江戸川乱歩「お勢登場」
あらすじ…肺病を患って余命わずかの格太郎は、妻おせい(お勢)の不倫にそ知らぬふりをしている。そんなある日、子供たちとかくれんぼをして、押入れの長持ちの中へ隠れるが、そこから出られなくなってしまう。もうだめかと虫の息でいるところへおせいが帰宅する。おせいは異変に気付いて一旦は長持ちを開けるが、すぐにまた閉めて格太郎を見殺しにする。
前半は格太郎視点、後半はおせい視点で物語が展開します。しかも、この話では夫殺しの「完全犯罪」が成立しておせいが罪に問われることなく終わっています。
めでたしめでたし…なわけないか。
ところで、「問題の長持ちは、おせいが強いて貰い受けて、彼女から密に古道具屋に売払われた。」(P190)とあります。「一生遊んで暮らせる以上の夫の遺産」(P186)があるのだから、金に困って売ったわけではありません。縁起でもないからと言って廃棄すればいいものを、なぜどこの誰とも知れぬ者の手に渡るようにしたのか理解に苦しみます。
と、ここまで書いてきて、ふとひらめきました。そういう「いわくつき」の長持ちが今もどこかに存在していることの不気味さを作者(江戸川乱歩)が演出したかったのではないか、と。
【参考文献】
『江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣』光文社
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