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メアリ・ヒギンズ・クラーク「告げ口ごろごろ」

あらすじ…お金持ちの祖母を殺して財産を相続しようと思っている男が、エドガー・アラン・ポーの『告げ口心臓』をヒントに入念な計画を練る。そしてある夜、それを実行に移すが…。

 今回、犯行に使われる凶器が猫の鳴き声。猫にトラウマを持つ祖母に、テープレコーダーに録音した猫の鳴き声を聞かせ心臓発作を起こさせようというものです。
 この犯行計画には色々と穴(欠点)があるように思えてなりませんが、それを書き出しているとネタバレにつながるのでやめておきます。殺人計画を練るだけなら犯罪にはならないので、興味のある人は更に入念な計画を練ってみるのもいいでしょう。ごろごろ。

【参考文献】
スチュアート・M・カミンスキー編『ポーに捧げる20の物語』早川書房

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エドワード・D・ホック「ポー・コレクター」

あらすじ…古書店を経営する男が、オークション会場でポー・コレクターのエヴァン・ペトリックと出会う。彼はポーの最初の短篇小説が初めて載った新聞を競り落とそうとしていたが、その新聞はなぜか出品がキャンセルされてしまう。

 エドガー・アラン・ポーの作品を何点か読んだに過ぎない私にとっては、作中の人物たちのディープな会話にはついていけません。つまり、大した知識はないのです。ですから、エヴァンの詐欺を直感的に見抜くことができたとしても、手紙の偽造までは見抜けない。

【参考文献】
スチュアート・M・カミンスキー編『ポーに捧げる20の物語』早川書房

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ドン・ウィンズロウ「ポーとジョーとぼく」

 エドガー・アラン・ポーと似たような道をたどりつつあった高校生カーペンターと、老教師ミス・ガーンハイマーの交流を描いた短篇。
 このカーペンター君は、高校2年生なのですが、日常的に飲酒をしているのみならず、二日酔いの状態で登校しています。飲酒はともかく(いけないことだけれど)、二日酔いで授業に出るとは…。まあ、それだけ落ちこぼれていたということなのでしょう。
 そんな落第生をミス・ガーンハイマー先生がいかに更生させるかというと…おっと、ここから先は伏せておきましょう。しかしヒントを一つ言っておくと、活字中毒の文学青年であろうとも、所詮は高校生。読み込んでいる文章の絶対量はそれほど多くはないし、それゆえに文学の視野もまだまだ狭いのです。

【参考文献】
スチュアート・M・カミンスキー編『ポーに捧げる20の物語』早川書房

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SALUS September 2011 vol.126

 東急沿線スタイルマガジン。
 特集記事が「コーヒー・ブレイク読本」(P5-12)。拙宅に安物のコーヒーメーカーがあり、たまにそれでコーヒーを淹れるので、興味を持って読むことができました。特にP8-9の「コーヒー産地を知ろう」でコーヒー豆の主な銘柄を紹介しているのが目をひきました。というのは、今使っているコーヒー(粉)がなくなったら、次は何にしようか迷っていたからです。
 う~ん、ブルーマウンテンにしようかキリマンジャロにしようか…。読んでいたらますます迷いますな。

http://salus.jp

Salus

R25 No.291 08/18→08/31

 P17-19に秋元治さん(漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の作者)のインタビューが掲載されています。映画『こち亀 THE MOVIE』が公開されたことに合わせての宣伝で、撮影現場のことなども話してくれています。
 ところで私はこの映画をまだ観ていないし、好きなジャンルとは異なるので多分観ることはないのでしょうが、大ヒットしたという話は寡聞にして聞きません。
 まあ、映画なんてそうそうヒットするわけではないのですから(例:ドラゴンボール実写版、デビルマン実写版)、こち亀が不振でも仕方があるまい。

R25

恐怖実話コンテスト事務局編『5分間怪談 恐怖の実話レポート』二見書房

 50本の短いホラー話を収録したもの。
 表紙を飾る幼女は、本書の中の「おばちゃんのうちはどこ?」(P17-21)から来ているものと思われます。女の子が「おばちゃん(おじちゃん)のうちはどこ?」と訊いてきて、「あそこだよ」と答えると「ありがとう」と言って立ち去り、後でそこで不幸が起こるというもの。
 もし仮に、「アメリカだよ」と外国の名前を出したら、そっちの国で不幸が起こるんでしょうかねえ。まあ、試してみようとは思いませんし、検証のしようがないからわかりませんが。

