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日貫瑞穂「康子の気持ち」

あらすじ…ブスで巨体の中学生・康子の隣に、イケメン転校生・昇平がやってきてボーイフレンドになる。しかし昇平は再び転校することに…。

 昇平の好みの女性のタイプが、康子だったのでしょう。
 それはさておき、昇平の再転校が決まってお別れ会を催した後のこと。

 別れ際に、康子は昇平君に、紙袋を渡した。その中には、康子が少しずつ折りためた千羽鶴と、昇平君と田中家の全員で写した写真が入っていた。(P86)

 一人で千羽鶴折ったのかよ! これは相当の情念が詰まっていますな。

【参考文献】
日貫瑞穂『日貫瑞穂短編集』彩図社

コナン・ドイル「北極星号の船長」

あらすじ…捕鯨船・北極星号が極地で氷に閉じ込められる。そして、怪異が起こり、船長ニコラス・クレイギーがおかしくなって行く。

 北極という極寒の環境、氷に閉ざされいつ帰れるかわからないという焦りと不安、食糧不足、船という閉鎖された領域。これだけ揃っていれば、正気を保てなくても不思議ではありますまい。幽霊騒ぎもむべなるかな。

【参考文献】
コナン・ドイル『北極星号の船長 ドイル傑作集2』東京創元社

森鴎外「羽鳥千尋」

 羽鳥千尋という若くして死んだ青年が森鴎外に送った手紙をまとめたもの。最初に森鴎外が羽鳥千尋について説明し、そこから先は羽鳥千尋の手紙が延々と続きます。ですので、本作の作者は羽鳥千尋であって、森鴎外はプロデューサーだとも言えます。
 さて、肝心の手紙を読んでみると、「小学の八年を首席で経過した」「中学二年の試験を受けて、首席で入選した」「五十余人中の首席で中学の業を卒えた」(いずれもP338)という学歴自慢に始まり、更に自分は「憧憬の子」(P343)であり「敏感」(P345)であり「思想も行状も積極的であり」(P347)、「●(厭の下に食。訓みは「あ」)くことを知らぬ知識欲を有している」(P347)…もうこれくらいにしておきます。とにかく自慢しているのです。
 ここからうかがえるのは、羽鳥千尋の強い自信と強い自己顕示欲です。巻末の解説でも「ナルシスティック」(P380)と評されているのを見て、なるほど彼はナルシストのようだと納得しました。
 そんな彼は悲劇的な死を遂げることで、文豪の作品に悲劇の主人公としてその名を残しました。これにより彼の自己顕示欲は(ある程度は)満たされたのではないかと思いたい。

【参考文献】
森鴎外『灰燼/かのように 森鴎外全集3』筑摩書房

森鴎外「不思議な鏡」

あらすじ…ある日、幽体離脱して、とある座敷の鏡へ吸い寄せられる。その座敷には田山花袋、島崎藤村、島村抱月、徳田秋声らがいて、自分(森鴎外)について評論していた。

 このブログで私は映画やら小説やらを散々レビューしてきましたが、レビューされる立場はなるほどこのようなものなのかもしれません。
 まあ、私なんぞは森鴎外の作品をいくつかレビューしている程度なので、この座敷の端にも上げてもらえないでしょう。別に森鴎外にそれほど思い入れがあるわけではないので、そんなに行きたいわけでもありませんが…。

【参考文献】
森鴎外『灰燼/かのように 森鴎外全集3』筑摩書房

日貫瑞穂「バラード」

あらすじ…女遊びが絶えない男・和美はある日、喫茶店でまゆみという足が不自由な女と出会い、なぜか気になる。

 最初に思ったのは、和美って男なんだなということです。女性のような名前だったのでついOLだろうかとイメージしていたのですが、読み進めてみると上半身裸で踊ったり(P8)背広に着替えたり(P11)と、和美が男性であることを示す描写にぶつかったので、私の脳内でこの人物が「性転換」しました。
 作者はわざとこんな女性っぽい名前にしたのでしょうか? だとしたら、この仕掛けが少なくとも私の頭脳に少々の混乱を与えたことは認めてもいいでしょう。まあ、このレビューではあらすじの段階でちゃんと男性だって書いておきましたから、この記事を読んでから「バラード」を読む人には通用しないんですけどね。
 あともう一つ気付いたことは、句読点が多すぎるということです。ためしにちょっと引用してみましょう。

