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謡曲「黒塚」

あらすじ…山伏二人が安達原の一軒屋に泊まる。その家の女主人は閨の内を覗いてはならないと言って薪を取りに外へ出る。伴の能力(のうりき。寺で力仕事をする男)が閨の内を覗くとそこにあったのは…!!!

 覗いてはならぬと言われた場所を覗いてみると、そこには…ここはやはり、原文を引用して凄まじさを直に感じてもらいましょうか。

 不思議や主の閨のうちを、物の隙より能見れば、膿血たちまち融滌し、臭穢は満ちて肪脹し、膚膩ことごとく爛壊せり、人の死骸は数知らず、軒と等しく積み置きたり(P506)

 さすがは安達ヶ原の鬼婆(※1)です。
 でも、疑問点が一つ。それだけ人間の腐乱死体が積み重なっていたのなら、腐敗集が物凄いことになっているはずで(※2)、能力が覗く前に誰も異臭に気付かないのはおかしいですな。

※1.本文中では「鬼」「鬼女」と表記。鬼婆とは書いてありませんが、この際たいした違いはありますまい。
※2.現代でも、マンションの一室から異臭がするので調べてみたら人間の死体があった、という事件があったりします。一体だけでもそれだけ臭うのに、ましてや死体の山となるとどれほどのものやら…。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「猩々」

あらすじ…揚子の里に住む高風が、潯陽の江のほとりで、酒を用意して友人の猩々が来るのを待つ。夜、猩々が現われる。

 冒頭で高風が酒を売ることになった経緯や、猩々と出会った次第を語っています。
 尚、この謡曲のストーリー自体は短いので、ちょっと物足りない感じがします。そこで、もしもこれをもう少し長くするとしたら、と考えてみました。
 まず前半の舞台を揚子の市として、高風が登場し自分の身上を語る。とそこへ人間の振りをした猩々がやってきて酒を買い求める。高風と猩々の問答から猩々は自分の正体を明かし、再会を約して退場。
 そして後半の舞台は潯陽の江のほとりで、高風が待つところから。
 などと空想していたら、解説文に、

 現在は高風の<名ノリ>を受けすぐ猩々(本体)が登場する一場形式であるが、元来は<名ノリ>のあと潯陽の江のほとりで童子(猩々の仮の姿)に会い、素性や名を問い、酒徳を讃美し、再来を約して波に消える場面のある二場形式であった(「猩々前」「中入猩々」などと呼ぶ)。(P412)

 とありました。なんだ、そうだったのか。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「舟弁慶」

あらすじ…都落ちして西国へ行こうとする源義経一行は摂津国大物(だいもつ)の浦へ辿り着く。その地で弁慶の提案により静御前と別れることにする。そして義経一行が海に出ると、平家の怨霊たちが襲いかかってくる。

 前半は義経と静のラブロマンス、後半は平知盛率いる平家の怨霊たちとの戦いとなっています。一粒で二度おいしいとはこのことでしょうか。
 ちなみに平家の怨霊軍団は弁慶の祈祷によって退けられますが、はて弁慶にはそんな法力(霊能力)がありましたっけ? そもそも弁慶は五条の橋で刀を集めるエピソードなどから、呪力よりも戦闘力の方が強いイメージがありますな。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「熊坂」

あらすじ…都の僧が旅の途中、美濃国赤坂で一人の僧に呼び止められ、ある人物の回向をしてほしいと頼まれる。その人物の名が明かされないので不審に思うが…。

 その人物とは、かつて盗賊団を率いて吉次信高(金売り吉次)一行を襲ったものの、牛若丸(後の源義経)に返り討ちに遭った熊坂長範だと、中盤で明らかになります。

 それにしても牛若丸の超人的な戦いっぷりが凄い。

 然共牛若子、少恐るる気色なく、小太刀を抜いて渡り合ひ、獅子奮迅虎乱入、飛鳥の翔りの手を砕き、攻め戦へば、堪へず、表に進むを十三人、同じ枕に斬り臥られ、其外手負ひ太刀を捨、具足を奪はれ這ふ這ふ逃げて、命ばかりを免るもあり(P235)

 この直後に熊坂長範も牛若丸と戦って敗死しているから、牛若丸はこの戦闘で少なくとも14人は殺していることになります。しかも夜間に襲撃されるという不利な状況下でこの戦果ですからね。時代劇のヒーローじゃないとできっこない。

