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海野十三「爬虫館事件」

あらすじ…私立探偵の穂村荘六は、動物園の園長失踪事件を調査する。

 読み終わって気付いたことを一つ。タイトルで既に犯行現場をバラしていますな。
 捜査の途中までは、園長が最後に目撃されたのがそこだということぐらいしかわかっておらず、それだけならばわざわざ「爬虫館事件」と名付けるのはあまりに不自然。だとすれば、それ相応の理由があるに違いない。その理由とは、その場所が今回事件と深く関わっているということ、つまりそこが犯行現場である可能性がきわめて高い、と推理できます。
 そして爬虫館が犯行現場ならば、犯人もおのずと限られてきます。…と、ここから先は伏せておきます。これ以上読みたい方は本作をお読みください。

【参考文献】
『新青年傑作選 爬虫館事件』角川書店

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渡辺温「氷れる花嫁」

あらすじ…結婚式を挙げた若夫婦が、モンテ・カルロ行きの船に乗り、新婚旅行へ。しかし航海の途中、花嫁は熱病に倒れてしまう。

 シナリオ形式の短い作品。具体的にどんなものかイメージするため、ほんの一部分を引用してみます。

33 舵機――舵のついていない心棒ばかりが波間に空しく廻転した。
34 大洋を走る運命の船。(溶暗)
35 長い夜。おそろしく泡立っている真っ暗な海面。
36 (溶明)朝。青年の船室。
(P304)

 おわかりいただけたでしょうか? 尚、文中の溶暗とはフェードアウト、溶明とはフェードインのことじゃないかと推測します。
 ちなみに、登場人物たちのセリフもあるのですが、数えるほどしかありません。常識的に考えれば彼らはもっとしゃべっているはずですが、そういったことは省かれています。想像で補えってことか。

【参考文献】
『新青年傑作選 爬虫館事件』角川書店

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【追記】
 後日、『アンドロギュノスの裔 渡辺温全集』を読む機会を得ました。それによると、「氷れる花嫁」は脚本として執筆されたもので、渡辺温はこの他にも小説や詩なども書いていたことがわかりました。
 尚、「アンドロギュノスの裔(ちすじ)」など彼の諸作品のレビューを何本か書き上げましたので、いずれブログにて発表して行く所存です。(平成24年5月某日)

水谷準「七つの閨」

あらすじ…「私」はカフェ「オメガ」で異様な眼球(めだま)を持つ男・灰野恭二郎と親しくなる。灰野は「私」の家へ来るようになるが、ある日、妻が失踪する。

 灰野恭二郎の眼球描写は以下の通り。

 彼の特徴は、ただその眼にあるのです。それは彼の肉体なぞとは全く独立して、一箇の生物と化けています。もっと適切に云えば、彼の眼球の穴から、何か他の生物が覗き込んでいるのです。(P36)

 その「他の生物」が何か仕出かすのかと思ったのですが、ただこの異様な眼球は灰野の視線を異様なものに演出する程度です。別に暴れ出したりしません。
 又、なぜ彼がそんな眼球を持っているのかは一切語られることなく話が終わっています。う~ん、謎だ。

【参考文献】
『新青年傑作選 爬虫館事件』角川書店

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横溝正史「面影双紙」

あらすじ…大阪の売薬問屋の若主人R・Oが、子供の頃のことを語る。

「面影双紙」人物関係図

 耽美的な作品。後年の金田一耕助シリーズなどとは異なって、推理を重ねて犯人を突き止める必要はありません。
 ちなみに、最後の方、母親が情夫と共に焼け死ぬくだりは手短に述べるにとどめています(わずか数行!)。紙幅の都合で縮めざるをえなかったのか、あるいは作者のモチベーションが尽きて失速したのか、私にはわかりませんし調べる気もありません。
 ただ一つ言わせて貰えば、こういう省略の仕方は耽美的だからできることで、本格推理モノでは不可能なことですな。

【参考文献】
『新青年傑作選 爬虫館事件』角川書店

恐怖のスケベおばさん

 某ローカルテレビ局で、下ネタを連発するオバサンがいる。番組内で自分のことを「スケベおばさん」と言ってました。それは岩井志麻子という作家で、映画化もされた『ぼっけえ、きょうてえ』の作者とのこと。
 少々興味を覚えたので、この人の作品を読むことに。最初は根気のいる長編ではなく、短篇から入るのがよかろうと思ったので、短篇集『魔羅節』(新潮文庫)を手にとって読んでみました。
 本書収録の作品は「乞食柱」「魔羅節」「きちがい日和」「おめこ電球」「金玉娘」「支那艶情」「淫売監獄」「片輪車」と、タイトルからしてすごいのですが、中身も危険です。エロい、そして怖い。例えば「乞食柱(ほいとばしら)」では重度の身体障害を負った処女の巫女が若いホームレスに強制フェ○チオされる話だし、…と、今回はここまでにしておきます。
 いやあ、怖い怖い。ということで、こんな怖い話を書く作者を「恐怖のスケベおばさん」と呼ばせていただきます。

