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江戸川乱歩「算盤が恋を語る話」

あらすじ…造船会社の会計係のTは、助手のS子に算盤を使って愛の告白をしていたが、S子は気付かぬようで…。

 3ページほど読んだところで、算盤の暗号を解読することができました。暗号文にしては簡単なものであったし、「黒手組」や「日記帳」で少々鍛えられていたおかげで、こんな私でもさっさと解けたのです。
 でも、これは暗号だと感付いていたからわかったのであって、そうでない場合には常人は見過ごしてしまうでしょう。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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【江戸川乱歩短編動画】算盤が恋を語る話

江戸川乱歩「日記帳」

あらすじ…病死した弟の日記帳を読んでいると、弟が遠縁の北川雪枝と文通していたことを知る。弟の手文庫の中から、雪枝から届いた絵葉書を見つけるが…。

 弟さん、かわいそうに。日記を読まれるだけでも恥ずかしいのに、こんな「探偵癖」(P350)のある兄貴を持ってしまったばかりに、秘密の恋を曝露されています。
 やはり、死ぬと決まったらこういう恥ずかしい証拠は隠滅しておかないといけないんでしょうねえ。私も、いよいよ駄目だとわかったら、パソコンの中の道徳的によろしくない動画・画像を抹消しておかねば…。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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江戸川乱歩「赤い部屋」

あらすじ…赤い部屋に男たちが集まり怪異な話を語るという会合で、一人の新入りが法律に触れないでたくさんの人を殺してきたことを語る。

 ネタバレをするので、結末を知りたくない方は読まないで下さい。
 ぶっちゃけて言うとこの男の話は「始めから了いまで、みんな作りごと」(P337)です。そして最後に電燈がつけられ、このように締めくくっています。

 「赤い部屋」の中には、どこの隅を探して見ても、最早や、夢も幻も、影さえ止めていないのだった。(P338)

 つまりこの男が語った数々の殺人劇は夢・幻だったわけですな。小説もまたかくのごとし。読者は作家が紡ぎ出す夢・幻を味わうのですから。
 ちなみに、最初は実話だと思わせておいて、最後に「フィクションでした」とネタバラシするパターンは、「人間椅子」にも見られます。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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江戸川乱歩「黒手組」

あらすじ…作者(江戸川乱歩)は熱海温泉逗留中に、伯父の娘が怪盗集団・黒手組に誘拐されたとの報道に接し、急いで伯父のもとへ行く。すると、身代金を渡したものの、娘がいまだにもどってきていないという。そこで友人の明智小五郎に事件の解決を依頼する。

 冒頭に暗号文が掲載されているのですが、最初に読んだだけでは誰が誰にどんなシチュエーションで送ったのか不明なのでとりあえず後回しにしておきます。しかし、中盤でシチュエーションがわかっても、サッパリわかりません。まあ、明智小五郎のように本腰を入れて解読する気などさらさらなく、続きをさっさと読みたかったのでさっさと諦めました。

 最後に一言。黒手組出てこねーじゃん!

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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江戸川乱歩「心理試験」

あらすじ…大学生の蕗屋清一郎は、金貸しの老婆を殺害し金を奪う計画を入念に練り、これを実行に移す。計画はまんまとうまく行き、しかもその家に間借りしていた友人の斉藤勇が殺人の容疑で逮捕される。しかし不審を抱いた笠森判事は、蕗屋・斉藤の両名に心理試験をすることに。

 本作はドラマ「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」と同様に、観客(読者・視聴者)には最初から犯人がわかっていて、探偵役の者がいかにして切り崩すかが見せ場となっています。尚、ここでの探偵役は笠森判事の他に明智小五郎が加勢してくれています。
 ちなみに、心理試験の内容はというとこれが2種類あって、長くなるので引用は避けますが、今でいうところの嘘発見器と自由連想法です。
 ただし、これらの心理試験の結果だけで蕗屋の犯行を決定付ける証拠とはなりえず、本作ではテストの結果をもとに罠を張っています。ネタバレになるので罠の内容は伏せますが、蕗屋が殺害の下手人でなければ知りえない情報を用いています。
 心理試験はともかくとして、「犯人でしか知りえない情報」を使って犯人を自白に追い込むというやり方は、推理モノでは珍しくないですけどね。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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江戸川乱歩「疑惑」