Book 5分間怪談―恐怖の実話レポート (二見WAi WAi文庫)

著者:恐怖実話コンテスト事務局
販売元:二見書房
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江戸川乱歩「悪魔の紋章」

あらすじ…大金持ちの川手庄太郎は何者かから脅迫を受けていた。そこで名探偵・宗像隆一郎に事件の解決を依頼するが、捜査に当たっていた宗像の助手・木島が毒殺されてしまう。木島が持っていた靴べらには、3つの渦巻きがある指紋(三重渦状紋)が捺されていた。

 犯人の特定余裕でした。詳細はネタバレになるので伏せますが、江戸川乱歩「蜘蛛男」を読んでいれば、
「ハハア、またこのテを使ったな」
 と気付いてしまいます。
 で、今回も明智小五郎が登場するのですが、今回の登場は比較的遅い。その分、明智の活躍は少なめになっています。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章』光文社

江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章 (光文社文庫) Book 江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章 (光文社文庫)

著者:江戸川 乱歩
販売元:光文社
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江戸川乱歩「妖怪博士」

あらすじ…少年探偵団の一人、相川泰二君は帰宅途中、奇怪な老人を目撃する。泰二君は老人を尾行して洋館に入り込むが、逆に洋館に閉じ込められてしまう。

 「少年探偵団」の続篇。目次を見ればわかると思うのでネタバレしておくと、犯人は二十面相です。
 前作で死んだと思われていた二十面相が実は生きていて、明智小五郎と少年探偵団に復讐しようと、色々と手の込んだことをしています。
 例えば物語の冒頭で泰二君を誘拐するだけでも、地下室への落とし穴を拵えた洋館や、まるで生きているかのように見える美少女のゴム人形を用意したり、ホームレス→博士→魔女と何度も変装したり…。いい年こいた大人が、子供相手にそこまでやるか?

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章』光文社

【関連記事】
江戸川乱歩(目次)

太宰治「古典風」

 あらすじをどう書こうか思案していると、巻末の「解説」に適当な文章が見つかったので引用させていただきます。

 放蕩ものの御曹子が女中に来ている手くせの悪い少女を母からかばう。そのあと関係ができ、彼は夢中になるが、女は悩み、去ってしまい、親の定めた男と一緒になるというだけの話だ。(P303)

 なるほど、そういう話だったのか。美濃十郎の手帖やらKR女史の手紙やらネロの伝記やら何やらが挟まっているので、大まかなストーリーがわかりにくかったのです。
 ちなみに最後の一文「みんな幸福に暮した。」(P27)には、思わず「ほんとかよ」とツッコミを入れたくなりました。

【参考文献】
太宰治『新ハムレット』新潮社

新ハムレット (新潮文庫) Book 新ハムレット (新潮文庫)

著者:太宰 治
販売元:新潮社
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TOWER THEATER Jul.20 No.049

 P05の上段が映画「ガリバー旅行記」の広告なのですが、その中に「4枚組 3D&2Dブルーレイ&DVD&デジタルコピー[初回生産限定]」金5990円也があります。
 デジタルコピー? そう思って調べてみると、「ディスクからファイルを転送することで本編映像を持ち出して楽しむことができる機能です」とのこと。長距離の移動中や出先で視聴するのに使うんでしょうかねえ。
 ちなみに私は、DVD1枚で充分です。そもそもブルーレイ機器を持っていませんから。

Towertheater

MandW Japan August 2011 vol.06

 タワーレコードで入手しました。
 表紙を飾るのは若槻千夏。わかりにくいかもしれませんが、左目の部分に黄色の星のペイントが施されています。黄色だと肌の色に近いし、何よりも背景色と一緒じゃないかと思っていたら、2面に、

 メイクルームでは、『☆』をピンクにするかイエローにするかで、ヘアメイクの双木さんと若槻さんの間でちょっとしたバトルが始まった。

 とのこと。
 なるほど、もしこの☆がピンクだったら、アクセントになっちゃいますね。

http://www.mandw.jp/

Mandw

江戸川乱歩「怪人二十面相」

あらすじ…実業家の羽柴荘太郎のもとに、怪盗「二十面相」からダイヤモンドを頂戴するという盗みの予告状が届く。折しも羽柴家では、長らく消息不明だった長男が帰還することになっていた。

 いきなりネタバレになってしまいますが、長男の正体特定余裕でした。この程度のトリックなら、江戸川乱歩の初期の探偵物で鍛えられた人間なら容易に看破できます。
 とはいえ、本作は子供向けに書かれてあるので、そんなに難しい手は使えないのでしょう。又、子供向けなので、「一寸法師」や「人間豹」などに見られる、残虐・エログロ描写はありません。