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FictionJunction「stone cold」

 今回紹介するのは、マルチコンポーザー梶浦由記が放つ、セイクリッドセブン OP FictionJunction 「stone cold」(8月3日発売)です。

 デジタルビートなサウンドの間から聞こえてくる歌姫たちの言葉を繋ぎ合わせてみると、どうやら幸せを求める女性の心情を歌っているようです。いや寧ろ、激しい曲調から判断するに、ただ求める声というよりも心の叫びと言った方が近いのかもしれません。
 ちなみに曲調がアップテンポである上、曲がフルで約6分という長さであるためか、歌詞もそれなりに長くなっています。FictionJunctionの熱唱を正確に把握するには、繰り返し拝聴しないといけないようです。

ブログで口コミプロモーションならレビューブログレビューブログからの紹介です。

覇王伝アッティラ(2001年、アメリカ・リトアニア)

監督:ディック・ローリイ
出演:ジェラルド・バトラー、パワーズ・ブース、トミー・フラナガン
備考:歴史スペクタクル

あらすじ…4世紀。フン族の抗争で両親を失ったアッティラは叔父のルア王に引き取られ、やがて頭角を現すようになる。一方、フン族の脅威にさらされている西ローマ帝国は、アエティウスを復帰させる。

 私が観たのはepisode1とepisode2のDVD2枚に分かれているやつで、1では兄を倒してフン族の王になるまで、そして2ではアッティラの死までを描いています。

 それにしても、王に即位する前のアッティラの服装のボロさが目を引きますな(王子なのに!)。「ベオウルフ」の時の衣装と勝るとも劣らない。やはりそれだけ、当時のフン族は貧しかったということを示しているのでしょう。
 大王になってからはマシになりますが、それでも東西ローマ帝国の支配階級の服装よりは見劣りします。

 ところで、本作ではそこかしこで暗殺の動きが見られます。東ローマ帝国やアエティウスがアッティラに刺客を送るのみならず、西ローマ帝国内でも未遂を含めた暗殺事件が幾つも見受けられます。
 いえいえ、私は別に暗殺を非難しているわけではありませんよ。特にアッティラのように、正面からまともにぶつかれば大きな被害を受けるような強大な相手には、このテの謀略で倒せればこちらの犠牲が少なくて済むのですから。
 …卑怯だって? 兵は詭道(『孫子』)ですよ。

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Hermes Angels no.180

 幸福の科学が発行している子供向け小冊子。近所の図書館のリサイクル本コーナーで発見、ネタ探しになるかもしれないと思い、入手しました。
 さて、冒頭のP1-8では教祖(大川隆法総裁)の法話が載っているあたり、さすがは宗教団体です。子供向けだろうと、六次元・七次元の話をされています。ちなみにここで言う六次元とか七次元というのは、科学の世界で使われる概念とは異なるようでして、どうも天国の階層を指すようです。
 天国に階層なんてあるんかい、などと思うかもしれませんが、仏教では九天といって天界が九つの階層に分かれているし、キリスト教では例えばダンテ『神曲』で描かれる天国も階層構造になっていたりします。
 私は幸福の科学の信者ではないし、神学に深入りする気もないので、詳しく知りたい方はご自分でお調べ下さい。

 又、P44-45の「スペースワールド探検隊」ではハッブル宇宙望遠鏡を取り上げ、ハッブルが撮影した天体の写真を掲載しています。おお、こちらは科学的だ。
 ちなみに、その中の1コーナー「佐鳥教授の宇宙講座」にちょっと注目。北海道工業大学教授の佐鳥新教授曰く、

 私の小学生時代からの夢は宇宙を自由に移動することのできる「スペースワープの技術」を実現すること。2004年に私は、近未来で「霊界センサー」と呼ばれる計測器、次世代画像センサーを開発したんだ。まだまだ夢に向かって進んでいくよ。(P45)

 ワープ自体はSFの世界では珍しくないから、それが科学少年の心をとらえて「自分が作ってやろう」と思うのは不思議ではありません。しかしその次の霊界センサーとは…? しかも「近未来で」呼ばれるってことは、現時点では別の呼称ってことですか?
 いえ、別にいいんですよ、霊界センサーでも。問題なのは、それが科学的要件(例えば再現性とか)を満たしているのかどうか。
 しかしいずれにせよ、この短い文章だけからではよくわからないので、これ以上は止めておきます。

