杉浦明平「秘事法門」
享禄4年(1531年)に起こった享禄の錯乱(大小一揆)を、三河出身で加賀にはるばるやってきた兵士(杉浦平右衛門)の視点から描いたもの。
加賀国一向一揆で加賀が本願寺(一向宗)の支配下に置かれたことは知っていましたが、その後の内ゲバまでは知りませんでした。内ゲバ、と書きましたが、朝倉や畠山などの介入もあったにせよ、外から見れば一向宗同士の抗争なので、そう表現した次第です。
ところで、本作の中の下間備中頼盛の演説がすごい、というよりひどい。若松本泉寺や三山、高田専修寺派、秘事法門(一向宗の異端)について、
もし途にてこの邪鬼らに出あいなば、生きても地獄、死んでも地獄であることを思い知らせるよう、なるべく苛めしいたげたうえで殺すべきじゃぞ。こやつらは、人間にあらず、犬猫にもあらず、血を吸うのみ、しらみ、だにのたぐいぞ。どのように扱おうと、いや、できるかぎり苛責するほど弥陀の本願にかなうんじゃ(P24)
と信徒たちに説いています。こんなことをガチで信じている門徒たちと、後に織田信長や徳川家康が死闘を繰り広げていたのかと想像すると胸が熱くなります。
【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社
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