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ロード・ダンセイニ「一度でたくさん」

あらすじ…第二次世界大戦後。殺人鬼スティーガーがまたもや小金持ちの妻を殺して財産を奪ったらしい。しかも、整形手術で顔を完全に変えているものと思われる。そこでリンリーは一計を案じて、チャリング・クロス駅でスティーガーを待ち受けることにする。

 「二壜の調味料」「スラッガー巡査の射殺」「第二戦線」で登場したスティーガーがまたもや立ちはだかります。
 まだ野放しにされていたのか! 最初の妻殺しと巡査殺しは証拠がない(スコットランド・ヤードは見つけられなかった)からともかくとして、ドイツのスパイになった件はどうなったんだ?
 「クリークブルートの変装」で「スコットランド・ヤードはドイツ人スパイを泳がせておくのが好き」(P106)とあるから、スティーガーも同様に泳がせておいたのかもしれません。そのうちドイツが負けてスパイを失業し、金がなくなったスティーガーは過去に成功した犯罪を繰り返した、といったところでしょうか。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「手がかり」

あらすじ…空き家でイーブライト氏が殺される。現場には犯人がイーブライト氏を待つ間の暇潰しにやっていたクロスワードがあった。リンリーはクロスワードに書かれた単語から犯人像を推理する。

 今回はシャーロック・ホームズばりの推理を展開しています。ただ、

 『拡大鏡があれば』リンリーさんは続けました。『もっと何かわかるかもしれません。しかし、たぶんこれで充分でしょう。(略)』(P125)

 と言いましたが、この推理によって絞り込まれた容疑者は逮捕され裁判にかけられたものの、「しかし、陪審はクロスワード一つで一人の人間を絞首刑にするのに抵抗があったため、評決は無罪」(P126)という結果に。「たぶんこれで充分」というのは誤り、もしくは、せいぜい使えるのは容疑者の絞り込みくらいのもので、犯罪を立証するには不充分だったわけです。
 詰めが甘いようですな。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「賭博場のカモ」

あらすじ…青年アルピットがアングラな賭博場へ行った後、失踪する。アルトン警部がリンリーに相談するが、リンリーはどうも乗り気ではなかった。

 乗り気ではないとあらすじに書いたのは、アルトン警部から一通りの話を聞いた後、こんな反応を示したからです。

 リンリーさんはしばらく考えてから言いました。「警部がどのように捜査するか提案したり、そのやり方に口を挟むのは私の役目ではありません」(P112)

 いやいや、お前の仕事はそれだろ。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「クリークブルートの変装」

あらすじ…第二次世界大戦直前。ドイツの凄腕スパイ、クリークブルートがイギリスのどこかにいて何者かに変装しているという。リンリーはクリークブルートが何に変装しているのかを考える。

 エドガー・アラン・ポーの「盗まれた手紙」を思い出しました。あちらは手紙の隠し場所でこちらはスパイの潜伏場所と違いはありますが、どちらも人間の盲点を巧みに突いています。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「二人の暗殺者」

あらすじ…サン・パラディソの大統領がロンドンを訪れていたが、ドン・ワルドス一味がこの大統領を暗殺しようとしているという情報がスコットランド・ヤードにもたらされる。リンリーが暗殺を阻止すべく、歓迎会で暗殺者を捜す。

 今回の敵ドン・ワルドスは、どうやらリンリーよりも格上らしいです。根拠は以下の通り。

 彼はまずドン・ワルドスの計画を予想することができないと認めることから始めました。(P89)

 要するに、ドン・ワルドスが彼以上に頭のいいことを認めてしまい(P89)

 相手が格下の知力の持ち主なら、自分の知力をその人物の知力に落として考えてみる、という手法が使えますが、格上となるとそうはいきません。
 そこでどうやってドン・ワルドスの計略を見抜くかというのが本作のキモなのですが、それを明かすとネタバレになってしまうので言うわけにはいきません。ただ、一つだけヒント(らしきもの)を述べるとするなら、策士(ドン・ワルドス)は優秀でも、実行役(二人の暗殺者)となると必ずしもそうとは限らない、ということです。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「第二戦線」