Hermes_angels

MITSUBISHI MOTORS FULL LINE-UP CATALOGUE 2011. Vol.1

 三菱自動車のカタログ。
 表紙を飾るのは電気自動車(EV)のi-MiEV(アイ・ミーブ)。旅館と思しき建物の玄関の土間のところで充電中です。う~ん、私にはなぜこんなところで充電してるのか、わかりませんな。そもそも車を玄関に入れること自体が妙だし(旅館ならば駐車スペースくらいあるはず)、しかもそこに停車したら客の出入りに支障があるんじゃないでしょうか。
 でもまあ、電気自動車があまり普及していない現段階で充電となると、電源を屋内から引っ張ってこないといけないんでしょうねえ。EVが増えれば、それに伴って屋外設置型の電気スタンドも増えるんでしょうけど。

http://www.mitsubishi-motors.co.jp/

Mitsubishi

和田竜『のぼうの城』小学館

あらすじ…豊臣秀吉による小田原北条攻め。支城の忍城にも石田三成率いる大軍が迫っていた。これを迎え撃つのが「のぼう様」こと成田長親なのだが…。

 結局のところ、三成の頭脳をもってしても、成田長親という男はわからなかった。(P322)

 はい、石田三成ほどの頭脳を持たない私もよくわかりませんでした。せいぜいわかることと言えば、彼が変人の部類に入るということです。少なくとも凡人ではありますまい。

のぼうの城 Book のぼうの城

著者:和田 竜
販売元:小学館
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BUAISO 44 2011

 特集は「世界と日本のLCC」(P14-21)。LCC(Low Cost Carrier)とは格安航空会社のこと。震災前に春秋航空が注目されていたのをご記憶の方もいらっしゃることと思います。
 それでは今後、日本でLCCが定着するのかというと、私は定着すると思います。というのは、長距離移動を安い値段で済ませたいというニーズは存在するし(例:格安パックツアー)、地方にはそんなに必要ないだろと思えるくらい空港がたくさんあるからです。つまり、需要と供給があるわけですな。あとはいかにマッチさせるか…。

BUAISO 44 2011

柴田錬三郎「赤い怪盗」

あらすじ…深夜、ホームズは「赤い悪魔」と名乗る拳銃強盗を追いかけていたが、見失ってしまう。どうやら強盗は小さな花屋に入って行ったようだが…。

 日本の有名な時代小説家が書いた、児童向けホームズもの。
 犯人の正体特定余裕でした。まあ、子供向けに書かれたものですので、推理の難易度は低い。
 それはさておき、ホームズが仕掛けた罠によって、中学生と小学生の兄妹を命の危険にさらしてしまったのは感心しませんな。
 賢明な名探偵ならば、「緋色の研究」の時のように犯人を自室におびきよせて逮捕した方がいいでしょう。犯人は○○○○○(ネタバレになるので伏せます)を表の顔として持っているのだから、それを利用して花を届けさせるとか何とかすればいいのです。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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著者:柴田 錬三郎
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天城一「エルロック・ショルムスの新冒険」

あらすじ…名探偵エルロック・ショルムスはル・パンを追ってアル・セーヌ国へ。ところがル・パンはムスリムに改宗して手出しができないようになってしまった。ショルムスがアル・セーヌ国のカリフに引渡しを求めると、カリフは一つの難題を出す。

 モーリス・ルブラン『ルパン対ホームズ』のパロディです。たしかルブランはコナン・ドイルの抗議で名探偵の名前をハーロック・ショームズ(フランス語の発音ではエルロック・ショルムス)に変えていたんでしたっけ。
 それはさておき、追跡しているのはどうやらショルムス一人らしいです。助手のウィルソンやフランスのガニマール刑事などは一切登場しません。
 でも、たった一人でル・パンを連れてフランスに戻れるでしょうかねえ。アル・セーヌのカリフから護衛を借りたとしても、ル・パンの脱走を防ぎきれるかどうか…。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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著者:柴田 錬三郎
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稲垣足穂「黒い箱」

あらすじ…シャーロック・ホームズが黒い小箱を開ける。

 わずか11行の短い作品です。下手したら、こちらのレビューの方が長くなってしまうくらいです。
 さて、この作品ではホームズは色々やってついに小箱を開けることに成功するのですが、別にホームズでなければならない必然性はそこにはありません。というより、名推理を展開する時間も与えられずに終わってしまっています。
 まあ、ファンならばこの後の展開を想像してみることですな。例えば、箱の中に何もないのならば、箱の方にこそ手がかりがある、といったように。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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著者:柴田 錬三郎
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中川裕朗「ルーマニアの醜聞」

あらすじ…地獄のベーカー街に住んでいるホームズとワトソンのもとに、『椿姫』の主人公がやって来る。そして色々あって二人はルーマニアのトランシルヴァニア城へ行く。

 ホームズ・パロディ。
 冒頭で遠山の金さんから電報が届いたりと、ギャグがちりばめられています。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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北杜夫「銭形平次ロンドン捕物帖」