「まゆみちゃん、今、何かしたいこととか、欲しいものとか、僕にしてもらいたいこととか、ない? 何か、できることがあったら、してあげたいと、思ってる」(P21)

 上記の引用は会話文ですが、それ以外でもこの調子です。『日貫瑞穂短編集』の他の収録作品を軽くチェックしてみると、同様に句読点が多い。どうやらこれが日貫瑞穂の作風のようです。

【参考文献】
日貫瑞穂『日貫瑞穂短編集』彩図社

コナン・ドイル「大空の恐怖」

あらすじ…ジョイス=アームストロングは、飛行士たちの消失から大気圏上層に危険な領域があるのではないかと考え、自ら飛行機を操縦して行ってみることにする。そして彼がそこで見たものは…。

 とりあえず問題の生物を描写してみました。

大空の恐怖

 こんなバケモノに散弾銃一丁で立ち向かうとは…。
 それはともかく、当時は飛行機で空を飛べるようになっていたとはいえ、まだまだ大空には未知の領域があふれていた。だからこんなのが出てきたのでしょう。

【参考文献】
コナン・ドイル『北極星号の船長 ドイル傑作集2』東京創元社

コナン・ドイル「樽工場の怪」

あらすじ…蝶の採集家メルドラムが、アフリカのとある島の樽工場へ立ち寄る。その樽工場では夜中に奇怪なことが起こるというので、メルドラムはセヴラル医師と共に不寝番をするが…。

 シャーロック・ホームズなら、二人の男が行方不明になったと知るやルーペを取り出して現場を隈なく調べるところですが、メルドラムは蝶の採集家なので捜査らしい捜査も推理らしい推理もせずにただ怪異を待っています。まあ、巨大な○○(ネタバレ防止のために伏せておきます)じゃなくてモスラやモスマンでも出てくれば、メルドラムは目を輝かせて追ったかもしれませんな。

【参考文献】
コナン・ドイル『北極星号の船長 ドイル傑作集2』東京創元社

『GetNavi 1冊丸ごとPlayStationVita』

 携帯ゲーム機PlayStationVitaのパンフレット。
 P10-11に鈴木みそのマンガがあるのを発見。あー、数年ぶりに見たなー、金髪になってたのかー。

Getnavi

コナン・ドイル「いかにしてそれは起こったか」

あらすじ…新車を運転して事故死する。

(1)新車なのでその車のクセがわからない。
(2)夜中で暗い。
(3)山道である。

 これだけ揃っていれば死亡フラグとしては充分でしょう。
 又、これ以外にも体調不良や雨・霧なども死亡フラグになりえますので、皆さんも自動車を運転する際には死亡フラグを立てないよう注意しましょう。

【参考文献】
コナン・ドイル『北極星号の船長 ドイル傑作集2』東京創元社

森鴎外「流行」

あらすじ…とある紳士と会う夢を見る。その人物が使用したものは流行するという。

 夢オチ特定余裕でした。江戸川乱歩「火星の運河」ほど浮世離れしていませんが、それでも非現実感が冒頭から漂っています。
 それはさておき、この夢の中では流行の擬人化が登場し、使用人を毎日変えたり芸者が10人もやって来て給仕をしたりなど、流行の移り変わりの激しさを皮肉っているようです。
 もしもこの紳士が現在も生きているのだとしたら、今ごろはファストファッションに身を包み、モバゲー(モバイルゲーム)でもやっているんでしょうかねえ。「新しいアプリを次から次へとやらないといけないから、一々ルールを覚えるのが大変だよ」なんてぼやいたりして。

