若竹七海「贈り物」
あらすじ…百物語の席で第七の女が語る。父が勤めていた会社では、会長から印籠を贈られた者は早死にするらしい。
上司が部下の労をねぎらうために贈り物をする。これ自体は不自然なことではありませんが、なぜそれが印籠なのか? 印籠とは携帯用の薬箱で、今時は使わないものであり、せいぜい「水戸黄門」のような時代劇で見るくらいです。つまり、貰っても使われることはまずない品物ですな。
まあ、それは会長さんの趣味ということにしておきましょう。世の中には変な趣味の持ち主が存在するわけですから。
ちなみに、「印籠の呪い」(P315)や印籠の消失(P316)といった不思議な出来事については確たる説明はなく、推定や伝聞で済ませています。
まあ、この語り手の女性は探偵さんじゃないから深く調べることはしていないのでしょう。
それから話の枕で、子供の頃に田舎の家で祖母が「耳なし芳一」を語り聞かせてくれたことを述べたのですが、物語の最後の段になってその話に辻褄が合わなくなっています。曰く、その田舎の家には一度しか行っていないが、その時に祖母は東京にいたはずで、だとするとあの時「耳なし芳一」を語ってくれたのは…?
これについて合理的な解釈をすれば、子供の記憶違いという可能性があります。例えば田舎の家に行ったのは1回ではなく2回であってその2回目に祖母が同行した、とか、「耳なし芳一」を語り聞かせてくれたのは実は祖母の姉妹で、子供の頭の中では同じ「おばあちゃん」と認識していた、といった解釈ができなくもないのです。
【参考文献】
東雅夫=編『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』角川書店
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