あらすじ…シャーロック・ホームズの理解の範疇を超えた「隠れマント怪人事件」が発生した。そこでホームズは日本から銭形平次を呼び寄せた。

 ホームズ・パロディ。銭形平次とホームズとでは時代が違うだろ、と誰もがツッコミを入れるだろうと作者は思ったのか、

 こんなふうに昔の日英人二人のあいだで会話がスムーズに行われるはずもないのだが、そこが三文小説の便利なところである。むろんのこと、時代考証なども気にする必要もない。(P77)

 などと開き直っている始末。もちろん、銭形平次が英語ペラペラなのも気にしてはいけません。
 さて、今作では名推理を展開するのは専ら銭形平次の方で、シャーロック・ホームズは聞き役に回っています。というより、ホームズは全然冴えません。
 ではなぜホームズがここまで劣化しているのかというと、コカインをやりすぎたから。
 おいおい、そこはドクター・ワトスンが止めろよ…と思いましたが、今作ではワトスンは一切登場せず、ワトスンの役割をホームズが担っています。まあ、ワトスンにはこんなみっともない姿を見せられませんけどね。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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林望「『名馬シルヴァー・ブレイズ』後日」

あらすじ…85歳になったワトスンのもとへ、グレゴリー警部の孫が訪れ、「名馬シルヴァー・ブレイズ」事件の真相を語る。

 正典「名馬シルヴァー・ブレイズ」の後日談。元ネタを呼んでいないとわかりにくいかもしれません。
 それはさておき、ワトスンが85歳ですか。ホームズはファンたちの手によって長生きさせられていますが、ここではワトスンが長生きさせられています。
 この分だと、そのうち100歳を突破した老ホームズと老ワトスンが登場する日が来るかもしれません。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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荒俣宏「盗まれたカキエモンの謎」

あらすじ…1896年のロンドン。大英博物館で、柿右衛門の陶器が大量に盗まれる事件が発生。シャーロック・ホームズと南方熊楠が競うように解決に乗り出す。

 水木しげるのマンガで「アリャマタ・コリャマタ」という妖怪のモデルになった荒俣宏の手になるホームズ・パスティーシュ(シャーロック・ホームズの二次創作)。

「クマ、クマ、オーッ、ソコニイマシタカ!」
「熊、熊って、気易く呼びすてにするなってことよ。狩人が聞いたら、鉄砲かつぎだすわな」(と流暢な英語で)
(P54)

 このダグラスと熊楠の会話で脱力しました。でも、推理の内容は短いながらも本格的です。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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夢枕獏「ゲイシャガール失踪事件」

あらすじ…シャーロック・ホームズのもとにレストレイド刑事が訪れる。曰く、さるやんごとなき方が日本からゲイシャガールをお持ち帰りしたのだが、彼女が何者かにさらわれてしまったという。

 日本のベストセラー作家による、ホームズ・パロディのショート・ショート。
 ネタバレ覚悟で疑問が一つ。このゲイシャガールは舟に閉じ込められている状態で、どうやってマストに「赤い旗」を付けられたのだろう? そして、マストという目立つところにあるのに、監視役はどうしてそれを見過ごしていたのだろうか?

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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都築道夫「にんぽまにあ」

あらすじ…未来の日本。名探偵フロック・ホームズが大金持ちの某氏殺害事件を解決すると、忍者から挑戦状が送り付けられる。

 ホームズ・パロディのショート・ショート。
 犯行のトリックがダジャレかよ!

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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都築道夫「ごろつき」

あらすじ…未来の日本。ホテルの一室でアメリカの映画女優が全裸で倒れ、室内が荒らされるという怪事件が発生。たまたま居合わせた名探偵ガーリック・ドームズが解決に乗り出す。

 ホームズ・パロディのショート・ショート。
 ネタバレになるので詳しいことは言えないし、かと言って話が短すぎるからちょっと書き進めただけですぐに核心に至ってしまうしで戸惑います。
 ともあれ、これはパロディ作品であり、落語のようなオチをつけている小品です。近代推理小説だとは思わないで読むことをおすすめします。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

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中田耕治「日本海軍の秘密」

あらすじ…第一次世界大戦初期。シャーロック・ホームズは兄マイクロフトの密命を受けて日本へ。西園寺公望との会談後、ジャパン・ヘラルドへ行くと、そこでドイツ人が殺されていたことを知らされる。

 日本を舞台にしたホームズ・パスティーシュ(シャーロック・ホームズの二次創作)。尚、本作では西園寺公望の他にも歴史上の有名人が登場しますし、ホームズの世界の有名人(ヒント:教授)の影もちらつきます。

 ちなみに、最後の最後でホームズが来日した目的がメモによって明らかにされます。

 一九一四年十一月十五日、英国政府は秘密覚書で、日本艦隊のダーダネルス海峡派遣を要請したが、日本はこれを拒絶した。英国特使は、同十五日、アメリカ経由で帰国した。

 何だ、ホームズは任務に失敗しているじゃないですか。というより、そもそもこれは名探偵がやることとは思えませんな。
 このテの交渉は政治力・外交力を必要としますが、そういう仕事は政治家や外交官のほうがうってつけだからです。この時の大英帝国が落ち目にあるとはいえ、その程度の人材が不足していたわけではありますまい。

