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春田龍介について

 山本周五郎の少年探偵・春田龍介シリーズは以下の通り。

危し!! 潜水艦の秘密
黒襟飾組の魔手
幽霊屋敷の殺人
骸骨島の冒険
謎の頸飾事件
・黄色毒矢事件
ウラルの東

 この内の「黄色毒矢事件」は散逸した模様で読むことができませんでした。
 それはさておき、この春田龍介は、成績優秀、スポーツも上手、喧嘩も強い、品行方正、家も裕福、親戚には子爵の伯父がいるというから血筋もいいという、一種の完璧超人というクソつまらないキャラクターとなっています。
 シャーロック・ホームズにせよ、エルキュール・ポアロにせよ、魅力的なキャラクターにはどこかしら欠点を持ち合わせているものです。例えばホームズなら女性嫌いで私生活がだらしない、といったようにです。

追伸:改めて春田龍介シリーズのレビューを読み返してみると、春田龍介のキャラクターについて言及していないことに気付きました。そこで改めてこの記事を書いてみた次第です。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「天狗岩の殺人魔」

あらすじ…探偵趣味の医大生・木村祐吉は、殺人鬼権六が近くに潜伏していると知り大興奮。そんな中、石屋の源助老人が殺害される事件が発生する。

 読み終えてふと思ったことが一つ。
「あれ? 殺人鬼権六はどこへ行った?」
 あの殺人鬼がどうなったかを記すにはたった一行あればいい。それを怠ったということは、作者はど忘れしていたのかもしれません。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「亡霊ホテル」

あらすじ…伊藤豊治青年は、宿泊先のホテルで、ボーイから幽霊が出現する部屋の話を聞く。その日の夕方、豊治の妹みどりが豊治の部屋を訪れるが、行方不明になってしまう。

 幽霊騒ぎでホテルの一室に誰も寄り付かなくさせ、その部屋で実は…って、ホテル側はよく気付かなかったものですな。息を殺して潜伏するだけならまだしも、部屋のとある場所を勝手に改造しちゃっています。いつの間に、どうやって改造したんだ?

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「殺生谷の鬼火」

あらすじ…北海道の名家出身の椙原敦夫は妹から急報を受け帰郷する。その地の殺生谷には、椙原家の先祖が「土人」たちを殺したという忌まわしい伝説があった。

 コナン・ドイル『バスカヴィル家の犬』を下敷きにしていることに気付きました。以下、共通点(ネタバレあり)。

・その田舎の名門の家には暗い過去(伝説)があって、それが犯行に利用される。
・犯行の動機はその名家の財産。
・犯人は動物(犬または狼)を使って化け物に見せている。
・犯人の末路。

 他にもあるかもしれませんがとりあえずこれにて。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「ウラルの東」

あらすじ…天才少年探偵・春田龍介は満州国政府から招聘を受ける。そこで子分のメリケン荘太を連れて大陸へ渡り、満州国政府転覆を企む秘密結社・匕首党と血みどろの戦いを繰り広げる。

 春田龍介シリーズの中で、未発見の「黄色毒矢事件」を除けば、この作品は残虐度が一番高い。匕首党が人を殺しまくるのみならず、春田龍介も機関銃を奪って殺しまくったり、短刀で刺し殺したり、ピストルで財界人を暗殺したりと、修羅場に次ぐ修羅場です。よく神経と体力がもったものだ。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「謎の頸飾事件」

あらすじ…牧野子爵の新年宴会で、黄色ダイヤの頸飾が何者かに盗まれる。宴会に参加していた天才少年探偵・春田龍介と、警視庁の樫田刑事が捜査に乗り出す。

 「黒襟飾組の魔手」で狙われた黄色ダイヤの頸飾が再び狙われます。でも、「黒襟飾組の魔手」では持ち主が若林子爵だったのに、今回は牧野子爵になっています。
 両者共に春田龍介の伯父という設定だから同一人物という可能性もありますが、若林子爵が牧野子爵に改名するとは考えにくい。どこぞのスパイ小僧とは違うのだよ。
 だとすれば、若林子爵と牧野子爵は別人で、前者が後者に売り渡したと考えるのが自然です(この際、作者が名前を間違えただけという可能性には目をつぶっておいてやろう)。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「骸骨島の冒険」