 ちなみにこの話に弁慶は一切登場しません。この時既に牛若丸と行動を共にしているはずなので、彼も戦闘に参加していなければならないのですが…。多分、熊坂長範の見ていないところで戦っていたんでしょう。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「紅葉狩」

あらすじ…平維茂「戸隠山に行ったら高貴な女性が紅葉狩りに来ていて酒を振舞ってくれたけど、その女は実は戸隠山の鬼だったでござる」の巻。

 いわゆるハニートラップというやつです。
 ちなみに平維茂が戸隠山へ来た理由は、物語の中盤で「八幡の末社」(P191)が明かしていますが、それによると「勅命により維茂が戸隠山の鬼神退治のため山に分け入った」(P191)とのこと。
 つまり観光・物見遊山などではなく戦うために来ているのであり、しかも戸隠山に鬼がいることは充分わかっているから警戒してしかるべきなのに、彼は女性にすすめられるままに酒を飲んで眠ってしまいます。どうやら女性への耐性は弱かったようです。
 とはいえ、この後で平維茂は鬼退治をきっちりと成し遂げており、ハニートラップに引っかかってキ○タマを握られたままの誰かさんとは大違いですな。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「道成寺」

あらすじ…紀州の道成寺ではようやく撞鐘が再興され、僧は女人禁制を申し渡す。とそこへ白拍子がやってきて入れてくれと能力(のうりき。寺で力仕事をする男)に頼み、能力の一存で境内に入り込み、舞を見せる。しかし…。

 道成寺縁起(安珍清姫伝説)の後日譚。
 実はこの白拍子の正体は清姫(※)であり、今回は鐘の中に入って大蛇の姿を現わします。
 そういえば清姫の情念は解消されておらず、従って大蛇になったままでしたっけ。そして僧の祈祷によって撃退されるけれども、今作でもやはり魂の救済は為されずに話が終わっています。

 ちなみに本作では男の方(安珍)は出てきません。こちらは道成寺が懇ろに供養しているからでしょうか。

※文献によってはこの女性に名前がない場合もあるし、本作でも名前は出てきませんが、ここではとりあえず一般的に知られている清姫の名称を用いる。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

【関連記事】
市原悦子のむかし語り:「今昔物語」“女の執念が凝って蛇となる話”

謡曲「頼政

あらすじ…旅の僧「奈良でジジイに名所を訊ねたら、そいつが源頼政の亡霊だったでござる」の巻。

 老人(正体は源頼政)が旅の僧に、真木島(まきのしま)、小島崎(こじまがさき)、恵心院、朝日山、平等院の扇の芝と解説し、観光案内をしてくれています。
 自分の身上を語るだけならそこまで手広く解説する必要はないので、ある意味でサービス精神旺盛と言えますな。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「鵺」

あらすじ…旅の僧が、光り物が出るという洲崎の御堂に泊まる。その夜、源頼政に退治された鵺(ぬえ)の亡霊が現われる。

 このテの怪物は英雄に退治されるために存在しているようなものですが、やられる方にとってはそれで納得できないのでしょう。
 とはいえ、鵺は「扨も我悪心外道の変化となつて、仏法王法の障りとならむ」(P122)として暴れ回ったのであり、そんなことをすれば相応の報いを受ける(因果応報)は必定。退治されるのは自業自得というものです。それを裏打ちするかのように、鵺は「たちまちに滅せし事、思へば頼政が、矢先よりは、君の天罰を当たりけるよと、今こそ思ひ知られたれ」(P123)と述懐しています。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「夕顔」

あらすじ…豊後国の僧が京の五条あたりへ行くと、あばら家から歌を吟ずる女性の声が聞こえる。僧が訊ねると、女性はかつて光源氏に愛された夕顔のことを語る。

 『源氏物語』の登場人物・夕顔が幽霊となって登場します。
 そもそも光源氏が六条御息所をほったらかしにしたから、御息所が生霊となって襲いかかったのであり、とどのつまり夕顔が死んだのは光源氏のせいです。
 ですから、夕顔の供養をなすべきなのは光源氏なのですが…まあ、あのプレイボーイは他の女性たちとの色恋沙汰でさぞかし忙しくてそれどころじゃなかったんでしょうなあ。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

