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江戸川乱歩「青銅の魔人」

あらすじ…時計ばかりを盗む青銅の魔人が東京都内に出没し、市民を恐怖に陥れる。そんなある日、手塚昌一君の前に青銅の魔人が出現し、昌一の父・手塚龍之介が所有する「夜光の時計」を盗むという予告状を出す。

 江戸川乱歩の戦後第一作目がこれ。終戦直後とあって浮浪児たちが登場します。

 それはさておき、本作の中で小林少年と明智小五郎はこんな会話を交わしています。明智事務所に依頼人がやって来る直前のことです。

「先生、少年探偵団の連中が、僕にやかましくいってくるんです。なぜ先生は何もしないで、だまっていらっしゃるのかって僕をせめるんですよ」
(中略)
「そんなにさわがなくても、今に僕の所へ依頼者がやってくるよ。青銅の魔人といわれているやつは、機会だか人間だか、えたいの知れない怪物だ。敵にとってふそくはないね。小林君、久しぶりで大いに腕をふるうんだね」
(P36-37)

 少年探偵団がなぜせっつくのか、そして明智小五郎は意欲を見せているにも関わらず依頼人が来るまで動こうとしないのはなぜなのか、両方ともわかる気がします。
 まずは少年探偵団の方から。青銅の魔人は盗みを働く悪者であり、名探偵明智小五郎は正義の味方である。正義の味方が悪者を滅ぼすのは当然である。一刻も早くそうすべきである。
 一方、明智小五郎は、探偵事務所を経営する身です。たしかに悪者を放置しておいていいはずがない。しかし、捜査には金がかかるし、妻の文代と助手の小林少年を養っていかねばならない。依頼人がいなければ依頼料が入らないし、誰も依頼していない段階で首を突っ込めば全て自分の持ち出し、つまりは大赤字。私立探偵なんかやっていられなくなる。
 両者の論理の差異は、少年探偵団が非営利の組織であるのに対し、明智探偵事務所は営利組織であるという違いに発するものと思われます。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第15巻 三角館の恐怖』光文社

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著者:江戸川 乱歩
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