山本周五郎「シャーロック・ホームズ」
あらすじ…丸の内の空きビルで、女性が何者かに殺される。そこで警視庁の村田刑事が、帝国ホテルに滞在しているシャーロック・ホームズに事件の解決を依頼する。ホームズは、第一発見者の浮浪児凡太郎を助手に従えて捜査に乗り出す。
日本の有名な小説家が書いた、ホームズ・パスティーシュ(シャーロック・ホームズの二次創作)。
証拠品を道で拾ったと偽って新聞に広告を出して犯人をおびき寄せたり(緋色の研究)、文書に署名したのが4人だったり(四つの署名)、滝に落ちたり(最後の事件)と、正典で使われたモチーフがこれでもかとばかりに出てきます。
更に、真田文子殺害のくだりでは、「まだらの紐」を丸パクリ。
「静さん、まだらの紐が……まだらの紐が……ああ!」(P138)
というセリフでは声を出して笑ってしまいました。
さて、この作品の年代をちょっと推理してみます。
「明治二十七年」(P41)にモンゴール王の書面が作られ、「その時から数えて今年は丁度四十三年目に当」(P43)たるから、この作品の舞台は明治27年(西暦1894年)の42年後、即ち西暦1936年(昭和11年)ということになります。
シャーロッキアンたちの研究によれば、ホームズは1854年生まれとされているから、この時に生きていれば82歳。ホームズはこの作品の中で銃撃戦あり、格闘ありの大活躍を見せており、とても82歳とは思えません。
ひょっとしたら、このホームズは「サザエさん」や「ピーターパン」のように年を取らない世界にいるのかもしれませんな。
それから、ホームズが事件を解決してイギリスへ帰る時に、「二十あまりの非常に美しい」(P38)男爵令嬢・真田静子を「お持ち帰り」しています。ホームズ曰く、2~3年経ったら結婚するとのこと。
ちょっと待て、ホームズよ。あんたは女嫌いで、生涯独身を貫き通したんじゃなかったのか?
最後に一言:モンゴール王の宝玉の価値が「二億万円」って、数字の単位がおかしいだろ。
【参考文献】
山本周五郎『山本周五郎探偵小説 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞』作品社
山本周五郎探偵小説全集 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞 著者:山本周五郎 |
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