 さて、今回登場するのは、明智小五郎にとっては最大の好敵手ともいうべき、怪人二十面相。明智小五郎は「D坂の殺人事件」以来、様々な事件を解決してきましたが、怪人二十面相は今回が初登場、ついでに少年探偵団も今作で結成されています。江戸川乱歩全集を読んできて、やっと出揃ったな、という感じがします。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第10巻 大暗室』光文社

【関連記事】
江戸川乱歩(目次)

江戸川乱歩「石榴」

あらすじ…警察官で探偵小説好きの男が、鄙びた温泉旅館で、同じく探偵小説好きの猪股氏と出会い、意気投合する。そんなある日、猪股氏に、かつて自分が扱った「硫酸殺人事件」を語る。

 本作の中で語られる「硫酸殺人事件」と、聞き手の猪股氏との間に何らかの関わりがあるという予感を持ちながら読み進めていたら、その予感は当たりました。詳細はネタバレになるので伏せますが、なぜそんな予感を抱いたのかというと、全く無関係ならばわざわざ話中話の形にしなくてもいいからです。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴』光文社

江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫) Book 江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫)

著者:江戸川 乱歩
販売元:光文社
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池波正太郎「賊将」

 幕末の「人斬り半次郎」こと、明治の陸軍少将で西南戦争では西郷隆盛を担いで戦死した桐野利秋を描いたもの。と同時に、桐野が心酔する西郷隆盛を桐野の視点から描いています。
 ちなみに「人斬り半次郎」としての活躍は、

 とにかく、中村半次郎は薩摩藩の密偵の一人として、藩の動向を遮る者に刃を振う暗殺者の一人として、息をつく間もない明け暮れを……と言うことは、一人前の武士として、働いているという昂奮の中へ、ひたぶるにしがみついて、京の町で暴れ廻っていたのである。(P326-327)

 と、わずか数行で片付けています。そもそも密偵は秘密の行動が多いのでその活動記録は後世に残らないことが多いし、仕事の関係上、色々と汚いこともやらねばならなかっただろうから、著者としてはこの時代はあっさりと済ませて他の部分に紙幅を割いたのではないかと推測いたします。

【参考文献】
池波正太郎『賊将』新潮社

【関連記事】
半次郎
小川原正道『西南戦争 西郷隆盛と日本最後の内戦』中央公論新社

池波正太郎「将軍」

 津久野是重少佐の視点から、旅順攻囲戦の乃木希典を描いた短篇。
 本作の中で乃木将軍は、「流弾に当る機会を願うかのように」(P384)たった一人で前線に行くこと一度ならず。自殺願望はあったのでしょうが、それが叶った大正元年の殉死の件はあっさりと片付けているようです。
 ちなみにステッセル将軍との「水師営の会見」がP399-403に描写されていますが、ネット上を検索してみたら画像がありました。
水師営の会見
 前列向かって右側に座っている、大きな口ひげの持ち主が本篇の主人公・津久野是重少佐です。…ん? 本作ではこんな立派なヒゲのことは書いていませんでしたな。

【参考文献】
池波正太郎『賊将』新潮社

若竹七海「贈り物」

あらすじ…百物語の席で第七の女が語る。父が勤めていた会社では、会長から印籠を贈られた者は早死にするらしい。

 上司が部下の労をねぎらうために贈り物をする。これ自体は不自然なことではありませんが、なぜそれが印籠なのか? 印籠とは携帯用の薬箱で、今時は使わないものであり、せいぜい「水戸黄門」のような時代劇で見るくらいです。つまり、貰っても使われることはまずない品物ですな。
 まあ、それは会長さんの趣味ということにしておきましょう。世の中には変な趣味の持ち主が存在するわけですから。
 ちなみに、「印籠の呪い」(P315)や印籠の消失(P316)といった不思議な出来事については確たる説明はなく、推定や伝聞で済ませています。
 まあ、この語り手の女性は探偵さんじゃないから深く調べることはしていないのでしょう。