謡曲「朝長」

あらすじ…美濃国青墓の宿へ、源朝長に縁のある僧がやってきて、朝長の墓にお参りする。そこへ青墓の宿の長者(女)がやってきて朝長の最期を語り、僧を宿でもてなす。そしてその夜…。

 源朝長は源義朝の二男で、平治の乱に敗れた際に父と共に東国へ逃げようとするも、戦闘中に負った傷のため途中で動けなくなり、自害したという(平治物語では足手まといになるとして義朝が手にかけたことになっている)。
 一般的に源朝長の知名度は低く、兄(義平)や弟たち(頼朝、義経)に較べれば地味な存在ですが…いや、彼らと較べてはかわいそうか。
 とはいえ、こういうマイナーキャラにスポットライトを当てるのも悪くはない。

【参考文献】
西野春雄校注『謡曲百番』岩波書店

半次郎(2010年、日本)

監督:五十嵐匠
出演:榎木孝明、AKIRA(EXILE)、白石美帆
備考:時代劇

あらすじ…幕末に「人斬り半次郎」と恐れられた中村半次郎(後の桐野利秋)。明治政府の下で少将となるも、西郷隆盛と共に郷里へ戻り、西南戦争へと身を投じる。

 半次郎たちは薩摩弁で会話しているので、鹿児島の人以外はわかりにくいかもしれません。DVDで視聴される際は繰り返し視聴すると少しはわかるんじゃないかと思います。

 ところで、この映画はおおよそ前半は幕末、後半は明治の西南戦争に分けることができます。後半の西南戦争では負けるとわかっていて戦うのですが、案の定敗退に続く敗退で、「同志」たちが次々と死んでいきます。これは凄惨です。
 でも、よくよく考えてみたら新撰組や彰義隊なども殺されていった(しかも殺した方の官軍には半次郎たちもいた)わけで、今度は薩摩の不平士族がやられる番だったのだと見ることもできます。

【関連記事】
池波正太郎「賊将」

半次郎

ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える(2011年、アメリカ)

監督:トッド・フィリップス
出演:ブラッドリー・クーパー、エド・ヘルムス、ザック・ガリフィアナキス
原題:The Hangover Part II
備考:コメディ

あらすじ…スチュが結婚することになり、一同はタイのバンコクへ。そして結婚式の前に独身パーティー(バチェラー・パーティー)を開くが、今度は花嫁の弟テディがいなくなった!

 「ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」の続編。基本的な構成は前回と変わっていません…というより、こいつら全然成長してないな。まあ、成長してないからこそ、こんな馬鹿を繰り返して喜劇を演じることができるわけですな。
 ところで、物語の中盤でアランが瞑想をして過去を回想するくだりが出てきますが、その回想の中では自分を含めて全員子供として登場しています。思うに、アランは精神的にガキであり、今回の独身パーティーもガキの遊びの延長として認識していたということなのでしょう。
 それから、テディが指を切り落とした理由は最後(スタッフロール)に登場する写真で明らかになります。どうせバカバカしい理由だろうなと思っていたら、本当にそうでした。これは痛い。

【関連記事】
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ハングオーバー!!! 最後の反省会

ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える

美男<イケメン>バンド ~キミに捧げるピュアビート~ 第1話(2011年、韓国)

出演:イ・ミンギ、ソンジュン、エル[INFINITE]、イ・ヒョンジェ[Mate]、ユ・ミンギュ、キム・ミンソフ、チョ・ボア

 高校生バンド「眼球浄化」の物語。第1話ではバンドのメンバーたちが通学していた底辺校が廃校となり、メンバー全員がなぜかエリート校へ編入されるところまでを描いています。

 ところで、本作品はTSUTAYAの無料レンタルDVD「アジアMAGAZINE 2012秋」で視聴したのですが、ビョンヒ(イ・ミンギ)のシャツに一部モザイク(ボカシ)がかかっているのが目を引きました。
 権利関係の問題でもあるのかなと思ったのですが、後で調べてみると(インターネット上に無修正のキャプ画がありました)、そこにあったのは某夢の国の有名キャラクターでした。ディ○ニーなら仕方がない。

美男<イケメン>バンド ~キミに捧げるピュアビート~ 公式ホームページ

アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!(2010年、アメリカ)

