笑い芸人から政治家に転身したそのまんま東、読売新聞のナベツネなどが入ってくるんじゃないかと思います。もちろん、人によっては「○○は外せない」「××を入れてもいい」などと考えるでしょうし、それはそれで空想するのは大いに結構です。
 尤も、「化物」にされてしまった人たちは(特に一般庶民にとっては)たまったものじゃないかもしれません。まあ、本物の「化物」ならば、化物認定されたとしても屁とも思いますまい。

【参考文献】
多治比郁夫・中野三敏校注『当代江戸百化物 在津記事 仮名世記 新日本古典文学大系97』岩波書店

大崎悌造『昭和子どもブーム』学研

 月光仮面から仮面ライダーまで、昭和の子供(特に男の子)の間でブームになったものを豊富なカラー図付きで紹介したもの。
 こういうものに詳しい人(特にオタクちゃんたち)がこれを読めば、「○○や××がないのは云々」などと細かいところをほじくり出してくるかもしれません。でも、これは新書という形式なのでページ数が限られており、従ってメジャーなやつを中心に選んでいるから、比較的マイナーなものは割愛されているのです。
 ちなみに私の場合、本書収録のブームは全て自分が生まれる前のものであって、これらのブームを生で体験しているわけではありません。
 しかしそれでも『オバQ』(P64)や『ゴジラ』(P77)は知っているし、『怪傑ハリマオ』(P13)や『マグマ大使』(P83)などは名前だけならかろうじて知っています。
 でも、『隠密剣士』(P53)のように初見のものもあって、それはそれで新鮮でした。

【参考文献】
大崎悌造『昭和子どもブーム』学研

謡曲「白楽天」

あらすじ…唐の詩人・白楽天(白居易)が、「日本の知恵を計れ」との命令を受けて日本へやってくる。白楽天は筑紫の海で漁翁と出会い、白楽天は漢詩を詠み、漁翁は和歌を詠んで詩歌の応酬をする。

 「日本の知恵を計れ」とはどういうことでしょうか? そこで私がピンと来たのがインテリジェンス(諜報)です。即ち、白楽天は日本でスパイ活動(それも情報収集)をするつもりだったのではないかと思い至ったのです。
 何しろ日本と唐は西暦663年に戦っていますからね(白村江の戦い)。日本が遣唐使を送ってくるようになっても、またいつ日本と戦争になるかわかりません。まともなインテリジェンスの感覚の持ち主なら、そんな状況下で唐が日本にスパイを送ったとしても不思議には思いますまい。

 ちなみにこの作品の後半では住吉の神が現われて神風を吹かせ、白楽天の船を唐に吹き戻しています。神風で決着とは実に日本らしい。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

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