【参考文献】
森鴎外『灰燼/かのように 森鴎外全集3』筑摩書房

森鴎外「心中」

あらすじ…料亭に勤めるお金(きん)が、客に心中事件を語る。

 一旦読み終えてから、レビューを書くためにちょっと読み返してみると、最初の方に「ひゅうひゅうと云うのだろう」(P105)というセリフを見つけました。
 この作品のタイトルは「心中」ですので、心中事件を扱ったものだとわかりますし、お金が語る内容も「ははあ、心中事件だな」とすぐに察しがついてしまいます。
 それならいっそのこと、タイトルを「心中」から「ひゅうひゅう」にしてみてはいかがでしょうか? そうすれば、すぐには心中事件と察知されず、ひゅうひゅうという音の劇的効果が際立ち、怪奇性を増すというものです。
 とはいえ、江戸川乱歩ならともかく森鴎外にはそんな怪奇趣味はないか。

【参考文献】
森鴎外『灰燼/かのように 森鴎外全集3』筑摩書房

監修・財団法人日本城郭協会『図説 日本100名城の歩き方』河出書房新社

 北は北海道の根室半島チャシ跡群から南は沖縄の首里城まで、日本全国の100城(城址を含む)を取り上げたもの。
 私はあまり城へは行かないのですが、本書掲載の中で行ったことのあるのは…江戸城(P30)、八王子城(P29)、小田原城(P32)、名古屋城(P54)、二条城(P67)ですな。
 そのうちの八王子城は彼岸花の咲く季節にぶらりと行ってきたのですが、人がいなかったので寂しくのんびりと過ごしました。まあ、虎口(こぐち)を生で見ることができたのは収穫だったでしょうか。

【参考文献】
監修・財団法人日本城郭協会『図説 日本100名城の歩き方』河出書房新社

森鴎外「田楽豆腐」

あらすじ…木村という男が、妻のすすめで帽子を買い替えて植物園へ行く。

 木村が植物園へ行ったのは、自宅の庭にある西洋草花の名前を知るためだったのですが、その目的は達せられませんでした。「それでも不平の感じは起していなかった」(P370)とあり、その理由として「子供が木陰に寝転ぶにも、画の稽古をする青年が写生をするにも、書生が四阿で勉強するにも、余り窮屈にしてない方が好いと思ったからである」(P370)と述べています。
 ただ、それ以外にも二つほど理由が付け加えられるのではないかと思います。
(1)自分好みの麦藁帽子を買うことができた。
(2)植物園を散策して気分転換になった。

【参考文献】
森鴎外『灰燼/かのように 森鴎外全集3』筑摩書房

森鴎外「百物語」

あらすじ…百物語へ行ってみた。

 なかなか百物語が始まらず、作者(森鴎外)の考察やら会場までの移動やら主催者の観察やらでモタモタしているな…と思っていたら、開始前に帰っちゃいました。おいおい、前振りだけでメインイベント無しですか。
 とはいえ、作者の百物語に対する興味はさほど大きいものではないようです。

 

 百物語と云うものに呼ばれては来たものの、その百物語は過ぎ去った世の遺物である。遺物だと云っても、物はもう亡くなって、ただ空き名が残っているに過ぎない。(P125)

 明治のインテリが百物語をどう見ていたかの一例と言えるでしょう。近代的、ですなあ。

【参考文献】
森鴎外『灰燼/かのように 森鴎外全集3』筑摩書房

中野京子『危険な世界史 運命の女篇』角川書店

 二章立てで、第一章がP9~P48、第二章がP49~P204と、第二章が大きな比重を占めているという歪な構成になっています。
 で、その第二章は「映画が語る世界史」と題して、歴史劇の映画を題材にしてその近辺の歴史を述べています。
 例えばP62「全世界に見つめられながら 一七七二年」ではソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』が登場。私もこの映画を観てレビューを書きましたっけ。
 それから、P132「豚肉を食べなかったばかりに…… 一七九二年」では『宮廷画家ゴヤは見た』を取り上げています。私はあの映画とはフィーリングが合わなかったのでレビューらしいレビューは書けなかったのですが、本書では「イネス役のナタリー・ポートマンには、まさに度肝を抜かれる」(P134)と、彼女の熱演を高く評価しています。ああ、なるほど、そういえば長きに渡る監禁で口が曲がってしまったところなど凄味がありましたな。

