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江戸川乱歩「二銭銅貨」

あらすじ…「私」と松村武っは、極貧生活で行き詰っていた。一方、世間では泥棒が盗み出した5万円(当時としては大金)の所在がわからず話題になっていた。そんなある時、「私」が入手した煙草屋の釣銭(二銭銅貨)から、松村武が5万円の在り処を探り出そうとする。

 江戸川乱歩の処女作。学生時代に書いたという「火縄銃」の方が古いといえば古いのですが、あれは練習作といったところです。
 さて、この「二銭銅貨」についてですが、松村武の推理には随分とこじ付けが多いと感じました。暗号解読はいいとして、二銭銅貨がここまでたどってきた経路に問題があります。
 まず第一に、泥棒が外部の者と通信した、もしくは通信しようとしたのか不明だということです。5万円をどこか安全な場所に隠してしまっていたり、既に信頼できる誰かに預けてしまっている可能性があります。
 もし仮に外部と通信しようとして、そしてそこに5万円の在り処が記してあったとしても、それが松村武の手に渡るまでには天文学的な確率の偶然を積み重ねなければなりません。
 差し入れ屋が泥棒から託された二銭銅貨を「ついうっかり」妻の実家への援助に充てるというのも妙な話だし、それが釣銭として「私」の手許へ行くのも話が出来すぎています(客は他にもいっぱいいるし、そもそも釣銭にしないで買い物に使う可能性もある)。そしてそれを受け取った「私」が松村武の目に見えるところに置いておかず、ポケットか財布に入れっ放しにしていたら、さしもの彼も気付かなかったはずです。
 まあ、「窮乏のどん底にのたうち廻っていたのである」(P20)から、何としても金が欲しい。金が欲しい金が欲しい金が欲しい…。その執念が思考を鋭敏にさせると同時に周囲を見えなくさせてしまい、強引な推理を展開、そして最後はご覧の有様になったのでしょう。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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