謡曲「熊坂」
あらすじ…都の僧が旅の途中、美濃国赤坂で一人の僧に呼び止められ、ある人物の回向をしてほしいと頼まれる。その人物の名が明かされないので不審に思うが…。
その人物とは、かつて盗賊団を率いて吉次信高(金売り吉次)一行を襲ったものの、牛若丸(後の源義経)に返り討ちに遭った熊坂長範だと、中盤で明らかになります。
それにしても牛若丸の超人的な戦いっぷりが凄い。
然共牛若子、少恐るる気色なく、小太刀を抜いて渡り合ひ、獅子奮迅虎乱入、飛鳥の翔りの手を砕き、攻め戦へば、堪へず、表に進むを十三人、同じ枕に斬り臥られ、其外手負ひ太刀を捨、具足を奪はれ這ふ這ふ逃げて、命ばかりを免るもあり(P235)
この直後に熊坂長範も牛若丸と戦って敗死しているから、牛若丸はこの戦闘で少なくとも14人は殺していることになります。しかも夜間に襲撃されるという不利な状況下でこの戦果ですからね。時代劇のヒーローじゃないとできっこない。
ちなみにこの話に弁慶は一切登場しません。この時既に牛若丸と行動を共にしているはずなので(※)、彼も戦闘に参加していなければならないのですが…。多分、熊坂長範の見ていないところで戦っていたんでしょう。
※『義経記』では、義経が奥州に行った後に一旦京に舞い戻っており、その折に義経は弁慶と出会っているので、『義経記』に準拠すればこの時に弁慶は参加していない。
【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店
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