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

【関連記事】
シャーロック・ホームズ(目次)

 

ハーレーダビッドソン&マルボロマン(1991年、アメリカ)

監督:サイモン・ウィンサー
出演:ミッキー・ローク、ドン・ジョンソン、チェルシー・フィールド、トム・サイズモア、ヴァネッサ・ウィリアムズ、ビッグ・ジョン・スタッド、ダニエル・ボールドウィン
原題:Harley Davidson and the Marlboro Man
備考:ゴミ映画

あらすじ…ハーレーダビッドソンが2年ぶりに故郷・バーバンクに戻ってきた。悪友のマルボロマンに再会し馴染みの店に向かうが、店は資金繰りが苦しく、銀行から立ち退きを迫られていた。店の苦境を救うため、2人と仲間達は短絡的に現金輸送車を襲撃したが、手にしたのは大量の新種のドラッグだった!仲間は皆殺しにされ、命からがら逃げ出したハーレーとマルボロマン。執拗に迫ってくる敵に2人は撃って撃って撃ちまくるが――!(パッケージの紹介文より引用)

 町山智宏さんがこの映画を「ミッキー・ロークのキャリアを終わらせてしまったゴミ映画」と評していた(ポッドキャストでそんなことを言っていたように記憶しているが、記憶違いだったらすみません)ので、寧ろ気になってDVDを買って観賞しました。
 詳しいことは後で述べますが、たしかにゴミ映画と呼ぶにふさわしい内容です。人によっては「金返せ」と言いたくなるかもしれません。
 ちなみに私の場合、駄作なら駄作なりにツッコミどころがあるので、地雷を踏んでも(=ゴミ映画に行き当たっても)「金返せ」なんて野暮なことは言いません。せいぜい、話の種に利用するくらいです。

 さて、話を映画の内容に戻します。
 馴染みの店を存続させるために大金(250万ドル)が必要だ。そうだ、現金輸送車を襲撃すればいい! …って、何だこの発想は…。それに、誰か止めろよ。
 それから、現金輸送車を襲撃した際に、車に乗っていた警備員から「お前たちは何者だ」と訊かれて、ハーレーは「ハーレーダビッドソンとマルボロマンだ」と名乗っています。本人は格好いいつもりで言っているのかもしれませんが、犯罪者が追跡を逃れるために自分の正体を隠すという初歩的なことすら守れていません。
 又、新種の麻薬と250万ドルの交換に首尾よく成功するものの、マフィアの追っ手が店にやってきます。更には空港やラスベガスのホテルにまで…って、いいかげん、発信機が付いてるのに気付けよ。
 ちなみに私は、トランクに発信機が付いているものと思っていましたが、ハーレーが発見したのは1ドルコインの方でした。ひょっとしたらマフィアはトランクにも仕掛けていたかもしれませんが。

 他にも色々と突っ込みたくなるところがありますが、まだ観ていない人のために取っておきます。

 …え? 良かった点ですか? ええと、突っ込みどころがたくさんあるので、その点では退屈しないんじゃないでしょうか。

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販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
発売日:2008/11/19
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喜国雅彦「赤毛サークル」

 タイトルからピンと来る方もいらっしゃるかもしれませんが、シャーロック・ホームズの「赤毛連盟」のパロディです。「赤毛連盟」では依頼人が骨董品店のオヤジであるのに対し、「赤毛サークル」では若い女性となっており、又、官能性が出ているのも特徴です(これ以上はネタバレになるので伏せておきます)。

 最後に一つだけ。
Baker221b
 ベーカー…街…?

【参考文献】
北原尚彦・編『日本版シャーロック・ホームズの災難』論創社

日本版 シャーロック・ホームズの災難 Book 日本版 シャーロック・ホームズの災難

著者:柴田 錬三郎
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江戸川乱歩「孤島の鬼」

あらすじ…サラリーマンの蓑浦は、同僚の木崎初代と相思相愛の仲になる。ところが、蓑浦を恋慕する、同性愛者の諸戸道雄が初代に求婚する。そんな中、初代が何者かに殺される。蓑浦は友人で素人探偵の深山木幸吉を頼るが、彼もまた殺されてしまう。