あらすじ…酒乱の父親が何者かに殺される。犯人はどうやら家族の者らしい。母親、長男、次男、妹が相互に疑いを抱きながら日を送る。

 次男とその友人の会話だけで話が進行します。会話体のみの構成にすることによって、次男と友人が意識・認識しえないことは一切出てこず、それが読み手の推理を困難なものにしています。探偵するならば、できる限り関係者全員の事情聴取をしておくべきだからです。
 詳細はネタバレになるので伏せますが、フロイトの精神分析学を取り入れて、無意識の殺人を展開しています。ただし、作者はこの出来に不満なようで、「作者解説」で「意あって力足らぬ作品である」(P604)と評しています。
 確かにこの作品で大きく扱われているのは、タイトルに「疑惑」とある通り、家族内での殺人疑惑であり、精神分析は最後の謎解きの段になってようやく登場する始末。精神分析が殺人疑惑の陰に隠れてしまったようです。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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江戸川乱歩(目次)

【オカマ】生放送中に初音ミクで踊ってみた【ナマケット】(2011年、日本)

 この動画は、ニコニコ動画で観ました。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13594733

 今回紹介するのはゲテモノ系の動画ですので、閲覧注意。
 厚化粧の上、見たくもないパンチラをサービスでやってくれたりしています。まあ、縞パンでないだけ良しとしましょうか。ちなみに、ワキ毛も見えます。

江戸川乱歩「人間椅子」

あらすじ…美しい閨秀作家で、外務省書記官の妻である佳子は、不思議な原稿を受け取った。それは、椅子に入り込んだ男の告白だった。

 最後の手紙でオチが着いていますが、その中で原稿のタイトル(表題)をわざと省いたことが書かれています。なぜ省いたのでしょうか?
 原稿にタイトルを付けないことによって、これは通常タイトルの付く小説ではなく、通常タイトルの付かない手紙だと思わせる効果があります。又、佳子に対して椅子の中に人間がいるという発想を途中まで伏せておく仕掛けにもなっています。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社

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江戸川乱歩(目次)

江戸川乱歩「恐怖王」

あらすじ…令嬢の遺体が盗み出され、ゴリラ男と婚礼の写真を撮るという椿事が起きた。そして令嬢の婚約者も殺された。令嬢の遺体には「恐怖王」と刻まれていた。恐怖王とは何者なのか? 探偵小説家の大江蘭堂が事件に巻き込まれ…。

 冒頭の「作者の言葉」で、江戸川乱歩はこの作品の探偵役(大江蘭堂)についてこう述べています。

 彼、恐怖王の犯罪はまさに有史以来とも云うべき素晴しい構想の下に行われてゆくのであるが、彼の敵手となり、彼を捕縛せんとして驚天動地の活躍をするものは、明智小五郎と、シャロックホルムスと師父ブラウンとを併せて一つにしたるが如き怪腕無双の名探偵である。(P163)

 しかしこの「名探偵」大江蘭堂は大した活躍ができずに終わります。恋人の花園京子を守ることができずに彼女は殺され、のみならず死体を奪われる、「怪腕無双」のはずなのにゴリラ男と格闘して負ける(P222)、その直後にゴリラ男が寝室から忽然と姿を消したトリックを解明できない、怪画家にだまされて彼がゴリラ男に毒薬を注射するのを許してしまう(おまけにまんまと逃げられる!)、そして極めつけは恐怖王の正体が何者であるのか自分の力で突き止めることができなかった。
 それに、名探偵を称するのなら犯罪の現場に足を運んで調査すべきなのに、大江蘭堂はS町の空家や葬儀場へ行って調べた形跡がない。京極堂のような座敷探偵ならともかく、大江は鎌倉へ行ったりデパートへ行ったりと行動力がそれなりにあるにもかかわらずです。
 以上の諸点を考慮するに、大江蘭堂は乱歩が挙げた3人の名探偵(明智小五郎、シャーロック・ホームズ、ブラウン神父)には遠く及ばないと断ぜざるを得ません。

 最後に一つだけ。「陰獣」を読んでいたおかげで、真犯人特定余裕でした。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』

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宮廷画家ゴヤは見た(2006年、スペイン・アメリカ)

監督:ミロス・フォアマン
出演:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・ステルスガルド
原題:Goya's Ghosts
備考:歴史映画