あらすじ…陸軍省の情報部の将校となったリンリーが、ドイツの傭われスパイとなったスティーガーが機密情報をドイツへ送ろうとするのを阻止しようとする。

 第二次世界大戦が勃発し、リンリーもスメザーズも軍隊へ取られました。日本では金田一耕助が兵士として南方へ送られましたが、こちらの探偵は本国イギリスで活動しているようです(スメザーズについては不明)。
 さて、今回は「二壜の調味料」「スラッガー巡査の射殺」の犯人スティーガーがドイツのスパイとなって登場します。なんで殺人鬼がスパイに…とも思いましたが、戦時ともなればこんな人物にもどこかからお呼びがかかるのでしょう。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「スコットランド・ヤードの敵」

あらすじ…スコットランド・ヤードに、3人の警官を殺すとの脅迫状が届く。リンリーのもとに持ち込まれた時には既に2人が死んでおり、3人目もリンリーらが見守る中で死ぬ。

 今回は珍しいことに、リンリーが現場へ足を運びます。前作「スラッガー巡査の射殺」、前々作「二壜の調味料」では家の中にひきこもって推理していたのとは対照的です。
 そして物語の後半では、空気キャラだったスメザーズが大活躍します。詳しいことはネタバレになるので言えませんが、目立たない小男のセールスマンというのが潜入任務に効果的だったようです。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「スラッガー巡査の射殺」

あらすじ…スラッガー巡査が射殺された。犯人は彼を恨んでいたスティーガーらしい。だが、弾丸は見つからなかった。そこでアルトン警部がリンリーに相談する。

 「二壜の調味料」の容疑者スティーガーがまた登場します。前回の事件の犯人がなぜ娑婆にいるのかというと、妻殺しの証拠がないから絞首台送りにできなかったとのこと。
 ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、今回も解明はできても解決(犯人逮捕)はできていません。これが素人探偵リンリーの限界か。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「二壜の調味料」

あらすじ…調味料ナムヌモのセールスマン、スメザーズは、ふとしたことがきっかけで青年リンリーと同居生活を送ることになる。そんなある日、リンリーのもとに一つの「事件」が持ち込まれる。スティーガーという男が妻を殺したらしいのだが、肝心の死体が見つからないのだという。

 ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、スティーガーが購入した二壜のナムヌモの調味料が事件解明(※事件解決ではない)につながります。
 そこでナムヌモについて検索してみると、この「二壜の調味料」と「アミルスタン羊のナムヌモ・ソースがけ」の話しかヒットしませんでした。もしナムヌモが実在するのなら、ナムヌモを使用した料理のレシピや飲食店のサイト、あるいはナムヌモを販売するサイトなどがヒットするはずです。だとすれば、ナムヌモは架空の存在と見てよいでしょう。

 最後に、この話の「衝撃の結末」についても言及しておかねばなりますまい。
 スティーガーのあの隠匿方法では、血痕や骨はどうしたって残るはずなんですが…。スコットランド・ヤードの捜し方が悪いのか、スティーガーがより巧妙なのか、よくわかりません。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「不運の犠牲者」

あらすじ…二人の小悪党が老人宅に盗みに入るが失敗して捕まる。

 二人の泥棒はモースンと「おれ」で、「おれ」の視点で事件が語られます。
 ネタバレ防止のために詳細は伏せますが、この犯行がなぜ失敗してしまったのかというと、「おれは照明を点けた」(P192)ことが原因となっています。語り手の「おれ」は「おれこそ不運の犠牲者だ」(P189)と言っていますが、実は不運の犠牲者は、あんなうっかりミスを犯した「おれ」を相棒にしたモースンの方じゃないかと思えてきます。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

カレル・チャペック「小麦」

あらすじ…小麦が20%値上げした。そんなある日、メアリー・オーフェン婦人のパーティーに行くと、彼女の夫から、チェコ語の原稿をチェックしてくれないかと頼まれる。

 その原稿は小麦がとにかく大不作であるという種々の記事で、オーフェン氏はこの偽記事を流すことで小麦の価格を更に吊り上げ、投機で大儲けしようという魂胆なのです。
 一方、原稿の校訂を行なった主人公は、「恵み深き神々よ、期待できなくはない」(P49)云々と言っています。よくわかりませんが、おそらく皮肉でしょう。

