久生十蘭「ハムレット」
あらすじ…とある避暑地に謎の老人がいて、傍らには沈鬱な青年・祖父江光が付き添っていた。避暑に来ていた連中が祖父江に老人の正体を訊くと、祖父江は驚くべき物語を語り始めた。
この作品はまず避暑地から始まって、そこで祖父江が過去を語るという入れ子型の構造になっています。しかも、その過去の話はシェイクスピアの「ハムレット」を下敷きにしているという、いわば三重の構造とでもいうべき様相を呈しているのです。
ちなみに、祖父江はハムレット(もちろんシェイクスピアの方)についてある程度解説してくれてはいるのですが、それだけではおそらく不充分かもしれません。「敗戦後一年目のこの夏」(P52)に避暑に来ている聞き手たちは相当裕福であり、彼らは教養としてハムレットをある程度知っていたものと思われるからです。ですので、読者も本作を読む前に本で読んでおくか(たしか新潮社や筑摩書房などから文庫本が出ているはず)、それが面倒なら映画(ローレンス・オリヴィエ主演のものが有名だが、それ以外にもある)をレンタルして視聴するかしてハムレットの知識を蓄えておいた方がいいでしょう。
ところで、祖父江の話の中に次のような文章がありました。
小松顕正は端正な容貌と明晰な頭脳をもった秀抜な青年で、われわれ同年代一般の憧憬的人物だったのです。とりわけわたしなどはひそかに女性的な愛情さえ感じたくらいで、(P73)
ウホッ。私演会で小松(あの老人の正体)がハムレットを、祖父江がハムレットの友人ホレイショーを演じていたのですが、とあるゲイの人によるとホレイショーは実はハムレットにホモセクシャル(同性愛)の感情を抱いているとか(シェイクスピアが同性愛を大っぴらに書いているわけではないのですが、わかる人にはわかるそうな)。だとすればこの点においても両者は重なります。
【参考文献】
久生十蘭『湖畔/ハムレット』講談社
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