あらすじ…スペインの宮廷画家ゴヤは修道士ロレンゾの肖像画を描いていた。又、裕福な商人の娘イネスの肖像画も描いていた。そんなある時、イネスが異端者(ユダヤ人)の疑いをかけられ囚われの身となる。

 監督が「アマデウス」のミロス・フォアマンということで期待して観た記憶があるのですが、どうも今作ではフィーリングが合わなかったようで、さほど面白味を感じられませんでした。
 ところで、終幕のスタッフロールのところで「巨人」や「わが子を喰らうサトゥルヌス」などが表示されるのですが、巨人もサトゥルヌスも現実を超越した領域の存在です。ゴヤはあっちの世界も「見た」ってことでしょうかねえ。

 宮廷画家ゴヤは見た 宮廷画家ゴヤは見た
販売元:ハピネット・オンライン
ハピネット・オンラインで詳細を確認する

江戸川乱歩「鬼」

あらすじ…探偵小説家の殿村昌一は郷里に帰省していた。そんなある日、村長の息子・大谷幸吉と散歩していると、女性の惨殺死体を見つける。服装から彼女は幸吉の婚約者・山北鶴子だとわかり、殺害の嫌疑が幸吉に掛けられる。

 「顔のない死体」(P310)と聞いて、ピンと来ました。入れ替わりのトリックを使ったな、と。詳細はネタバレになるので伏せておきますが、顔で判別できない状態にしてあるということは、真犯人が被害者の正体を周囲に誤認させる仕掛けだと考えた方がいい。
 でも、今だったら指紋の照合やDNA鑑定などで、この程度の偽装はすぐに看破されるんですけどね。
 ちなみに、絹川雪子の描写の中に、「その上虫歯でも痛いのか、右の頬に大きな膏薬を張りつけている」(P338)とありました。これ、「陰獣」で大江春泥の妻と称する女性が使っていた変装の小道具の一つじゃないですか。頬に膏薬を貼り付けることによって相手の注意をそちらに向けさせ、顔の方はあまり記憶に残らないようにさせようという小技です。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』

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江戸川乱歩「地獄風景」

あらすじ…とある金持ちが、M県南部のY市郊外に遊園地を造り仲間たちを集めて享楽に耽っていた。しかしそこで、連続殺人事件が起こる。

 江戸川乱歩のミステリーに多少は慣れてきたせいか、今回はクライマックス(カーニバル祭)前に犯人の目星を付けることができ、しかもそれが的中しました。ネタバレになるので真犯人の名は伏せておきますが、大鯨の中で真犯人が餌差宗助を取り逃がしたのはわざとであって、これは餌差が協力者(どこまで知らされていたかは不明)で、しかも後で用済みとばかりに消されたのだとすれば納得が行きます。
 ところで、今作の探偵役を務めるのは、地元の警察の木島刑事という人物なのですが、これが実に情けない。何百人(!)も死なせてしまった挙句、犯人には逃げられています。殺人防御にも犯人逮捕にも完全に失敗、後に残されたのは無残な地獄絵図ばかり…。だめだこりゃ。
 まあ、作者(江戸川乱歩)は探偵の活躍よりも、エログロ怪奇な「地獄風景」を描き出したかったのかもしれません。少なくともここでは。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』

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大統領暗殺(2006年、イギリス)

監督:ガブリエル・レンジ
出演:ジョージ・W・ブッシュ、ディック・チェイニー、ヘンド・アヨウブ、ベッキー・アン・ベイカー、ブライアン・ボーランド
原題:Death of a President
備考:擬似ドキュメンタリー(モキュメンタリー)

あらすじ…2007年、アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュが何者かに暗殺される。捜査当局はシリア人の男を逮捕するが…。

 もしもアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュが暗殺されていたら…という世界を描いた擬似ドキュメンタリー。
 本作では犯人探しと裁判に多くを割いており、マクロ的な政治上の動きはせいぜいチェイニーが大統領になったことと愛国者法が強化されたことぐらいしか見当たりません。
 また、ブッシュが殺されたからといってアメリカ軍がイラクやアフガニスタンから撤退することもなく、景気が良くなることもありません。そもそも戦争も経済政策もブッシュ個人でやっているわけではなく、組織でやっているわけで、ブッシュが死ねば後継者(チェイニー)がそれを継続するまでです。

