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G・K・チェスタートン『ブラウン神父物語』嶋中書店

 「青い十字架」「秘密の庭」「奇妙な足音」「見えない人間」「折れた剣」「ペンドラゴン一族の悲劇」「銅鑼の神」「弦月荘の奇蹟」を収録。

 江戸川乱歩「恐怖王」をレビューした時に、三人の名探偵の名が挙がりました。明智小五郎、シャーロック・ホームズ、そしてこのブラウン神父です。明智とホームズは有名ですが、ブラウン神父となると…誰だっけ? 恥ずかしながら、知りませんでした。
 そこで近所の図書館で本書を見つけたのを幸い、借りて読んでみることにしました。
 で、実際に読んでみると、明智やホームズほど人気がない理由が何となくわかりました。以下、思い付くままに書き出してみることにします。

(1)冒険的要素が薄い
 少なくとも本書収録の諸短篇の中でブラウン神父は、一度も犯人と格闘したこともなければ変装したことさえありません。これら冒険的行為によって得られるハラハラドキドキ感が得られないのは残念。

(2)偶然の出会いが多い
 ブラウン神父は飽くまで司祭であって、プロの探偵ではありません。従って、名推理を必要とする難事件が彼のもとに持ち込まれるというよりも寧ろ、たまたま事件に遭遇してしまったというシチュエーションがどうしても多くなります。
 例えば「奇妙な足音」だって、たまたまその日にホテルの従業員が倒れなければ、たまたまその時に呼ばれたのがブラウン神父でなければ、そしてブラウン神父の居た場所が経営者の私室でなければ、…。「折れた剣」では自ら首を突っ込んでいますが、それ以外では偶然性が多かれ少なかれ作用しています。何というご都合主義!

(3)回りくどい言い方
 「奇妙な足音」ではシェイクスピアの『ハムレット』、「折れた剣」ではダンテの『神曲』に言及するくだりがありますが、そんなものは序の口。ブラウン神父の謎解きは実に回りくどい言い方で為されます。

 「ああ、そんな譬え話で語るのはやめてください」とフランボウが焦れったそうに叫んだ。「もっと簡単な、短い言葉で説明できないんですか?」(P230、「ペンドラゴン一族の悲劇」より)

 同じことを何度思ったことか…。まあ、それが彼の流儀なのでしょうけれど。

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