コナン・ドイル『四つの署名』新潮社
あらすじ…シャーロック・ホームズが暇を持て余していると、若く美しい女性・モースタン嬢がやって来て事件を持ち込む。そして色々あってワトスンとモースタン嬢は結婚することに。
シャーロック・ホームズシリーズ第2作目。この物語の初っ端が凄い。
シャーロック・ホームズはマントルピースの隅から例の瓶をとりおろし、モロッコ革のきゃしゃなケースから皮下注射器をとりだした。そして神経質な白くてながい指さきで、ほそい注射針をととのえて、左手のワイシャツの袖をまくりあげ、いちめんに無数の注射針のあとのある逞しい前腕から手首のあたりをじっと見ていたが、やがて鋭い針をぐっと打ち込み、小さなピストンを押しさげて、ほうっと満足そうな溜息をもらしながら、ビロードばりの肘掛椅子にふかくよりかかった。(P5)
いきなりコカインをキメてラリっています。しかも、この後の文章に「この数ヶ月というもの、私は日に三度ずつこの注射を見てきた」(P5)とあるので、かなりの常習性があると言わざるを得ません。
もっとも、ホームズの弁明によれば「おもしろい仕事」(P7)が自分のところに持ち込まれないから気分が沈滞してコカインをやるのであって、「不可解な難問か暗号でも持ってきて」(P7)くれれば気分が昂揚して注射なんかしなくなるのだという。
つまりこの時点でのホームズは、それだけ仕事が無くて凹んでいたというわけですな。とはいえ、ワトスンの助言を待つまでもなく、いくら仕事がないからといってクスリに手を出すのはよくないのですが…。
ちなみに現実世界でシャーロック・ホームズがブレイクしたのは、この後の「ボヘミアの醜聞」から。それまでは鳴かず飛ばずだったそうで、もしもこのまま人気に火がつかずに終わっていたとしたら、シャーロック・ホームズはコカイン中毒でひっそりと死んでいたんじゃないかと推測いたします。
四つの署名 新潮文庫 著者:コナン・ドイル,延原 謙 |
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投稿: Kairii | 2011年9月20日 (火) 15時39分