 それから話の枕で、子供の頃に田舎の家で祖母が「耳なし芳一」を語り聞かせてくれたことを述べたのですが、物語の最後の段になってその話に辻褄が合わなくなっています。曰く、その田舎の家には一度しか行っていないが、その時に祖母は東京にいたはずで、だとするとあの時「耳なし芳一」を語ってくれたのは…?
 これについて合理的な解釈をすれば、子供の記憶違いという可能性があります。例えば田舎の家に行ったのは1回ではなく2回であってその2回目に祖母が同行した、とか、「耳なし芳一」を語り聞かせてくれたのは実は祖母の姉妹で、子供の頭の中では同じ「おばあちゃん」と認識していた、といった解釈ができなくもないのです。

【参考文献】
東雅夫=編『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』角川書店

池波正太郎「刺客」

あらすじ…松代藩執政・原八郎五郎は横目・児玉虎之助に暗殺を命じる。標的は、恩田木工が江戸に送った密使だった。

 途中で過去の回想が入るのですが、これが結構長い。虎之助と以乃との恋、原八郎五郎の出世の有様、虎之助と八郎五郎とのつながり、以乃の葬儀、…。
 背後の事情を明らかにする手段として登場人物が過去を回顧することは珍しくはないのですが、短篇の割にはスペースを食っていると感じました。つまりそれだけ、複雑な事情が絡まっているということですかね。

【参考文献】
池波正太郎『賊将』新潮社

江戸川乱歩「人間豹」

あらすじ…会社員の神谷芳雄は、カフェ・アフロディテで恩田と名乗る男に出会う。

 「自作解説」の中で、

 例によって一貫した筋が熟していないまま書きはじめたので、全体としてチグハグな感じだし、毎月執筆しているうち、或る月はちょっと面白い筋が浮かんだかと思うと、或る月はひどくつまらないという、例の私のくせが露出している。(P531)

 と述べていますが、たしかに熟しているとは言いがたいところがありますな。例えば恩田は情欲によって女性を惨殺していますが、恩田の父親がそれに協力する動機となると、本人が「世間を相手に戦うのが、わしには面白くて堪らんのだからね」(P442)と言うだけで、その背後の事情は一切明かされないまま話が終わっています。
 他にも明智小五郎が押入れを開けたら神谷青年が縛られていたのだけれども、なぜ彼がそこでそんな目に遭っているのかの説明はなかったし、それ以外にも詰め切れていない点が見受けられます。
 でもまあ、冒頭のカフェでの恩田の描写、例えば猫族の舌とかいうのは面白かったです。ツカミはOKです。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴』光文社

江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫) Book 江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫)

著者:江戸川 乱歩
販売元:光文社
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高橋克彦「百物語」

あらすじ…合唱コンクールの合宿で集まっていた小学生たちが、先生の提案で百物語をすることになった。

 小学生に百物語は早いだろ。
 本作では語られる怪談の数が百話ではなく半分の五十話になっていますが、それでも子供にとっては長い。よく集中力が途切れなかったものだ。

【参考文献】
東雅夫=編『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』角川書店

岡本綺堂「百物語」

あらすじ…江戸時代、上州のとある大名の城で、百物語が開催された。百物語の最中、白いものが出現し、よくよく調べてみると女性の首吊り姿だった。

 この首吊り女性は奥勤めの女中・島川だとわかったが、実は島川はまだ生きていて、白い女は消えてしまったという。
 これが女性の死体だと一同が認識した時に、とりあえず死体を下ろして調べたりはしなかったのかと思いましたが、よくよく考えてみると、検死の役人が来るまで下手に触らぬ方がいいと判断し、現場保存に務めたのでしょう。

【参考文献】
東雅夫=編『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』角川書店

村上春樹「鏡」

あらすじ…怪談会で、中学校の夜警をやっていた時の恐怖体験を語る。

 鏡に映った自分が「僕以外の僕」(P327)だと悟り、しかも鏡なんて存在しなかったとのこと。
 鏡の向こう側に見えるのは自分なのか? 無論、科学的見地に立てば自分の姿を映した鏡像であるに過ぎませんが、鏡が異界との境界を示していると考えれば、そこにいるのは異界のモノということになります。
 それはさておき、物語の最後で、語り手の家には鏡が一枚もないことが明かされて幕を閉じます。これは、その時の恐怖体験がよほどトラウマになっていることを表わしているようです。

【参考文献】
東雅夫=編『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』角川書店

ロバート・ファン・ヒューリック『東方の黄金』早川書房

あらすじ…唐の時代。海沿いの僻地の町・平来(ポンライ)で知事が何者かに殺された。狄仁傑(ディー判事)は新任の知事として平来へ赴き、知事暗殺事件を捜査する。

 ディー判事の劈頭を飾る作品。本書の「著者まえがき」によると、

 『東方の黄金』は、狄判事が初めて官途につき、山東省の東北沿岸に面した港町の平来知事に任ぜられた三十三歳のころに時をさかのぼる。(P11)

 ちなみに本編の中でディー判事が、「長いひげを二つに分け、うなじで束ねる」(P22)という描写があるくらい、長いひげの持ち主です。本当にこれで33歳か?