あらすじ…ある日、天才少年探偵・春田龍介は、米国犯罪学者メトラス博士から晩餐の招待を受ける。翌日には父親が開発したC・C・D潜水艦の試運転があるので龍介は躊躇するが、父親のすすめで晩餐に赴くことにする。

 「危し!! 潜水艦の秘密」ではエンジンの実験段階だった新型潜水艦がついに完成し、いよいよ試験運転となります。又、「黒襟飾組の魔手」で登場した混血児少年ジョオジがチャアリイと名を変えて再登場します(スパイが偽名を使うのは珍しいことではないので、両方とも偽名の可能性がある。あるいは、チャアリイ・ジョオジ、もしくはジョオジ・チャアリイという名前なのかもしれない)。

 ちなみに、最後の説明の段で龍介は、敵組織が「海中に骸骨島と称する島を造り」(P102)とあっさり説明していますが、海浪(ふたり)と呼ばれる危険な潮流がある海中に、どうやって秘密基地を建設したんだ? しかも横須賀沖は日本海軍の基地の目と鼻の先なのに、誰も気付かなかったのか?

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「幽霊屋敷の殺人」

あらすじ…芝区白金三光町の白堊館で、松川源二工学博士が不審死を遂げる。松川源二の弟・松川捨三が天才少年探偵・春田龍介に事件の解明を依頼する。

 「危し!! 潜水艦の秘密」ではスパイ事件、「黒襟飾組の魔手」では盗難事件を解決してきた春田龍介が次に取り組むのは殺人事件。探偵物では殺人事件は欠かせません。又、今回の事件では暗号解読も登場します。
 ただ、犯行に使われた毒物の説明に少々疑問がありますな。「死んでから三時間経てば自然と消えてしまう秘密な毒」(P68)って何ですか。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「黒襟飾組の魔手」

あらすじ…ある日、天才少年探偵・春田龍介のもとに黒襟飾(ネクタイ)組と名乗る謎の組織から挑戦状が届く。龍介の伯父・若林子爵が所有する黄色金剛石(イエロオダイア)の頸飾を盗み出すという。

 犯人の正体についてはネタバレになるので明かせませんが、犯人に対して「お前は何をやっているんだ?」と突っ込まずにはいられませんでした。本来の任務に失敗したのみならず、官憲に捕まって面が割れているんだから、さっさと本国に帰れよ。それに、犯行の動機(これも例によって明かせません)だって公私混同じゃないですか。

 ところで、こんな文章がありました。

 龍介が家へ帰ってみると、伯父に当る若林子爵家から、ぜひこっちへくるようにと電話がかかって来ていた。もしやと思ったので、龍介は自動車で出掛けた。(P25)

 これをそのまま読むならば、龍介は中学生にもかかわらず自動車を運転していることになります。しかし別の頁を読むと、

 自動車へ乗った龍介は運転手に、
「大急ぎ! 警視庁へやってくれ給え!!」と、命じた。
(P29)

 とあるので、運転手が別にいることがわかります。おそらく、父親のお抱えの運転手もしくは春田家の書生だと思われます。
 まあ、「危し!! 潜水艦の秘密」でピストルを平然とブッ放しているくらいだから、無免許運転をしていたとしても不思議はありませんが。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

山本周五郎「危し!! 潜水艦の秘密」

あらすじ…天才少年探偵・春田龍介は謎の暗号文を入手し、解読に取り組む。その日の夜、龍介の父・春田博士が新型潜水艦の燃料機関の実験をする。

 突っ込みどころがいくつかあります。

・外国のスパイの暗号文をなぜ中学生たちが入手できたのか不明。しかも彼らは天才少年でも何でもなくただのモブキャラ。
・暗号文は外国のスパイが用いているのに、なぜか日本語。しかも暗号文というほどにはお粗末な出来である。
・最高機密の実験に中2と小6のガキが立ち会う。しかもそのうちの一人は当然のようにピストルを持っている。
・スパイが文子をさらった理由も不明。人質にするつもりだったのかもしれないが、人質の役割を果たしていない。

【参考文献】
末國善己[編]『山本周五郎探偵小説全集1 少年探偵・春田龍介』作品社

ボルヘス「ペドロ・サルバドーレス」

 秘密警察に追われて9年間も自宅の地下室に隠れていた男の話。この物語の最後に作者はこう言って締めくくっています。

 ペドロ・サルバドーレスの運命は、ほかの多くのことと同じように、われわれが理解できそうでいて、十全に理解することのできない何かの象徴のように思われる。(P196)