【関連記事】
宮廷画家ゴヤは見た
マリー・アントワネット

【参考文献】
中野京子『危険な世界史 運命の女篇』角川書店

中田薫・中筋純『廃墟本3』ミリオン出版

 前作『廃墟本2』、前々作『廃墟本』は未読。よって比較はできないのですが、本書は軍艦島(P128)やチルノブイリ(プリピァチ住宅群, P174)といった有名どころを押さえているのがポイント。
 それはさておき、池田湖イッシー王国(P152)なんかが出てくると、「ああ、そういえばイッシーいたなあ」などと思ったりします。もしもイッシーが実在するならまだ生きていてもおかしくないのですが、すっかり話題にならなくなって「消えた」わけですからねえ。

――イッシーが姿を消して18年。再びその出現で、町は活気を取り戻すことができるだろうか?(P157)

 まあ、出現すればそれなりに注目されるでしょうが、ヤラセがバレちまったら元も子もない。どうせ「出現」させるなら、原寸大(?)の模型を作って湖に浮かべるくらいはしないと。

【参考文献】
中田薫・中筋純『廃墟本3』ミリオン出版

森鴎外「うたかたの記」

あらすじ…画家志望の日本人留学生・巨勢は、ミュンヘンの美術学校に入学し、そこのモデルをしている少女マリイと出会う。そして二人は湖でデートするが、そこへ狂王ルートヴィヒ2世が…。

 「うたかた」とは泡沫、水の泡のことで、最後の結末(ネタバレ防止のため伏せておきます)を考えると、儚くも泡と消えにし命かな、ですな。
 それはさておき、美術学校の試験に落ちたアドルフ・ヒトラーがもしもこれを読んだとしたら、どんな反応を示したでしょうか? マリイが酒席で巨勢の額にキスするところをとらえて、頽廃だ堕落だと罵るかもしれませんねえ。

【参考文献】
『舞姫 ヰタ・セクスアリス 森鴎外全集1』筑摩書房

森鴎外「魔睡」

あらすじ…法科大学教授・大川渉は、友人の医科大学教授・杉村茂から、妻を磯貝医師のところへ行かせるなとの警告を受ける。杉村が帰った後、既に帰宅していた妻の様子が変だったので事情を訊いてみると、妻は磯貝から魔睡術をかけられていたことがわかる。

 魔睡術とは、本書の注釈によると、「相手の意識を半覚半睡の状態に置き、施術者の暗示・命令に従わせる」(P199)とあり、催眠術の一種と言えるでしょう。
 それにしても、「魔睡術」とは実に中二病っぽいネーミングですな。
 ともあれ、そもそも大川が魔睡術を知るに至ったのは、こっくりさん→机叩き(table-lifting, table-turning)→降神術(Spiritismus)→魔睡術という変遷を辿ったからです。魔睡術自体は科学的なものであるとしても、そこには充分に魔術的・オカルト的な色彩が認められます(大川夫人にとっては、魔睡術は邪悪な魔法であり、それを使う磯貝は邪悪な魔術師だったでしょう)。

【参考文献】
『舞姫 ヰタ・セクスアリス 森鴎外全集1』筑摩書房

筒井康隆「ヤマザキ」

あらすじ…本能寺の変が起こり、備中高松上を攻めていた羽柴秀吉軍は、毛利方に本能寺の変を知られる前に早急に和議をまとめ、引き返すことにする。

 前半は普通の戦国時代物の時代小説なのですが、途中からおかしなことになります。

 「手紙を書くまでもあるまい。電話をかけよう」秀吉は机の上の受話器をとりあげた。「茨木城の中川につないでくれ」(P674)