監督:アダム・マッケイ
出演:ウィル・フェレル、マーク・ウォールバーグ、エヴァ・メンデス、マイケル・キートン、スティーヴ・クーガン
原題:The Other Guys
備考:アクションコメディ

あらすじ…NY市警の窓際刑事2人組(アレン・ギャンブル&テリー・ホイツ)が、ウォール街の巨額金融詐欺事件に挑む。

 クリストファー・ダンソン刑事(ドウェイン・ジョンソン)とP・K・ハイスミス刑事(サミュエル・L・ジャクソン)が「殉職」するくだりは衝撃的でした。あまりに馬鹿馬鹿しくて、思わず口をアングリと開けてしまいました。

 ちなみに、最後のスタッフロールのところで「マードフ」なる名前が出てきたので調べてみたところ、元NASDAQ会長で巨額金融詐欺事件(マードフ事件)の犯人バーナード・L・マドフのことでした。なるほど、この映画の悪役アーションのモデルはこいつか…。

アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!

マチェーテ(2010年、アメリカ)

監督:ロバート・ロドリゲス、イーサン・マニキス
出演:ダニー・トレホ、ジェシカ・アルバ、ロバート・デ・ニーロ、ミシェル・ロドリゲス、スティーヴン・セガール、ジェフ・フェイヒー、ドン・ジョンソン
原題:Machete
備考:R-18

あらすじ…メキシコの元連邦捜査官マチェーテは、アメリカのテキサスで日雇い労働をしていた。ある日、ブースという男から、メキシコ移民を排斥しようとする上院議員を暗殺するよう依頼される。だがそれは罠だった!

 この映画はセックス&バイオレンスがきついので年齢制限があるだろうなと思っていたら、なんと18禁でした。
 全裸の女性が自分の膣内から携帯電話を取り出したり、マチェーテが敵の腹を裂いて腸を取り出しそれをロープ代わりに使ってアクションしたり…。とにかく「えええっ!?」というのがいくつも出てきます。
 はっきり言ってエログロ描写がダメな人にはおすすめできませんが、そういうのが平気でバカアクションを愛せるような漢(おとこ)にはおすすめできます。

【関連記事】
マチェーテ・キルズ

マチェーテ

ゼロ時間の謎(2007年、フランス)

監督:パスカル・トマ
出演:メルヴィル・プポー、キアラ・マストロヤンニ、ローラ・スメット、ダニエル・ダリュー
原題:L'Heure Zéro
原作:アガサ・クリスティー『ゼロ時間へ』
備考:ミステリー

あらすじ…ブルゴーニュ地方の別荘で富豪の老婦人が殺された。バタイユ警視と甥レカが捜査に乗り出す。

 アガサ・クリスティーの小説は今までに何本も読んできましたが、こちらの原作はまだ読んだことがない状態で視聴しました。
 これを書いている現段階では原作を読んでいないので原作との比較はできないのですが、それでもわかったことが一つあります。それは、物語の舞台を21世紀のフランスとすることによって、クリスティーの時代には存在しなかった携帯電話が登場するということです。実際、作中の登場人物が使っているところが出てきます。
 さて、ここから先はネタバレ防止のために(犯人が誰かわからないようにするために)ボンヤリとした表現をとらなければならないのですが、犯人が犯罪を行なっている時間に、某人物が携帯電話で犯人を呼び出してもよさそうなものなのですが、そんな気配は全くない。どちらかが携帯電話持っていないという可能性がありますが、両者の社会的地位や経済力等を考えると持っていて当然なのだが…。

ゼロ時間の謎

アガサ・クリスティー「評決」(戯曲)

あらすじ…カール・ヘンドリック教授の妻アニヤは長いこと病を患っていた。そんなある時、若く美しいヘレン・ロランダーがカールのところへやって来て、自分に個人教授をしてくれと頼み込んでくる。

 第一幕第一場(もっと詳しく言うならば本書P255-256)において、アニヤに処方されている劇薬の話が出てきます。ちなみにその劇薬の正体はストロファンチンであると後で明かされますが、薬品の知識のない観客(読者)はとりあえず「多量に服用したら死んでしまう薬」と認識しておく程度でいいでしょう。
 さて、アガサ・クリスティーの作品でこのテの薬が登場したら、毒殺フラグが立ったようなものです。案の定、この後…おっと、ネタバレ防止のために誰が誰を殺したのかは伏せておきます。
 尚、一服盛るくだりは観客の目の前で展開されているし、その上、早い段階で犯人がある人物に犯行を告白してさえいます。従ってこの戯曲では犯人探しがメインテーマではないことは確実であり、それを期待して観劇もしくは読書すると失望するかもしれません。