 それから、肝心の謎解きについてはネタバレになるので伏せておきますが、前知事(王徳化)の兄が何らかの鍵を握っているという直感は的中しました。又、官邸に出現した幽霊が、誰かの変装だと看破することもできました。
 もっとも、今回の謀略の黒幕については想定外でした。まさかそんなところにいたとは…。

東方の黄金 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1804) Book 東方の黄金 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1804)

著者:ロバート・ファン・ヒューリック
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

遠藤周作「蜘蛛」

あらすじ…怪談会を途中退席し、帰りのタクシーの中で青白い顔の青年から怪異体験を聞く。

 ひょっとしたらこの青白い顔の青年はホモで、語り手(遠藤周作)を狙っていたんじゃないかと疑いました。
 怪談会の席で凝視していた(P32)のは「ウホッ」と思っていたからであり、車がスリップしていないのに顔を近付けた(P44)のはモーションをかけたからであり、先にさっさと降りた(P45)のは脈がないと諦めたから。
 とまあ、勝手に推測してみましたが、こんなこと考えるのは推理小説の読みすぎですかねえ。

【参考文献】
東雅夫=編『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』角川書店

闇夜に怪を語れば―百物語ホラー傑作選 (角川ホラー文庫)
Book
闇夜に怪を語れば―百物語ホラー傑作選 (角川ホラー文庫)
著者 阿刀田 高,京極 夏彦,倉阪 鬼一郎,杉浦 日向子,岩井 志麻子,高橋 克彦,福澤 徹三,村上 春樹,若竹 七海
販売元 角川書店
定価(税込) ¥ 660

江戸川乱歩「少年探偵団」

あらすじ…東京に黒い怪人物が出没し、市民を恐怖に陥れていた。そんなある日、少年探偵団の一人・桂正一君が怪人物を目撃し追跡するが、墓地で見失ってしまう。

 「怪人二十面相」の続篇。今回も明智小五郎と少年探偵団が登場します。それから、ネタバレになりますが、二十面相も登場します(目次を見ただけでもそれはわかる)。
 二十面相によると、前回の最後で捕まったのは二十面相の部下だったとのことですが、この際、そんなことはどっちだっていいような気がしてきました。手に汗握る大冒険活劇を展開するためには、多少の無茶な設定に目をつぶることも時には必要ですから。
 ちなみに、今作の最後で二十面相は自爆していますが、「不思議なことに、怪盗の死骸は勿論、三人の部下の死骸らしいものも、全く発見することが出来ませんでした」(P190)と、明らかに生存フラグを立てています。「俺たちの戦いはこれからだ!」状態のようです。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章』光文社

【関連記事】
江戸川乱歩(目次)

太宰治「待つ」

あらすじ…若い女性が、買い物帰りに駅のベンチに座ってひたすら何かを待つ。

 不安心理を描いたショート・ショート。何を待ち続けているのかわからぬまま(当の女性にもわからぬまま)話が終わっています。
 本文中に、「大戦争がはじまって、何だか不安で」(P298)とあり、第二次世界大戦による社会不安が影響していると見ることができますが、社会レベルでの不安のみならず個人レベルでの不安もあるような気がします。というのは、待つ相手の候補に挙げられた(と同時にすぐに否定された)のが「旦那さま」「恋人」「お友達」「お金」「亡霊」(いずれもP298)と、社会よりも彼女個人と関係するようなものたちばかりですから(亡霊の場合、菅原道真のような大怨霊だったら別でしょうが)。

【参考文献】
太宰治『新ハムレット』新潮社

新ハムレット (新潮文庫) Book 新ハムレット (新潮文庫)

著者:太宰 治
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ロバート・ファン・ヒューリック『柳園の壺』早川書房

あらすじ…唐代。都では疫病が蔓延しており、皇帝や百官が避難していた。都の留守を預かる狄仁傑(ディー判事)が、不可解な事件の捜査に乗り出す。

 P10の登場人物の一覧を見た時、青花と珊瑚という、双子の娘が出てくるとありました。だとすると、双子のトリックでも使ったのかなと思いましたが、そんなことはありませんでした。

