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ロード・ダンセイニ「望楼」

あらすじ…南仏プロヴァンスの町を見下ろす丘の上に古城があり、そこの朽ち果てた望楼(watch tower)から老人の霊が現われ、主人公に「サラセン人が来るぞ」と警告する。

 この場合のサラセン人とは、北アフリカ沿岸部を拠点とするイスラムの海賊のことで、中世において彼らは南フランス、スペイン、イタリアの沿岸部を襲っては略奪行為を働いていました。そしてこの望楼はサラセンの海賊をいち早く発見するために建てられたものです。
 このあたりの詳しい事情については塩野七生『ローマ亡き後の地中海世界』をお読みくださいとしか言いようがありません(他に格好の専門書があるのかもしれませんが、あいにく私は知らないし、入手のしやすさという点でも『ローマ亡き後の地中海世界』は優れている)。

 それはさておき、この作品の時代には「ヨーロッパの鉄道」(P312)とあることから少なくとも産業革命以降であり、ヨーロッパ諸国はアフリカを植民地支配するほど強くなっていて、サラセンの脅威はとっくに過去のものとなっています。
 主人公はそういった事情を老人の霊に説明するものの、彼は聞き入れず、「黙って塔へ向かって、崩れた階段を登っていった」(P312)とのこと。階段が崩れているということはその塔(望楼)は使われておらず、役割を終えていることは明らかです。
 もしもこれを補修して観光客が登れるようにすれば、望楼の亡霊が出現する心霊スポットとして有名になるかもしれません。又、その霊もサラセン人の脅威を人々に警告する役割を再び果たせるようになるでしょう(観光客が真に受けるかどうかはともかくとして)。

【参考文献】
ロード・ダンセイニ『世界の涯の物語』河出書房新社

【関連記事】
ローマ亡き後の地中海世界(上)
ローマ亡き後の地中海世界(下)

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