【参考文献】
カレル・チャペック『カレル・チャペック短編集』青土社

ロード・ダンセイニ「新しい名人」

あらすじ…チェス仲間のアラビー・メシックが、チェスを指す機械を披露する。その機械はチェスが強かったが、性格が悪かった。

 この機械は「下品で野卑な精神」(P198)や嫉妬という感情を持っていることからして、チェスの世界チャンピオン、カスパロフ氏を破ったコンピューター「ディープブルー」のようなものではなく、フランケンシュタインの怪物のような人造人間に近いものと思われます。
 そういえばこの機械には名前がありませんな。とりあえずフランケンシュタインの怪物にならって、「アラビー・メシックの怪物」とでも呼んでおきましょうかね。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

ロード・ダンセイニ「疑惑の殺人」

あらすじ…殺人犯アルバート・メリットに惚れ込み、メリットが無罪判決を得た後に彼と結婚したものの、消息不明となったエイミー・コッティン。エイミーの友人(♂)が心配して彼女を捜すが、見つかったのは彼女の日記だった。

 英会話学校講師リンゼイ・アンホーカーさん殺害事件の裁判でも、市橋達也被告のファンを称する女性たち(市橋ガールズ)がいましたが、ダンセイニのイギリスにもこういうバカ女がいるんですねえ。
 しかも、エイミーの日記中に「二人の女が彼にプロポーズした」(P147)とあるので、このテの女が三人以上いるということになります。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』早川書房

カレル・チャペック「貴族階級」

あらすじ…助任司祭フロデガンクの120歳の誕生日会に老人たちが集まって、貴族階級が消滅したことを嘆く。

 簡単に言えば老人どもが「昔はよかった」と言い合うようなものです。
 ちなみに、彼らは貴族階級ではなく、門番や従僕などといった、貴族に仕える人たちです。
 一方、登場人物のパヤンの言によれば(P31)、当の貴族たちは国民社会主義者になったりビール醸造所の主任になったりワイン会社の取締役になったりと、新しい時代に適応している(適応しようとしている)わけですが。

【参考文献】
カレル・チャペック『カレル・チャペック短編集』青土社

アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの復活』創元社(2)

「三人の学生」
あらすじ…ホームズとワトスンが大学町の下宿で過ごしていた時、ヒルトン・ソウムズ講師が訪れ、助けを求めてくる。明日の試験の問題用紙を、何者かが盗み見たのだという。

 容疑者として三人の学生が浮かび上がるのですが、その三人とは以下の通り。

(1)学業優秀、スポーツ万能の優等生
(2)インド人
(3)劣等生

 ネタバレ防止のために誰が犯人かは言いませんが、改めて読み返してみると読者の推理をミスリーディングする仕掛けが幾つか見受けられます。引っかからないようにご注意を!

「スリークォーターの失踪」
あらすじ…ケンブリッジ大学のラグビーチームのスリークォーターが失踪したとの相談が持ち込まれる。ホームズが捜査に乗り出す。

 私はラグビーの知識が殆どといってよいくらいないので(日本のラグビーの聖地は花園というところらしい、ということを知っている程度)、スリークォーターがどんな役割なのかもわかりません。
 ただ、今回の事件に限って言えば、そういったラグビーの知識は不要で、ただ失踪したのがチームの大黒柱で、大事な試合の直前ということを承知しておけばいいでしょう。

【参考文献】
アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの復活』創元社

アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの復活』創元社(1)

 新潮文庫だったと記憶している『シャーロック・ホームズの帰還』には未収録の作品が3点ほどあるようです。ただ、ちょっと記憶が曖昧なので確信は持てないのですが。

(1)ノーウッドの建築業者
(2)三人の学生
(3)スリークォーターの失踪

 以上の3点について少々レビューすることにします。

「ノーウッドの建築業者」
あらすじ…ホームズのところへ青年弁護士マクファーレンが慌てて訪ねてくる。ノーウッドの建築業者ジョーナス・オールデカー殺害の容疑で逮捕されそうになっているという。とそこへレストレード警部がやってきてマクファーレンを逮捕する。ホームズは捜査に乗り出すが…。