 それと、本作で浮かび上がってくる暗殺の容疑者は、あらすじのところで触れたシリア人の男の他にも、退役兵や環境運動家などがいます。そして、最終的にはそのシリア人の男と、息子を戦争で失った父親の二人に絞られて、どちらが真犯人なのか判然としない形で終わらせています。スッキリしませんなあ。
 どっちが真犯人なのか、あるいはどちらでもなくて第三の男(女?)が真犯人なのか、私にはわかりません。…推理? どこぞの名探偵・名刑事でも引っ張り出してやれば解き明かしてくれるかもしれませんな。

【関連記事】
雑誌『禁談』(3)アメリカ大統領暗殺シュミレーション(P28-33)

江戸川乱歩「目羅博士の不思議な犯罪」

あらすじ…作者(江戸川乱歩)は上野の動物園で、不思議な男と出会う。そして、その男から、眼科医・目羅博士の不思議な犯罪の話を聞く。

 借主が三人も続けて「自殺」したというのなら、今だったら都市伝説として話題になるだろうし、新しい借り主には告知義務が生じるでしょう。

 それはさておき、目羅博士はなぜかくも不思議な犯罪に手を染めるようになったのか?

「目羅博士の殺人の動機ですか。それは探偵小説家のあなたには、申し上げるまでもないことです。何の動機がなくても、人は殺人の為に殺人を犯すのだということを、知り抜いていらっしゃるあなたにはね」(P40)

 語り手はそう言って話を打ち切っています。動機の方には興味がないのでしょうか。
 それでは一つ、私の推理を申し上げることにしましょう。当たっているかどうかはわかりませんが…。
 まず、目羅博士は「幻怪なトリック」(P38)の理論を思い付いてしまった。のみならず、科学者としてそれを実証しようとしました。最初は手を上げたり足を振ったりといった他愛のない行動をさせていたが、次第にエスカレートしていき、ついには相手の防衛本能をも打ち破る(=自殺させる)までに至ったのではないでしょうか。
 目羅博士はいわゆるマッドサイエンティストなのでしょう。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』

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江戸川乱歩(目次)

R25編集部=編『大人力がさりげなく身につくR25的ブックナビ』日本経済新聞社

 フリーマガジン『R25』の連載コーナー「R25的ブックレビュー」を一冊にまとめたもの。
 色々と「役に立つ」と思われる本を取り上げているのですが、私の読んでいる本とは殆ど全くといってよいほどかぶらない。なぜかというと、(1)出版点数が多い、(2)私自身が「役に立つ」ような本を読んでいない、といった理由があるからです。
 それでも読んだことのある本が何冊か見つかりました。

・早坂隆『世界の紛争地ジョーク集』(P37)
・福沢諭吉『福翁自伝』(P43)
・ニーチェ『ツァラトゥストラ』(P58)

 このうちの『ツァラトゥストラ』は、本書では中公文庫版ですが、私が読んだのは岩波文庫版の『ツァラトゥストラはこう言った』だと記憶しております。押入れの奥にあったような…。

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江戸川乱歩「黄金仮面」

あらすじ…黄金の仮面をかぶった怪人が出没し、財宝を盗み出していた。素人探偵明智小五郎が立ち向かう。

 まず最初に、重大なネタバレとなってしまうかもしれませんが、黄金仮面の正体を明かしておきます。それはフランスの怪盗アルセーヌ・ルパンです。なぜバラしたのかというと、本編を読む前に目次を眺めれば察しがついてしまうからです。
 明智小五郎VSアルセーヌ・ルパン!!!
 こんな有名人を引っ張り出してきちゃっていいのか!? …でも、よくよく考えてみたら、モーリス・ルブランだって『ルパン対ホームズ』でシャーロック・ホームズを使っているから、お互い様ですな。
 さて、本作では銃撃あり、大爆破あり、カーチェイスありの、大冒険活劇となっています。しかも、ルパンが盗んだお宝の中には、玉虫厨子という教科書に載るくらい有名な国宝も含まれています。アルセーヌ・ルパンほどの「大物」ともなれば、これくらいやらないと釣り合わないのかもしれません。
 又、シャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパンの「正典」などで使われたトリックが流用されているし(詳細は巻末の註釈を参照されたし)、エドガー・アラン・ポー「赤き死の仮面」も巧みに作品に織り交ぜられていて、これらを読んだことのある人にとってはそれなりの味わいがあるでしょう。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面』光文社

