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江戸川乱歩「恐怖王」

あらすじ…令嬢の遺体が盗み出され、ゴリラ男と婚礼の写真を撮るという椿事が起きた。そして令嬢の婚約者も殺された。令嬢の遺体には「恐怖王」と刻まれていた。恐怖王とは何者なのか? 探偵小説家の大江蘭堂が事件に巻き込まれ…。

 冒頭の「作者の言葉」で、江戸川乱歩はこの作品の探偵役(大江蘭堂)についてこう述べています。

 彼、恐怖王の犯罪はまさに有史以来とも云うべき素晴しい構想の下に行われてゆくのであるが、彼の敵手となり、彼を捕縛せんとして驚天動地の活躍をするものは、明智小五郎と、シャロックホルムスと師父ブラウンとを併せて一つにしたるが如き怪腕無双の名探偵である。(P163)

 しかしこの「名探偵」大江蘭堂は大した活躍ができずに終わります。恋人の花園京子を守ることができずに彼女は殺され、のみならず死体を奪われる、「怪腕無双」のはずなのにゴリラ男と格闘して負ける(P222)、その直後にゴリラ男が寝室から忽然と姿を消したトリックを解明できない、怪画家にだまされて彼がゴリラ男に毒薬を注射するのを許してしまう(おまけにまんまと逃げられる!)、そして極めつけは恐怖王の正体が何者であるのか自分の力で突き止めることができなかった。
 それに、名探偵を称するのなら犯罪の現場に足を運んで調査すべきなのに、大江蘭堂はS町の空家や葬儀場へ行って調べた形跡がない。京極堂のような座敷探偵ならともかく、大江は鎌倉へ行ったりデパートへ行ったりと行動力がそれなりにあるにもかかわらずです。
 以上の諸点を考慮するに、大江蘭堂は乱歩が挙げた3人の名探偵(明智小五郎、シャーロック・ホームズ、ブラウン神父)には遠く及ばないと断ぜざるを得ません。

 最後に一つだけ。「陰獣」を読んでいたおかげで、真犯人特定余裕でした。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』

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江戸川乱歩(目次)

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