 読むのはおそらく初めて(小学生の頃に読んだはずの児童版を除く)ですが、グラナダTV版のドラマで視聴していたのでおおよその筋はわかっていました。
 さて、今回ホームズが物語の最後で取った手段、つまり偽の火事で犯人をパニックに陥らせてしっぽを出させるというのは、「ボヘミアの醜聞」でもやっています。ただ、「ボヘミアの醜聞」では詰めが甘かったために失態を演じていますが、今回はちゃんと確保しています。まあ、今回の犯人はアイリーン・アドラーほどじゃなかったということですな。

 長くなってきたので続きは次回以降。

【参考文献】
アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの復活』創元社

魯迅「阿Q正伝」

 最下層のルンペン雇農・阿Qの物語…と、ここまで書いてきて、阿Qについてどう述べていいものかちょっと困りました。いや、困るほど複雑な性格ではないのですが、うまい表現が思い浮かばないのです。そこで彼の言行から分析してみたいと思います。まずはこちら。

 《おいら、むかしは――おめえなんかより、ずっと偉かったんだぞ。おめえなんか、なんだってんだ!》(P104)

 この阿Qのセリフからうかがえるのは、知性が全く欠如していることです。本当に昔は偉かったのなら、具体的にはどう偉かったのか(例えば金持ちだったとか官吏だったとか)を言うはずですが、それをしていない。又、このような言い方では誰にも信じてもらえない。阿Qはそのことを自覚しているのかというと、おそらく自覚していないものと思われます。
 又、阿Qは自尊心が強い(P105)、喧嘩では「相手を見て、もし口べたな奴なら罵倒するし、弱そうな奴なら殴りつける」(P106)、職場でいきなり女性をレイプしようとする(P119)、等々…ロクでもないな、こいつ。
 それから、「心に思ったことを、ついあとで口に出してしまう」(P107)というのは後になって彼の墓穴を掘ることにつながります。ともあれ、これでは阿Qと秘密の共有はまず不可能と見てよいでしょう。

結論:阿Qとはお友達にはなりたくない。

【参考文献】
魯迅『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』岩波書店

ヘンリイ・スレッサー「豪華な新婚旅行」

あらすじ…エドワード・ギブスンは、離婚した元妻グロリアへ支払う別居手当に頭を悩ませていた。とそこへ、グロリアと交際しているカール・セブロンが訪ねてくる。

 カール・セブロンが何らかの嘘をついていることは感付いていました。

【参考文献】
ヘンリイ・スレッサー『ママに捧げる犯罪』早川書房

SALUS[サルース] 2012年8月号 vo.137

 今回私が注目したのは、P15の「連載エッセイ 大人の迷子たち 第28回」(文・岩崎俊一)。
 エッセイの冒頭で若者の車離れについて取り上げ、若者が自分たちとは違って車を欲しがらない理由・原因を考えています。

 そして、あることに気づいた。
 それは、彼らが生まれた時、すでに彼らの周りにクルマがあったせいではないか。見渡せばうんざりするほどのクルマが、彼らの周りにひしめいていたせいではないだろうか。

 その上で、

 感じやすい年頃に、どんなに望んでも手に入らなかったものには飢餓にも似た憧憬を持つけれど、目の前にあふれるほどあるものには、間違ってもそんな感情を抱くことはできない。

 と分析しています。
 この岩崎俊一理論が正しいのならば、若者の車離れを食い止める方法が導き出せます。それは、日本から車の数をうんと減らして(例えば「三丁目の夕日」の頃の水準に!)、なかなか車が手に入らない状況にしておくことです。そうすれば若者たちは車に対して飢餓感を持つようになり、何としてでも車を手に入れようとするでしょう。
 …それにしても道路の渋滞は何とかならんもんかね、特に連休となるとひどい有様だ。

SALUS

http://tokyu.jp/salus

BERRY MAGAGINE[ベリー・マガジン] 2012年8月号 vol.57

 本誌P16-17にて心霊スポットを取り上げています。ええと、K城跡とA峠…? そもそも本誌は横浜のフリーマガジンなので、場所はおのずと横浜もしくはその辺縁に限られてきます。そこでインターネット使って調べてみると、どうも以下の場所らしい。

