江戸川乱歩「偉大なる夢」
あらすじ…第二次世界大戦下の日本。五十嵐東三博士は東京―ニューヨーク間を5時間で飛ぶ飛行機の設計図を作り上げ、秘密裏に開発することになる。アメリカ政府はこの計画を嗅ぎつけ、これを妨害しようとする。
推理小説というよりスパイ小説です。韮崎邸の地下室の描写など江戸川乱歩らしいところが散見されますが、戦時下のプロパガンダ色の強さを見ると「やはり時代が時代なんだな」と思わざるを得ません。私は別にプロパガンダを軽蔑するつもりはありませんが、乱歩の持ち味はそっちの方にはないから、作品としては面白味に欠けます。
ところで、スパイに関しては佐藤優氏の著書を読みかじった程度の知識しか持っていないのですが、それによるとインテリジェンス(諜報)には大別して4種類あるとのこと。
(1)情報収集
(2)破壊工作
(3)防諜
(4)宣伝工作
五十嵐博士の息子・新一や望月憲兵少佐が任に当たっていたのが(3)防諜ですが、対するアメリカのスパイ「F3号」は何と(1)(2)(4)の三種もやってのけています。発覚のリスクを考えると、いくらなんでも手を広げすぎだろと思ってしまいますが、ひょっとしたら乱歩はスパイについてそんなに詳しくなく、だからこうなってしまったのかもしれません。
そういえば、乱歩の作品にスパイ小説って、他にありましたっけ?
【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第14巻 新宝島』光文社
新宝島―江戸川乱歩全集〈第14巻〉 (光文社文庫) 著者:江戸川 乱歩 |
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