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江戸川乱歩(目次)

江戸川乱歩「何者」

あらすじ…ある夏のこと、松村青年は友人の甲田伸太郎と共に、同じく友人の結城弘一の家に逗留した。弘一の父の誕生祝いの夜、弘一が何者かに銃撃される事件が起こる。

 まず最初に断わっておきますが、このレビューにはネタバレを含みますのでご注意を。

 今回ばかりは最後の謎解き前に真犯人を当てることができました。というのは、横溝正史『本陣殺人事件』を思い出したからです。あれもたしか、被害者と思われていた人物が実は加害者だった、被害者なんだからその人が犯人であるはずはないという心理を突いたものでした。
 ちなみに、赤井の正体(さすがにこれは伏せておこう!)までは見抜けませんでした。真犯人を当てたことで得意になってしまって、そちらに対する目が曇ってしまったのでしょう。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面』光文社

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アドルフ・ヒトラー『わが闘争(下)』角川書店(2)

 第2章「国家」(P27-91)はちょっと長い。
 で、この章の前半は民族主義国家とはどんなものであるか、そして後半は教育論、そして最後に労働の価値について述べています。

 さて、本章の教育論について。
 そもそも教育を自己のイデオロギーの浸透手段として活用しようというのは、古今東西、右翼左翼を問わずやっていることで、珍しいことではありません。例えば右翼は愛国教育の必要性を訴え、左翼は反戦平和教育の重要性を説いているのは皆さんご承知の通り。
 もちろんヒトラーも、この例に漏れず、教育によってドイツ人の若者たちを訓育すべきであると説いています。その教育内容はさておいて、教育って、政治宣伝のツールとしては便利な存在なんですねえ。

 ちなみに、この章の人種差別についても取り上げておきます。ヒトラーは黒人が「弁護士、教師、そのうえ牧師やそればかりでなくりっぱなテナー歌手」(P82)などになることは気に入らないようで、こんなことを述べています。

 最高の文化人種に属する幾百万のものが、まったくくだらない地位にとどまっていなければならないのに、生まれつきなかばサルのようなものを長い間調教して、弁護士にしあげたと信ずることが、犯罪者的荒唐無稽だということを考えないし、ホッテントットやズール族が知的職業にまで調教されているのに、最も天分のある幾十万という人々を、今日プロレタリアの泥沼の中に堕落させるならば、永遠の造物主の意思を冒涜しているのだということを考えもしないのだ。(P82-82)

 ここでいう「最高の文化人種に属する幾百万のもの」とはドイツ人を指し、「生まれつきなかばサルのようなもの」とは黒人を指す。これだけでも侮蔑的なのですが、その上更に、後者に対して「教育」という言葉を使わず、「調教」という表現を用いています。これじゃあ黒人は動物扱いじゃないか…と思ったら、この引用部分のすぐ後に、「プードル犬の調教とまったく同じ」(P83)との表現が。
 ゲルマン民族を人間の世界では至高の存在に置こうとすればするほど、他の民族は「劣等民族」としてその地位をどんどん貶めることにつながり、ついに黒人に至っては畜生道(動物の世界)にまで追いやられてしまったようです。

わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫) Book わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

著者:アドルフ・ヒトラー
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

『わが闘争』(目次)

イトヒロ&KODOMO STUDIO『イラストカット集(1)動物編』誠文堂新光社

 動物のイラストカット集。リアル系からゆるキャラっぽいのまで様々な動物のイラストを収録。
 中には「想像おばけ」(P75-82)なんてものも。チュパカブラとかツチノコとか出てくるのかな…と思っていたら、そういうのはおらず、ゴジラっぽいのとか宇宙人とかカッパとかがいました。
 ところでP81の右側に二本足で長い舌を出しているモノがいますが、ハテこれは何だろう? 付喪神でしょうかねえ。

付喪神?