 戦国時代にいきなり電話が登場しています。しかも、その後の秀吉一行の移動手段が新幹線(!)。そして停電などのトラブルに遭遇しながら中国大返しをしていきます。
 「どうしてこうなった?」と読者に疑問を抱かせたまま、物語は最後の段へ。

 「ふん」秀吉は彦右衛門を見つめながら、ゆっくりといった。「そちはきっと、この『説明』を求めておるのであろう。どうじゃ。そうに違いなかろう」秀吉は歯をむき出して、にやりと笑った。「だが、よく聞け。あいにく『説明』はないのじゃ。うむ」彼はうなずいた。「説明は、何もないのじゃ」(P683-684)

 作中の人物にメタ発言をさせることで、読者の疑問に答えることを拒否して終幕としています。ここまでやられると、かえって痛快ですな。

【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社

三浦朱門「冥府山水図」

あらすじ…画家志望だった友人の鄭が、なぜ筆を取らなくなったのかを語る。

 本作に登場するような、見る人の人生を狂わせる山水があるのならば一度くらいは見てみたい気がします。怖いもの見たさというやつで。
 ただ、私は絵筆ではなくデジカメで撮影してやりましょうかねえ。もちろん、写真は本物に遠く及ばない出来映えになるでしょうが、私は別にそれで構いません。そもそも私はカメラマンほどの撮影技術はないし、ある程度いいものが撮れればそれでいいと思っているからです。
 芸術家にしてみれば私の心構えはケシカランのでしょうが、それくらいならばその山水に人生を狂わされることもありますまい。

【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社

リチャード・マシスン「おれの夢の女」

あらすじ…グレッグは、妻キャリーが見た悪夢を他人に売りつけようとする。というのは、その夢は正夢で人の生死にかかわるものだからである。

 そんなものが商売になるのか…。というより、そんなものを商売にしてしまうグレッグの方が問題ですな。
 一方、キャリーはたまったものじゃないでしょう。悪夢を見るだけでも厭なのに、それが将来現実のものになるというのですから。

【参考文献】
仁賀克雄・編『幻想と怪奇 おれの夢の女』早川書房

森鴎外「追儺」

あらすじ…作者(森鴎外)は、M.F.君(福沢桃介)から、築地の料亭・新喜楽に招待される。早めに到着して待っていると、豆打ちが行われる。

 前半は何を書こうかと迷走気味です。例えばカーニバルについてちょっと書いた後、

 これは高慢らしい事を書いた。こんな事を書くはずではなかった。しかしままよ。一旦書いたものだから消さずに置こう。(P148)

 なんて述べています。
 漫画家が、ネタが出ないで苦しんでいるさまをネタにすることがありますが、これも似たようなところがあります。
 それでようやく話らしい話が出てきたと思ったら、さして面白い展開も見せずに「話はこれだけである」(P154)と終わらせています。つまらん。
 しかしながら、書くネタが思い浮かばなくて悶々とする気持ちは、ブログの執筆者として理解できますし、こうして駄作が生み出されてしまうのもやむを得ないと言えなくもない。まあ、私のレビューは森鴎外の諸作品と違って駄作が多いですがね。

【参考文献】
『舞姫 ヰタ・セクスアリス 森鴎外全集1』筑摩書房

隆慶一郎「柳枝の剣」

あらすじ…柳生左門友矩は徳川家光と愛人関係になるが、それによって生じた周囲の憎悪が柳生一族に降りかかることになる。そこで柳生宗矩は左門を柳生の里に隠棲させるが…。

 剣豪小説であると同時にホモ小説でもあります。

 男を本当に理解できるのは男だけである。理解の上に基いた愛を望むなら、男は男しか愛の相手に選ぶことは出来まい。(P379)

 上記の引用文は友矩の述懐です。
 最後の「出来まい」が推量であって、断定の「出来ない」ではないのは、この段階ではまだ友矩と家光が結ばれておらず、実際のところどうなのかわかっていなかったからでしょう。