 ネットサーフィンでこの作品を少しばかり調べてみたら、BL(ボーイズラブ)好きの腐女子が書いたと思われるレビューがたくさん出てきました。諸戸道雄の蓑浦に対する同性愛が、彼女たちを大いに刺激したようです。
 ちなみに私はノンケの男性ですが、そんな私が本作を読んでみた感想としては、たしかに「ウホッ」となる描写もあるにはありましたが、それらが作品全体に占める割合は小さい。寧ろ大きいのは奇形の方です。
 本作では奇形の人間が何人も登場します。曲馬団の小人、丈五郎夫妻、秀ちゃん吉ちゃん、熊娘、蛙のような子供、一寸法師、…。先天性の奇形もありますが、中には秀ちゃん吉ちゃんのように人工的に奇形にしたものもあり、諸戸屋敷はさながら奇形人間製造工場の様相を呈しています。

 恐ろしい妄想だ。親爺は日本中から健全な人間を一人もなくして、片輪者ばかりで埋めることを考えているんだ。不具者の国を作ろうとしているのだ。それが子々孫々の遵守すべき諸戸家の掟だと云うのだ。(中略)悪魔の妄想だ。鬼のユートピアだ。(P302-303)

 上記の引用部分は諸戸道雄のセリフで、ここでいう親爺とは彼の「父親」、諸戸丈五郎のこと。
 でも、よくよく考えてみれば、孤島の屋敷で細々と不具者を作り続けたとしても高が知れているし、仮に道雄の協力を得られたとしても一人では限度がある。かといって大々的にやろうとすれば、官憲の摘発や世間からの指弾は免れない。
 従って、日本中を片輪者で埋め尽くすのは到底無理なハナシですな。妄想という表現は当たっていると言えます。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第四巻 孤島の鬼』光文社

【関連記事】
江戸川乱歩(目次)

山本周五郎「シャーロック・ホームズ」

あらすじ…丸の内の空きビルで、女性が何者かに殺される。そこで警視庁の村田刑事が、帝国ホテルに滞在しているシャーロック・ホームズに事件の解決を依頼する。ホームズは、第一発見者の浮浪児凡太郎を助手に従えて捜査に乗り出す。

 日本の有名な小説家が書いた、ホームズ・パスティーシュ(シャーロック・ホームズの二次創作)。
 証拠品を道で拾ったと偽って新聞に広告を出して犯人をおびき寄せたり(緋色の研究)、文書に署名したのが4人だったり(四つの署名)、滝に落ちたり(最後の事件)と、正典で使われたモチーフがこれでもかとばかりに出てきます。
 更に、真田文子殺害のくだりでは、「まだらの紐」を丸パクリ。

「静さん、まだらの紐が……まだらの紐が……ああ!」(P138)

 というセリフでは声を出して笑ってしまいました。

 さて、この作品の年代をちょっと推理してみます。
 「明治二十七年」(P41)にモンゴール王の書面が作られ、「その時から数えて今年は丁度四十三年目に当」(P43)たるから、この作品の舞台は明治27年(西暦1894年)の42年後、即ち西暦1936年(昭和11年)ということになります。
 シャーロッキアンたちの研究によれば、ホームズは1854年生まれとされているから、この時に生きていれば82歳。ホームズはこの作品の中で銃撃戦あり、格闘ありの大活躍を見せており、とても82歳とは思えません。
 ひょっとしたら、このホームズは「サザエさん」や「ピーターパン」のように年を取らない世界にいるのかもしれませんな。

 それから、ホームズが事件を解決してイギリスへ帰る時に、「二十あまりの非常に美しい」(P38)男爵令嬢・真田静子を「お持ち帰り」しています。ホームズ曰く、2~3年経ったら結婚するとのこと。
 ちょっと待て、ホームズよ。あんたは女嫌いで、生涯独身を貫き通したんじゃなかったのか?

 最後に一言:モンゴール王の宝玉の価値が「二億万円」って、数字の単位がおかしいだろ。

【参考文献】
山本周五郎『山本周五郎探偵小説 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞』作品社

山本周五郎探偵小説全集 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞 Book 山本周五郎探偵小説全集 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞

著者:山本周五郎
販売元:作品社
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仁賀克雄『切り裂きジャック 闇に消えた殺人鬼の新事実』講談社

 切り裂きジャック(Jack the Ripper)を研究することをリッパロロジーといい、その研究家たちをリッパロロジストという。で、その日本のリッパロロジストの第一人者が、100年にもわたるリッパロロジーを踏まえた上で切り裂きジャックに迫ろうとしています。
 ただし、犯人特定は困難だとして、第三部第二章でプロファイリングをするにとどめています。

 ちなみに、巻末の「文庫版あとがき」で、切り裂きジャックの容疑者は、「いまでは百五十人ぐらいはいるだろう」(P340)とのこと。その中にはイギリス王室の侍医(ウィリアム・ガル)やヴィクトリア女王の孫(アルバート・ヴィクター)、チャーチル首相の父(ランドルフ・ヘンリー・スペンサー・チャーチル)などといった有名人もいます。又、無名の人間としてはユダヤ人や中国人、日本人もいるとか。
 尚、私は切り裂きジャックの正体は誰かという推理ゲームには参加しません。リッパロロジストの皆さんの研究結果(胡散臭い資料に基いたトンデモ説を含む)を楽しみに待つこととさせていただきます。なぜなら、私は彼らほど犯人探しに熱心ではないのですから。