【参考文献】
アガサ・クリスティー『ブラック・コーヒー』早川書房

泉鏡花「海異記」

あらすじ…漁師の女房のところへ小烏の三之助がやって来て、海で遭遇した怪奇体験を語る。三之助が帰った後、異形の者が現われる。

 文章が七五調だったり、会話文に方言が使われていたりと、少々とっつきにくいところがあります。最初は慣れなくても、我慢して読み進めて行けば、どうにかこうにかわかってくるかもしれません。ちなみに私の場合、何となく話がつかめてきたと感じたのは三之助が怪奇体験を語り出すところあたりからでした。

【参考文献】
紀田順一郎・東雅夫編『日本怪奇小説傑作集1』創元社

佐藤春夫「化物屋敷」

 20年前に化物屋敷に住んでしまった時の体験を小説にしたもの。
 ただし、幽霊が主人公(作者)の前に出現してウラメシヤーとやらかすわけではなく、妖怪や悪鬼の類が襲いかかってくるといった描写もありません。それでは具体的に何が起こったのかというと、同居している門下生の精神に異常を来たすという被害が出ています。
 いわゆる霊障ってやつですな。それも肉体ではなく精神の方に変調をもたらすもののようです。

【参考文献】
紀田順一郎・東雅夫編『日本怪奇小説傑作集1』創元社

ジョイス・ポーター「ドーヴァー、カレッジへ行く」

あらすじ…土建屋で州会議員のルパート・アンドリュウズが殺された。スコットランド・ヤードのドーヴァー主任警部がブーたれながら捜査する。

 ドーヴァーの不平っぷりが凄まじい。それも、相棒のマグレガーが殺意を抱くほどに。

 いつかきっと……マグレガーは密かに心に誓った。手近の鈍器を振ってこの食えない警部を……(P88)

 一応、マグレガーがどうにか補佐(?)しているものの、はたしてこれで事件を解決できるのかと思ったら、何と犯人を当ててしまうんです。しかも、ズレた推理から。
 こうなると悲劇の殺人事件というより、殺人事件の喜劇ですな。

【参考文献】
エラリイ・クイーン編『クイーンズ・コレクション2』早川書房

アガサ・クリスティー「ブラック・コーヒー」(戯曲)

あらすじ…高名な科学者エイモリー卿の邸宅の金庫から極秘書類が盗まれた。卿は名探偵エルキュール・ポアロを呼び寄せる一方で、邸内にいた容疑者全員を集め、書類の返却を迫る。だが……(裏表紙の紹介文より引用)

 「ブラック・コーヒー」は小説版もありますがそちらは未読です。
 ところで、ブラックコーヒーを飲んだエイモリー卿が死亡し、そこへやってきたポアロが捜査を開始するのですが、この事件で使われたトリックの一つは明らかに「スタイルズ荘の怪事件」の使い回しでした。しかもそのトリックを解明する手順も同じです。
 ちなみに、アガサ・クリスティー作品の中では難易度は低い方です。上記のトリックの使い回しを見抜けるようなら、犯人にたどり着くのはそう難しいことではないでしょう。

【参考文献】
アガサ・クリスティー『ブラック・コーヒー』早川書房

アーサー・C・クラーク「最後の命令」

あらすじ…ソ連の宇宙基地「レーニン要塞」で、ソ連首相のメッセージが流される。

 ソ連首相のメッセージの中に、「愛する土地が無数の太陽の熱に焼きつくされる」(P119)とあることから、核兵器が使われたことがわかります。太陽の活動は核分裂によるものであり、核兵器の爆発も核分裂によるものだからです。
 尚、これ(核兵器)を使ったのはアメリカ合衆国であり、地球上では核戦争となってソ連が滅亡しています。
 たとえアメリカが勝利したとしても、ソ連と核戦争をやらかして無傷というわけにはいかないから(アメリカの主要都市にもソ連の核爆弾が降ってきたことだろう!)、敗者のみならず勝者も地獄を見ることになります。地球はどうなっているんだ…。