 少々回りくどい表現ですが、要するに作者は彼を十分に理解できなかったということでしょう。
 ちなみに私もあんまり理解していませんが、案外、地下室の居心地がよかったのかもしれませんな。
 とはいえ、自宅の地下室に9年間も引きこもっているよりは、ほとぼりが冷めて秘密警察の監視が緩んだ頃に国外へ脱出した方がまだしも健康的ってもんですぜ。

【参考文献】
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『ボルヘスとわたし 自撰短篇集』筑摩書房

ボルヘス「ボルヘスとわたし」

 自分を「ボルヘスという他人」(P158)と突き放して見ることで、自分とボルヘスの関係を述べています。
 これだけではよくわからないと思うので、喩えとして芸能界のアイドルを使って説明してみます。
 ここにAという少女がいます。Aはアイドルデビューに際して、Aという名前では地味だからということでBという芸名で活動することになります。Aは自分(すなわちアイドルB)が活躍するために、歌やダンスに磨きをかけたり、健康や美容に気を使ったりします。やがて人気者となったA(B)ですが、人々が見ているのはBとしての自分であって、Aではないのです。そんな時、Aはどう思うでしょうか?
 さて、ここまで考えることができるのなら、AとBが同一人物であるにもかかわらず、両者を分けて思考していることに気付くはずです。その要領で「わたし」と「ボルヘス」を見ればいくらかの理解ができるのではないでしょうか。

【参考文献】
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『ボルヘスとわたし 自撰短篇集』筑摩書房

ボルヘス「アレフ」

あらすじ…ある日、友人のダネリから電話がかかってくる。自分の家が取り壊しの危機にあるのだが、その家の地下室にはアレフがあるのだという。私(ボルヘス)はアレフを見に行く。

 アレフといっても日本の某有名カルト教団のことではありません。念のため。
 さて、本作のアレフについてちょっと説明しておくと、一般的には「ヘブライ語のアルファベットの最初の文字」(P31)であり、この物語の中では全てのものを見ることができる神秘の球体です。
 もし仮にそんなものがあるとして、全てのものをいっぺんに見たら脳が情報を処理しきれずに発狂するか廃人になるかしてしまうんじゃないでしょうか。あるいは、目が潰れてしまうとか。

追伸:この物語の前半部分には死んだベアトリス・ビテルボへの恋情や、ダネリとの文学談義が書かれているのですが、本筋に至るまでの長々とした前置きくらいに見なして、あらすじからは割愛しました。

【参考文献】
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『ボルヘスとわたし 自撰短篇集』筑摩書房

Triino[トリーノ]2012 Summer vol.23

 日本野鳥の会が発行するフリーマガジン。
 本誌の中の記事「ツバメが直面する危機」(P18-19,文=山本裕)では、原発被災地の南相馬市、飯舘村、相馬市のツバメの棲息状況を調査・レポートしています。

 

今回の取材の結果、制限区域内のツバメの数は極端に少なく、その原因としては、放射性物質の影響で広い範囲で水田が放棄地をなっていること、また人が住まなくなったため、カラスなどの天敵に襲われやすくなっていることなどの現状が確認できました。(P19)

 なるほど、ということはツバメの繁栄は人間社会に依存しているわけですか。とはいえ、ツバメは害虫を食べてくれるため、人間とは共生関係にあるともいえます。
 野鳥に詳しい人ならば、私の感想を読んで「何を今さら」の感があるかもしれませんが、詳しくない者の一人として所感を述べさせてもらいました。

Toriino

http://www.wbsj.org/

ロード・ダンセイニ「成れの果て」

 とても短いので全文を引用します。

 ひとりの広告屋が丘陵の彼方にそびえる大聖堂のいくつもの尖塔に気がついて、つくづく打ち眺めてから泣き出した。
「ああ、あれが『おいしさ抜群、栄養満点、スープに入れておためしください、ご婦人方も大絶賛の<ビーフォ>です』の広告だったら、いうことないんだがなあ」
と、広告屋はつぶやいた。
(P97)

 大聖堂の尖塔という目立つところに広告を掲示することができれば、この広告屋は大儲けできます。もちろんそんなことはできないので広告屋は泣き出したのですが、そういう発想を馬鹿げたものとして退けずに、泣き出すほど本気になって考えること自体、商業主義が信仰を凌駕しています。
 しかも、この作品の原題が「What We Have Come to」で"We"(我々)の語を用いていることから、こんな風になったのはこの広告屋一人のみではなく、我々もそうなんだということを言い表わしているようです。

