江戸川乱歩「孤島の鬼」
あらすじ…サラリーマンの蓑浦は、同僚の木崎初代と相思相愛の仲になる。ところが、蓑浦を恋慕する、同性愛者の諸戸道雄が初代に求婚する。そんな中、初代が何者かに殺される。蓑浦は友人で素人探偵の深山木幸吉を頼るが、彼もまた殺されてしまう。
ネットサーフィンでこの作品を少しばかり調べてみたら、BL(ボーイズラブ)好きの腐女子が書いたと思われるレビューがたくさん出てきました。諸戸道雄の蓑浦に対する同性愛が、彼女たちを大いに刺激したようです。
ちなみに私はノンケの男性ですが、そんな私が本作を読んでみた感想としては、たしかに「ウホッ」となる描写もあるにはありましたが、それらが作品全体に占める割合は小さい。寧ろ大きいのは奇形の方です。
本作では奇形の人間が何人も登場します。曲馬団の小人、丈五郎夫妻、秀ちゃん吉ちゃん、熊娘、蛙のような子供、一寸法師、…。先天性の奇形もありますが、中には秀ちゃん吉ちゃんのように人工的に奇形にしたものもあり、諸戸屋敷はさながら奇形人間製造工場の様相を呈しています。
恐ろしい妄想だ。親爺は日本中から健全な人間を一人もなくして、片輪者ばかりで埋めることを考えているんだ。不具者の国を作ろうとしているのだ。それが子々孫々の遵守すべき諸戸家の掟だと云うのだ。(中略)悪魔の妄想だ。鬼のユートピアだ。(P302-303)
上記の引用部分は諸戸道雄のセリフで、ここでいう親爺とは彼の「父親」、諸戸丈五郎のこと。
でも、よくよく考えてみれば、孤島の屋敷で細々と不具者を作り続けたとしても高が知れているし、仮に道雄の協力を得られたとしても一人では限度がある。かといって大々的にやろうとすれば、官憲の摘発や世間からの指弾は免れない。
従って、日本中を片輪者で埋め尽くすのは到底無理なハナシですな。妄想という表現は当たっていると言えます。
【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第四巻 孤島の鬼』光文社
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