【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社

瀬戸内寂聴「妲妃のお百」

 瀬戸内寂聴が妲妃のお百を描いてみた作品。ただし、物語はお百が那珂采女に従って佐竹領久保田へ行く前、箱屋の茂助を殺したところで終えてしまい、後は大急ぎで巻きに入っています。
 物語が佳境に入る前に打ち切ってしまったのは、作者(瀬戸内寂聴)が「とうとうお百に人を殺させてしまった」(P243)ために心が折れた(これ以上書く気になれなくなった)からでしょうか。

 それはさておき、お百は今の言葉で言うなら肉食系女子。どうやら性欲も人一倍強い。

【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社

オガスト・ダーレス「もう一人の子供」

あらすじ…ハンニバル・コルスコットは、グレイス警部に、失踪した伯父ジェイソン・コルスコットお気に入りの絵画について語る。その絵は6人の子供が踊っているものだったが、なぜか7番目の子供が…。

 出来のいい絵画作品を目の前にすると、その絵の世界に入り込んでしまったようなイメージに陥ることがあります。そういう感覚は大事にしたいものですが、度を越した入れ込みはしないように気を付けねばなりません。

【参考文献】
仁賀克雄・編『幻想と怪奇 おれの夢の女』早川書房

阿川弘之「野藤」

 徳川家の鷹匠・小林正之丞とその鷹・野藤の物語。
 時代劇で鷹匠というと権威を笠に着て悪事を働くというケースが多いのですが、小林もそんな悪党の一人。悪事のせいで最後は「御役御免」(P153)になるほどです。
 ただ、「人から上手に意地悪をされた事」(P156)といったエピソードを挟むなど、ややユーモラスなところがあります。それが作品の毒気を幾分か抜いているような気がしないでもない。

【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社

仲村真一郎「砕かれた夢」

あらすじ…大久保長安、大久保忠隣、カトリック大名、宣教師フライ・ルイス・ソテロ、伊達政宗らは、それぞれの思惑から徳川家康の六男・忠輝を次期将軍にしようと画策し、忠輝もそれに乗り気だった。だが、徳川家康はその「夢」を打ち砕く。

 まず最初に、初歩的なミスを指摘しておきます。まずは以下の引用文をお読みください。

 彼は父から譲られるのを待たずに、父から奪うかもしれない。丁度、武田信玄がその父に対してやったように。あるいは斉藤竜興がその父に対してやったように。(P105)

 斉藤竜興じゃなくてその父の斎藤義龍ですね。武田信玄は父・信虎を追放し、斎藤義龍は父・斎藤道三を殺しているのですから。

 それはさておき、この夢は砕かれて正解だったような気がします。そもそも忠輝にとってその夢の内容は「西欧諸国に伍して、世界の進展のために奮闘すること」(P124)であり、要するに海外に出征して植民地を獲得し、西欧諸国と戦争をするということです。
 そんなことをしていたら、豊臣秀吉の唐入りのように失敗して政権が瓦解するか、あるいは成功しても海外の領地維持のために軍事動員が重なって国が疲弊するかしていたでしょう。無論、天下泰平なんか夢のまた夢ですな。

【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社

 

 

森鴎外「そめちがへ」

あらすじ…待合茶屋で芸者の兼吉が寝ているところへ、三谷(さんや)という男がやって来る。三谷が兼吉に「誰か遊びたい相手はいないか?」と訊くと、中屋の清二郎と遊んでみたいという。清二郎は兼吉の弟分(妹分?)の小花とデキているが、それでも呼び出すことにする。

 芸者遊びなんてやったことがないし、従ってその方面のルールもロクに知らない。おまけに文体は擬古文なので読み進めるのに苦労しました。
 兼吉を最初、男だと思ったくらいですからね。

【参考文献】
『舞姫/ヰタ・セクスアリス 森鴎外全集1』筑摩書房

杉浦明平「秘事法門」

 享禄4年(1531年)に起こった享禄の錯乱(大小一揆)を、三河出身で加賀にはるばるやってきた兵士(杉浦平右衛門)の視点から描いたもの。
 加賀国一向一揆で加賀が本願寺(一向宗)の支配下に置かれたことは知っていましたが、その後の内ゲバまでは知りませんでした。内ゲバ、と書きましたが、朝倉や畠山などの介入もあったにせよ、外から見れば一向宗同士の抗争なので、そう表現した次第です。