成れの果て

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「ひとちがい」

あらすじ…<悪名>が名声のふりをして大勢の人間を崇めさせる。

 「あいびきの約束」に登場した<名声>がここにも登場します。もちろんこれも寓意的作品です。

 「あなたはどなた?」と<名声>が尋ねました。
 「わたしは<名声>」と<悪名>が答えました。
 それを聞いて<名声>はそっと立ち去ったので、その姿が消えたことに誰ひとり気づきませんでした。
(P49)

 <悪名>が<名声>の名を騙っているのは、名声を得たと自分では思っていても実際に得ているのは悪名の方だったりすることがあることを示しています。悪徳政治家やブラック企業の経営者を見るといい。
 又、<名声>がそっと立ち去るのに誰も気付かないのも、人間は名声を失っていることに気付かないものだということを示しているのでしょう。

 それから最後に、<悪名>は自分を崇めていた者たちを「生まれ故郷の奈落へと連れていったのでした」(P49)とありますが、これを某有名占い師風に言うならば、
「ズバリ言うわよ。アンタたちは名声を得ていると思っているかもしれないけど、それは悪名なの。このままだとアンタたち、地獄に落ちるわよ!」
 となります。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「虎の毛皮」

あらすじ…アルフレッド・ジャーク氏が勤める商店にタヴァースと名乗る紳士がやってきて、大きなテーブルを特注する。そこに虎の毛皮を広げておくのだという。タヴァースは虎の毛皮を入手するため、インドへ虎狩りに行くが…。

 虎狩りの結末がどうなったかは伏せておくとして、そもそもタヴァースはなぜ虎の毛皮をテーブルの上に広げようと思ったのでしょうか?
 タヴァースはインドのハンティングで羚羊、バラシンガ鹿、ヌルガウを撃ち、「いくつか見栄えのいい獲物の首を手に入れ」(P293)ました。その首はどうするのかといえば、部屋に飾って自分の「戦果」を誇示するのです。
 だとすれば、虎の毛皮も同じように誇示するために手に入れたかったのでしょう。誇示するなら虎の敷皮でもいいじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、タヴァースによればテーブルの上なら「誰も上を歩いたり足を引っかけたりしないし、皮を擦り切れさせることもない」(P292)という利点があるそうです。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「あいびきの約束」

あらすじ…詩人は<名声>に求愛するが、<名声>は見向きもしない。

 寓意的作品。
 <名声>が「夕には朽ち果てるとわかっているつまらぬ花冠」(P11)しか身に着けようとしないのは、名声がそれぐらいしか長続きしないことを示しています。
 又、最後の<名声>のセリフに、

「あと百年もしたら、あなたの<仕事場>の裏の墓場で会ってあげてもよくってよ」(P12)

 とありますが、人間は通常は100年も生きられないので、100年後には詩人は既に死んでいるはずです(墓場という言葉もそれを暗示している)。これはつまり、詩人が名声を得るのは死んだ後ということなのでしょう。
 生前は報われずに死後に名声を得る詩人か…。私は詩人については詳しくは知らないのであまり参考にならないかもしれませんが、宮澤賢治や石川啄木もそうだった気がします。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「老人の話」

あらすじ…オハンラハンという人物の案内で湿地へ狩りに出かけた時、オハンラハンから鮮やかな緑の茂みを踏むなと警告を受ける。その理由を訊ねると、その先に妖精王の宮殿があるという。

 妖精王の宮殿へ行くと、エールを飲ませてくれて、更に地上に戻してくれます。それだけならまだいいのですが、浮き上がってみると「実は百年もの歳月が過ぎているか、もっとはるかに長い歳月が過ぎているのだ」(P229)とのこと。
 これは浦島効果ですな。昔話「浦島太郎」によって日本人の間に広く知られている浦島効果が、アイルランドにもあるのだということがわかります。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「不死鳥を食べた男」

あらすじ…貴族の鶏小屋から逃げ出した金鶏を不死鳥だと思って食べたパディ・オホーンは、それ以来、幽霊や妖精が見えるようになる。

 パディ・オホーンが不死鳥を食べてからどんな怪異に遭遇したのかというと、大体以下の通り。

・幽霊(第2話)
・レプラホーン(第3話)
・バンシー(第4話)
・ジャック・オ・ランタン(第5話)
・白鳥に変身させられた王子(第6話)
・魔女(第7話)
・死霊の大行進(第8話)
・ラテン語(第9話)
・妖精の国(第10話)