【参考文献】
アーサー・C・クラーク『太陽からの風』早川書房 アーサー・C・クラーク『太陽からの風』早川書房

アーサー・C・クラーク「秘密」

あらすじ…科学記者ヘンリー・クーパーは月で取材活動をするが、なぜか医学研究所の態度がよそよそしい。不審に思ったクーパーは警視総監チャンドラ・クーマラスワーミーに相談する。

 「秘密」とは何であったのかはネタバレ防止のために明かすことはできないので別のことに付いて少々書きます。
 クーパーは「国連宇宙局自身の要請」(P107)で月面都市に来ているのですが、ここでは記者仲間が誰一人登場しません。
 記者仲間はいて、クーパーは彼らにも当たってみたけれど空振りだったから物語から省略されたのか、あるいはそもそも記者仲間はおらず月には彼一人で来ていたのかもしれません。
 後者だとしたらジャーナリズムの世界が寂しすぎる。

【参考文献】
アーサー・C・クラーク『太陽からの風』早川書房

バーバラ・オウエンズ「軒の下の雲」

あらすじ…田舎から都会へ出てきたアリス・ホワイトヘッドは日記をつけ始める。アパートに住み、ドラッグストアに勤務して、再スタートは順調に思われたが…。

 田舎から都会へ出てきた娘の日記という体裁を取っています。一人称視点で語られる主観性の高い文章であるのみならず、最後の過去を述べるくだりでは錯乱しかかっているため、彼女の過去に何があったかを具体的にイメージするのは難しい。何回か読み返さないといけないかもしれません。

【参考文献】
エラリイ・クイーン編『クイーンズ・コレクション2』早川書房

松岡和子訳『シンベリン シェイクスピア全集22』筑摩書房

あらすじ…ブリテン王シンベリンの娘イノジェンは、イタリア人ヤーキモーの罠にはまり、不貞を疑われる。嫉妬に狂う夫ポステュマスの殺意を知らぬまま、イノジェンは男装してウェールズへ行くが、薬で仮死状態になった彼女の傍らにはいつしか夫の首のない死体が――。(裏表紙の紹介文より引用)

 上記に引用した紹介文には続きがあって、「最後は赦しと幸福な結末を迎える」とあります。これでどうやってハッピーエンドになるのかと思っていたら、まさかそう来るとは…。
 諸々の事件の真相を見て知っている観客はともかくとして、それらをロクに知らないで最後に一挙に知らされることになったシンベリンにとっては、急展開すぎて卒倒してもおかしくはないでしょう。

 あ、ちなみに作品のタイトルは「シンベリン」ですが、主人公はシンベリンではありません。彼は脇役です。寧ろ主人公と呼ぶべきなのはイノジェンとポステュマスです。

【参考文献】
松岡和子訳『シンベリン シェイクスピア全集22』筑摩書房

エドワード・D・ホック「モントリオールの醜聞」

あらすじ…引退したホームズのもとに、アイリーン・ノートン(旧姓アドラー)から助けを求める電報が届く。ホームズはワトスンと共にカナダへ赴き、アイリーンと再会する。アイリーンによると、息子が殺人事件の容疑者にされているのだという。

 正典「ボヘミアの醜聞」に登場したアイリーン・アドラーが、長い歳月を経て、大学生の息子を持つ母親となって登場します。
 ただ、残念ながらこの作品のアイリーンは「ボヘミアの醜聞」で見せたような活躍は一切見せてくれません。一介の依頼人に終始しています。せっかくのキャラクターがもったいないような気がしますな。

【参考文献】
エドワード・D・ホック『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』原書房

エドワード・D・ホック「ドミノ・クラブ殺人事件」

あらすじ…ホームズとワトスンが高級地下カジノ「ドミノ・クラブ」に潜入する。そしてそこで殺人事件が発生する。

 私たちはぶらぶらと歩きながらルーレット台に着くと、ホームズが何ポンドか賭けてたちまちすってしまった。(P147)

 1ポンドが高級ホテル1泊分(ソース:「ボヘミアの醜聞」)だから、現代の貨幣価値に換算すると10万円以上はすってしまったかもしれません。しかし依頼人(フォスター)は弁護士の助手だからそれほど裕福ではなく、従って報酬はそれほど期待できません。ですので、今回はおそらく赤字だったと思われます。
 しかしながら、「ロンドンにおける生活の裏面を知っておくのも、ときには必要なことだよ」(P145)と言うホームズのことですから、この程度の出費は「授業料」だと割り切っていたのではないでしょうか。