サイクロプス(2008年、アメリカ)

監督:デクラン・オブライエン
出演:エリック・ロバーツ、ケビン・ステイプルトン、フリーダ・ファレル
原題:CYCLOPS
備考:モンスターアクション

あらすじ…古代ローマ、ティベリウス皇帝の治世。一つ目の巨人サイクロプスが出現した。百人隊長マルクスがサイクロプス討伐の命を受け、戦闘の末これを生け捕りにしてローマに凱旋する。しかしティベリウス側近のファルコの陰謀によりマルクスは剣闘士の身分に落とされ、闘技場でサイクロプスと戦うことになる。

 ローマ帝国兵弱すぎだろ…常識的に考えて…。最初の捕獲戦であれだけ矢を放っておいて命中したのは一本だけだし、牢番の兵士が死亡フラグを立てた末にサイクロプスに殺されてから翌朝になるまで異常事態に気付かなかったり(他に見張りはいなかったの?)、逃亡奴隷の一団を捕まえる時も返り討ちに遭う兵士がいたりと、あの強大なローマ帝国を支えた兵士たちとは思えない有様です。

 それから、サイクロプスもちょっと情けない。知能が低いのは仕方ないとして(ちなみに『オデュセイアー』に登場するキュクロプスは、オデュセウスと会話するだけの知能を持つ)、棒で頭を叩かれて呆気なく気絶したり、最後はそんなに強くないはずのファルコによって呆気なく殺されたりと、主役級のモンスターにしてはショボいところが目に付きます。でも、ローマ皇帝を殺したんだから大金星か。

 そういえばローマ皇帝ティベリウスも間抜けな点がありますな。サイクロプスが闘技場で暴れ出し、兵士たちを次々と殺してゆく中、彼が取った行動といえば椅子に座って、近くにいた兵士に「行け」と命じたくらい(それって戦力の逐次投入だよね?)。いやいや、ここは一刻も早く闘技場を脱出して軍団を召集し、剣闘士の反乱ともども鎮圧させるべきでしょ。
 どうやら、歴史上のティベリウスよりも劣化しているようです。

 最後にこの映画について少々ほめるべき点について。適度に戦闘シーンが挟まっており、アクションのテンポは良かったです。

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アドルフ・ヒトラー『わが闘争(下)』角川書店(7)

 第七章「赤色戦線との格闘」では、マルクス主義者たちとの闘争を繰り返しながら党勢を拡大していったさまが、やや自慢げに書かれています。又、本章の末尾に描写される、ミュンヘンのホーフブロイハウスのフェストザールでの集会など、なかなか緊迫感があって、それはそれで読ませるものがあります。
 尚、本章では国家社会主義のシンボルマークとして、あのハーケンクロイツ(かぎ十字)の旗が誕生した経緯が書かれています。

 われわれは赤の中に運動の社会的思想を、白の中に国家主義的思想を、ハーケンクロイツの中にアーリア人種の勝利のための闘争の使命を、そして同時にそれ自体永遠に反ユダヤ主義であったし、また反ユダヤ主義的であるだろう創造的な活動の思想の勝利を見るのだ。(P164)

 なるほど、あの旗にはそういう意味が込められていましたか。
 ちなみに巻末の訳注によると、

 ハーケンクロイツ(鉤十字)は、もともとゲルマン人が青銅時代から用いた幸運のシンボル。(P408)

 とのこと。幸運の…シンボル…? このハーケンクロイツを掲げたナチス・ドイツがその後どうなったかを知る者にとっては、ハーケンクロイツが幸運をもたらしてくれたのかどうか疑わしいのですが…。あ、でも、ドイツはベルリン・オリンピックを開催するぐらいに復興したんだから、それなりの呪力は認めてもいいかもしれませんね。

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著者:アドルフ・ヒトラー
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『わが闘争』(目次)

アドルフ・ヒトラー『わが闘争(下)』角川書店(6)

 第六章「初期の闘争――演説の重要性」では演説が文筆活動よりも重要であることを説き、大衆をいかにして自分たちの支持者に変えてゆくかが述べられています。
 尚、本書では演説のテクニックが載っていたので、一つ紹介します。

 どんな演説のときにも、討論のさいにでてきそうな相手の異論の内容や形式を想定して、前もってはっきりとさせておき、そしてこれをさらに自分の演説の中で、手まわしよく残るくまなくやっつけることが重要である。でてきそうな反駁自体をいつもただちにあげて、そしてその根拠の薄弱さを示すことが、その場合有効であった。聴衆は、たとい教え込まれた異論でもっていっぱいつまっていても、それとは別に正直な気持でくるものであるから、かれらの記憶にきざみこまれた疑念を前もって解決しておくことによって、比較的容易にかれらを獲得した。かれらにたたきこまれたものは、おのずから論駁され、その注意をますます演説にひきつけられたのである。(P127)