イラストカット集〈1〉動物編 Book イラストカット集〈1〉動物編

著者:イトヒロ,KODOMO STUDIO
販売元:誠文堂新光社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

アドルフ・ヒトラー『わが闘争(下)』角川書店(1)

 ここから先は下巻(第2巻 国家社会主義運動)を取り扱います。

 下巻の第1章「世界観と党」(P10-26)では冒頭に国家社会主義ドイツ労働者党の綱領が承認されたことを述べ、「議会の政治家たち」(P11)やマルキシズム(マルクシズム)についてひとしきり批判した後、民族主義的世界観について述べています。
 民族主義的世界観について詳述することは避けますが(以前にも書いたような気がするので)、簡単に説明すると、優秀なアーリア人種(特にその代表であるドイツ人)が他の劣等人種を支配すべきであり、特に最も劣等なユダヤ人は絶滅させるべきである、というものです。少々乱暴な説明になってしまったかもしれませんが、このブログ記事は大学のレポートに提出するわけではないので、これくらいでいいでしょう。
 さて、その上でヒトラーはこんなボンヤリしたことを述べています。

 われわれはみんな、遠い未来に人類には問題が生ずるだろうが、それを克服するために最高の人種だけが支配民族として、全地球上のあらゆる手段と可能性に支持されて、招かれるのだ、という予感を持っているのである。(P23-24)

 希望的観測乙、としか言い様がありませんな。

わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫) Book わが闘争(下)―国家社会主義運動(角川文庫)

著者:アドルフ・ヒトラー
販売元:角川書店
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『わが闘争』(目次)

東京都知事選挙 選挙公報(2011年)3

マック赤坂
 この人の場合、選挙公報よりも政見放送の方が数倍面白い。よって詳細は政見放送を観て熟知すべし。

谷山ゆうじろう(谷山雄二朗)
 公約(谷山ゆうじろうの9策)をチェックしてみると、

6.世界最大のテーマパーク"Anime Wood"
 世界の五億人のアニメファンを来日させる。

 五億人って、日本の人口の4倍くらいあるぞ。しかも「世界最大のテーマパーク」となると、それだけ広大な敷地が必要ですが、そんな土地は東京のどこにあるのでしょうか。

ドクター・中松
 はい、選挙の常連さんですね。なるほど、選挙事務所が世田谷にあるんですか、そうですか。

選挙。

江戸川乱歩「火縄銃」

あらすじ…「私」は友人の橘梧郎と共に、同じく友人の林一郎が逗留しているA山麓Sホテルへと赴く。しかし林一郎は銃で胸を撃たれて死んでいた。仲の悪い義弟に嫌疑が掛けられるが…。

 江戸川乱歩が学生時代に書いた「未発表の処女作」(P370)。
 それだけに、未熟だと思わせる部分が目に付きます。例えば死体の描写。

 寝台の上には、上衣を脱いだ胴衣一枚の林一郎が、左胸に貫通銃創を受けて横たわっていた。生々しい血潮は、胴衣から流れて白いシーツを紅に染め、まだ乾ききらず血の匂いを漂わしている。私はこの意外な林の姿を見ると、もう何も考える力もなく、なかば放心の態で、ボンヤリ橘の動作を見まもっていた。(P373)

 江戸川乱歩にしては、アッサリとしたものです。江戸川乱歩ならもっとおどろおどろしく書いていい。又、死体の表情がどうだったか書いてないのもマイナスポイントでしょう。

【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』

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江戸川乱歩(目次)

東京都知事選挙 選挙公報(2011年)2

杉田健
 選挙公報のスペースの中にコンパスが3つあります。この人の政見放送によると、都内の各地に強力な電磁波を出す装置があるとのこと。で、その電磁波のせいで方位磁石がバラバラの方向を…、説明はこれくらいにしておきましょう。詳細を知りたい方は、本人にでも訊いてください。

姫治けんじ
 YouTubeにアップロードされた政見放送をチェックすると、視聴者からのコメントが彼の頭部(ぶっちゃけて言えばヅラ)に言及するものが殆どでした。
 尚、ほんのちょっとだけ擁護しておくと、あまりにもナチュラルなものを被っていると騙される人も出てきますが、ここまでわかりやすものを被っているとさすがに騙される人はいません(少なくとも彼の頭部については)。むしろそれをネタに笑いものにしてやることができます。
 ちなみに、肝心の政策の中身については、泡沫候補の中ではまともな方です。正直言ってそちらの方面での突っ込みどころを探すより、彼の頭部にツッコミを入れてしまいたくなります。

選挙。

東京都知事選挙 選挙公報(2011年)1

 東日本大震災の影響ですっかり盛り上がりに欠けてしまった都知事選ですが、選挙の日程(4月10日投票)は容赦なくやってきます。インディーズ候補たちも相変わらず出馬しています。
 というわけで、選挙公報の中から泡沫候補を中心にレビューしておこうと思います。