【参考文献】
エドワード・D・ホック『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』原書房

エドワード・D・ホック「まだらの紐の復活」

あらすじ…「まだらの紐」事件から5ヵ月後、ホームズのもとに元ロマ(ジプシー)で今は定住して鍛冶屋を営むヘンリー・デイドがやってくる。弟のレイモンが自分の妻を殺そうとしているかもしれないという。

 正典「まだらの紐」の後日談的作品。
 庇護者のロイロット氏が死んでから5ヶ月経ってもロマのキャンプはまだ居座っています。とはいえ、P26-27の会話によると財産を相続したミス・ストーナーは屋敷を売りに出しているそうだから、彼らを追い出す作業は新しい持ち主に委ねるつもりなのでしょう。

【参考文献】
エドワード・D・ホック『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』原書房

エドワード・D・ホック「瀕死の客船」

あらすじ…探偵稼業を引退したシャーロック・ホームズは、豪華客船タイタニック号に招待されて乗り込む。

 タイタニック号って死亡フラグだろ…常識的に考えて。とはいえ、そう考えるのは我々が既にタイタニック号の末路を知っているからであって、当時は知る由もなかったのは言うまでもありません。
 さて、今回の船旅では例によって例の如く殺人事件が発生し(名探偵が殺人事件に遭遇することは珍しくない!)、と同時に氷山と接触して船が沈むという劇的な展開を見せてくれています。殺人と沈没の両方がいっぺんに来てしまうとは何とも忙しいものです。

【参考文献】
エドワード・D・ホック『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』原書房

エドワード・D・ホック「いちばん危険な人物」

あらすじ…教授が悪党たちを集めて銀行の現金輸送を襲撃しようと企てる。

 リーダー格の人物が「教授」。そしてその手下の中には「昔陸軍で大佐だったというモラン」(P10)がいる。それからこの作品が収録されている本はホームズ・パスティーシュを集めたものだ。となると、「教授」の正体もわかろうというものです。
 教授の名前は最後の最後で明かされて、「ああ、アイツだったのか」とわかる仕掛けになっています。ですので、ここでは名前を伏せますが、シャーロッキアンなら上記の推理で当てることができるでしょう。

【参考文献】
エドワード・D・ホック『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』原書房

杉本苑子「悲劇の風雲児」

 木曽義仲が生まれてから都入りを果たすまで、そしておまけ的に最期(粟津の松原での戦死)を描いた短篇。
 構成としては歪(いびつ)な感じがしないでもないですが、

「木曾谷時代の義仲に、スポットをあててほしい」
 というのが、編集部の要求なので、この小文は、入京後の彼の動静には触れない。
(P134)

 というメタ的な文章を読んで納得。これが文庫本一冊分以上の長篇ならば「人生の下り坂も書けよ」と思いますが、短篇ならば紙幅の都合もあるからそこまで書かずともよいし、編集部からそういった要求がなされているとあっては…。

【参考文献】
末國善己編『短篇小説集 源義経の時代』作品社

海音寺潮五郎「平清盛」

 平清盛の一代記を描いた中篇小説。
 平清盛といえば白河院の御落胤という説がありますが、それについての著者のスタンスは以下の通り。

 清盛落胤説は、大日本史は信じて採用しているが、現代の歴史家は系統を同じくしている平家物語と源平盛衰記以外にはないことなので信じていない。しかし、歴史上のこういうことは解釈で行くよりほかはないのだし、解釈はどちら側にももっともらしくつけることが出来るのだから、人それぞれの好みによってどちらをとってもよいのである。(P19)

 簡単に言うと、「どっちでもいい」ということですか。
 そういえばNHKの大河ドラマ「平清盛」では落胤説を採っていましたが、物語をドラマチックに盛り上げようとするならばそっちの説を採りたくなるのは理解できなくもない。
 ちなみにこの小説では「清盛が白河の落胤であるかどうかは不明」(P19)と述べていて、「どちらをとってもよい」判定を避けています。
 う~ん、それじゃあ私も今のところは判断を避けておくことにしますか。

【参考文献】
末國善己編『短篇小説集 源義経の時代』作品社

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