 これを実際に応用するならば、討論に入る前に予め、「○○さんはこれこれこうおっしゃるかもしれないが、それは云々」と、相手の攻撃に先回りして叩いておくということです。無論、これをやるには相手について事前に調べておいて、更には相手の手の内を読む必要があります。
 他にも午前の集会で失敗した話(P135-136)なども載っており、なぜ失敗したのかのヒトラーなりの分析(演説の効力の心理的条件)を含めてなかなか興味深い箇所が幾つも見受けられます。興味がある人は、これらから演説・討論のテクニックを学び取ってみるのもいいでしょう。

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著者:アドルフ・ヒトラー
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『わが闘争』(目次)

アドルフ・ヒトラー『わが闘争(下)』角川書店(5)

 第五章「世界観と組織」では、世界観とはいかなる性質を持つか、そして党の組織とはいかにあるべきかが述べられています。

 世界観というものは、決して他の世界観と並存しようとする意志はないのだから、その世界観が、有罪なりと判定をくだした現存状態と協働していこうというつもりはなく、反対にこの状態と自分に敵対するすべての理念界にあらゆる手段で闘うこと、すなわちその崩壊を準備することを義務と感ずるのである。(P112)

 この排他的な世界観の前では、「お互いの違いを認め合おう」などという寛容さは通用しません。もしもヒトラーに「寛容な世界観」を開陳したら、どんな罵詈雑言を食らうことやら…。
 ちなみにこの不寛容な世界観にはモデルがあって、即ちそれはキリスト教です。曰く、「非常に自由な古代社会において、キリスト教の出現と共に、最初の精神的テロが現われた」(P111)とのこと。なるほど、国家社会主義とキリスト教にはそんな共通点がありましたか。

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著者:アドルフ・ヒトラー
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『わが闘争』(目次)

佐藤優『この国を動かす者へ』徳間書店

 雑誌『アサヒ芸能』に連載のコラムをまとめたもの。
 飲酒運転で人を殺したにもかかわらず停職1ヶ月で済んだ岡本治男駐ドミニカ大使(P104)や、ロシア大使館の7000万円のムダ(P152)など外務省の不祥事を暴き立てるのみならず、民主党や自民党などにも色々と言っています。
 例えば…

 筆者は、自民党、民主党の双方に知り合いの国会議員がいる。人間的に好感を持ち、尊敬している政治家もいる。ただし、政党になると、自民党が「うんこ味のカレー」で民主党が「カレー味のうんこ」なので、どちらかを選べと言われても悩んでしまうのだ。(P24)

 前半で「人間的に好感を持ち、尊敬している政治家もいる」と持ち上げておいて(ただしこの場ではそれが誰だか言わない)、後半で落としています。これを読んだ民主党・自民党の国会議員は、前半で持ち上げられたのは自分かもしれないと思い、後半の批判に対する反発が鈍ってしまう…わけないか。
 いずれにせよ、選挙になったら「究極の選択」を国民はしなければならないし、選択した以上はそれに対する責任も持たないといけない。私も国民の一人として大いに悩むことになりそうです。

この国を動かす者へ Book この国を動かす者へ

著者:佐藤優
販売元:徳間書店
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中野京子『残酷な王と悲しみの王妃』集英社

 メアリー・スチュアート(スコットランド女王)、マルガリータ・テレサ(レオポルト1世妃)、イワン雷帝の七人の妃、ゾフィア・ドロテア(ジョージ1世妃)、アン・ブーリン(ヘンリー8世妃)といった王妃たちを取り上げたもの。
 『怖い絵』の著者だけあって絵が豊富に引用されており、例えば表紙のデザインに用いられている『ラス・メニーナス』(ベラスケス画)の中心の幼女は、第二章の主人公マルガリータ・テレサだということがわかります。

 ちなみに、著者は「はじめに」の最後で「王妃という仕事は、実に全く大変なものなのだ」(P2)と述べています。たしかに彼女たちの末路を見るだけでも大変さがわかります。

残酷な王と悲しみの王妃 Book 残酷な王と悲しみの王妃

著者:中野 京子
販売元:集英社
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JG 06 Jun. 2011 vol.52

 特集は「新宿二丁目特集!」ということで、表紙左側の人物は「あっぱれ!」(新宿2-10-2江花ビル2階)のまぁがりんママ。ヒゲをはやしていてもママと称するとはさすが2丁目だけのことはありますな。
 ちなみに、P8「夜の二丁目をもっとディープに楽しむには?」には、まぁがりんママよりも見た目が凄いのが登場します。妖精王チ・チ・ラルーほどではないにせよ強烈です。

JG 06 Jun. 2011 vol.52

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