 この中のラテン語について少々解説しておくと、第9話で弁護士が裁判官に言った言葉が裁判の流れを大きく変えることになるのですが、その言葉はラテン語で無学のパディには意味などサッパリわからない。しかし劇的な効果があったことは実感できたので、それが「魔法のことば」(P175)だとパディは解釈したのです。
 このラテン語のエピソードを除けば、「不死鳥を食べた男」はアイルランドのちょっとした妖怪博物誌として読めなくもない。
 例えばジャック・オ・ランタンの大きさは野兎くらいよりちょっと大きいくらいで、泥炭地の奥に生えている赤い苔と緑の苔の中央に家がある(P145)なんていう情報は結構新鮮でした。無論、本当かどうか確かめようがないし(少なくとも私は見鬼ではないので、アイルランドの泥炭地に行ってもわかるまい)、これはそういう話なんだと受け取っておくぐらいでいいかもしれません。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「記憶違い」

あらすじ…ジョニーは夜の戦場で意識を取り戻す。だが、どちらが敵でどちらが味方かわからなくなっていた。ジョニーは暗闇の中で推理を巡らせるが…。

 この作品は原題が「A Lapse of Memory」で邦題が「記憶違い」となっています。手許の英和辞典(学研)によると「a lapse of memory 記憶の誤り、ど忘れ」とあり、訳としては間違ってはいないのですが、そもそもジョニーは記憶違いというより記憶喪失に陥っていることから、寧ろ「ど忘れ」とでもした方が適当かと思います。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「理由」

あらすじ…夜。館の中で二人の若い男が決闘をしていた。一方がもう一方をついに殺すが、勝った男はなぜ戦うことになったのか思い出せなかった。

 「何本もの食卓用の葡萄酒の瓶」(P397)があったことから、酔っ払った状態で喧嘩になり、しかも「この二人の友人たちは皆帰ってしまった」(P397)とあるから止める者もなくエスカレート、ついに剣を交えることになったものと思われます。
 戦いの理由? 思い出せないというくらいだから大したことではありますまい。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「テーベのスフィンクス(マサチューセッツ州にて)」

あらすじ…鋼でできた街に住む大富豪の女が、スフィンクスを欲しがる。人々は手を尽くしてようやくテーベのスフィンクスを見つけて女のもとへ連れて行く。女はスフィンクスを飼い始めるが…。

 スフィンクスを手に入れて女はそれは喜びました。そんなある日、スフィンクスが長いこと女の目をのぞきこんでいたかと思うと、小声で女にひとつの謎をかけました。
 答えることができずに、女は命を落としました。
(P73)

 オイディプス(ギリシア神話の登場人物。悲劇『オイディプス王』の主人公)は謎かけを解いて食われずにすみましたが、彼女にはオイディプスほどの知恵はなく、オイディプスが訪れる以前の旅人たちと同様に食べられてしまいました。

 スフィンクスはふたたび口をつぐんでしまいました。彼女がこの先なにをするつもりでいるかは誰にもわかりません。(P73)

 スフィンクスが飼われていた屋敷には使用人が大勢いるので(その中にはスフィンクス担当もいるはず)、次はこの人たちがスフィンクスの餌食になるでしょう。そしてその次は鋼でできた街の人たちが…。こうしてオイディプスのような英雄が出現するまでスフィンクスは謎かけを出しては人を喰らい続けるものと思われます。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「歌もたぬ国」

あらすじ…詩人が歌のない国にやって来る。詩人はその国の人たちに歌をプレゼントするが…。

 歌もたぬ国の民の反応は以下の通り。

「このご時世にそんなくだらんことにかまけている暇があると思うとは、このごろの商売がどれだけ大変なものか、とんとご存知でないらしい」(P37)

 かつてはこの国にも歌はあったけれども、価値のないものとしてこれを捨ててしまったようです。
 それにしても味気ない人たちですねえ。彼らに歌の重要性を納得させるとしたら、小室哲也や秋元康が作曲によっていくら稼いだか、あるいはロックスターがコンサートツアーでいくら稼ぎ出すのかを教えてやるといいでしょう。それはそれで味気ないかもしれませんが、商売にご執心の人には効果的だと思います。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「パンの墓碑」

