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ジェイムズ・ジョイス「痛ましい事件」

あらすじ…ダブリンの独身中年男ジェイムズ・ダフィは、ふとしたきっかけでエミリー・シニコウ夫人と出会い、次第に親しくなってゆく。だが、一線を越えるかと思われた時、彼は身を引き、二人は別れてしまう。二年後、ダフィは新聞記事で彼女が事故死したことを知る。

 シニコウ夫人は自分と別れた後、酒に溺れるようになり、それが事故の原因となったことを知って、ダフィは心の中で自己弁護に努めます。

 まったく何という結末だ! あきらかにあの女には生きる資格がなかったのだ。意志の力を欠き、悪癖の餌食となる、文明の下積みにいる屑の一人だったのだ。しかし、ここまで落ちぶれるとは! ここまで自分はあの女に瞞されていたのだろうか。彼はあの晩の彼女の感情の爆発を思い出して、いままで以上に過酷な解釈をくだした。今では、自分のとった方針を容認するのに何の躊いもなかった。(P135)

 いや、いくら何でもそれは言いすぎだろ…と、最初に読んだ時は思いました。しかし、レビューを書くに当たって少しばかり読み返してみると、ちょっと考えが変わりました。
 小心者のダフィにとって、シニコウ夫人と別れたことを後悔すれば、いや、後悔していることを認めれば、自我が保てないのではないか。だからこそ、後悔の念を抑圧するためにあのような激情的なまでの自己正当化を行う必要があったのだ、と解釈できるのです。

【参考文献】
小野寺健編訳『20世紀イギリス短篇選(上)』岩波書店

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