ふるかわ圭吾(古川圭吾)
 真ん中に大きく「攘夷」とあります。現代語に訳せば「外国人排斥」ですが、政見放送によると攘夷の対象となるのは「支邦人と南北朝鮮人」とのこと。それ以外の国の人たちについては対象外のようです。
 ちなみに、左部の「天下の大患は、…」の文章はどこからの引用かと思って調べてみたら、吉田松陰の言葉でした。攘夷といい、吉田松陰といい、幕末ですなあ。

おがみおさむ(雄上統)
 左下になぜか「尊敬する人物」が列挙されています。ブッダ、アレキサンダー大王、ナポレオン、坂本竜馬、…と続きます。ここいら辺は理解できますが、最後に「全人類。」とありました。尊敬する人物が「全人類」って、どういうことなの…?

選挙。

新宿御苑の桜

新宿御苑の桜

本日撮影。写真は他にもありますが、とりあえずこれにて。

中野京子『怖い絵』朝日出版社

 「怖い」西洋絵画に解説を付したもの。
 作品9 ゴヤ『わが子を喰らうサトゥルヌス』(P102)や作品10 アルテミジア・ジェンティレンスキ『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』(P114)、作品12 ベーコン『ベラスケス<教皇インノケンティウス十世像>による習作』(P140)など、解説を読まなくても怖さがわかるものもあれば、作品5 ブロンツィーノ『愛の寓意』(P56)のように難解で高度な教養を要求されるものもあります。
 それにしても、作品12はローマ法王(およびカトリック)に対する悪意がひしひしと伝わってくるし、作品17 レーピン『イワン雷帝とその息子』(P202)は「歴史画の装いをこらした現体制批判の絵画」(P210)だったりと、政治的メッセージが込められたものもあり、芸術好きでなくとも歴史好きならそういったアプローチから本書の世界に入っていくことができるでしょう。

怖い絵 Book 怖い絵

著者:中野 京子
販売元:朝日出版社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

編著・雪山行二『国立西洋美術館所蔵 ゴヤ ロス・カプリチョス ―寓意に満ちた幻想版画の世界―』二玄社

 スペインの画家ゴヤの版画集『カプリチョス(ロス・カプリチョス)』に解説を付したもの。
 聖職者や貴族、娼婦など様々な人たちに対する風刺が利いているのですが、さすがに時代と場所が隔たっているのでわからないところがあります。例えばP43の版画「みんな落ちるだろう」では女性のこめかみに大きなほくろがあるのですが、解説によると「これは当時娼婦の象徴であった付けぼくろである」(P42)とのこと。現代日本にも娼婦(売春婦)は存在しますが、付けぼくろはつけていませんからねえ。
 とはいえ、解説によってわかる部分はまだいい方です。中には、当時の実在の人物をモデルにしたと思われるもののそれが誰だか不明、といったようにわからないままのものもあります。

ゴヤ ロス・カプリチョス―寓意に満ちた幻想版画の世界 国立西洋美術館所蔵 (Art&Words) Book ゴヤ ロス・カプリチョス―寓意に満ちた幻想版画の世界 国立西洋美術館所蔵 (Art&Words)

著者:フランシスコ ゴヤ,雪山 行二
販売元:二玄社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ジェームズ・アレン『もしもあなたの小さなさとりが地球を救うなら』徳間書店

著:ジェームズ・アレン
訳:快東みちこ
絵:駒井明子

 スピリチュアル本とはどんなものであろうかと思って、本書を近所の図書館で借りてきました。

 ざっと見ると、白地に水色の文字が印刷されており、随所で挿入されているイラストも緑の淡い色使いが多く、心理的に鎮静効果をもたらそうとしているようです。「毎日、決まった時間に瞑想する週間をつけましょう」(P29)と述べており、瞑想する上では心を静めておいた方がいいのは間違いありませんな。
 さて、本書を斜め読みすると、ブッダやイエス、クリシュナなどが登場します。仏教、キリスト教、それとほんのちょっとのヒンドゥー教を混ぜ込んでいますな。又、「利己的性質という卑金属を、愛という純粋な黄金に変えるのです」(P202)という表現は錬金術的です。

 もしもあなたの小さなさとりが地球を救うなら

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