あらすじ…人々は牧神パンの墓碑を建てる。だが、パンはそれを見て笑う。

 「パンの死」の姉妹作品。
 尚、その墓碑には「こうべを垂れて首根を天使たちに踏みつけられたパンの姿が彫ってあった」(P98)とあります。天使たちはキリスト教の象徴であり、それに対するパンは土着の信仰の象徴といったところでしょうか。墓碑を建てることによってそういった土着の信仰を抑え付け、葬ったつもりだが、最後にパンを登場させることで、それはまだ生きているということを示しています。

パンの墓碑

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

ロード・ダンセイニ「パンの死」

あらすじ…ロンドンから来た旅人たちは、アルカディアの野に横たわるパンを見て彼の死を嘆き悲しむ。だが、アルカディアの乙女らの笑い声が聞こえると、パンは跳ね起きる。

 何だ、寝てただけじゃん!
 尚、この作品の主人公・パンは食べ物のパン(bread)ではなく、アルカディアの牧神パン(Pan)です。お間違えのないように。
 ちなみに、パンはニンフのシュリンクスを追いかけるというエピソードがあり、好色という特徴を持っています。乙女の笑い声に反応したのもその好色さゆえでしょうか。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』河出書房新社

サテリコン(1969年、伊仏)

監督:フェデリコ・フェリーニ
出演:マーティン・ポッター、ハイラム・ケラー、マックス・ボーン、マリオ・ロマニョリ、サルヴォ・ランドーネ
原題:Satyricon
原作:ペトロニウス『サテュリコン』
備考:芸術映画

あらすじ…青年エンコルピオは友人のアシルトに美少年の奴隷ジトーネを奪われる。エンコルピオはアシルトとの決闘の末にジトーネが役者に売られたことを知り、彼を取り戻す。だが、ジトーネはアシルトを選ぶ。傷心のエンコルピオは詩人エウモルポに連れられて大富豪トリマルキオの饗宴に赴く。

 ホモの三角関係から始まって最後はカニバリズム(人肉食)と、超展開が続きます。
 この映画を観終えてから数週間経った状態で本記事を執筆しているのですが、「アレは一体何だったのか…」と眩惑されたような心地がします。うまく表現できません。

 ちなみに冒頭のエンコルピオとジトーネの独白は説明口調になっていますが、これは舞台演劇っぽい。そう思っていたら、その後もセットがいかにも演劇の舞台のようになっていたことに気付きました。
「だとすれば、これは前衛劇じゃないか」
 と感じました。原作は紀元1世紀の「古典」なのに!

G・I・ブルース(1960年、アメリカ)

監督:ノーマン・タウログ
出演:エルヴィス・プレスリー、ジェームズ・ダグラス、ロバート・アイヴァース、ジュリエット・ブラウズ、レティチア・ローマン
原題:G.I.Blues
備考:音楽映画

あらすじ…西ドイツ駐留のアメリカ軍兵士タルサは、退役後に仲間たちと共にナイトクラブをやろうと計画していた。そんなある時、タルサは開業資金の300ドルを賭けて“ダイナマイト”と呼ばれる女性を口説くことになる。

 プレスリーとヒロインが一緒に町を歩いているシーンで合成が使われているのを見た時には苦笑してしまいました。背景は西ドイツ、そして二人の撮影はスタジオのようです。今だったら外国でのロケなんて珍しくないのですが、当時は違ったわけですな。

 ちなみに、ヒロインは「ダイナマイト」と呼ばれるセクシー美人…ということなのですが、それほどでもなかったような気がします。やはりプレスリーを前にすると霞んでしまうんでしょうかねえ。あ、でも、長い軍隊生活で女に飢えてギンギンになっている野郎どもにとっては、これでも充分に「ダイナマイト」級の美人か。

マイケル・ジャクソン in ネバーランディングストーりー(2004年、アメリカ)

監督:ブライアン・マイケル・ストーラー
出演:マイケル・ジャクソン、エリック・ロバーツ、チャーリー・シュラッター、スチュアート・パンキン、ジョイス・ジロー、エヴァン・マリトフ
原題:MISS CAST AWAY / MISS CAST AWAY AND THE ISLAND GIRLS
備考:コメディ、Z級バカ映画