・K城跡 → 小机城址市民の森
・A峠  → 緑山峠

 緑山峠はイニシャルが異なりますが、近くに霊園がある(緑山霊園)ことや急カーブが連続している等の情報が合致しているのでここだろうと推測した次第です。
 あ、ちなみに私は別に行く気はないですからね。心霊スポットなら東京の千駄ヶ谷トンネルに昼間に行ったことがありますけど、もうそれで充分です。

BERRY MAGAGINE

http://www.berry-mag.com/

J.L.ボルヘス「結末」

あらすじ…雑貨屋で黒人の男がギターを弾いていると、よそ者がやってきて黒人と会話を交わし、店の外で決闘する。

 荒野のアウトローの結末部分だけを、雑貨屋の主人レカバレンの目を通して描いています。結末部分だけを切り取って、しかも決闘の当事者たちの過去を全く知らない人間の目を通しているため、二人の会話だけではよくわからないところがあります。そこは想像で補えってことかな。

【参考文献】
J.L.ボルヘス『伝奇集』岩波書店

J.L.ボルヘス「死とコンパス」

あらすじ…北ホテルの一室でユダヤの立法学者ヤルモリンスキー博士が殺された。エリック・レンロット捜査官は、事件はヘブライ学と関係があるとにらむ。

 突っ込みどころを一つ。レンロットはトリスト=ル=ロワの別荘へたった一人で行っています。しかもその際に、そこへ行くとは告げないで。せめて行き先を同僚か上司に言っておけば、自分が消されてもそれが犯人逮捕の手がかりにはなったでしょうに。

【参考文献】
J.L.ボルヘス『伝奇集』岩波書店

J.L.ボルヘス「バベルの図書館」

 宇宙的な広がりを持つ図書館について述べたもの。もちろんボルヘス流の幻想世界の図書館です。
 ところで、図書館の中のとある本がどんな言語で書かれていたのかについて調査がなされると、以下のことがわかりました。

 それは、古典アラビア語の語尾変化を有する、グアラニー語のサモイエド=リトアニア方言であった。(P108)

 古典アラビア語は中東の言語、グアラニー語は註によれば南米インディオの言語の一つ、サモイエドは知りませんがリトアニア語は北欧の言語と、バラバラすぎます。ぶっちゃけて言うと出鱈目です。
 この出鱈目っぷりは、他の部分も厳密に調べていくとぞろぞろ出てくるかもしれませんな。

【参考文献】
J.L.ボルヘス『伝奇集』岩波書店

アガサ・クリスティー『邪悪の家』早川書房

あらすじ…名探偵ポアロが出会った美女ニックは、古びた邸の所有者であった。彼女は「三度も命を狙われた」ことを告白するが、まさにその最中、ポアロの目の前で彼女の帽子が撃ち抜かれた! ポアロは真相を探るべく邸に赴くが、手がかりはまったくつかめない。不安が支配する中、邸でパーティが催されることになるが……。(裏表紙の紹介文より引用)

 いやあ、残念。今回はポアロが犯人の名前を告げるページ(P386)の1ページ手前でようやく真犯人に辿り着きました。
 本書を読み終えた後、裏表紙の紹介文の「三度も命を狙われた」という部分がカッコ付きであることに気付きました。わざわざカッコで括っていることを見落としていたようです。その意味に気付いていればと思うと少々悔しいです。
 少々、としたのは、あのエルキュール・ポアロだって今回の事件では長らく見落としていたことがあったからです。灰色の脳細胞を以てしてもあれだけ苦戦したのなら、それよりはるかに劣る私の脳細胞ではしょうがない。

【参考文献】
アガサ・クリスティー『邪悪の家』早川書房

J.L.ボルヘス「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」

あらすじ…私(ボルヘス)は友人ビオイ=カサレスとの会話からウクバールについて知る。それをきっかけにして更に調べていくと、ウクバールの文学に登場する場所がトレーンであり、偶然見つけたトレーンの百科事典に捺されていたスタンプの文字がオルビス・テルティウスだった。

 中盤以降はトレーンの世界を延々と書き綴っています。ただし、トレーンにはドラゴンや妖精などが出てくるわけではなく、言語の構造や哲学などが述べられているので、退屈といえば退屈です。
 RPGでは新しい世界を創造することは珍しくないので、このトレーンもそういう新世界だと見なしていいでしょう。ただし、その世界からは神話的なものや怪異等は周到に排除されているので、RPGの世界ではまずお目にかかれないものではありますが。

