江戸川乱歩「人間豹」
あらすじ…会社員の神谷芳雄は、カフェ・アフロディテで恩田と名乗る男に出会う。
「自作解説」の中で、
例によって一貫した筋が熟していないまま書きはじめたので、全体としてチグハグな感じだし、毎月執筆しているうち、或る月はちょっと面白い筋が浮かんだかと思うと、或る月はひどくつまらないという、例の私のくせが露出している。(P531)
と述べていますが、たしかに熟しているとは言いがたいところがありますな。例えば恩田は情欲によって女性を惨殺していますが、恩田の父親がそれに協力する動機となると、本人が「世間を相手に戦うのが、わしには面白くて堪らんのだからね」(P442)と言うだけで、その背後の事情は一切明かされないまま話が終わっています。
他にも明智小五郎が押入れを開けたら神谷青年が縛られていたのだけれども、なぜ彼がそこでそんな目に遭っているのかの説明はなかったし、それ以外にも詰め切れていない点が見受けられます。
でもまあ、冒頭のカフェでの恩田の描写、例えば猫族の舌とかいうのは面白かったです。ツカミはOKです。
【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴』光文社
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江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫) 著者:江戸川 乱歩 |
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