あらすじ…東京で開催されるミス・ギャラクシー・コンテストに出場するためアメリカの美女たちが飛行機に乗って出発するが、飛行機は謎の島に墜落してしまう。

 ショボいCGと稚拙な合成が目に付きます。余程の低予算なのでしょう。
 それはさておき、この映画には様々な作品のパロディが詰め込まれています。私がざっと見てわかっただけでも、ジュラシック・パーク、オースティン・パワーズ、シックス・センス、ミッション・インポッシブル、マトリックス、七年目の浮気、スターウォーズ、スパイダーマン、超人ハルク、猿の惑星、サウスパーク、ハリー・ポッター、ET、タイタニック、…。元ネタがわからなかったものもありますし、もう一度視聴すれば「あ、これの元ネタは○○だ」といった新発見があるかもしれません。とはいえ、わざわざ2回観るほどでもありますまい。
 何度観ても新たな発見がある、という奥の深い映画もこの世に存在しますが、これはそういう映画じゃありません。気楽な気持ちで観るバカ映画です。

【マイケル・ジャクソン出演作品の記事】
This is it
ムーンウォーカー

十三の眼(1947年、日本)

監督:松岡定次
出演:片岡千恵蔵、喜多川千鶴、由利みさを、斉藤達雄、奈良真養、美奈川麗子
備考:サスペンス

あらすじ…凶悪な強盗事件が続発する中、警戒中の松川刑事と溝辺刑事が何者かに殺されるという事件が発生する。私立探偵・多羅尾伴内が捜査に乗り出す。

 まず最初に、主人公の名前について。この映画において主人公は物語の殆どを藤村大造で通しています。しかし、この作品は多羅尾伴内シリーズの一作ですので、ここでは多羅尾伴内と表記します。

 さて、その多羅尾伴内が松川刑事の遺影の前で泣きべそをかくシーンがあるのですが、そこで伴内が述べたところによると、自分は昔は怪盗紳士だったが、松川刑事のおかげでこうして更生できたとのこと。つまり松川刑事は大恩人であり、その大恩人を殺した憎っくき敵をやっつけてやろうということで捜査しているのです。
 ということは、誰からも依頼を受けていないわけで、費用は全部自分の持ち出しであり、しかも歓楽のデパート・ユニオンガーデンで派手に金を使っています。収支を見ると大赤字です。もっとも、伴内にしてみれば「これは金の問題じゃない」と言うかもしれませんが。
 それにしても、怪盗紳士って、自分から言うもんですかねえ。あ、でも、ナルシストなら言うかもしれません。

 ちなみに、酒席でのチンピラとの喧嘩のシーンではパンチに全然力が入っていなかったり、そもそも多羅尾伴内は探偵のはずなのにあまり推理をしていなかったりと、ツッコミどころが結構あります。探してみるといいかもしれません。

【関連記事】
多羅尾伴内

オリエント急行殺人事件(1974年、イギリス)

監督:シドニー・ルメット
出演:アルバート・フィニー、リチャード・ウィドマーク、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギールグッド、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ウェンディ・ヒラーレイチェル・ロバーツ、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビゼット、コリン・ブレイクリー、デニス・クイリー、ジャン=ピエール・カッセル、ジョージ・クールリス、マーティン・バルサム
原題:Murder on the Orient Express
原作:アガサ・クリスティー「オリエント急行の殺人」
備考:鉄道ミステリー

あらすじ…オリエント急行の一等車でアメリカ人の乗客ラチェット氏が殺される。たまたまそこに乗り合わせていた名探偵エルキュール・ポワロが捜査に乗り出す。

 ワルツに乗って汽車が走っているさまを見ると、旅情をかきたてられます。殺人事件が起きる前から緊迫したBGMを流すわけにはいかないので、これはこれで旅行映画っぽくていい。

 それからこれは原作と同じだったと記憶しているのですが、登場人物がどいつもこいつもキャラが濃い。しかもそれを演じているのが豪華メンバーだから凄いことになっています。特にイングリッド・バーグマンの演技は要注目で、「あの女性がイングリッド・バーグマンか!?」というくらいです。

 尚、私が視聴したのはTSUTAYAの発掘良品のレンタルDVDなのですが、こちらには特典として「アガサ・クリスティ:孫が語るその人物像」(マシュー・プリチャードへのインタビュー)と「『オリエント急行殺人事件』メイキング」(2004年製作)が収録されているのですが、これらは物語の核心部分(犯人の正体等)について触れているところがあります。原作を未読で犯人を知らない方は、本編視聴前には見ないように。

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