【参考文献】
J.L.ボルヘス『伝奇集』岩波書店

魯迅「白光」

あらすじ…県試にまたも落ちた陳士成は、呆然と家に帰る。夜、陳家の埋蔵金の話を思い出し、白光に導かれるように発掘作業に取りかかる。

 この陳士成は子供たちに学問を教えているし、「おんぼろ屋敷」(P168)を人に貸しているほどだから、孔乙己(P32-38)ほど落ちぶれてはいないものの、家族もいないところをみるとやはりそれなりに落ちぶれています。
 その上彼は「白髪まじりの短い髪」(P167)の持ち主であることから老境に差しかかっており、しかも県試に落ちた回数は「十六回」(P169)。つまりそれだけ齢を重ねても鳴かず飛ばずという状態です。
 そんなわけで精神的に追い詰められて、しかも夕食を摂っていないから正常な判断ができなくなっていたんでしょうね。

【参考文献】
魯迅『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』岩波書店

魯迅「狂人日記」

 自分が家族に食べられるという妄想に陥った狂人(被害妄想狂)の独白を日記形式(ただし日付はない)で述べたもの。

 私は高校生の頃に陳舜臣版『十八史略』を読んだことがあるのですが、その中に飢饉や篭城で食糧不足になると「子をかえて食う」といった記述が何度も出てきたのが記憶に残っています。
 それから、日本人の間でも有名な『三国志』では、劉備玄徳が人肉を食べて、しかもそれが美談になっていたりします。
 そういう食人の歴史を踏まえた上でこの狂人日記を読むと…いや、たとえ踏まえたとしても彼が狂っていることに変わりはないか。まあ、狂気ゆえに怖いっちゃ怖いんですがね。

【参考文献】
魯迅『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』岩波書店

気狂いピエロ(1965年、仏伊)

監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:アンナ・カリーナ、ジャン=ポール・ベルモンド
原題:Pierrot le Fou
備考:ヌーヴェルヴァーグ

あらすじ…妻子持ちのフェルディナンは昔の恋人マリアンヌと再会する。そして二人はマリアンヌの情夫を殺して駆け落ちする。

 私には早過ぎました。
 一応、ストーリーはどうにかこうにか理解できなくもないのですが、演出や展開が斬新(あるいは前衛的)で今の私にはうまく追うことができませんでした。
 例えばナレーションではフェルディナンとマリアンヌが交互にしゃべるのですが、論理的に解説するのではなく断片的に話すので、観ているこちらとしては想像で補っていかないといけません。それも、進行するストーリーを追いかけながら。結構疲れます。
 他にも考察を加えることのできる部分がいくつもありますが、私の手に負えないのでやめておきます。
 ただ一つ、収穫があったとすれば、ヌーヴェルヴァーグなるものを味わうことができたということです。無論、あの味を論理の白日の下に開陳することはできないし、これがヌーヴェルヴァーグの全てではないのですが、それでも「気狂いピエロ」がヌーヴェルヴァーグ作品である以上、ヌーヴェルヴァーグに触れたことになります。

 最後に一つ。フェルディナンとマリアンヌ、こいつら一体何を考えているんだと思いましたが、彼ら――そう、フェルディナンのみならずマリアンヌも!――彼らの振る舞いは「気狂いピエロ」の名にふさわしいと思い直しました。

気狂いいピエロ

死海殺人事件(1988年、アメリカ)

監督:マイケル・ウィナー
出演:ピーター・ユスティノフ、パイパー・ローリー、ローレン・バコール
原題:Appointment With Death
原作:アガサ・クリスティー『死との約束』
備考:ミステリー

あらすじ…エルキュール・ポワロが旅行中にまたしても殺人事件に巻き込まれた!