 ところで、本作の中の下間備中頼盛の演説がすごい、というよりひどい。若松本泉寺や三山、高田専修寺派、秘事法門(一向宗の異端)について、

 もし途にてこの邪鬼らに出あいなば、生きても地獄、死んでも地獄であることを思い知らせるよう、なるべく苛めしいたげたうえで殺すべきじゃぞ。こやつらは、人間にあらず、犬猫にもあらず、血を吸うのみ、しらみ、だにのたぐいぞ。どのように扱おうと、いや、できるかぎり苛責するほど弥陀の本願にかなうんじゃ(P24)

 と信徒たちに説いています。こんなことをガチで信じている門徒たちと、後に織田信長や徳川家康が死闘を繰り広げていたのかと想像すると胸が熱くなります。

【参考文献】
新潮社編『歴史小説の世紀 地の巻』新潮社

ロバート・ブロック「こころ変わり」

あらすじ…青年ディーンは時計造り職人ウルリッチ・クレムの孫娘リサと恋に落ちる。

 ネタバレになるので詳細は伏せますが、原題の「CHANGE OF HEART」のHEARTはダブル・ミーニングになっていることが最後のオチでわかります。即ち、心と心臓なのですが、邦題だとその点がうまく伝えられていないようです。
 とはいえ、私にもピッタリ来る邦題が思いつきませんが…。

【参考文献】
仁賀克雄・編『幻想と怪奇 おれの夢の女』早川書房

未来をつくる Goho-wood(2011年、日本)

製作・著作:(社)全国木材組合連合会
監修:林野庁

あらすじ…合法木材について解説する。

 このビデオでは「杉じい」なるキャラが解説役を務めているのですが、下半身が根っこになっていたり、頭頂部が奇妙な形をしていたりと、結構不気味です。しかもこの杉じいは、杖でノートパソコンのキーボードを叩いて操作しています(普通に指を使いなさいよ)。
 尚、私は合法木材についてここでは解説しません。合法木材とは何かを知りたい方は、「合法木材ナビ」というサイトをご覧下さい。そちらのサイトでこのビデオを観ることができます。
 最後に良かった点を一つ。最初と最後に登場する景色がきれいでした。

ロッキー・ホラー・ショー(1975年、イギリス)

監督:ジム・シャーマン
出演:ティム・カリー、スーザン・サランドン、バリー・ボストウィック
原題:The Rocky Horror Picture Show
備考:ミュージカル

あらすじ…一組のカップルが嵐の中、謎の古城に辿り着く。そこにはトランスセクシャル星のフランクン・フルター博士がいて、しかも今夜、人造人間が誕生するのだという。

 カルト映画の傑作という評判なので観てみました。カルト映画といえばジョン・レノン出演作「僕の戦争」や石井輝夫監督「盲獣VS一寸法師」を観賞した程度ですが、それでも「ロッキー・ホラー・ショー」の持つ安っぽさ、シュールさ、デカダンス、耽美的なところなどをそれなりに楽しむことができました。
 例えば冒頭の結婚式の後、ブラッド・メイジャースがジャネット・ワイズにプロポーズして二人はハッピーに歌い踊るのですが、バックに登場する教会の人たちの無表情っぷりには思わず笑っちゃいました。きっと彼らは「片付けがあるんだから早く帰れよ」とでも思いながらこのカップルの歌に相槌を打っていたのでしょう。

 それにしても、フランクン・フルター博士の無軌道っぷりもすごい。人造人間(ロッキー)を誕生させたらその場で彼と結婚、更にはジャネットに夜這いをかけて性的な意味で食べ、更に返す刀でブラッドともコトを致しています。
 う~ん、恐るべし性倒錯の世界。まあ、獣姦や死姦がなかっただけマシか。

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