柳園の壺 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) Book 柳園の壺 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

著者:ロバート・ファン・ヒューリック
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

コナン・ドイル『四つの署名』新潮社

あらすじ…シャーロック・ホームズが暇を持て余していると、若く美しい女性・モースタン嬢がやって来て事件を持ち込む。そして色々あってワトスンとモースタン嬢は結婚することに。

 シャーロック・ホームズシリーズ第2作目。この物語の初っ端が凄い。

 シャーロック・ホームズはマントルピースの隅から例の瓶をとりおろし、モロッコ革のきゃしゃなケースから皮下注射器をとりだした。そして神経質な白くてながい指さきで、ほそい注射針をととのえて、左手のワイシャツの袖をまくりあげ、いちめんに無数の注射針のあとのある逞しい前腕から手首のあたりをじっと見ていたが、やがて鋭い針をぐっと打ち込み、小さなピストンを押しさげて、ほうっと満足そうな溜息をもらしながら、ビロードばりの肘掛椅子にふかくよりかかった。(P5)

 いきなりコカインをキメてラリっています。しかも、この後の文章に「この数ヶ月というもの、私は日に三度ずつこの注射を見てきた」(P5)とあるので、かなりの常習性があると言わざるを得ません。
 もっとも、ホームズの弁明によれば「おもしろい仕事」(P7)が自分のところに持ち込まれないから気分が沈滞してコカインをやるのであって、「不可解な難問か暗号でも持ってきて」(P7)くれれば気分が昂揚して注射なんかしなくなるのだという。
 つまりこの時点でのホームズは、それだけ仕事が無くて凹んでいたというわけですな。とはいえ、ワトスンの助言を待つまでもなく、いくら仕事がないからといってクスリに手を出すのはよくないのですが…。
 ちなみに現実世界でシャーロック・ホームズがブレイクしたのは、この後の「ボヘミアの醜聞」から。それまでは鳴かず飛ばずだったそうで、もしもこのまま人気に火がつかずに終わっていたとしたら、シャーロック・ホームズはコカイン中毒でひっそりと死んでいたんじゃないかと推測いたします。

四つの署名     新潮文庫 Book 四つの署名 新潮文庫

著者:コナン・ドイル,延原 謙
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

江戸川乱歩「大暗室」

あらすじ…有村清(有明友之助)と大野木隆一(大曾根龍次)が対決する。

 大野木は東京の地下に巨大なアンダーワールド「大暗室」を構築していますが、彼曰く、「現にこの大暗室には二百に近い男女の命がとじこめられているのです」(P534)とのこと。これは相当の広さでしょうな。
 さて、警察はその大暗室を捜すものの、例によって例の如く独力で見つけることはできず、辻堂老人と有村が雇った私設探偵が突き止めています。
 しかし彼らの力を使わずとも、警察は組織力で突き止めることもできたのではないかと考えます。以下、思いつくままに書き出してみます。

(1)生活物資
 二百人も生活しているとなれば、食料のみならず衣服や燃料など、大量の物資を必要とします。それだけの物資を、倉庫ではなく民家に届けているとしたら…。

(2)掘削機械・工具
 地下を掘削するには掘削機械や専用の工具が必要です。それらの流通を辿って行って、しらみ潰しに探していけば…。

(3)埋蔵金
 大野木は幕末に埋められた財宝を掘り出して軍資金にしていました。しかし、幕末の財宝(小判?)はそのままでは使えません。それを現金化する必要があり、大野木はどこかに持ち込んで換金しているはずです(それも大量に)。
 古物商などを調べて、最近になって膨大な量の財宝を換金している形跡があれば、そこから捜査するのもいい。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第10巻 大暗室』光文社

【関連記事】
江戸川乱歩(目次)

飯倉義之編『ニッポンの河童の正体』新人物往来社

 ぽこ、ぽこ、ぽこ。
 川の人の眠りは、しずかに目覚めて行った。まっ黒い川水の中に、更に冷え圧するものの澱んでいるなかに、目のあいて来るのを、覚えたのである。
(P9)

 第一章の冒頭を読んで、ああこれは折口信夫『死者の書』のパロディだなと気付きました。この部分を執筆した飯倉義之氏の著者略歴を見ると、「國學院大學大学院修了」(P189)とあるので、その辺のつながりからこれが来てるんだろうなと推測できます。

 それはさておき、私も一つ、河童を描いてみることにします。

尻子玉を持つ河童

【参考文献】
飯倉義之編『ニッポンの河童の正体』新人物往来社

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