 今回の事件の現場は死海の畔の遺跡発掘現場で、殺されたのは大富豪の未亡人。ポワロが殺人事件に巻き込まれるのはいつものことだし、事件発生前に思わせぶりな会話をポワロがこっそり聞いてしまうのもいつものことです。
 ただちょっと目を引いたのが、今回のポワロがフサフサの白髪になっていたことです。卵型の頭はどこへ行った…。

 最後にどうでもいいかもしれないことを一つだけ。私はこの映画のDVDを近所のレンタルビデオ店で借りて視聴したのですが、吹き替えで観た場合はところどころ英語に戻っていました。おそらく、その部分は日本で上映もしくは放送される際にカットされて吹き替えがなかったのでしょう。
 ですので、この映画は字幕で観ることをお勧めします。字幕ならば途中で言語が変わることはありませんでしたし、何より演じている俳優たちの声を聞くこともできますしね。

【関連記事】
オリエント急行殺人事件(1974年)
ナイル殺人事件

ピンク・フラミンゴ(1972年、アメリカ)

監督:ジョン・ウォーターズ
出演:ディヴァイン、デヴィッド・ローチャリー、メアリー・ヴィヴィアン・ピアース、ミンク・ストール、ダニー・ミルズ、エディス・マッセイ
原題:Pink Flamingos
備考:R-18

あらすじ…世界一お下劣な女ディヴァインは、バブス・ジョンソンという名でボルチモアのトレーラーハウスに家族とともに住んでいた。とそこへ、我こそは世界一お下劣と称するマーブル一家が戦いを挑んでくる。

 まず最初に断わっておきます。良い子のみんな、カタギの衆、正常な性的嗜好の持ち主は、このゲテモノ映画を観てはいけません。下手するとアンチモラルの強烈な毒気に当てられて精神的大ダメージを食らってしまうかもしれないからです。
 尚、私はフェデリコ・フェリーニ監督の「サテリコン」を観賞して免疫ができていたので大丈夫でした。
 ちなみにサテリコンもゲテモノではありましたが、まだ芸術作品としての気品の高さは備えていました。しかしピンク・フラミンゴにはそんなものなどありません。ひたすらお下劣です。

 お下劣エピソードして鶏との3Pや犬のウンチ食いなどが有名ですが、個人的にツボに入ったのが警官殺しです。
 ディヴァインの誕生パーティーが行われているところへ、「ヒッピーが乱交パーティーを開いている」というマーブル夫妻の通報を受けて4人の警官が現場へ駆けつけると、パーティーの参加者たちが一斉に襲いかかって4人を殺し、しかも死体を引き裂いて食べてしまいます。
 冷静に考えるとこれはアンチモラルではあってもお下劣とは別方面のところにあるもののようですが、パーティーの狂乱という文脈の中で見るならばありえなくもない。又、この行為はギリシア神話のマイナデス(狂乱せる女たち)を想起させます。

ピンク・フラミンゴ

村上春樹『ねむり』新潮社

あらすじ…ある女性が、突然眠れなくなる。しかも妙なことに、眠らなくても日常生活に支障を来たさないのだ。こうして眠れなくなって17日が過ぎ…。

 カット・メンシック(ドイツのイラストレーター)の挿絵がなかなか面白い。例えば表紙の左中央に配置されている絵ですが、その絵の大きいやつがP88に掲載されています。それを見ると髪の毛の上をたくさんの芋虫が這っていることに気付きました(注意深い観察者なら表紙を見た段階で気付くはずですが、どうも私は注意力散漫のようです)。この絵は生理的嫌悪感と不安感をうまくかき立ててくれます。怖い怖い。

【参考文献】
村上春樹『ねむり』新潮社

『楽楽 横浜』JTBパブリッシング

 横浜へ行く用事ができたので、事前の下調べのために近所の図書館でこのガイドブックを借りました。
 中をチェックしてみると、飲食店情報が結構多い。そりゃあ横浜中華街とかがあるから、そうなってしまうのもわからなくはないのですが、例えば風光明媚な場所や神社仏閣などの情報がもう少しあってもいいかなと思いました。一日のうちに5回も6回も食事はできませんが、観光スポットを5~6箇所踏破することは可能ですからね。
 もちろん横浜の観光スポットも飲食店や土産物店などの商業施設ほどではないにせよ掲載されています。ええと、横浜赤レンガ倉庫(P36-41)は行ったことがありますな(ちなみにこの赤レンガ倉庫内には、カフェや雑貨屋などの商業施設が犇いています)。

http://www.jtbpublishing.com/

【参考文献】
『楽楽 横浜』JTBパブリッシング

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