江戸川乱歩「鬼」
あらすじ…探偵小説家の殿村昌一は郷里に帰省していた。そんなある日、村長の息子・大谷幸吉と散歩していると、女性の惨殺死体を見つける。服装から彼女は幸吉の婚約者・山北鶴子だとわかり、殺害の嫌疑が幸吉に掛けられる。
「顔のない死体」(P310)と聞いて、ピンと来ました。入れ替わりのトリックを使ったな、と。詳細はネタバレになるので伏せておきますが、顔で判別できない状態にしてあるということは、真犯人が被害者の正体を周囲に誤認させる仕掛けだと考えた方がいい。
でも、今だったら指紋の照合やDNA鑑定などで、この程度の偽装はすぐに看破されるんですけどね。
ちなみに、絹川雪子の描写の中に、「その上虫歯でも痛いのか、右の頬に大きな膏薬を張りつけている」(P338)とありました。これ、「陰獣」で大江春泥の妻と称する女性が使っていた変装の小道具の一つじゃないですか。頬に膏薬を貼り付けることによって相手の注意をそちらに向けさせ、顔の方はあまり記憶に残らないようにさせようという小技です。
【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』
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